80黒と白の行く末5
視点は桜です。
_藤とフリージアが水壁に閉じ込められる、少し前。黒ユリにある森林にて_
ガキンッ!
刀と小刀が擦れ合い、その度に火花が散った。
「……」
何回か攻撃を受け止めると、シオンがいきなり下がった。
「ッ…」
なんとか体が前のめりにならないように踏ん張り次に備えようとすると、左からシオンが仕掛てきた。
「なっ!?」
私はシオンから目を離さなかったが、シオンの速さはそれを上回り腕に切り傷ができる。
「……チッ」
(シオンの機動、すごいな!?)
ここにある木を利用して速度をあげ、かつ私の利き手ではない方から攻撃をする。さすがに避けきれなかった。
戦闘中の反省は一瞬で終わらせ、追加攻撃をさせないために刀を振るった。するとシオンはその下をくぐり、私の懐に入ってしまった。
「くっ!!」
反射的に膝蹴りでシオンを狙い、相手を即座に懐から離れさせたが、どこからか取り出した小剣を私に向かって投げた。
グサッ
「っ……」
急いで投げたせいか、剣はそこまで深く刺さらなかった。しかし横腹に刺さってしまったのは事実。
これ以上傷口を深くしないために小剣を抜いてすぐに遠くに投げる。息を整える間もなく、また前から数本の小剣。
ガキンッ!
避けても良かったがそれではシオンに攻撃の機会を与えるので、あえてシオンに向かった。
投げた小剣を刀で払いながら近づいた私を見て、初めてシオンが動揺した。予想外の行動が取れたようだ。
「はあ!!」
動揺している隙に私は小刀をふっとばすように力を加える。
シオンもなんとか手放さないように耐えていたが、力比べは私の方に勝敗が上がった。
カンッ…
木に当たり、草むらへと混じった小刀を無視し、私はさらに追い打ちをかける。
「こんっの!!」
あのシオンが叫ぶと、袖に隠していた小剣で私の首を狙ってきた。私はそのまま避けずに左手でシオンの右手首を掴み、刀をシオンの首に向けた。
ザザー……
「はぁ……はぁ……」
「……はぁ………」
風が首にできたかすり傷を撫でた。あと少し私の左手が遅ければそのまま斬られたのだろうか。
(まぁ、あっちも治癒魔法があるから多少の傷は良いのか……)
レンズ越しに見えるシオンの瞳は冷たいものではなかった。上手くは言えないが、何か色々な感情が渦巻いているようなものだった。
「……シオン、やっぱり私たちは戦う理由なんて無いんじゃない?」
均衡した今しか聞けない。私はシオンの事が気になった。黒ユリでの扱いは決して良いものでは無かったのに、なぜここに居続けるのだろうか。あいつにそれほど忠誠を誓える何かがあるというのか?
「私には有る。___貴女を連れ戻すという命令が!!」
その叫びでまだ戦闘は続くと理解し、同時に左手の力を強めようとしたら、右足でシオンは首を蹴ってきた。
それはただの蹴りではなく靴底にはナイフが仕込まれていたので、仕方なく左手で防御した。その拍子でシオンの右手が自由になり、そのまま蹴りの反動で回転し、少し下から私の首に向かってナイフを突き上げた。
私の刀では間に合わず、左手は防御したままだったので、この攻撃を両手で止めることはできない。しかし私には両足がある。
私は足裏でシオンを蹴ってそれ以上の侵攻をとめ、そのまま膝蹴りでナイフを落とす。
ドサッ……
私の蹴りは思ったよりも強力だったらしく、木々の間を通り抜けてシオンは地面に叩きつけられていた。
「やばっ……」
急いで追いかけると、いつの間にか森を抜け出していた。
「シオン!大丈夫?」
攻撃した本人がこんなことを口にして良いのか分からないが、シオンが心配で駆寄ろうとする。すると……。
「桜!!」
「へ!?この声は……」
振り返ると、ちょうど森を抜けた紅蓮とアヤと白蓮(とアヤの友達)がいた。
話しかけようと思ったが、倒れたシオンが動く気配がしたので向き直る。
「…まだだ!……まだ私は!!」
(お願いだからもうやめて、シオン!)
