69紅蓮VS白蓮6
視点は、紅蓮、白蓮です!
「紅蓮……悪いけど、君を全力で倒す」
そう宣言すると、白蓮は両手をパンッと鳴らして、十本の剣を作った。
「白蓮…」
本当は、白蓮の口から全てを聞きたかった。
何故アリウムに従っているのか、何故親を殺したと偽ったのか、何故俺に攻撃しなかったのか。
まさかすべての理由が俺にあるとは思わなかった。
俺は今まで何も知らなかった。
白蓮が俺のために憎くて仕方がないはずのあいつに忠誠を誓う。
__それがどんなに屈辱的で辛いことか…
それなのに俺は白蓮を恨み、アリウムを憎んだ。
(俺は今まで何をしていた?
ただ、あいつに翻弄されて白蓮に迷惑をかけただけじゃないか!!
白蓮、俺は今ものすごく怒っている!
お前のことを何にも気付かなかった俺とお前をここまで傷つけたアリウムに対して。
それと、俺は悲しいよ……
お前が俺を少しも信用してくれなかったことに。
一人で背負わずに、俺にもその重荷を預けてくれよ…
俺だって、お前のためなら何だってできるんだぞ?)
白蓮は作った剣の中から両手に一本ずつ掴み、俺に迫ってきた。
カキンッ
俺は二本とも槍で受け止めてすかさず振動を送ったが、白蓮は周りに浮いている剣を俺に向けて操作した。
このままだと四方八方から串刺しになるので、俺は蹴りを入れて白蓮を遠ざけた後、槍を地面にぶっ刺した。
グラグラ…
弱い振動を与えて白蓮の狙いを正確にできないようにし、俺はその隙間を縫うように剣を避けた。
「…さすが紅蓮だね。でもこんなの想定済みだよ?」
「っ!?」
なんと、避けきった先に一振りの剣が背後から迫ってきた。
グサッ…
「全部……避けた、はず…」
震えている膝と槍を持つ手に力を入れて、膝が地面に付かないように踏ん張った。
剣が刺さったままでは動くたびに傷口が深くなるため、片手で引っこ抜いて魔法で粉々にした。
「空中にある剣をわざと逃げ道ができるように操作したら後は簡単だよ」
簡単そうに白蓮は言ったが、そんなことをあの一瞬で考えて、揺れているなかで操作するのは難しいことだ。
「紅蓮…降参する気はない?」
「ない」
俺は間を開けずに言い切った。
(ここで負けたら、白蓮はあいつに支配されたままだ。そんなこと、俺は絶対に許さない!!)
「紅蓮ならそう言うと思ったよ………仕方ない」
白蓮はこれで終わり、のような顔で空中にあるうちの三振りを俺に飛ばした。
「嘗めるなあぁぁぁ!!」
パリン…パリン…パリン…
俺は力を振り絞って迫ってきた剣を槍で叩き壊した。槍で触れた瞬間に振動を最大にすることで実現する技であるが、扱うのがかなり難しいので普段はあまり使えない。
なんとか成功させた俺はそのまま槍を地面に刺し、白蓮が立っているところまで亀裂を入れた。
「……こうなったら!」
間一髪で避けた白蓮は残りの四振りを俺に飛ばした。
パリン…
「さっきよりスピードが遅いぞ!白蓮」
槍を振り払うことで四振りとも一気に壊した。
白蓮の魔法は集中すればするほど性能が上がるが、それは逆も言える。つまり、冷静さを欠かせればスピードや正確性は下がるのだ。
「早く剣を「作らせねーよ!!」 っ!?」
パリンッ…
手にしている二振り以外無くなった白蓮は魔法を使おうとしたので、俺はその隙を逃さないように白蓮に近づき槍を横に払って二振りの剣を破壊した。
「これで、終わりだ!!」
容赦なく槍の持ち手部分で白蓮の腹を突き飛ばすと、白蓮は受け身をとれず背中を地面にたたき付けた。俺は畳み掛けるように距離を詰めて槍を振り上げたら…
「………まだ、だ」
槍の先を掴んだ白蓮が思いっ切り頭突きをしてきた。
「痛っ!!」
油断と痛みで手が緩むと、白蓮は槍を引っ張りながら俺に蹴りを入れ、間ができてしまった。
「僕はここで負ける訳にはいかないんだ!!!!」
(ヤバイ…)
と思ったときには既に遅かった。
パンッ!!
