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花たちは今日も元気に咲き誇る  作者: 椿想香
冬 願いつづければ、この望みは叶いますか?
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87暗闇を照らす小さな光 4

白蓮、シオン視点です。

少し暴力的な表現があるため、苦手な人は注意してください。

 僕がアリウムの思惑通りに契約を結ばされた後、紅蓮と共に黒ユリの城に連れられた。

 その時の僕は、操られていたとはいえ、自分の手で両親を殺してしまったことの罪悪感ともう元に戻れないという深い絶望で、全てどうでも良くなった。

__紅蓮を守るということ以外、本当にどうでも良くなった。

 

 生きるためには生命活動を行う必要があるが、自らする気はなく、ただ漫然と呼吸だけした。

 そんな自分を見かねてか、または奴から命じられた上司という立場のせいか、シオン様は僕に命令した。

 食事をしなさい、寝なさい、水分をとりなさい。

 一つ一つ、丁寧に命令を下し、僕の命を繋いでくれた。


 反対に、紅蓮は、全てに噛み付き、生命力が溢れんばかりに生きていた。

 その原因は、ほとんど僕のせいだろう。紅蓮にとって、突然血の分けた兄弟によって自分の両親を殺され、怪しい奴に仲間になれと言われ、住む場所が移されたとなったら。反抗的に……自暴自棄になってしまうのは仕方ない。


__死のうとしてない弟の様子を見て安心している自分は、なんて酷い兄なんだろう。


 だが、紅蓮のその姿に安心したのは一時で、それが奴の狙い通りだと気づいた時には、遅かった。


「俺との契約があって本当に良かったな?お前が弟の代わりに遊ぶだけで、全て帳消しにするんだからな?」

 黒ユリにとって、ボスは絶対的存在。そんな中、反抗的な態度を取れば何をされるか分からない。

 また、どうやら奴は、自分に逆らう者で遊ぶ悪癖があるようだ。

 今回の場合、遊ばれる対象は紅蓮だが、奴は僕との契約で紅蓮に手が出せない。よって、僕がその対象となった。


 奴は、紅蓮から攻撃を受けた時、あとから嬉々として僕を呼びつけた。

 そして、ボスの憂さ晴らしという、抵抗を許さない一方的な暴力を受けることになる。

 僕の前にもそういう対象はいたらしく、奴曰く、早くて数日であの世に行ったり、心が死んで無気力状態になったりするらしい。

(どうでもいい)

 自分は既に心を失っており、今更こんな暴力なんてどうってことなかった。

 僕の存在が盾となり、大切な家族を守れるのであれば、この身を奴に、アリウム様に捧げようと思えた。


 しかし、ある時からボスに紅蓮の攻撃が当たる前に、シオン様が間に入るようになった。

 紅蓮の攻撃を受け止めてから押さえつけたり、時には気絶させたりと、色々な方法で紅蓮を阻止した。

 奴の腹心のように、シオン様はボスを守護するようになった。


 そして、気づいた。

 ボスに遊ばれる対象がシオン様に移ったことを。


 このことに気づいたのは本当に偶然だった。

 ある日、任務の報告を奴にしようと、王の間に向かった。その時、部屋から話し声が聞こえ、邪魔してはいけないと壁に寄りかかり、入るタイミングを伺った。


「お前も無駄な抵抗をするものだな……いや、人はこういうのを『献身』と呼ぶのか?」

 奴の声がするのは当たり前。だが、その様子がどうしても信じられなくて、部屋に入ることに二の足を踏んだ。

 偉そうに立つ奴の前には、シオン様が倒れていた。今、王の間で何が起こっているか、僕は知っている。だって、僕も経験したからだ。

 紅蓮の攻撃を邪魔する度に、僕は奴に呼び出され、一方的な暴力と、こちらを馬鹿にする言葉を浴びせられた。機嫌の良い時は数発殴られて終わるが、たまに、血を吐き、骨が折れるほどの暴力を受ける事もある。

 それが、今、シオン様に起こっている。


__なぜ?

  どうして?

  シオン様は腹心では?


