第八話
「はあ~、やっと帰ってこれた。豚坊主との決闘に組合長の説教、おまけに新種のゴーレムとの遭遇。その後の報告も含めて、まさか昨日よりも疲れるとはなぁ」
愚痴りながらも、俺は愛しい我が家の扉を開ける。
中にはもう灯りが灯っていた。魔力によって灯る、魔力灯だ。
その優しい光に照らされて、天使が俺を出迎えた。
「おかえりなさい、マサキさん!」
「ああ、ただいま。ネア……あ?」
「おかえり~。邪魔してるわよ、マサキ」
高揚していた気分が一気に地に落ちる。
ネアの向こうに魔女が見えた。おかしいな、俺の目が腐っているのか?
「何よ、そんな八百屋で買った白菜に虫が付いていた時みたいな顔をして」
「どんな顔だ、分かり辛い。どうした、俺に用でもあるのか?」
「いーえ。ただ、ネアちゃんの様子を見に来ただけよ」
彼女、レノアの言葉を聞いた瞬間、俺はネアを抱き寄せた。
「わわっ、マ、マサキさん!?」
「気を付けろネア。あいつは魔女だ、見た目通り悪質な魔女だ。もう金輪際関わってはいけない」
「あら酷い。私の何処か悪質なのかしら?」
決まってる、その性癖だ。幼女を舐め尽そうとする、頭の腐った変態性だ。
というかそもそも。
「お前の守備範囲からネアは外れたんじゃなかったのか」
「ん~。そうと言えばそうなんだけど。最近ちょっと、少女も良いかなって思い始めたのよねぇ」
更に強くネアを抱きしめる。
「マ、マサキさん?」
「ネア、俺の居ない間にあの糞ビッチに変な事されなかったか?」
「ビ、ビッチ? ……ええと、特に何も。あ、でも、料理を少し教えてもらいました。今度振舞いますねっ」
屈託の無い笑顔で言う彼女に、荒んだ心が癒される。
同時に堅く決意した。あの魔女の毒牙に掛けてなるものか、と。
強い意志と共にレノアを睨む。が、彼女は何処吹く風とばかりに、暢気に欠伸するばかり。
「ちょっと眠くなってきたわぁ。泊まっても良い?」
「駄目に決まってるだろう。というか、待ってる子達が居るんじゃないのか?」
「ふふ、冗談よ、冗談。それじゃあそろそろ帰りましょうか。愛しい我が子達の下へ」
一応言っておくが、あいつの言う『我が子』とは実の子供の事では無い。彼女が住居に囲っている愛人達の事だ。
当然、全て幼女である。レノアが冒険者になった理由がその愛人達を養う為だというのだから、本当に筋金入りの変態だ。
「じゃあ、またね~」
「また会うのは構わんが、家には来るな。ネアにも近づくな。絶対だぞ」
返答は曖昧な笑みだった。
絶対にまた来るな、あいつ。何かトラップでも仕掛けておこうか。
少々物騒な方向に思考が飛ぶ。と、そこで直下からの視線に気付いた。
「あの……」
「ああ、悪いネア。抱きしめたままだったな」
「いえ! その、別に嫌ではなかったですし。むしろもっと……」
後半は小さな小さな呟きだった。
が、当然聞こえている。流石にこの距離で分からない程耳が遠くは無い。
顔を真っ赤に染めて恥ずかしがるネアに、思わずもっと抱きしめたくなった。けれど、強い理性で自重する。此処で暴走してはあの魔女と同じだ。
俯く彼女を、そっと放す。
「今日は色々あってお腹が減ったんだ。そろそろ夕食を用意してくれるか?」
「あ、はいっ。腕によりを掛けて、美味しい食事を作りますね!」
満面の笑みで答えてくれる少女に、敬意を。
やはり美少女は尊い。今その原理を確信した。
台所に消えていく彼女を見送り、テーブルに着く……前に、手洗いうがいを済ませ、改めて席に着く。
待つこと数十分。今日の戦いを振り返っていた俺の鼻を、香しい匂いがつつく。
それから間も無く。テーブルの上は、完成した食事で満たされていた。
「今日は何時もより豪華だな。何かあったっけ?」
「あ、えと。実は、安売りしていたからって買いすぎてしまって……」
えへへ、と苦笑する彼女に、なる程と納得。
ネアは、可愛いだけでなく家政婦としても非常に優れていた。炊事洗濯は勿論、家計のやりくりも上手にこなす。
俺の生活は彼女なくして回らない、と言っても過言では無い。本当に良い子に育ってくれたものだ。
「将来が楽しみだな~」
「? 何か言いましたか、マサキさん?」
「いや。ただ、ネアの料理は美味しいなって」
そう告げれば、ネアは嬉しそうに微笑んだ。
嘘では無い。実際、ネアの料理は大変に美味である。今口に運んだ野菜のスープも、しっかりと俺好みの味付けになっている。
料理一つ一つをしっかりと味わい平らげる。結構な量があったはずだが、気が付いた時には全て腹の中に消え去っていた。
食後のお茶を飲み、一息。ほっこりとしながら、俺は今日、報告の際に組合長から聞いた話に思いを馳せる。
(国の内部で何やらきな臭い事が起こっている、か。ただでさえあのゴーレムやら未知の兵器やら、不穏な事態になっているっていうのに。何時だって権力者達の争いは面倒臭いな)
むしろ、不穏な事態で国が揺れ始めているからこそ、余計な動きをし始めたのかもしれない。
俺にはあまり関係無い話ではあるだろうが、これでも名の知れた冒険者だ。それなりに権力者との付き合いもある。もしかしたら助力を頼まれるかもしれない。
(まあ、そうなっても俺に出来るのは、戦うことだけなんだが……)
