表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

メールに返事をほしい

 食事を終えて博士はたばこを吸った。中央に長いたばこをくわえたインディアンが描いてあり、背景は夕日を思わせる赤色のパッケージだ。無農薬、無添加というたばこである。健康や環境に配慮されたたばこなのだが、博士は単純に美味いからそれを吸っているのだ。

 人生を楽しむためには健康であったほうが良い。それだけのことなのに近頃の健康ブームを苦々しく思う博士だった。命より大事な健康、命より大事な環境なんて無い。それが博士の持論である。


 いづみは、パソコンで恋愛の悩み相談を検索していた。相談所を開く参考にしようと考えたのだ。一通の相談内容はメールについてだった。


___________________________________________________________

はじめまして、取手漬太とってつけた22才男性です。

飲み会で気にいった女性に、勇気を出して連絡先を聞きメールをするのですが返事をもらえないのです。

連絡先を聞いたのに、メールや電話をしないことには何も始まらないと思って次の日から毎日メールを送るようにしました。おはようとか、何してるのといった親しげな会話の内容にしたのですが返事が来ないのです。何がいけないのでしょうか?

__________________________________________________________________________


「何がいけないって、顔がいけてなんじゃないかな?」

 何時の間にか博士が横に来てディスプレイを見ながら言った。


「そんな事言ったら誰も相談に来ないですよ」

 いづみが博士をたしなめた。


「いやあ、ごめん」

「こういうケースは多いだろうね追えば追うほど相手は逃げたくなる……生物の自然な反応だよ」

「相手に振り向いてもらうには条件を満たさなきゃならないんだ。いくつか条件はあるが一つでも満たせばOKだよ」


「条件って……教えてください」


「人の脳はホルモンの分泌状態で気分や感情が左右されている。恋をしている時はPEAホルモンが分泌されてるんだ」


「そのPEAホルモンが分泌されるのに条件があるんですね」


「そう、不安と緊張を感じる状況にないと分泌されないんだ」

「だからメールで相手の関心を得ようと思ったらハラハラ・ドキドキする内容にしないとね」


「たとえばどんなメールです?」


「何月何日、あなたの大切なものいただきに伺います・・・怪盗ペカリより」


「先生、それじゃあ通報されちゃいますよ」


「いいんだよ、って良くないけどナ……そういうメールでも通報されない間柄になってないときはメールしちゃダメなんだ」


「それじゃ、この取手漬太さんは何もできないじゃないですか」


「うん、順番を間違えたら何もしないことが最善の策だ」


「順番って……、飲み会のときに何か間違えてたとか? 」


「取手くんはメール番号さえ教えてもらえばOKだと思ってた、それが間違いなんだよ。番号なんて飲み会で聞かれれば誰にでも教えるよ、断るほうがめんどくさいから」


「まあー、そうですね。メルアド教えますね。嫌な相手でもなんやかやと知らんふりできますから、メールなら」


「借金の催促でもメールだけなら払わないだろ普通」


「博士、誰に借金したんですか? 」

 いづみは博士を咎めるように見ている。


「いや、ずいぶん前の話だ。今は白鳥の湖を踊れるくらい、きれいな身だよ」


「博士……怖いからやめて」

 いづみは博士が手を広げて鳥のポーズをするのを制した。


「取手くんは飲み会でどうすべきだったのですか? 」

 いづみは話を戻した。目的を見失わない姿勢がよい。


「初対面で大切なことは相手に興味を持ってもらわなきゃならんかったんだ」


「イケ面クンなら容易いでしょうけど顔とか普通の人だったら難しい、だからメールで仲良くなろうと……」

 いづみは男の子の気持ちを思いやる。


「興味を持ってもらうには白鳥の湖を踊ればいい」

 博士がまた手を広げておどけた。


「そんなことするの博士だけですよ」


「まあ踊らないにしてもちょっと悪ぶることはできるだろ? 」


「悪ぶる? 」

 いづみがきょとんとした。少女のように目を丸くする。


「いづみさんは優しい男と強い男とどちらを好むかな?」


「えっ、私ですか……優しくて強い人ですね」


「そうだろ。ほとんどの女性は強くて優しいオスを好むんだよ」


「オスですか」


「生物としてのオス。誰も生物の本能には逆らえない。テストステロンというホルモンがオスの闘争心を高め強くオスらしく男らしくさせてるんだが、女性はこのホルモンに惹かれてしまう。このホルモンが多く出ればオスとしてモテる」


「そんな簡単に出せるんですかテストステロンとかホルモンとか? 」


「出てるふりをすればいいんだよ。生物の脳は簡単に騙される」

 博士はニヤリと笑った。


「ああ、だから悪ぶればいいって言ったんですね」



_________________________________________________________________________


 初めまして私は木二鳴子きになるこ高校2年生です。まともに話したことがないけれど好きな人がいます。この前告白したら「ちょっと考えさせて」、1週間後「ごめんなさい」でした。あきらめきれないのでもう1度告白したいです。しつこいですか? 嫌われますか?

