81新たな始まり
視点はシオン、桜です。
「…ん………ここは……」
目を開けると白い天井が広がっていた。
顔を横向けると赤い液体がぶら下がっているのが目に入る。そこから伸びる管を目でたどると私の腕にいきついた。
「!!!」
(え?治癒されてる!?)
そこにはあるはずのモノが綺麗さっぱり無くなっていた。おそらく全身の怪我も全て治癒したのだろう。
改めて気付く___桜の治癒魔法能力が私とは比べものにならないほど高いと。
「……病院」
周りを見渡すと、清潔感が漂う広くない一室。
(黒ユリにこんな所はない。ということは……)
窓から朝特有の眩しい光が目に入る。
体を起こすと、真正面にある針は9時を示していた。
「……………」
バタバタバタ…
少し考えふけていると、廊下から走る音が聞こえた。
慌てて近くに置いてあった眼鏡をかけ、様子を窺う。
コンコン……
すぐにドアをノックする音がした。
「失礼しまーすって……起きてる!!」
「え?」
ドアが開いたと思ったら続いて桜の驚く声が響いた。
ここはおそらく病院なのに、そんな大声を出しても良いのか。
◇◇◇
びっくりした。いや、本当にびっくりした。
まさかシオンが起きてるとは思わず叫んでしまったが、近くを通りかかった看護師さんに注意されてしまった。
「えっと……シオン、体は大丈夫?」
気を取り直し、私はシオンに傷口の具合を確認した。目が覚めてからすぐに魔法を使ったけど、本当に大丈夫かどうかは本人の口から聞かないと安心しないのだ。それに今まで隠れていたから気が付かなかったが、シオンは今回の傷以外に、腹・背中・足・腕など体のいたる所に痣を抱えていた。特に腕は痣だけでなく傷痕も多く残っていて、見ていて耐えられないほどだ。あまりにも治すところが多かったので、点滴で私の血を体全体に回るようにしている。
「……貴女の魔法なのだから問題ない。……それより貴女の方が問題では?」
「あ、はは〜……」
そう、私の魔法は私以外しか治せない。だから腹の傷は残っているのだ。でも、私の傷はシオンと比べたら全然軽いもので入院しなくても良い。
(と言っても、みんな心配して白ユリに到着してすぐに強制的に病院に運ばれたらしいんだけどね…)
そういう経緯で、私は起きてからとても驚いた。起きたら病室にいるし、もう朝だし、隣にシオンがいると理事長からの置き手紙で知らされたとかで。
ゴソゴソ……
理事長からの手紙の内容を思いだしていると、シオンが横に畳んであった自分の着ていた衣服を漁り始めた。
「あ、その…念の為、武器は全て没収されてるよ?」
理事長からの手紙にそう綴られていた。
白ユリの安全面を考えて念の為、と書かれたら仕方ない。
「違う………あった」
「??」
シオンはそう言うと、小さな袋を取り出した。
「それは何?」
コンコン……
「失礼します」
中身を聞こうとしたら、誰かが病室に入ってきた。おそらく…。
「シオン様!起きていたのですね?」
「うっわ……もう二人とも動いているのか…」
案の定、紅蓮と白蓮だった。
「…紅蓮?良い時に来た」
「え?何か嫌な予感がするですけど…」
「はい、これ飲んで」
「え?何?」
「早く」
「シオン様、代わりに僕が!」
何か知らないが、目の前で上下関係というものを見せつけられた気がする。
ゴクンッ
呆然としていると、命令通りに白蓮はシオンから受け取った薬をのんだ。
「………」「………」「………」「………」
チク…タク…チク…タク…
私を含む四人はそのままだまり込み、時計の針だけが動く。
「……気分は?」
「大丈夫です、シオン様」
「桜、これで毒じゃないと分かった?…納得したならさっさとこの薬をのんで」
すると今度は私にもさっきの赤い薬を差し出した。量は白蓮に渡したよりも数錠増えていた。
「え、うん」
「お、おい!!」
ゴクリ…
「!!!」
言われるがままにのんだら傷口は塞がり痛みも引いた。
「気分は?」
「大丈夫!
……これってシオンの魔法だよね?本当にありがとう!」
シオンの薬は、確か前に見たことがある。
(……その時は敵で厄介だったんだけど…………今はすっごく助かった!)