白蓮が手を叩くと、周りには二十振りの剣が現れた。
「紅蓮、君はやっぱり強い……けれどあの方には勝てない。
だから僕は…君を守るために今は勝たないといけないんだ!!」
白蓮は空中にあるすべての剣を俺に向けて、嵐のように回転させた。
ビューッビューッビュー
「があっ!!」
剣の動きは速くてどの方向からも来るため、俺の体中に傷が増えていく一方。
(槍があれば、切り抜けられるのに…)
俺の槍は白蓮の手に渡り、近くに捨てられた。白蓮の方に行けば届くかもしれないが、もしここから動けば確実に白蓮の剣で体に風穴が開くだろう。
「紅蓮、もう君の負けで良いだろう?だからお願いだから、降参してくれないか?」
白蓮はまた俺に同じ提案をした。
「……」
俺は次々できる傷や流れ落ちる血、未だに俺を切り刻む剣には目をくれず、真っ正面に立つ白蓮を見た。
…無表情だった。
いつも笑顔を浮かべていることの多いあの白蓮が、無表情だった。
そしてアリウムが現れ俺に嘘をついた日も、無表情だった。
(いや、あの日は…………っそうか!
お前のその顔は無表情なんかじゃない!!
お前は……)
俺は大きく深呼吸をして、一歩足を踏み出した。すると、深い傷口が腕にできた。
「くっ…」
「紅蓮!?き、君はいったい何をしている!!」
白蓮が動揺しても、俺は一歩、また一歩踏み出した。
「紅蓮!!もうやめてくれ!!これ以上進まないでくれ!!!」
段々剣の動きが速くなってきたので、背中や足に新たな深い傷口ができた。
「っ…」
流れる血が増えたが、俺は一歩踏み出し、着実に白蓮に近づいた。
「来るな!!」
白蓮がそう叫ぶと一振りの剣が俺を刺すように操作した。
そう、つまり今の二十振りは俺を刺そうとしていた訳ではなく傷をつけるように動いていた。実際、俺は剣が飛び交う所を歩いたが傷しかできなかった。
(結局、白蓮は優し過ぎるんだな)
パリン…
俺は自分の手でその剣を掴み、即座に破壊した。
「な、何で、あの中を歩ける……」
とうとう白蓮の目の前に到達した俺は呆けている白蓮に拳を振り上げた。すると見事クリティカルヒットしたので、そのまま立ち上がらない白蓮の胸ぐらを掴んだ。
ドサッ…
後ろで何かが落ちた音がしたので、白蓮が集中力を欠けたせいで空中にあった剣がすべて下に落ちたのだろう。
「歯食いしばれよ白蓮!!」
「え!?」
ゴンッ!!
