56弟と妹3
視点は桜、紅蓮、第三者です。
紅蓮は足が速い。だから追いかけている私の体力は、ほとんど消費されていた。
「紅蓮!! はぁはぁ…ちょっと待ってよ…」
試しに声をかけてみると、意外にも紅蓮は立ち止まった。
「………」
私が自分の呼吸を整えている間、紅蓮はこちらを振り向かずただ黙っていた。
「どうして、……立ち去ったの?」
白蓮のことについて聞きたかったが、核心に触れそうで思わず別のことを聞いてしまった。
「別に…何でもねーよ。ただ、走りたかっただけだ」
「ふーーん」
「な、なんだよ?言いたいことがあるなら言えば良いさ!」
紅蓮の子供っぽい態度にほだされたせいか、私の口からするりと言葉が出てきた。
「…………羨ましいなって思っただけ」
「は!?」
紅蓮は勢いよくこちらに振り向いた。
口に出して初めて、自分の感情がよく分かった。
この二人の様子を見て心配した気持ちはあった。
事情は知らないけど、紅蓮の態度に思う所があったし、白蓮と目が合って悲しくも感じた。
でも、一番私の心を占めた感情は………。
「一緒に今を生きている双子に嫉妬…していたみたい。」
「(一緒に生きているのが羨ましい?いったいどういうことなんだ?)
…このタイミングで言うことか?」
「うん。……私ね、双子の姉がいたんだ。とても優しくて自慢のお姉ちゃん。」
「桜にも兄弟がいたんだ」
「…でも殺されたの、黒ユリに。」
「……悪い。あまり話したくないだろう?」
「ふふふ、紅蓮が謝ることはないでしょ?それに、同じ双子の年下に聞いて欲しいの。」
「…分かった。」
紅蓮と私は近くにあったベンチに腰を下ろした。ここは学園の奥の方にある庭で、周りは花畑が広がっていて、木が何本か立っている。人が来てもこちらの様子は分かりにくいし、昼食の時間なので人もそうそう来ない。
花と木と空だけが私たちの話を聞いていた。
「姉…椿は両親と共にアリウムによって殺された、骨一つ遺さないで…」
「………」
「椿は私を最初に逃がして、一人アリウムに立ち向かった。……私は役に立たない約束をして、ただ見送るしかできなかった。」
「約束?」
「刀を交換したんだ。そして、次に会うときに返してもらうっていう約束……叶いそうにないけどね。」
「そうか…」
「なぜ姉という生き物は妹を守るのだろうね?」
「いや、世の中には弟と両親を裏切る兄がいるから、結局はその人の性格が関係しているのだと思うよ。」
「…でも!貴方のお兄さんだって「両親をその手で殺したんだぞ!!」 っ…」
紅蓮はベンチから立ち上がり、私を見下ろした。
「ある日俺が家に帰ったら、そこには返り血を全身に浴びた白蓮と、血まみれの両親がいた。
お前はその状況を見て、まだ兄が弟を守る生き物だと言えるのか!!」
「(血まみれの白蓮と両親……状況的に白蓮が殺したとしか見えない。でも、そんな人があんな悲しそうな目を出来るのだろうか…いや絶対出来ない!)
言えるよ。私には白蓮のあの目が嘘のようには見えない。」
「っ…あいつはそんな演技、朝飯前にできる!!
知ってるか?あいつは血まみれの親の前で『案外簡単に人って殺せるんだね』って嗤って言ったんだ!!」
「それは……」
「俺だって最初は信じたくなかった。でもクソ兄貴の態度から『それが真実だ』って気付かされた。納得せざるおえなかったんだよ!!」
紅蓮の顔には怒りがあったが、私にはなぜか泣きそうな顔にも見えて、白蓮の顔と重なった。
(なんで二人ともこんなにも悲しそうな顔をするの?
まるでお互いがお互いを刺しているみたい…
せっかく一緒に生きているのに、こんなのって……)
「っ……でも、紅蓮だって本当は違うって思っていない?それから白蓮と一度でも向き合ったことはある?…白蓮は紅蓮のことを大切に思っている!私には分かるよ。だから、だから、……」
事情は知らないのに、胸がひどく痛んだ。まるで刀が深く突き刺しているようなのに、実際にそんなものは存在しないので、この痛みから逃れる術が見つからない。
(あぁ、グルグルと考えてたら…)
「ちょ!?」
◇◇◇
桜と言い合いになっていたら、まさか泣かれるとは思わなかった。
(こ、こういう時は……あ、ハンカチ!…無いか…)
ポケットには残念ながらハンカチは無かったので、俺は静かに涙を流す桜に一歩近づいた。
「ご、ごめん。泣くつもりはなかったのに…」
桜は右手で乱暴に目を擦った。
「おいおい、そんなに強く擦ったら目が赤くなっちゃうだろ?」
俺は桜の手首を掴み、もう一つの手で優しく涙を掬った。
「………」
「ん?どうした?」
「い、いえ!何でもないよ…」
桜がこちらをじっと見ていたので話しかけたが、どうやら違ったようだ。
「保険室からタオルを借りて来るよ。それで冷やせば午後には収まると思う。」
俺は早口で言いその場から離れようとすると、手首を掴まれた。後ろに振り向くと目が少し赤い桜が申し訳なさそうに立っていた。
「あ、紅蓮!…その……ありがとう」
(…………)
桜は少し俯いてこちらを見上げていた。いわゆる、上目遣いだ。そして、先程の涙で瞳はキラキラしていて、少し赤くなっているので、…庇護欲がそそられた。_つまり抱き着きたいってことだよ!!
正直に言おう。
とてもかわいかった。
「あ、あぁ。こっちも言い過ぎて悪かったな……
その、もう一度く…兄貴と向き合ってみるよ…」
「ほ、本当?やったー」
俺がそう言うと、桜は花が咲いたように笑った。
転校してきたときも笑ってくれたが、それよりも何倍も目に毒だった。
(こんな笑顔を見せてくれるということは、少しは距離を縮められたのかな?……。いや、それよりも)
笑顔とは、素晴らしいものだが、恐ろしいものでもあった。
「じ、じゃあ急いで行ってくるよ」
桜の笑顔に、しばらく俺の心臓の音がうるさかったのは言うまでもなかった。
バサバサバサ……
鳥が飛び去ったが、俺は気にせずに保険室まで走った。
◇◇◇
食堂
バサバサバサ…
「あ、はーちゃんお帰り!」
『桜さんと紅蓮さんは~~』
「なるほど……ありがとう、はーちゃん!」
「アヤ、あなた意外と心配性よね?(で、二人の様子はどうだった?)」
「え~違うよ~。それは柊のことでしょ?(ひみつ!)」
「あの、アヤも心配性だと思います。だって、桜の様子を見るために鳥さんにお願いしたのですから…」
「そうだね、君たち全員が心配性だよ。桜が立ち去った後から明らかに空気が重くなったし…(なぜかアヤが楽しそうに見える)」
結局は全員心配性だった。
次も予告してから投稿します!




