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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【アベルの偽物が現れた話】
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第7話。俺の夢は! 終わらねえ!

 状況はなんかもうメチャクチャだった。


「お姉さま……どうかこのライラにお情けを……」


 一族の掟を忘れ、私にガッチリ抱きついてくるナイン。

 人の体を気安く撫で回すな。引っ叩くぞ。


「ウワーン! ミサキママー! 僕の好きな女の子がまた寝取られたよー! もう脳が破壊されちゃうよー!」


「よしよし辛かったですね、リューちゃん。でも好みは人それぞれですから、リューちゃんは悪くないですよ。今回はお相手さんがたまたま女の人が好きなだけだったんです」


 泣き喚く幼児アベルと、慰めるミサキママ。

 失恋させたのはごめん。でも私、好きで寝取ったわけじゃないんだけど……というか寝取ってないんだけど……。


「グルルルルル!」


 警戒心全開で今にも飛びかかりそうなハスキ。

 ありがとう、真面目に私を守ろうとしてくれるのは君だけだ。


「あっ!? そうだよ百合じゃんこれ! 失恋したとか寝取られたとかほざいてる場合じゃねえ! いくぞ野郎共! 気ぶりのじいさまコールだ! 抱けっ! 抱けーっ!」


「抱けーっ! 責任取れーっ! それでも女かー!」


「ヒャッハー! ガチレズだーっ!」


 失恋から立ち直るや否や野次を飛ばし始めるリューイチと、便乗するゴロツキ二人。もう殺そうかなこいつら。


 もう真面目に考えるのも馬鹿馬鹿しくなってきたが、全てを放り投げると一人真面目なハスキが可哀想だ。この事態に収拾をつけるべく、私は擦り寄ってくるナインの顔を押し退けて宣言した。


「作戦ターイム!」


「認める」






「カクカクシカジカでコレコレこういう理由でこうなりました! はい説明終わり!」


「なるほど……お話は理解しました、お姉さま……」


「グルルルルル! ウー!」


「どうやら近くに狂犬が居るようですね……。ここは危険ですので、お話の続きはどうぞ私の寝屋で……」


「それはともかく」


 私の腕を掴んで両側から引っ張り合うハスキとナインを無視して、私は本題に入る事にした。


「リューイチの言う通り、本当に嘘を見抜けるのか?」


「はい……私は他者の色が見えます……。真実は白く、嘘は黒く見えるのです……」


「少し試させてくれ。『ハスキは人間ではなく、金色の人狼を祖父に持つ人狼だ』」


「『白』です。お姉さま。しかしまさか本当に狂犬だとは……」


「ガルルルルルル!」


「はい次! 『ミサキは元奴隷であり、隙を見て逃げ出した』」


「『黒』が混ざっていますが、どの部分が嘘なのかまでは分かりません」


「じゃあこれは? 『私は両親に愛されていた』」


「申し訳ありません……本人さえ真偽が曖昧な事柄は、わたしにも分からないのです……」


「それはそうだろうな。エメスと似たようなもんか」


「ですがお姉さまがご両親に愛されておらずとも、その分まで私がお姉さまを愛します! ですからお姉さまも私を愛してくれますか!?」


「愛しません。タイプじゃないのでごめんなさい」


「『白!?』ああ……そんな……! 私、容姿と中身には自信がある方なのに……!」


「ちゃっかり自己評価高いな!」


「女に生まれたこの身が憎い……」


「言っとくが、お前が男で同じ事してたら今頃はセクハラ罪でブッ殺しているからな?」


「ああ、寛大な御心に感謝いたしますお姉さま……!」


「ひとまず真偽眼は本物のようだ。今までのセクハラを許してやる見返りとして、とりあえずお前に確認してもらいたい事が一つある。『自分を英雄アベルだと言い張るリューイチの主張の真偽』についてだ」


「おう! 俺様が英雄アベルだ!」


「ヒャッハー! どう見ても偽物だぁー!」


「『白』です、お姉さま。この男は嘘をついていません」


「やっぱりそうか……ううん……」


「よって結論は一つです」


「ヘヘ、ようやく俺が本物だって認めてくれたようだな!」


「彼は自分をアベルだと思い込んでいる不幸な人です。ちゃんと毎日お薬を飲ませてください」


「あれー!?」


 盛大にずっこけるリューイチ。

 そしてその首にナインが短刀を突きつける。


「あなたの目的は何? どうしてお姉さまに接触したの?」


 あれ? なんか……敵味方入れ替わってない?


「俺の目的は恋人を作ることで……」


「『黒』。あなたの、本当の、目的は?」


「痛たたたた! 分かった分かった分かりました! じゃあもう言っちゃうけど、俺の目的は夢のハーレム王国を作ることでーす!」


 は? 聞いてないんだが?


「俺の事が大好きで大好きでたまらない、色んな種族のロリからエッチなお姉さんまで多種多様な美女や美少女を俺の国に住ませてさあ! ハッピーな日常生活を送ってもらうんだよ! そんでさあ! 俺がその日常生活にお邪魔してさあ! 例えば授業中の教室に入り込んで、好みの美少女を見つけたらエロエロしちゃうわけ! でも俺と女の子以外は俺らを気にしつつも普通に授業しなくてはならないみたいな!? あるいは接客中のウェイトレスとか、新人を訓練している最中の女騎士とかでもいいなあ! そーゆー感じで俺の気の向くままにいつでも誰とでも合意イチャラブセクロスできる、夢のインラン王国作りてえなあってわけよ! はいこれが俺の夢ね! ひいては全ての男の夢よぉ! ドン!」


 ヤケクソ気味に胸を張るリューイチ。

 こいつは殺した方が世の中の為なのでは?


「凄え……なんてデカい男なんだ……そんな夢みてえな話、考えたこともなかった……」


「ヒャッハー! 王の器だぁー!」


 何やら感動しているゴロツキ。


「…………『白』です。この卑猥な虫ケラをどうなされますか、お姉さま」


 私の指示を仰ぐナイン。

 その目は恋する乙女から冷徹な暗殺者に戻っている。


「殺れ」


 喉を掻き切るジェスチャーをナインに送ると、「御意」ナインは短剣を一閃させた。リューイチの喉から鮮血が噴き出す。


「ゴボボボボボボ……!」


「リューちゃーん!? 酷いですクレア様! あの子はエッチな妄想していただけで、まだ何も悪いことしてないのにー!」


 あっ、言われてみれば確かに。


「ついカッとなってやった。悪気は無かった。今は反省している」


「それ反省してない未成年の言い分やないかーい!」


「うわっもう復活しやがった! 誰だよ笑ったの!」


「とーにーかーくー! 俺が本物の本物の本物なの! ちゃんと今までの冒険の記憶もある本物のアベルなの! 認めてくれなきゃヤダヤダヤダヤダ!」


「見苦しいなオッサン! いい歳して駄々こねるなよ!」


「じゃあもし俺が本物だったらどう責任取ってくれるんだよ! ちゃんとレズセ見学させてくれるんだろうな!」


「レズセはするけど「するか!」見せないし、あなたが本物のアベルである可能性は無い」


「だからその根拠はあるかって話ですよネーチャン!」


「根拠は自分の目で確かめてみたら? 本物のアベルは三日後に王都で凱旋パレードを行う予定だから」


「…………え?」

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