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花たちは今日も元気に咲き誇る  作者: 椿想香
冬 願いつづければ、この望みは叶いますか?
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85シオンの苦難 2

視点はシオンです。


 その日から、放課後に図書館の一室を借りて、三人でテスト勉強会を始めた。

白蓮と紅蓮はこのことを桜たちに話していないようだった。

 おそらく、白蓮が勝手に私を気遣って行動したのだろう。以前から思っていたが、彼は私に対して甘すぎるし、察する能力が高すぎる。


「……」

 二人から基礎知識を教わり、何とか教科書の内容は分かってきた。歴史に関しては、物語のように流れで理解し、その後に細かい知識を暗記すれば、合格点は取れる。また、国語に関しても、もともと本を読むことは好きなので、そこまで苦戦しなかった。

 しかし、問題は数学である。これに関して、方程式や数式を一度理解すれば問題は解けるが、その理解がなかなかできない。私は、物事を1から10までしっかり学び、疑問を完璧に解消しなければ理解できず、次に進めない。そんな性質なせいか、数学の進みは全くと言っていいほど進まない。

 紅蓮は、暗記科目は苦手だが、数学に関してはずば抜けて得意のようだ。彼は、感覚派だが、なぜか歯車があったようにすらすら理解し、解けるようだ。しかし、そのせいで、人に教えるということは苦手で、一度数学について質問してみたら、「え?なんでこの問題の答えがこうなるかって?計算したらこうなるからだが?」と、答えにならない答えしか返ってこず、私は彼に聞くことをあきらめた。

 一方、白蓮は、どの科目もそつなくこなすタイプで、紅蓮と比べると人に教えることに向いている。初等部の勉強も、ほとんど彼から学んだ。私が細かく疑問をぶつけても、懇切丁寧に教えてくれる。しかし、今回の試験範囲に関しては、彼も理解するので手一杯で、私の質問に答えるのに苦労している様子だった。

(これ以上、彼ばかりに負担はかけられない。)


「あ、もう下校時間だ!」

「じゃあ、今日の勉強会はここで終わりにしよう。 明日は休日だけど、どうする?」

「……」

「明日はとりあえず、自由参加で、学校近くのファミレスでやろうぜ~白蓮」

「了解~紅蓮」

またしても、二人に気を使わせてしまった。

(はあ……こんなことをして、何か意味があるのだろうか。)


 数学につまづき始めてから、ずっとこの疑問が頭の中をぐるぐると回る。そのせいで、最初よりも集中力や理解力が落ちていることも自覚している。しかし、だからといって、この疑問を無視できるほど、私はこの先に夢想していない。


(私は、いつか白ユリから去り、黒ユリのほうに戻る。)


 漠然とそのことを思い、また試験への意欲が落ちていく。

「シオン様?」

「!?  ……ごめん。考え事をしていた」

 白蓮の声で意識を戻すと、すでに二人は帰る準備を終えていた。

「二人は先に帰って。」

「……分かりました、シオン様」

 二人の背を横目に、私は帰る準備をし、借りていた部屋からでた。


「よぉ! 学生を楽しんでいるかい?シオン君」

「っ……学園長」

 部屋から出ると、理事長がすぐそばに立っていた。


 私は、この人が少し、いやだいぶ苦手だ。なぜなら、この人の目が怖いからだ。

 理事長室で会った時、どこまでも見通すような澄んだ目でこちらを見下ろした。

 それが、私という存在をすべて見透かされているかのように思え、心の底からゾッとした。


 この人の魔法は、相手の感情が分かるというものだが、いったいどこまで分かるのだろうか。

「全部だよ」

「……え?」

 いつの間にか下がっていた顔を上げ、思わず理事長の顔をまじまじと見てしまった。

「ま、全部は冗談だけど、今何を考えているか、事細かにわかるよ~って話は本当だよ」

「…そうですか」

 それはつまり……。

「君が、ここでの勉強や生活に意味を見いだせていないことも分かるよ」

 この人は……本当に。

「__怖い、かな?」

「あの、勝手に読むのやめてもらえますか?」

「あはは。ごめんごめん……ちょっとふざけすぎたね?」

 理事長はそう言いつつ、眼鏡をかけた。

「話を戻すと。君は、この勉強に意味を見いだせていないから、集中力が下がっていると考えているのだよね?」

「はい……」

「じゃあ、簡単な話だ。君がこの試験を頑張る理由を作れば良い。」

(いやいや。それができたら)

「今から、君の秘密を一つ読む。君がもし、すべての科目で合格点が取れれば、それを他の人に暴露するのはやめよう」

「は??それってつまり、合格点に達しない科目がひとつでもあると」

「うん。校内放送でバラスよ」

「……それでも、試験を頑張る理由には弱いです。その秘密の内容によっては変わりますが、いったい理事長はどんな秘密を知っているんですか?」


(焦るな、焦るな、焦るな。動揺したら負け。何も考えるな。秘密を頭に浮かべるな、違うことを考えろ。)

 というか、第一、校内放送でばらされて困る秘密なんて、理事長の前で考えたことはないはず。


「ふーん……そういう返答するんだ。ここで言うのは可哀そうだから言わないであげたのに__本当にいいのかな?」

「だから、私にばらされて困る秘密なんて」


「__君の好きな人はびゃ「ちょっと待った!!」」


(え?????そういう方向の秘密???え?は?というか、なんで、、いや好きとかそういう感情ではない。ただ、その人には負い目というか、罪悪感というか、、、)


「まあ、私が読んだ時の感情と君の本心が違う場合があるから、真偽は定かじゃないけど。これを放送されれば、嘘でも恥ずかしい思いをするよね?」

「……貴方は本当に理事長なんですか?よく、こんな非道なことができますね」

「ひどいな~これでも暴露する秘密は選んだつもりだよ?」

(選んだ?まさか、あのことを……いやそんなわけがない。これはブラフで、他の小さな秘密について言っているだけだろう。

とにかく、今は動揺を隠し、この人の思い通りに動くしかない。)


「…わかりました。理事長、約束ですよ?」

「もちろんだとも。こう見えて、約束は絶対に守るタチでね。たとえ、(相手が裏切ったとしても……)」

「すみません…最後の方が聞こえなかったのですが…?」

「いや、なんでもないよ。 頑張りたまえ、シオン君」

 理事長は笑って、この場から去った。


「疲れた…」

 私は憂鬱な気持ちで、今度こそ図書館からでた。外はすっかり暗く、肌寒くなっていた。溜息をつき、上を向くと、ちょうど雲から出てきた三日月が浮かんでいた。

「……」

 理事長に厄介な秘密を握られたが、気持ちはさっきまで悩んでいたことが嘘みたい、晴れ晴れとしている。


(さて、帰って、今日の復習をして。……また明日、ファミレスでがんばるか)

 寮へと歩き出そうとすると、人影が重なった。

「シオン様!もう暗いですから、寮まで送りますよ」

「おい、シオン!外寒いから、はやく出てこいよ」

 少し時間がたったはずなのに、白蓮と紅蓮が外に待っていた。


(なんだろう、この気持ちは。これが、友人というものなのだろうか?それとも……。

 いや、そんなわけないか。彼らは元部下で、今は敵同士だ。)


『君の好きな人は__』

 先程の理事長の言葉が頭に浮かんだが、あまりにも馬鹿馬鹿しくてすぐに消えた。


(でも、今日は少し素直になりたい。この二人の行為に、何か返したい。)


「……待たせて悪かったわね」

 そう思ったが、結局、こんな言葉しか出なかった。


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