48黒ユリ
視点は理事長さんです。
「走れ!!!!」
俺はリンク上にいた生徒たちに向かって叫んだ。だが、一人の生徒、桜君が黒いものに近付いた。
「ちっ……あいつ何する気だ?」
(こんな緊急事態に何をする気か知らないが、理事長としてほっとく訳にはいかない)
生徒たちや観客の避難は終わっていたので、俺はリンクの中心部に向かって走り出した。念のため、眼鏡を外して…
「桜のバカ~」「何をしているのかしら…」
「な!彩芽君に柊君まで……」
どうやら桜君を心配して、この二人も俺に続いて走りだした。
たどり着くと、禍々しい黒いものは突然大きくなった……ちょうど人が通れるぐらいの大きさ。そして、そこから黒色のユリを身に着ける奴らが次々と現れた。
「おっ邪魔しまーーす!」
「うるさい、バカ。黙って歩くこともできない無能なのかしら?あ、バカは無能だったわね、失礼したわ。」
「なんだとぉ!!!」
「きみたち、静かにしなさい。」
「………」
初めに出てきた黒ユリがデザインされた帽子をかぶる大柄な男性、次に出てきた黒ユリの髪飾りをつけた女性、襟に黒ユリのピンをつけた紳士的な雰囲気の男性、黒ユリが刺繍されたフードを深く被る少女。そして、
「良いじゃないか?元気があって。」
最後に出てきた男性、黒ユリテトラのボス。
この黒いものはこいつの魔法の一つで、過去に行ったことがある所に一定時間ゲートをつなぐことができる。(しかし、この魔法は一ヶ月に一回しか使えない)
俺は、とりあえず代表として挨拶をした。
「…黒ユリテトラとボスが白ユリに何の用だ?」
「そんな顔をするな、ジニア。久しぶりの親友との再会なんだぞ。」
「……昔の話だ」
俺は相手の目的を探るためアリウムの目を見たが、何も分からなかった。以前は出来たが、ある日を境にこいつの心をよむことが出来なくなったのだ。
「くっくっく、冗談だ。…それより今日は挨拶をしに来た」
「そうそう。強い奴がいるって聞いてさ~~どんな奴か確かめに来たんだ!」
「バカは黙ってなさい。今アリウム様がお話しになっているのよ。」
「なんだと~藤」
「……」
「はぁ。二人とも静かに。
実は私たちの部下がここの生徒に倒されたらしく、その生徒を見に来たんです。確か名前は、『ひいらぎ』という生徒です。」
「ひいらぎ?聞いたことのない名前だな。」
俺はしらばっくれたが、相手はそれで騙されることはなかった。
「今、反応した生徒が二人いました。あの二人のどちらかか、その知り合いですかね?」
…蒼星の目線は俺の後ろの方を見ていた。振り返ると、白ユリ団の後ろに、少し震えている柊君と、彩芽君が立っていた。
「さぁな?」
無駄だと思うが、俺は認めない姿勢を貫くことにした。
「なるほど、大体分かった。……お前ら帰るぞ!」
「待て!!」「そのまま逃がすと思うか!」「黒ユリめ!」
アリウムが黒いものに振り返ったとき、白ユリ団に入って日の浅い方の団員が、黒ユリに向けて攻撃をした。
「全員何もするな!!!」
「っ…」「くそ…」「いっ!」「くっ」「ちっ…」
俺の声はむなしく、団員の何人かは怪我を負った。
「今回はそちらが先に手を出したので、あしからず。」「よわよわ!」「ふん、こんなものなのね。」「…」
「おい!大丈夫か?」
ほとんどの団員は平気そうだが、一人だけ重傷だった。駆け寄ろうとしたら、俺の目に桜色の髪が入り込んだ。
シュッ……ぽた、ぽた、
そいつは手首辺りを斬って、自らの血でその団員の傷をすぐに治した。
「さ、桜、、何してるの、、?」
彩芽君は消え入りそうな声でつぶやいた。
「くくく、くはははあははは。くははあはははははははあははははははははは!!!」
アリウムの声が空気を震わせ、俺たちを震わせた。
「久しぶりだな、桜。お前とまた会うのが楽しみで仕方がなかった」
「………」
桜君は俯いていたため、様子を探ることも魔法を使うことも出来なかった。
