scene 4
その顔に残る涙の跡に、僕はぎゅっと締め付けられる気がした。
いろいろ考えてたことすべてがなくなって、何も言えない。
「……濡れてるね。」
パジャマ姿で、驚いたように、掠れた声でそう言う真菜。
その、いつも通りの言葉が。いつもと違う声の調子が。ただ、辛く感じて。苦しく感じて。
口を開いて何かを言おうとしても、何も言葉が出てこなくて。
いろいろ言葉を考えていたはずなのに、何一つ浮かんでこなくって。
頑張って絞り出したのは、作り笑いと、なんでもない言葉。
「タオル、貸して。」
考えたのに、こんな言葉しか出てこない自分が嫌いだ。
わかってる。
いつも通りを繰り返してきた僕らは、こういう時に話しかけるきっかけすら掴めないんだって。
そうでもしないと話しかけるきっかけすら掴めないんだって。
どうして、もう一言。
もう一言、別の言葉が言えないんだろう。
どうして、何も言えないんだろう。
意気地なし。馬鹿。お前なんか嫌いだ。
そんな場合じゃないのに、自分にそんなことを言う自分が嫌いだ。
「……うん。」
真菜は小さく頷くと、僕に背を向けて洗面所に入る。
ザァーと聞こえる雨の音に、僕は思わず歯ぎしりをした。
こんな僕じゃ、駄目だ。
こんな僕じゃ。
「はい、タオル。」
「ありがとう、真菜。」
真菜からタオルを受け取ると、僕らの間から会話がなくなる。
「……ねぇ、ゆーくん。
どうして、来てくれたの?」
「花田さんから、真菜が傷ついたって聞いて。」
「そっか……」
真菜は俯きながらそう呟くと、その細く白い手でパジャマの裾をぎゅっと握る。
「……ねぇ、ゆーくん。」
いつもより、低い声でそう言う真菜の
「わ、わたし、今は余裕がないの。」
いつもより、辛そうに俯いてそう言う真菜の
「だからね――」
その言葉が
「――今は――」
胸に深く刺さる。
「――一人にさせて。」
「……うん。」