シオンはまた袖に隠していた小剣をとり、二刀流で向かってきた。
「……」
シオンは強い。特に速さが凄いのだ。二刀流になったことで確かに攻撃は早くなったが…………焦りで攻撃が雑になった。
冷静に対応すれば私の刀で払い切れる。隙も多いし、おそらく傷の痛みと疲れも影響しているのだろう。
「はぁ…はぁ……」
「シオン…お願い!もうやめよう?私たちには戦う理由なんて無い!!」
「だから、さっきから言ってるでしょ?私には有るんだよ!!」
シオンの叫びは本音なんだろう。さっきからギラギラと睨んでくる瞳からは嘘は感じられない。でも……。
私は視線を紅蓮たちに向け、そこで待っていて、という気持ちを送った。伝わったかどうか分からないが、アヤが二人を止めたので多分大丈夫。
「…あいつからの、命令だから?あんなクソ上司に従う利点なんてある?」
「……えぇ、有るわよ!」
「そっか……」
てっきりここで無いとか言うと思ったが、本当にシオンはあいつに心から忠誠を誓っている様子だ。
知らないのだろうか?この子の扱いが酷いものだと…。
それとも本当にあいつに忠誠を誓うだけの何かがあるのか?
分からない……私には分からないが、それでも言いたいことはある。
「…シオン
(白ユリに来てみない?貴女はもっと視野を広げるべきだよ!)」
私はそう語りかけようとすると、シオンが今まで以上の速さで小剣を向けてきた。
「っ!!」
後ろに飛び下がり、またシオンに接近しようとしたら………。
ボンッ…
「シオン!?」
私の体が一瞬止まった。
攻撃を受けたわけではない。
「なぜ、です、、ボ、ス」
ただ、少女が苦しそうに地面へ倒れ込む光景が、受け止められなかったのだ。
「桜、一回下がって!!」
アヤの声には応じず、私は気を失ったシオンに駆け寄った。
「シオン!シオン!!しっかりして!」
誰の攻撃かなんて、一瞬で予想できた。
私が飛び下がった時、火の玉がシオンの横腹をつき通った。
その火はよく見る赤いものではなく、黒い炎。
私には見覚えがある。
そいつは赤い炎で家を燃やし、それよりも温度が高い黒い炎で家族を殺した。そのせいで骨は塵となり、思い出は燃やされた。
忘れるはずがない。
「お前は部下をなんだと思っている?こんなに忠誠を誓い、命令を実行するシオンに、こんな仕打ちってあるのか!!
___何か言えよ、アリウム!!!!」
パチパチパチ…
「まさかシオンに勝てるとは……さすがだね、桜。
……それに比べ、シオンは本当に役立たずだな〜。せっかく桜を狙ったはずが外れてしまったじゃないか?」
アリウムは呆れた目でシオンを見下ろしながら、私たちの前にやってきた。後ろには蒼星さんを従えていて、堂々と歩いてくる。
それに伴い、紅蓮たちも私の所にやってくる。
(役立たず、だと!?)
「桜、落ち着いてね?」
「……分かってるよ、アヤ」
「あの、シオン様は大丈夫ですか?」
「あ、うん……ちょうど傷口から少し血出てたし応急処置はしたよ!
でも、完全に治すにはもっと血が必要かな……」
私は顔色の悪いシオンを見ながら、心を落ち着けた。
(冷静になれ、私。今怒ったって無駄よ。)
「アリウム!!」
紅蓮は槍を地面にぶっさし、亀裂を入れることでこちらに向かうアリウムを牽制する。
「おお〜怖っ。そんなに警戒しなくても今回は何もしない」
「そんな言葉、僕たちが信用するとでも?」
「ははは!白蓮に言われたらな〜
まぁ良い……それより、桜。そんなにそいつが気に入ったのならくれてやるよ!その代わり、お前がこっちに来るならな?」
「…冗談にしては笑えないね…」
「はっはっは……これでも本気なんだがな?