「紅蓮がもっと暴れて、俺に直接攻撃を当ててくれたらもっと白蓮を虐められるのに、余計なことをしやがって…」


 まるで、もともと遊ばれる対象であったかのように、あまりにもシオン様は慣れている様子だった。今までもこうやって、何度も暴力を受けていたのだろうか。チラッと見えた腕や足には、傷跡や痣がありありと見えた。


「まあ、その分、お前で遊べるのだから俺にとってはどっちでもいいがな」

「……」

「ダンマリか……はぁ〜つまらん。最初はもっと顔や目に表情が出て面白かったのに、すっかりボスの腹心として板についてきたな〜」

「っ…」

 先程まで下に垂らしていた顔を、シオン様は一瞬で顔を上げた。


ジャラ…


 だが、その瞬間、鎖が彼女の身体中を縛り、動きを止める。

「ククク…腹心呼びは嫌だったかぁ〜?」


__どうして、僕たちを庇っているのだ?

  彼女は、黒ユリ側の人間ではないのか?

  それに、あの鎖は……。


 とにかく、彼女のことを無視することなんてできず、王の間に入ろうとした。


ジャラ…


 その時、僕の体は彼女と同じように鎖で動きを封じ込められた。

 この鎖は、契約を結んだ時にも見たものと同じ。ということは、奴の魔法であろう。

 そこまで考えが至り、顔を上げると、やっと目があった。


『そこで黙って見ていろ』


 声は聞こえずとも、その見下し馬鹿にしたような顔で、言いたいことは分かった。

 僕は、彼女が目の前で殴られ、床に倒れこむ姿を、ただ目に焼き付けるだけで。あまりの凄惨さに、呼吸さえも停止したように思えた。



「さて、こっちに来い。白蓮」

 奴の言う遊びが終わり、シオン様が王の間を別の出入り口から出ていった後。体に絡みついた鎖は消え、やっと思考や体が動き出した。

「お前がここで見たこと、気付いたことは、あいつに言うなよ?せっかく面白くなってきたんだからな?」

「っ……しかし、彼女は僕たちの事情に無関係です!」

 ここで黙っていられるほど、僕は無気力じゃなかった。いや、あの姿を見て、目が覚めたのだ。

 僕は、今まで一体何をしてきたのか。紅蓮を守るために、ここまで来たのだ。しっかりと今を見なければならない。

「ふははは……お前も良い瞳をしてきたな?

今のお前で遊んでも良いが、タイミングが悪かった。俺はあいつらがお気に入りでな。

せっかく面白くなってきたから、お前は邪魔するなよ?」

 それは、シオン様を助けることを禁止する命令で、奴の命令に逆らえない自分はそれに従うしかない。

「そんなことっ……」


ジャラ…


 鎖が体を這い、手足や首に巻きつく。それだけで体の自由は奪われる。一言発しただけで。

 これは、奴と契約した証。ということは…。

「ふっ…お前は弟みたいに反抗できない。忘れたか?白蓮」

「……一つ、質問しても良いですか?」

 奴からの煽りを無視して、さっきから気になっていたことを口にした。

「あの方も、契約を結んでいるのですか?」

 シオン様の動きを封じたあの鎖。明らかに自分のものと同じだった。

「ふはははははは……あー、そうだ。お前と同じだよ。

なんだ気になるのか?話してやろうか?」

 その恍惚とした表情に、シオン様の立場を十分に理解できた。彼女も大切な人を守るために、生きている。

「いえ、いいです。」

 僕は、あまかった。

 本当に紅蓮を守りたいのなら、彼女のように何がなんでも生きなくてはならない。アリウム様に逆らわず、ただ覚悟を持って、生きて盾になり続けなければならない。

「……アリウム様に、この身を捧げます。」


 シオン様の生き様を受けて、僕の心に小さな炎が灯った。

 今、自分が何をしなければいけないのか、理解した。

 

 シオン様が僕たちを庇うことに、何か意味があるのかわからない。

 でも、契約を結んで、腹心と偽ってでも、守りたい何かがあることはわかる。

 だから、シオン様の覚悟を無駄にしない。行動を邪魔しない。

 たとえ、それが貴女様を苦しめることになっても。

 僕は、生きる。紅蓮を守る。


__その代わり、貴女様にもこの身を捧げます。

 

