72黒ユリテトラ2
視点は桜です。
「………」
「………」
私は黙ってシオンを睨んだ。するとシオンも黙って見返した。
(なるほど、どちらかが目をそらすまで勝負しようじゃないか!!)
ガチャ…
沈黙していると、また扉が開いた。
「あー起きてる!?」
「うるさい、このバカ犬 耳が痛くなるでしょ?」
「…俺はボスを呼んでくる」
「………シオン、さん」
「…」
「一回休戦ね?」
「…」
「ところで、この方たちは黒ユリテトラの皆さんね?」
「そうだよ~~ 俺はフリージア。よろしく!」
「…私は桜といいます」
(…黒ユリテトラってこんなにフレンドリーなんだ)
「……」
「ちょ…藤も自己紹介しようよ~」
「…桜、だったかしら?
彼女は白ユリの一員。つまり敵よ?
なんで私が彼女にわざわざ自己紹介しなくてはならないのか、説明してくれる?バカ犬」
(おっと、このお姉様は普通だ!)
「そ、そういうのは関係ないじゃん!ひ、人として?初対面の人には自己紹介が必要じゃない?」
所々に疑問符がついていて、説得力はあまり感じられなかった。
(かわいそうに……黒ユリテトラにもこんな人がいるんだw)
「犬が人について語ってる…」
「おい!さっきから俺のこと犬呼ばわりしているだろ!俺は人間でフリージアっていう名前があるの!」
「犬が何か吠えてるわ~怖い~」
「……」
なんだ…この空間は。私より年上のいい大人が何をしているのか。
とりあえず私ははやくこの居づらい空間から脱出したかった。
ガチャ…
「藤、フリージア。声が廊下まで漏れていますよ?」
「まあまあ蒼星。元気があって良いじゃないか?」
蒼星を伴ってアリウムが現れると、藤とフリージアとシオンは即座に頭を下げた。おそらく黒ユリでの最上級の礼だろう。
「桜…気分はどうだ?」
「……最悪」
私は顔を逸らして短く答えた。これ以上話せば怒りで自分がどうにかなりそうだからだ。
「くくく、そうか良かったな?」
「………」
無理だ。こいつの声だけでいらつく。
「さて、今からこいつに話があるからお前らは席を外せ」
「…承知しました」
「ああ、シオンは残れ」
「なぜシオンだけ…「二度言わせる気か?藤」 いえ…」
結局、三人は黙って部屋から出た。藤さんから帰り際に怖い睨みを貰ったが…。
バタン…
「シオン、血は貰ったか?」
「……いえ、それが…」
バシッ
なんと、アリウムは自分の部下であるシオンの右頬を殴った。
「っ……すみません、ボス」
「相変わらずお前は使えない奴だな?」
シオンは少し左に傾いたが持ちこたえたようだ…
(すごく赤く腫れているじゃん!?)
「何やってるの!?シオンはあんたの部下でしょ!」
「そうだが?俺の部下だから何しても良いだろ?」
「っ……(この外道が!)」
アリウムは至極普通そうに言いのけた。
「それより、桜 お前の血を俺に差し出せ」
一瞬、こいつが何を言っているのか理解できなかった。
いや理解する前に頭が拒否して、勝手に言葉が出た。
「なんで……私があんたに渡すとても思ってる?」
誰が憎い奴にこの血を渡すだろうか。そんなの絶対にありえない。
体が怒りで震え出して、そのままの勢いで檻を掴んだ。
右足に鎖が擦れて熱をもったが、そんなことは気にしない。
「はぁ…分かってないな~」
「何が?」
アリウムは幼子のワガママを窘めるような、大袈裟に頭を振った。
やはり、こいつの動きは一々いらつく。
「俺は別に、お前から強制的に奪うことだってできるんだぞ?
__例えばお前を今すぐ殺して死体から血を一滴残らず搾り取る、とかな」
「それは………でも私を生かした方が採血できる量が多いはず!!」
(こんな簡単なことをアリウムが知らない訳がない……ならいったい……)
私が困惑してそう返すと、アリウムは鼻で笑った。
「はっ!それがどうした?
また治癒魔法を使える奴が現れるのを待てば良い」
「っ……」
つまり、これは脅しだ。
私が死ねばまた次の人を狙う、ということ。
いまだ、白ユリには治癒魔法を使える人は私以外いないと聞いているが、数年後のことなんて誰も正確に分からない。
「さあ、どうする?今すぐ死ぬか、自ら血を差し出すか」
(悔しい……こいつは私が取る選択肢を分かっている)
私がいなくなればアリウムは絶対に、十年前のように治癒魔法を使える可能性のある人たちを探し出してその人を奪いに行くのだろう。ここしばらくは私が生きていたから被害がなかっただけ……こいつには道徳心など有りはしない。
またどこかで椿のようなこの魔法のせいで被害を受ける人がいる__そんなこと絶対にさせない!!!
「チッ………血を、私の血をあげれば良いんでしょ?」
「ふっ、良い子だ。シオン今度はしくじるなよ?」
「……了解…ボス」
バタン
嵐は勝手に来て、勝手に去った。
「……腕…出して」
「………」
私は渋々檻の隙間から腕を出した。するとシオンはどこからか注射器を取り出し、中を私の血でいっぱいにした。と言っても量は日常生活に危険を及ぼす量とは程遠いもので、アリウムは私をできるだけ長生きさせるつもりだと理解できた。
「……終わり……」
シオンは注射器をしまうと、さっさと扉に向かって歩いた。
「ねえ!」
「……なに?…」
私はちょっと疑問に思ったことを聞いてみた。
「貴女、アリウムに忠誠を誓っているのよね?あんな奴のどこが良いの?」
「……その質問に答える意味はない…」
バタン
シオンは振り返りもせずに一言残して扉を閉じた。
(それぐらい教えてくれたって良いじゃない!
……はぁ~。それよりも一日の採血量が少ないとはいえ、ここに何十日もいたら結構な量になるはず。それだけの血液があればどれだけ治癒できるか……
白ユリのみんなに迷惑をかけないように早く早くなんとかしないと!!)
私は脱獄の糸口を探すために檻の中を歩き回った。
……当然、そんなものは見つからなかった。
「絶対に、白ユリに帰ってみせる」
(おそらく、白ユリでも何かしている。アヤ、柊、すみれ、白蓮、そして紅蓮のためにも私が頑張らないと!)
月光が窓から檻の中を照らしている下で、私は自分自身を鼓舞した。