「別に…貴女には大きな借りがあるから……」
「おい、シオン!何しれっと俺を毒味役扱いしてんだよ!」
「…私が毒味しても紅蓮が納得しないのでは?私はただ効率よく桜に薬をのませたかっただけ…」
「え、いやでも!
(こいつはアリウムの腹心だ。桜に何するか分かったもんじゃないし……桜はそんなシオンに警戒心が無いし……)」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、紅蓮」
「白蓮だって知ってるだろ?黒ユリテトラの中でもシオンは信頼されているんだぞ?」
「……あの様子を見ていたら、なんかどうでも良くならない?」
後ろで何かコソコソ言い合っている二人は無視して、私は手を伸ばしてシオンの額に当てようとしたら、
「!……」
盛大に避けられた。……ちょっと傷付いた。
「熱がないか、確認するだけだよ〜」
「……熱はない」
「はいはい………うん、そうだね」
また避けようとしたシオンを無視して、手で計ってみると自己申告通りなかった。
「……私はこの後どうなるの?」
不意に、シオンが外を見ながら尋ねてきた。
「え、もちろん学園に行くんだよ?」
「は?」
「シオンの入学許可をもらいに理事長に会うよ!」
シオンが目をまるくしてこっちを見てきたので、首を傾げた。
(何か変な事言った?)
「…紅蓮、白蓮」
すると今度は後ろの二人に視線を移した。
「はっはっはっ これからはクラスメイトとしてよろしくな?シオン」
「僕は違うクラスですが、何かあれば手助けしますよ」
「………はぁ〜」
何故かシオンは大きなため息をつき、呆れたように言った。
「私、黒ユリテトラの一人なんだけど?」
「その、私が提案したら理事長が……」
「理事長が?」
「『良いんじゃないか?』って言ってくれたの!まぁ、一応面接はしないといけないらしいけど…」
「………大丈夫?…ここの人たち…」
シオンの問いに私たち三人は答えなかった。
私とシオンは早速準備をして、学園に向かった。
「シオン?準備は良い?」
「ええ………一つ聞いていい?」
「うん!どうしたの?」
「これは……私の制服?」
「そうだよ!」
シオンが今着ているのは、白ユリ魔法学園の白色の制服。今まで黒系だったため、私の目には新鮮に映る。
(というか、白色も似合うな〜)
「すでに、入学する前提……」
「シオン様、これからもよろしくお願いしますね」
「同じクラスにシオンがいるなんて気が抜けね〜」
「………」
廊下を何回か曲がり、理事長室前にたどり着く。
扉をノックしようとすると先に中から開いた。
「おはよう!四人とも元気?」
アヤはいつも通り元気そうだ。
「アヤ!おはよう」
「相変わらず彩芽は元気過ぎるわね…」
「そこがアヤらしいですよ」
理事長室の中から柊とすみれの声が聞こえた。
柊とすみれにはあの日から会っていない。
だから、少し、気まずい。
「お、おはよう!柊すみれ」
意を決して、理事長室に足を踏み入れる。
「……」「……」
「?」
挨拶が返ってこなかったので思わず歩みが止まる。
すると、今度は二人から走り寄ってきた。
「おかえり、桜」「おかえりなさい、桜!」
二人からギュッと抱きしめられ体は少し後ろに傾く。
「ふ、ふたりとも、ちょっと苦しいけど、_____ただいま!柊、すみれ」
「良かったです〜桜が無事で!」
「…心配したんだから!」
二人からの言葉で視界がぼやける。
「ごめん……でも、二人も無事で良かった」
案の定、すみれは号泣。柊は………泣いてはいなかったが、瞳は潤んでいた。
「さて、感動の再開は済んだか?すまないが、そろそろ本題に入りたい」
私たちが泣き止む頃合いを計り、理事長が本題を話した。
「まずはシオン君。そんな隅にいないでこっちに来てほしい。」
振り返ると、シオンは入口の近くに立っていた。
「ですが…」
「黒ユリテトラの一人だから?ここにいる生徒を傷付けたから?
