scene 5
どうやって家に帰ったのかは覚えていない。
ただ、気が付くと家にいて布団にくるまりながら窓の外を眺めていた。
――やっぱり、僕にできることなんて何もなかった。
こんな僕じゃあ、駄目だ。
そう思っても、今から何かをできるほど器用じゃなくて。
「いっそ、好きって思いをぶちまければすっきりするのかな……」
そんなこともできないくせに、そんなことばっかり考える。
何ができるかって自問自答は、どんな答えもくれない。
――ピロリン
そんなイライラするほど軽い音が、僕のスマホにメッセージがあったことを知らせる。
正直、メッセージを見るのすら面倒だった。
だけど、無視をするわけにもいかないので僕はゆっくりと立ち上がり、机の上に置きっぱなしのスマホを手に取ってメッセージを画面に表示する。
メッセージの相手は飛葉。
『どうだった?』
そんな、ただの確認が、言葉が、なぜだか重くのしかかる。
どう返答するか、一瞬だけ迷う。
『気の利いたこと、何も言えなかった。
いつも通りのことしか、言えなかった。』
僕はそんなメッセージを送信してから、溜息を吐く。
何を言ってるんだ僕は。違うだろ。飛葉が聞きたいのは、真菜のことだろ。
もう一回溜息を吐いて、送信したメッセージを削除しようとする。
けれど、それより先に返信が着てしまった。
『別に、それでいいんじゃね?』
そんなわけあるか。
何もしてやれなくてもいいなんて、そんなわけ、ないじゃないか。
そう返信しようとすると、それより先にメッセージが飛んでくる。
『俺なら、下手に同情されるより、そのほうがいいけどな。』
それは、飛葉の気持ちだろ。
そう返信しようとして、指先が震えていることに気が付く。
でも何とか言葉を打って、メッセージを打ち返す。
『それは、飛葉の考えだよ。』
『でも、実際どうかはわからねぇだろ?』
「なんなんだよ。」
そんなこと、あるわけないだろ?
それは僕に都合がよすぎる。
『絶対違う』
そう打ったメッセージを送信しようとして、別の人からメッセージが来ていたことに気が付く。
先にそっちを確認しよう。
一回落ち着くためにも、そうしよう。
そう思って僕はメッセージアプリの友達一覧に戻り、送り主を確認する。
「ま、真菜?」
表示されていた名前に、思わずそんな呟きを漏らす。
まだ震えている指で真菜の名前の欄をタップし、メッセージを表示する。
『今日は、ありがとう。』
僕に気を使ったのかなんなのかわからない。
ただ、何か言葉を返さなきゃ。そう思って指を動かす。
『大丈夫?』
違う。そう思って送信せずに削除。
『何があったの?』
削除。
『話なら聞くよ?』
削除。
『あ――』
削除。
『ど――』
削除。
削除。削除。削除、削除。
削除削除削除削除削除削除。
削除削除削除削除削除削除。
削除削除削除……
何も、書きだせない。
どんな言葉もかけられない。
こんなんじゃ、駄目だ。こんなんじゃ――
――ピンポーン。
静かな家に、インターフォンの音が響く。