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たとえ神に選ばれなくても  作者: ナカマクン
【アベルの偽物が現れた話】
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第3話。話が進まない!

 交渉の結果、偽アベル改めリューイチには前払いで成功報酬の三倍近い額を支払ってもらえた。気前よくポンと渡してきたあたり、色々とアレでもとんでもない金持ちなのかもしれない。


「ウヒョヒョヒョ、ハスキちゃんはやっぱりケモミミで萌え萌えですなぁ〜! どう? 毎日お肉食べさせてあげるから、お兄ちゃんと結婚しなーい?」


「こいつ殺していいか?」


「待て、待てだぞハスキ。殺すのは仕事が終わってからだ」


「殺しちゃ駄目ですって!」


「ンミー」


 報酬上乗せと引き換えに、リューイチとは色々な取り決めを結んだ。過激な暴力やセクハラや下ネタの禁止、せめてミサキだけはリューイチに優しく接してあげる事などの他にも、奇跡的に全てが上手くいって会社が立ち上がった場合は私も一枚噛ませてもらえる事になった。

 しかし肝心の依頼の難易度があまりにも……。


「アベルと全然匂いが違うぞこいつ。別人だ」


「だろうな……」


「なんでこんなの連れてきたんだ?」


「なんでだろうな……」


「こいつに交尾相手を作ってやるのが仕事なんだろ? 大丈夫なのか?」


「大丈夫じゃないかもしれない……」


 それでもすでに金を受け取っているので、最善は尽くさなければならない。これがどんなに不可能な依頼であっても……はぁ……。


「なあオッサン」


「親しみを込めて名前で呼んでくれる約束でしょ?」


「チッ。……なあリューイチ」


「ウホホッ。あなたのリューイチですよーっと」


「腹立つくらい上機嫌だな……! それはともかく単刀直入に聞くぞ。こんな大金を払える金持ちなら、嫁くらい簡単に見つかるだろ? 何なら……えっと……」


 危うくミサキの前で、奴隷でも買えと言ってしまうところだった。


「あーダメダメ、そーゆーのはNG」


 リューイチは両手でバッテンを作った。


「俺は愛が欲しいの。分かる? お金で買う愛は愛じゃないの。フーゾクなの。確かに今の俺の外見は汚いオッサンかもしれない。でもこんな俺でもちゃんと愛してくれる最高のお嫁さんが欲しいの」


「そんな女を探すくらいなら、不老不死の薬を探す方がまだ簡単かもしれない……」


「ミサキママー、クレアちゃんがいじわる言うんだよー」


「大丈夫ですよー。きっとリューちゃんには可愛くて優しいお嫁さんが見つかりますよー」


「デヘヘヘェ、ミサキママは優しいなぁ。フヒヒヒィ」


「ンミー」


 子猫を抱いたミサキがニコニコしながら、リューイチの薄い頭をよしよしと撫でている。

 ……なんかもう真面目に悩むのも馬鹿馬鹿しくなってきた。一刻でも早くこの仕事を終わらせたい……。


「とりあえず少しでも成功率を上げるために、お前の服を買おうと思うんだが……」


 こんなのでも金は持っている。スーツにシルクハットをキメて貴族っぽい格好でもさせれば少しはマシになるだろう。


「あー、それはやめた方がいいんじゃないかな。別に俺は好きでこんな貧乏そうな服着てるわけじゃなくてさ。一種のカモフラージュなのよねこれ。金持ちそうな服を着てたら今まで三回もボコられて身包み剥がされちゃった」


「それでそんな頭皮に……」


「髪の話はやめてね? 泣くよ?」


 一応、理にはかなっている。というより変装は常識だ。人目のある日中の町中ならまだしも、武器も持たない女の一人旅や貴金属をぶら下げた金持ちのボンボンの夜遊びなど、襲ってくれと言ってるようなものだ。目立つ武器を持って貧乏そうな格好をするのに越したことはない。


「例の娘が住んでる地域もかなり治安悪いから護衛ヨロシクね。以前スレイと行った時にもゴロツキやマフィアに襲われたり、魔法少女教団のしつこい勧誘があったお」


「そうか、それは大変だな。頑張れよ」


「いやいやいやいや! ちゃんと守護ってよ!?」


 死ぬほど嫌なワードが混ざってたのでスルーした。

 なんだその邪悪極まりない異教徒は。魔女狩り部隊に通報してやろうか。


「リューちゃん、魔法少女教団って「それより! 服屋に行くぞ! 道中はこれでいいが、その娘に会うタイミングで着替えさせる! 少しでも成功率を上げる為にな!」


 ミサキが余計な興味を持ちかけていたので遮った。こんなフラグを立てるわけにはいかない。


「じゃあその代わりにクレアさんたちも可愛い服に着替えてよ。セーラー服、バニーガール、ブルマ、スク水、メイド服、俺も何か着ようかなーっと」


 言うが早いかリューイチの手元に次々と衣服が現れた。


「お前その魔法ホント凄いな!? 無限に武器や食糧も出せるなら普通に戦っても強いだろ!」


「ダメダメ。シリアスな状況じゃ発動しないんだってば。それに同じネタはしばらく使えないし、もし誰も笑わずにスベったら周囲一帯を消し炭にする大爆発が起こっちゃう」


「はぁあああ!? 爆発は初耳なんだけどぉ!?」


「だからシリアスはダメって言ったじゃん」


「じゃあ何か!? お前があの時スベってたら私達死んでたのか!? あの店も巻き込んで全員爆死!? コントに私達の命も勝手に賭けてたって事だよな!? 死因はスベり死に!? どうなってんだよ! お前の頭とその魔法!」


「せんせー、スベるのはボケだけの責任じゃないと思いまーす。ツッコミの人も悪いと思いまーす。あとツッコミ長いでーす。要点まとめてくださーい」


「お前にダメ出しされんの私ぃ!?」


「大丈夫だって。大天使ミサキママがニコニコしていてくれる限り、スベる心配は無いから」


「大天使ですか? えへへ」


「ああ〜! ミサキママは可愛いんじゃあ〜……!」


「ンミー」


 だが確かにミサキはずっと機嫌良さそうにニコニコしている。まさか……まさかとは思うが、リューイチに懐かれて嬉しいんじゃないだろうな……!? こんなのがタイプじゃないだろうな!?


