scene 2
「おはよー。」
真菜と別のクラスの僕は、一人で教室に入ると自分の席の前に座る男子生徒、飛葉天輝にそう声をかけながら自分の席に鞄を置く。
すると、今日も飛葉はニヤニヤとしながら僕のほうを見る。
まったく、毎朝毎朝飽きない奴だ。
「おはよう、堀木。今日も夫婦で登校か?」
「別に付き合ってないし。それより、そっちこそ峰さんと今日も登校でしょ?幼馴染なのによく告白したよね。」
峰さんは飛葉の幼馴染兼彼女で、イケメンの飛葉に十分すぎるほど釣り合う可愛さを持つ。
ちなみに、飛葉は大学に進学したら俳優デビューすることが決まっているほど顔が良く、演技力がある。
「大事なのは一歩を踏み出す勇気だよ。」
「はいはいそうですか。彼女に釣り合うくらいイケメンな人は言うことが違いますね。」
「いやいや、お前自分で気が付いていないかもしれないけどかなりイケメンだからな?」
「はっ、『飛葉様の付き人』と言われている僕が?」
「は?お前そんなこと言われてんのか?ちょっと、言ってるやつ絞めてくる。」
そう言って手をぽきぽきと鳴らす飛葉を、僕は慌てて止める。
全く、頭はいいのに喧嘩っ早いというか、感覚で生きている獣に近い感じがするんだよなぁ。
「別にいいよ。将来飛葉が俳優デビューしたときに本当に付き人として雇ってくれれば。」
「そうだなぁ、俺の従弟がもし俺の付き人になってくれなかったら考えるよ。」
「え?従弟のほうが優先順位上なの?従弟今何歳?」
「確か……いま小六だったか?」
「小学生に負けてるの!?僕!」
「ちなみに、そいつ夜空って言うんだけど、この前貸した高二の教科書の内容丸暗記した上に完璧に理解してたぞ?」
「本当に小学生!?」
どんなハイスペックだよ!?
本当か!?本当なのか!?
まぁ、嘘つく理由もないと思うけどね。
「まぁ、俺も本当に小学生か疑ってるけどな。」
「本当だよ……僕の従弟も小学生だけど、そんな頭良くないし。」
「いや、あいつぐらい頭いいやつがいたらおかしいだろ。」
「確かに。」
そりゃあそうだ。
そんな小学生がその辺にいたらどこで〇ドアが開発される日も近いだろうしね。
「ああ、そういえば堀木聞いたか?」
「ん?何を?」
「粟野が日暮先輩に告白されたって話。」
「日暮先輩って……あのモテモテの人?」
なんか、前に飛葉がそんなことを言っていた気がする。
よく興味がなかったから聞き流してたんだけどね。
「ああ、そういう話を聞いたんだが……粟野は何も言ってなかったか?」
「うーん、別に何も言ってなかったかなぁ……
まぁ、真菜はあんまりそういう話しないからねぇ……」
飛葉の話に僕はそう返す。
いくら幼馴染だからってそこまで真菜のプライベートの話に首を突っ込むわけじゃない。
まぁ、本人が何か困ってて助けてほしいとかなら助けるんだけど、何も言われてないのに首を突っ込んだりはしませんよ。
……何も思わないわけではないけどね。
「……告っちまえよ。」
「いや、今はまだ無理。」
僕にそんな勇気ないし、仮にそんな勇気があればもうとっくに告ってる。
「まぁ、俺もその気持ちはわかるよ。」
飛葉はそう言って僕の肩をポンっと叩いてくる。
それがなんかむかついたので、父に教わった技で手首を捻っておいた。
「痛てえ!」
「うっさい。」