さっきのお返しで、白蓮の頭に向かって思いっ切り自分の頭を振り下ろした。
◇◇◇
「痛っっ!!!」
「どうだ白蓮?少しはその固い頭が柔らかくなったかよ」
紅蓮の頭が石頭であることがよく分かった。さっきより威力が格段に違う。
「痛い……痛過ぎる…」
「お前が本気で戦うって言っただろうが」
「……」
いったん落ち着いた僕は戦闘中だったことに気付き、表情を消そうと試みた。
_こうすれば感情をある程度押さえられる。
アリウムと契約を結ぶのは本当に嫌だった……吐き気がした。この世界のどこに、自分の大切な日常を壊した奴を恨まない人がいるのか。
奴が視界に入れば怒りが腹の底から無限に沸き上がることは明白だ。
しかし奴の固有魔法の正体は全く分からなく、僕の魔法では歯が立たない。もしまたあの魔法を使われたら、今度は紅蓮を失ってしまう。目の前の奴は僕がここで反抗したら、笑いながら僕に紅蓮を殺させるだろう。それだけは絶対に避けたかった。
こんな僕の気持ちを読んだように奴が提案した『忠誠を誓うなら条件を一つ付けても良い』というもの。それは一見僕に決定権があるようで、実は決められたレールを歩かされているだけのものであった。
僕は奴に誘導されていると分かっていてもその選択肢を選ぶしかなかった。__弱者が紅蓮を守る方法は、これしかない。
奴と契約をしたとき、自然と表情が消えていくのが分かった。黒ユリでアリウム様を見ても怒りが抑制できた時に、あれは防衛反応が働いたのだと思った。表情があまり出ないと、悲しさも辛さも悔しさも……自分の感情を客観的に見ることができる。
パンッ…
「え?」
無表情に努めていると、紅蓮は僕の両頬を包むように叩いた。あまり痛みは感じないが、赤くはなっている気がする。
「そんな悲しそうな顔を、しないでくれ…」
「……悲しそう?そんな顔していな「あの日もそうだった」 あの日?」
「ああ。あの野郎が来た日、お前はその顔で俺に嘘をついた」
「………僕は悲しくない。……悔しい、辛い。そんな感情はすべて捨てた。だから「白蓮!!」っ」
紅蓮は顔を近づけて、僕の目を覗き込んだ。
「知ってるか白蓮。『目は口ほどにものを言う』って」
「!?」
紅色の目に情けなく涙をながしている自分が写っていた。
「白蓮がこんなに苦しんでいたことに気づけない俺は本当にバカだな……本当に今まで迷惑をかけた」
紅蓮は目を伏せて謝罪の言葉を口にした。
(紅蓮が謝るところなんて無い。はやく訂正して、試合に勝たないと!!)
「違っ……僕は君を守るために。僕は弱いから紅蓮の未来を守るためにアリウム様に従わないと……」
紅蓮の腕を払って立ち上がろうとすると、今度は僕を抱きしめた。
「白蓮、俺はそんなに頼りない奴か?」
頭を肩に乗せて悲しそうにつぶやいた。
「そんなこと絶対に無い!僕はいつも紅蓮に助けられている」
可愛い弟がそんなことを言うので、つい条件反射に答えてしまった。
「そうか、俺もいつも白蓮に助けられている。」
顔こそ見えないが、声から機嫌が良くなったと分かった。
「…今の俺は昔とは違う。白蓮を助けられる力をつけたんだ!白蓮の隣に立てるようになったんだ!
だから、今度は俺が白蓮を助ける番だ。白蓮、こんな俺を信じてくれないか?」
確かに紅蓮は強くなった。僕よりも強くなった。
気付いていたのに、分かってはいなかった。
紅蓮はとっくに立派な人に成長していたんだ。
自らの翼で大空を旅立っていたんだ。
(……僕は兄失格だな。
こんなに頑張っている弟を信じていなかったなんて。
………やっぱり紅蓮はすごい。ウジウジ悩んでいた自分がバカらしいや)
「……分かった。紅蓮を信じるよ。
だから今度は、一人じゃなくて二人で頑張ろう!」
『また昔みたいに…一緒に頑張らないか?』
あの日、この言葉は僕の心を深く抉った。
だけど、今は…
「ああ!!勿論だ」
紅蓮は僕から離れると手を差し出した。
僕は自身の手を重ねて、強く握手した。
その瞬間また僕の目から涙が流れたので、それを隠すように苦笑した。
そろそろ桜を喋らしてあげたい…です。