「最近のクレア様は落ち込む事が多かったので、久しぶりにすっごく元気なクレア様が見れて嬉しいです」


 ただの大天使だったー! 良かったー!


「クレア様はリューちゃんのことが好きなんですね」


「おいコラ大天使! 勘違いさせるような言動は止めろ! 私もこいつの嫁候補にされるだろうが!」


「えっと……クレアさんの気持ちは嬉しいし、その……傷付くだろうから具体的な理由は言わないけど……俺のタイプじゃないんです……ごめんなさい……」


「はぁぁあああ!?」


「クレアさんにはきっといい人が見つかると思うから……」


「待て待て待て待て! 何でお前が振る側に回ってんの!? さては私の人生の汚点を無から作り出すつもりか!? そうはさせるか私に振らせろ私に!」


「いやほんとごめんなさい……。顔に傷があるからとかじゃなくて……オタクに優しくないギャルは苦手っていうか……馬乗りされるのは少し興奮したけど、DVが割とトラウマになってるっていうか……」


「おい止めろ馬鹿! 私! 私が! 私がごめんなさい! リューイチはタイプじゃないんです! はい振った! これで私が! お前を! 振りました! はいこの話終わり!」


「ンミー」


 声を出し過ぎて喉が痛くなってきた。こいつのクソコントに付き合っていたら、いつまで経っても話が進まない。


「で! 今から何処に向かえばいいんだ! マジでヤバい場所だったら流石に私も行かないからな!」


「ディセブデオンって都市知ってる? ここから馬車乗り継ぎで三日くらいかな。マフィアの過激な抗争で荒廃した都市なんだけど」


「ああ冒険者なら誰でも知ってる。裏の仕事が紹介されたり、他所では手に入らない珍品や盗難品が闇市に流れたりする町だな。だがあそこそんなに治安悪かったか? あの町を仕切ってるマフィアはカタギには手を出さない事を信条にしてたはずだし、スライムの一件で私が行った時は抗争なんて無かったぞ?」


「実はあの町をクリーンにしようと思って、マフィアのトップをブッ殺したんだよね」


「は?」


「ついでに大量の麻薬を全部燃やしてさぁ。女の娘を無理やり働かせていたに違いないフーゾク店とか、俺を嵌めるイカサマをしてたに違いないギャンブル産業とかの、マフィアと関係のあったお店は流通関係含めて全部物理的に解体したんだけどさぁ」


「……それで?」


「そしたら何故か逆にマフィアが大増殖して、血で血を洗う潰し合いを勝手にしてんの! プークスクス! マジウケるんですけどー!」


「なるほどな、職や食い扶持を失った市民が生き延びるためにマフィアに入ったってわけか。そして数少ないシノギを巡って殺し合ってると。ふむふむ……お前ちょっとあの辺りからこっちに向かって走ってこい」


 私は20m程度離れた地点を指差した。


「はいはーい?」


 リューイチが素直に移動する間に、「イチ、ニ、イチ、ニ」私は軽い準備体操を行う。


「もう走っていいですのん?」


「ああ、来い」


「クレアさんに向かって全力ダッシュ?」


「私の横を通り過ぎるイメージで全力ダッシュだ」


「はーい! あなたのリューイチ君が今行きますよー!」


「…………」


 試してみたい事がある。


「ミサキママー! 僕が一番になるとこ見ててねー!」


「リューちゃん速い速ーい!」


「オレの方が速いぞ」


 子猫がそうであったように、リューイチの魔法は他者へも影響を及ぼすはずだ。


「ズキュンバキュン走るよミサキママー!」


 ドタドタと腹を揺らして走り来るリューイチに向かって私は腰を捻り、何も持っていない手を後ろ手に構えた。


「ママー! ママー!」


「ディセブデオンの……」


 その途端、突如として手の中にズシリとした重量物が出現した。一瞬だけ手元を確認する。そこには何重にも折り重ねた1m程度の細長く大きな紙の束が握られていた。


「治安が崩壊したのは……」


 やはり私の読みは正しかった。リューイチの魔法はボケだけでなく、ツッコミに対してもその効力を発揮する……!


「全部お前のせいだろうがぁあああああああ!」


 駆け寄ってきたリューイチの顔めがけ、あらん限りの力を持って腕を振り抜いた。満面の笑顔に私の武器が直撃し、リューイチは空中で半回転した。スパァアアアンン……! 小気味良いハリセンの音が響き渡る。


「ひでぶー!」


「リューちゃーん!?」


「食べられない肉ー」


「ンミー」


 悲鳴と興味なさそうな声が半々の比率で聞こえた。

 しかしこれから依頼が終わるまで毎日こんなノリになるのか? チクショウ、私がいったい何をしたというんだ……!

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