用済みと交換でお前が手に入るなら、これほど良い事はない!!」
「ッ!!」
(こいつ!!)
「桜」
刀を持つ手に力を入れるが、アヤに止められた。
「まさか、俺たちがそれを許すとでも思ってるのか?アリウム」
「ああそうさ。所詮君たちはまだ学生レベルの実力……まぁシオンはそれより強いがそれでも俺には遠く及ばない。
今俺と戦ってお前らは勝てるのか?蒼星も居るのにな?」
「くっ…」
「……勝てる勝てないの話じゃない。
僕は……僕たちは絶対にお前の好きなようにはさせない!
お前に勝てなくても、どんな卑怯な方法でも、それだけは阻止してみせる!!」
「あんたが何をするつもりか知らないけど、これ以上桜を泣かせることだけは許さないから……覚悟しなさい!」
「白蓮……アヤ……」
少し前まで逆らえなかった存在に、今白蓮は真っ向から立ち向かった。そしてアヤから温かくて優しい決意をもらった。正直、涙腺が緩んだ。
「……はぁ、俺の言いたい事が全部言われてしまったな」
「紅蓮!」
いつの間にか紅蓮は私の横にいて、私とシオンを守るように立った。
「…桜、泣くなとは言わないがもう少し我慢してくれ。おそらく白ユリに着いたら散々泣かれるし、泣くことになると思うから」
「え………」
紅蓮の言葉に涙が止まったが、柊とすみれのことを浮かんだらまた涙が溢れてきた。
「あー、ほら、これ使え」
なんとか堪えようともどんどん涙は溢れてくるので困っていると、紅蓮が何か差し出した。素直に受け取ると、それは紺色のハンカチだった。
「ふふ…今日はハンカチ持ってきてたんだね?」
「……ほらはやく拭け!」
「はぁ……そんなに反抗したいならすればいいさ。だが、結果どうなっても知らないからな?」
「望むところだ!」
「覚悟はとっくにできている!」
ちょっと和んでいると、話は進んでいた。
「ボス…今日のところは……」
「………そうだな…今は近くに白ユリ団とジニアがいることだし、諦めよう。
だが一ヶ月後___今度こそ桜を貰うからな?」
「勝手なことを!!」
「桜、今は行くよ!」
「……分かった」
私は倒れているシオンを抱えようとすると、白蓮に横から取られた。
「桜、シオン様は僕が運びますよ」
私たちは後ろを警戒しながらも走って理事長の所へ向かった。
「理事長!」
「!! 全員いるな?良くやった!」
すぐに理事長は横にいた人シャグリさん?に指示を出し、こっちに向かってきた。
「……白蓮君が抱えているものは気になるけど、とりあえず船に向かうぞ!」
「え?」
てっきり何か言われると思ったが、理事長は何も言わずに私たちを船に連れて行った。
「……桜君が決めたんだろ?まぁ気にはなるが、話は後だ!」
「はい!」
理事長はこういう時は頼りになるな、と思った。
(普段は知らないけど……)
「桜君、君は俺の魔法を忘れたのかい?……そういうことは全部分かるからな」
「…………すみません」
柊とすみれのことが気になり早く向かおうとするも、体から力が抜けていった。
ガクッ……
「桜!!」
「ぐ、れん……」
言いたい事がたくさんあるのに、意識はだんだんと遠くになっていく。
(早く行かないと……)
「…もう大丈夫だ。お疲れ、桜」
(あ、ダメだ……)
その言葉で私は完全に意識を手放した。
次でこの章は終わりです。
一応、この章が終わると最終章となります。




