恋愛相談所
「お昼にするから、ちょっと待ってて」
博士は隣り合わせのキッチンに行き、昼ごはんを用意しだした。
いづみはソファから立ち上がり身体を伸ばして部屋を眺めた。博士の机の上に置かれた資料が気になった。100ページ以上あるその資料は『恋愛の賞味期限』と表紙に書かれてあった。
「できたよ」
博士に呼ばれてダイニングテーブルの椅子に座った。
「どうだい?ちょっとしたもんだろ」
博士が用意したのは親子丼、材料を揃えておいて卵を割って温めればよい。五分とかからない。
「美味しいわ」
いづみは漬物が一切れでもあれば言う事なしと思ったが、それは言わなかった。
「いつも料理をされるんですか?」
「いや、たまにしか作らないんだよ、レパートリーが少なくて、後できるのはカップめんみたいにお湯だけで済むのとか、チンして済むやつ」
「レトルトに頼るんですね、私もそうです。時間の節約ができますから」
ふたりは笑いあった。
「博士、恋愛の賞味期限って論文ありましたけど? 内容が気になりますわ」
「ああ、国に依頼されてまとめようとしてるものなんだけど……」
博士はあまり乗り気ではないような素振りを見せた。
「近年離婚率が上昇してるので対策法の研究を依頼されたんだ。けどね、僕自身がバツイチだろ、向いてないよな」
いづみに同意を求めた。
「そんなことないんじゃないですか、かえって博士の経験も活かせることのように思いますけど」
「うーむ、そういう考えも有りだな」
「カップルの仲が悪くなると、家庭的にも社会的にも被害を大きいと思います。家庭は暗くなり、仕事もやる気がなくなり、経済への影響は多大な損失となっているはずです」
いづみが正論を述べだした。
「研究の成果で、不仲になったカップルを元に戻せたとしたら素晴らしいじゃないですか」
いづみの言葉が博士を揺さぶる。
「僕のような失敗をする人を減らせるかもな。研究してみようか」
「研究の成果で素敵な恋愛ができますわん」
いづみの声が弾んでいた。
「カップルになる前の独身男女、若い人達にも役に立つだろうね」
博士は研究意欲が湧いてきたようだ。
「研究のためにいろいろ悩みを持つカップルや若い人を集めなきゃ、うーん恋愛相談所開いて集めようかな」
「誰が相談相手になるんですか?」
「いづみ君と僕だよ」
「私が相談したい側なのに……(博士だってバツイチなのに)」
いづみは最後の言葉を飲み込んだ。面白いことをできそうな気がしたからだ。