 シオン様が僕たちを庇うのであれば、僕は僕にできる全てのことを貴女に差し上げます。


◇◇◇


 何事もなければ誰にも知られることはない、はずだった。

 だが、現実はいつも最悪で、1番知られたくない人にバレていた。



 今思えば、白蓮たちが黒ユリに来てから1年たった頃、紅蓮がボスに攻撃しなくなっていた。

 私が見ていない所で、白蓮が紅蓮を止めていたのだろう。


「で、それを知ってどうするの?」


「僕はシオン様から返しきれない恩を受けました。だから、これからもこの身をシオン様に捧げます。」

「…」

「どうしても僕を信じられないのであれば、今、この場で、女神リリウム様に誓いを立てましょう」

 白蓮の言葉は本当のようだ。

 彼が冗談や嘘の類を口にするような性格ではないことを、私はよく知っている。

 そしてこのまま放っておけば、本当に女神に誓いを立ててしまうだろう。

「…わかった。貴方の考えは痛いほど理解したわ。

もう貴方の言葉を疑わないから、わざわざ誓いを立てなくていい」

 そういうと、白蓮は誓いを中断した。

「でも一つ、白蓮は誤解している」

「誤解、ですか?」

「……私は貴方と違って、ボスに心から忠誠を誓っている。それに」

__貴方は私が心の支えになったと言っていたけど、私の方こそ、貴方の言葉で支えられてきた。


 黒ユリでは、私の味方なんていなくて、1人で戦うことなんて当たり前。

 そんな状況に、心が折れそうになった時もあった。

 でも、そんな時に貴方が現れた。

 最初はただ無気力に生きていて、同情、いや、貴方を反面教師にしてきた。

 いつからか、貴方が前向きになってから、私の世界に光が灯った。

 その光はとても小さく、今にも消えそうな蝋燭の炎ようで。しかし、消えることがない。


『シオン様!少し休みましょう』

『シオン様!今夜は冷え込むのでこの毛布を使ってください』

『シオン様?いつもより顔色が悪いようですが、体調は大丈夫ですか?』


 彼にとって、私は憎むべき敵側なのに、彼の優しさは春の日差しのように温かい。

 罪悪感を持ちつつも、その温かさに頼ってしまった。

 だから、白蓮が紅蓮と共に白ユリについたと知った時、私は心の中で祝福した。

 ここでなら、彼は幸せに過ごせるだろう。

 彼の優しさがやっと正しいところへ届くだろう。


 そう、願っていたのに。


 私は彼の優しさを侮っていた。

 まだ、その優しさを私に向けてくるなんて…。



(ああ、やはり早くここから離れなければ)


(私が関わればまた……)


(もう二度と、大切な人を傷つけられないために、私には何ができる?)


__私に忠誠を捧げろ。

そうだ、ボスに忠誠を捧げよう。


__私の支配下にいれば、お前の望みを叶えてやろう。

そうだ、ボスの支配に身を委ね、私の願いを叶えてもらおう。


__私に逆らわなければ、お前の大切な人はみんな幸せになれる。

私がボスに従順になれば、大切な人はみんな幸せに生きてくれる。


__お前さえ我慢すれば、全て上手くいく。

私が耐えれば、全て上手くいく。


__さあ、早く帰ってこい。シオン



「シオン様」


「……?」

 白蓮の声がして、はっと、顔を上げた。

 どうやら、彼に返事をしてから、考え込んでしまったようだ。

「シオン様、大丈夫ですか?」

 こちらをじっと見てくる白蓮。

「…大丈夫。ちょっと疲れていただけ。」

 詮索されないように軽く言い訳をして。

「勉強しないといけないから、今日はもう帰る。

…白蓮、ありがとう」

 テストの過去問について礼を言って、背を向けた。


 今、この場に留まれば、どんな言葉が溢れてしまうか分からない。表情もいつもみたいに取り繕うこともできない気がした。


(しっかりしろ、自分。

いつもの『シオン』になりきれ。)



 心が痛いほどその存在を主張していたが、きっと気のせいだと思い、足早に去った。

次は来月に投稿したい気持ちです。

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