黒ユリテトラだろうが、年齢はここの生徒たちと同じだから学園に通うのは問題無い。戦闘でのことは君が一人で悩むことじゃない。そんなに気にするなら当人たちと話し合えば良い。」
「え……」
「他に何かあるか?」
理事長は最初から眼鏡を外していた。おそらくシオンの心を読んで、先回りしているのだろう。その証拠に、シオンはさっきからポカンとしている。
「実は理事長の魔法って相手の目を見ると心が読めるんだよ」
「………」
シオンは羽織っていた白色のフードを深く被った。
「そんな魔法って……ありなの?」
焦ったような声に、ちょっと可愛く思えた。
「話を進めるぞ〜……桜君から聞いたと思うが、入学するには面接が必要となっている。だから近くまで来てほしいんだ。」
「……一応聞いといても良いですか?……入学を拒否することは?」
「うーーん……そうなると、白ユリ団からの監視が一日中つくことになるが?俺的にはあまりおすすめはしない。」
「……分かりました。面接を受けさせてもらいます。」
そう言って、やっとシオンは動いた。
「よしよし……それじゃあ面接を始める。」
「え?あの…私たちはここにいてもよろしいのですか?」
てっきり面接は別室で行うと思っていたので、私も困惑した。
「大丈夫だ、すぐに終わる」
「………」
その言葉で、部屋は一気に緊張感が高まった。
「シオン君。君は白ユリに居る間、学生として魔法学園に通ってもらう。その時、他の生徒には黒ユリテトラであることは隠してほしい。できるか?」
「…はい」
シオンはフードを外し、真っ直ぐ答える。
「次。ここにいる間は、訓練以外で事情が無い限り白ユリの人たちを傷付けない。守れるか?」
「…はい」
(あれ?これって面接?)
「最後。桜が怪我をしたとき、君の魔法で治癒してほしい。」
「はい、分かりました」
(え?何?最後のはいるか?)
「ふっ……これで面接は終わりとする。
白ユリ魔法学園理事長、ジニアはシオン君の入学を歓迎する」
すると、理事長は椅子から立ち上がり、シオンの前に手を差し出した。
「……私は今もボスに忠誠を誓っている。なのであちらの情報を渡すことも、白ユリと協力することもない。それでも良 「ああ、そのぐらいどうでも良いさ。」……」
シオンはマジマジと理事長を見ていた。
「他に何か言いたいことは?」
「…ありません」
「それじゃあ…___君が充実した学園生活を送れることを願っているよ」
そうして、二人は握手を交わした。
この流れは、学園に入学する前にみんなが経験することだ。
おそらく、この握手を交わすときに理事長は生徒の心を読んで生徒たちをサポートするのだろう。
私は握手を終えたシオンに近づいて、話しかけた。
「これでシオンは白ユリ学園の生徒だね!クラスメイトとしてよろしくね!」
「……はぁ…これだから…」
「何?シオン?」
「……よろしく、桜」
シオンはほんの少しだけ頬を緩ませた。
「あ、そうだ!
柊、すみれ!もうわかると思うけど、この黒髪の赤い眼鏡をかけてる子がシオンね。
シオン!小言が多くて大人びている方が柊で、素直で優しくて大人しい方がすみれね!」
「ちょっと、その紹介は何かしら?」
「よ、よろしくお願いします!シオンさん」
「……私は貴女たちに怪我をさせた」
「だから?……思う所はあるけど、今は別の話よ。」
「え……」
「そうですよ!気にしないと言ったら嘘になりますが、少なくとも私はシオンさんと仲良くなりたいです!」
「私も〜シオンとは仲良くなりたい!」
「シオン、この三人はそう言ってるけど?」
「……慣れ合う気はない。
でも………ここにいる間だけは………よろしく」
「「「「!!!」」」」
シオンはそう言って、フードを深く被った。
「あ、デレた」
「紅蓮、シッだよ!」
紅蓮と白蓮も楽しそうだ。
ハックシュン!!!
「……理事長」
「すまん…」
せっかく良い感じに収まりそうだったところを、理事長のくしゃみが台無しにした。
「そういえば、さっきから涙目でしたもんね…」
「おそらく… クシュン シオンに付いていた クシュン 黒ユリで見られる特有の花粉 クシュン が クシュン」
「あー…理事長、もう喋らなくて大丈夫ですよ?」
「理事長って、花粉症だったんだ〜」
_____何だかんだで、最後は理事長が持っていったのであった。
これで、この章は終わりです。
次は、最終章。
黒ユリとの戦い…ジニアとアリウムと蒼星の関係、シオンの心情、そしてそれぞれの恋。
書くことはたくさんあるが、書き切れる自信がない!
というのは冗談で、頑張って書きます。
最終章は今しばらくお待ちください。