_______________________________________________________________________________


 高校生の女の子からの相談だ。いづみは自分が女高生だった頃を思い出しながら考える。


『女の自分は何度も同じ人から告白されると、しつこいと感じてしまうが男は違う。男という生き物には多くの女性とエッチしたいと思う本能があるみたい。だから、男の子は二度目の告白を女の子ほどには嫌と思いにくい。女の私には理解しにくいとこだけど後で博士に聞いてみよう。

『自分のあまり好みでない女の子とも1度きりでぜったいにばれないなら、エッチしてもいい』 という調査データ、男の子の性欲が強いってことね。どんな女の子でもとりあえずキープしておきたいというのが男の偽らざる本音なわけね。まったく男ってやつは……

 この男の子、とりあえずキープはするけど積極的になれないし街でデートしようとは思わないかも、一緒に連れて歩く女性の容姿を男は気にするもの。意識するかしないかによらず、男同士の順列がそれで決まるって生物学の結論だから。時間をかけて容姿だけでない鳴子ちゃんの良さに気づいてもらうのが一番いい。一度でいいから映画を一緒に観たいとか、期間・回数を限定したアプローチなら断られるのも少ないし』



「ねぇ博士、男って誰とでもエッチするんですか?」


「げほ、げほ、ってえーいきなりなんだよー」

 とんでもない質問をされて博士は飲んでいたコーヒーをぶちまけた。ティッシュやら雑巾やらを集めてぐちゃぐちゃにしながら博士が返事をする。



「高校生の女の子からの相談なんですけど、男と女では考え方や行動、本能が違うってとこまで考えたのですけど、それで男は誰とでもエッチしたいという本能があると……」


「ふむ、生物学的にはそのとおりだよ。それを否定できる男は政治家と牧師くらいだろう」


「じゃ、博士もそうなんですね?」


「いづみさん」

 博士は少し在ったかも知れない威厳を取り戻そうと言葉を選んだ。


「人間は生物だが社会的生物なんだ。本能が命じても社会的理性、つまり社会が許さないことはそれを抑えるように教育されて大人になってるんだよ」


「で、どうなんですか?」


「だから、理性のはたらく場所ではノーだよ」


「理性のはたらかない場所ってどんなとこです? 」


「プライベートな場所だよ、高校生みたいなこと聞くなよ」


「だって、女子高生の質問なんだもの」


「どれどれ、ふーむ」

 博士は女子高生の質問を読んだ。


「相手の関心の程度に応じてやり方を変えなくちゃね。関心の程度は大まかに3段階あるから」


1、関心なし。束縛もイヤ 

2、好意はあるけど束縛はイヤ

3、好意があり束縛OK


 博士が関心の程度を紙に書き出した。


「付き合うっていうのはお互いを束縛しあうっていう約束事・契約のことだから相手が好意を持ってくれてるだけのときは付き合ってほしいと言うのは避けた方がいい」


「私もそう考えました。映画を一緒に観るとかちょっとしたことを積み重ねて相手の関心のレベルを上げてくのが良いと思います」


「そのとうりだね、ところで今度の休みに映画でもみないか? 」


「好意はありがたいですけど束縛はいやです」


「はい、お約束の返事でしたね」

 博士といづみは軽いジャブで笑える間柄だ。


_______________________________________________________________


高校3年、持戸萌もっともえです。はじめまして。燃えるような恋をしたいんです。片思いの時は盛り上がるのに、つき合い始めるとなんだか冷めてしまいます。ずっと燃えるような恋をしたいのに。

__________________________________________________________________


『あらー、萌ちゃんいいわねー。贅沢なこと言ってる気がするけど。恋ってPEAホルモンが出てる状態だからワクワク・ドキドキなんだけど、安定すると出なくなるってゆう性質があるからしょうがないことなのよね。相手を誰かに取られそうってピンチになるとPEAが出てくるから、やきもちを妬くことも必要かな。ほどほどにね』

 いづみは萌ちゃんのことがちょっぴりうらやましい。


「小中学生じゃなくて高校生なんだから出てこないよ」

 博士がとぼけた顔して言う。


「何がです? 」


「子供のピンチで出てくる親とか」


「それはPTA! (それより、なんでしゃべってないのに判るの?)」


「博士、私が違うこと考えてたらどうしてました? 」


「自分でツッコミ入れてたよ」

 博士はどうしても言いたかったらしい。


___________________________________________________________


18才 キョロ子 男の子の見分け方を教えてください。どんな相手を選んだらいいのかわかりません。

___________________________________________________________


『うふふ、お姉さんが教えてあげるわ』

 いづみは堂々と教えることができそうなので喜んだ。


『相手と自分の性格が似てるほどうまくいくのよ。周りの夫婦とかカップルでいいなと思う人達は例外なく互いに似ているからね』


「博士、似た者どうしがうまくいくのには理由がありそうですね」


「カップルが互いに似てくるのは同一化現象と呼ばれているが元々がかけ離れてると難しい。恋をしているときは恋のホルモン作用でアバタもえくぼなのに時間が経てばPEAも出なくなって今まで気にならなかったことが気になってくる、嫌なとこも見えてしまう。ところが、性格や考え方が似てれば相手のことが気にならずに済む。こんな人だと思わなかったわ最低!ってことにならないわけだ」


「博士、そうすると長く一緒だから似てくるというよりも……似てないカップルは途中で破局して残らない、淘汰されてしまうので残ったカップルは互いに似てるとも言えそうですね」


「うん、そうだね。研究の核心部分だからもっと探求してみよう」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