「はぁ…お前もつれない奴だ。家族の方がよっぽど面白かったぞ?特に……姉だな。お前を守ろうと死にかけの両親を見捨てたり、最後まで必死に足掻いたりしていた姿は、滑稽だったな。お前にも見せてやりたかった。」
「っ貴様ぁぁぁ~~!!!!!!!!!」
(まずい…)
顔を上げた桜君はどうみても我を忘れている様子で、刀を抜いていた。
カキンッ
桜君はそのまま攻撃を仕掛けたが、その刀はアリウムには届かなかった。フードをかぶった少女の短刀によって止められたからだ。結構な速さだったのだが、その少女は軽々しく受け止めたのだった。
(少女であろうとやはり黒ユリテトラは強いということか…)
そのまま続くかと思えば、勝負は意外と早くついた。
少女は力で押し通そうとする桜君の隙を逃さず、足をかけて態勢を崩させた。そしてそのまま腹に向けて回し蹴りをし、ちょうど俺がいるところまで桜君をつき飛ばした。
「「「桜(君)!!」」」
「シオンは過保護だな」
「……役割を…果たしただけ、ボス」
シオンと呼ばれた少女はアリウムの前にたち、こちらを警戒していた。
「……許さない、許さない、許さない、許さない、アリウム許さない、絶対許さない」
「っ落ち着け!桜君」
「どうした?来ないのか?俺が憎くないのか?…また大切な奴を亡くしたいか?」
「殺す!!!!!!」
桜君は立ち上がりまた攻撃しそうな勢いだった。俺だけでは止めることができないと判断し、一人の白ユリ団員を呼んだ。
「貴様を、絶対に、ころ……」
ガク…
「……よし深い眠りに入っているな。よくやった安須汰」
「いえ、これが俺の魔法なので。」
安須汰の固有魔法は対象を強制的に眠らせることができる。(しかし、対象との距離が1.5m以内ではないと効かない場合もある。)
「あー、せっかく良いところだったのだが…」
「…俺の生徒で遊ばないでくれ。」
「ボス、そろそろ時間ですよ。」
「そうだな」
「じゃあ、白ユリの皆さん、まったね~~」「次の機会を楽しみにしていますわ」「…」
アリウムを先頭に黒ユリテトラはゲートに入って行った。
「蒼星」
俺は相手の真意が知りたくて、呼びかけた。しかし、
「…」
振り返らず、黒いゲートに吸い込まれていった。
 ̄ ̄ ̄
 ̄
「アリウム、その卵巻きくれ」
「嫌だ。絶対にジニアにやらん!」
そう言ってアリウムは鼻をならした。
「隙あり!……やっぱりアリウムの卵巻きは美味いな~」
「あっ……お前な~!」
卵巻きを口に入れると、アリウムは俺の胸ぐらを掴んできた。
「その辺にしとけよ、二人とも。
アリウム、俺の肉団子あげるから今日の所は諦めろ。
そしてジニア、毎回思うがほどほどにしとけよ?」
「肉団子!!」
呆れ顔で蒼星の言った言葉にアリウムの目はキラキラに輝いた。
「いいじゃないか、面白いんだし~」
「今日の所は肉団子に免じて諦めてやる」
「あ、俺ではなくて、肉団子か…」
「相変わらず、チョロいな。そんなんだから、大型犬って女子から言われているんだぞ?」
「誰が犬だ!…そっちこそドSって呼ばれているくせに!」
「まぁ事実だし」
「おお~ここまでくると清々しいな」
「…そういう所は嫌いじゃない」
アリウムは小さい声でそう言った。
「「「ぷっ…あはははは」」」
それから三人で肩を揺らして大声を上げた。
俺たち三人はこんな馬鹿ばっかりしながら、日々を過ごして、温かくて明るい何かを心に宿していた。。
………いつから、こんなことになってしまったのだろうか。
かつての親友二人が敵になるなんて、誰が思っていただろうか。
そして…………前理事長を殺すなんて、誰が想像できただろうか。
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「アリウム、蒼星。………教えてくれ、」
(今心のなかで何を考えている?)
あと数話でこの章を終える予定です。
次も一週間以内に頑張ります。




