表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

scene 4




その顔に残る涙の跡に、僕はぎゅっと締め付けられる気がした。

いろいろ考えてたことすべてがなくなって、何も言えない。


「……濡れてるね。」


パジャマ姿で、驚いたように、掠れた声でそう言う真菜。

その、いつも通りの言葉が。いつもと違う声の調子が。ただ、辛く感じて。苦しく感じて。

口を開いて何かを言おうとしても、何も言葉が出てこなくて。

いろいろ言葉を考えていたはずなのに、何一つ浮かんでこなくって。

頑張って絞り出したのは、作り笑いと、なんでもない言葉。


「タオル、貸して。」


考えたのに、こんな言葉しか出てこない自分が嫌いだ。


わかってる。

いつも通りを繰り返してきた僕らは、こういう時に話しかけるきっかけすら掴めないんだって。

そうでもしないと話しかけるきっかけすら掴めないんだって。


どうして、もう一言。

もう一言、別の言葉が言えないんだろう。

どうして、何も言えないんだろう。


意気地なし。馬鹿。お前なんか嫌いだ。

そんな場合じゃないのに、自分にそんなことを言う自分が嫌いだ。


「……うん。」


真菜は小さく頷くと、僕に背を向けて洗面所に入る。

ザァーと聞こえる雨の音に、僕は思わず歯ぎしりをした。


こんな僕じゃ、駄目だ。

こんな僕じゃ。


「はい、タオル。」

「ありがとう、真菜。」


真菜からタオルを受け取ると、僕らの間から会話がなくなる。


「……ねぇ、ゆーくん。

 どうして、来てくれたの?」

「花田さんから、真菜が傷ついたって聞いて。」

「そっか……」


真菜は俯きながらそう呟くと、その細く白い手でパジャマの裾をぎゅっと握る。


「……ねぇ、ゆーくん。」


いつもより、低い声でそう言う真菜の


「わ、わたし、今は余裕がないの。」


いつもより、辛そうに俯いてそう言う真菜の


「だからね――」


その言葉が


「――今は――」


胸に深く刺さる。


「――一人にさせて。」



「……うん。」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これも読んで!
「絵が好きな君と絵を描かない僕」
面白いよ!(たぶん)

作者ツイッター
更新情報とかくだらないことを呟きます
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