ネアも居る。出来る限り巻き込まれない方が得策だろう。
ただ気になるのは、組合長が最後に零したあの話。
――国の大貴族、マスマン侯爵家が未知の兵器に並々ならぬ感心を抱いている。
それもただ話に聞いて興味を持ったのではなく、何か知っている素振りだったという。あの未知の兵器についても、ゴーレムについても。
「てっきり、何処かの偏屈な研究者が開発したものかと思っていたが……まさか、侯爵家が関与しているのか?」
「? どうかしましたか、マサキさん?」
つい、口に出していた。反応したネアに、何でもないと軽く返す。
まあ良い。上の事は上の人間に任せよう。どうせ俺個人がどうこう出来るものでもない、侯爵家なんて。
面倒そうな問題を棚上げしながら、俺はとりあえず風呂に入る準備をし始めた。
~~~~~~
次の日の朝。いつも通り、冒険者組合に向かおうとした時の事だ。
家の扉を開けた俺の耳に、ばたばたと騒がしい音が聞こえてくる。思わず脚を止め振り返れば、慌しく部屋から出てくるネアの姿が目に入った。
彼女は俺を見つけた瞬間小走りに駆け寄ると、寝癖も直さず捲くし立てる。
「た、大変ですマサキさん!」
「どうしたんだネア、そんなに慌てて。少し落ち着いて……」
「マ、マサキさんが何処にも居ないんです!」
真剣な表情だった。本気で焦っている顔だった。
そこで気付く。ああ、彼女は寝ぼけているんだな、と。
珍しく朝、起こしにこないのでこっそりと部屋を覗いたのだが、あまりに気持ち良さそうに寝ているものでそのまま起こさずにおいたのだ。
朝食は組合に向かう途中で適当に買えば良い。そう思ったのだが、どうやら彼女は俺が失踪したとでも勘違いしたらしい。
それでこうして慌ててくれるのは、慕われているという事なのだろうが……。
「なあネア」
「な、何ですかマサキさん! 急いで探さないと……」
「今目の前に居るのは、誰だ?」
「え? それは勿論マサキさんで……あれ?」
ぽかん、と彼女が口を開ける。
そうして数秒固まって、
「……~~っ!!」
顔を真っ赤に染めて、ダッシュで部屋に戻って行った。
ばたん、と勢い良く扉が閉まる。俺は頬を一度掻いた後、家中に聞こえる声で呼びかける。
「おーい、ネア。俺は組合に行ってくるから、いつも通り家事、よろしくな~」
返事は返って来ない。が、多分聞こえてはいるだろう。
引きこもってしまった少女に苦笑して、俺は静かに家を出た。
~~~~~~
そいつと出会ったのは、俺が朝食の買い食いを終え、冒険者組合に向かっている途中の事だった。
「あれ? マサキさんじゃないですか。お久しぶりです」
「……ああ、久しぶりだな、ソーマ」
前からやって来た人の一団、その中心に居る少年に軽く手を挙げ応える。
彼の名はソーマ・クベイン。まだ年は十一と幼いが、商売士として既に大きな財貨を貯えている立派な商人だ。
さらりと流れるような薄青色の髪を持ち、金色の瞳が輝き光る。身長は年から見ても低い方だし、体格も細くいかにも文人といった風情だが、何とこれでもデッドオーバーの称号持ちである。
間違いなく、歴代最年少の称号持ちだ。おまけに属種が二つとも非戦闘系という、どうやってデッドラインを倒したんだよ、と思うような少年だった。
そんなソーマとの付き合いはまだ浅いが、正直俺は彼とあまり会いたくない。
何故かって? 決まってる。
「あー、マサキさんだー。こんにちはー」
「「「こんにちはー」」」
「ああ……どうも、こんにちは」
彼が常に、取り巻きに女性を連れているからである。
今日は四人。これでもまだ少ない方だ。多い時には十人を超える事さえあるのだから。
まあ、一応彼女達の想いも理解出来なくは無い。何せソーマはまだ幼いながらに整った容姿を持ち、財もあり、名誉もある。
これ以上の優良物件などそうそう見つかりはしないだろう。おまけに、性格も穏やかで人当たりが良く、完璧である。少なくとも表面状は。
そしてそんなソーマの取り巻き達は、何時も無駄に騒がしく馴れ馴れしいのだ。しかも誰憚らずソーマに引っ付きイチャイチャしだすのだから手に負えない。
一応、ソーマ自身は良識ある人間なのだが、取り巻きも含め疲れるのであまり積極的に関わりたくないのが本音であった。
まあ、出会ってしまった以上は仕方が無い。無視するのもなんだろうと、俺は少しだけ話に付き合う事にした。
女性の輪から抜け出したソーマが、嬉しそうに両手を合わせる。
「丁度良かった。マサキさんに、少しお話したい事があったんです」
「俺に?」
何だろう、心当たりは特に無い。依頼したい事でもあるのだろうか?
そう疑問に思う俺に顔を近づけ、ソーマはそっと囁くように、
「最近この国の近辺で見るようになった、未知の兵器群に関する事です」
「――聞かせてくれ。出来れば人の少ない所でな」
真剣な顔でそう告げれば、ソーマは首を横に振る。
「いえ、そこまでする話ではありません。ただ少し、耳に入れておきたいだけで」
「……一応言っておくが、何か情報を掴んでいるのなら国の人間か組合長あたりに報告するのが筋だぞ?」
彼は優秀な商人として広い情報網を持っている。
だから例の兵器に関して知っていても驚きはすれど不思議では無いし、まだ不確かな宙を漂う情報を掴んでいてもおかしくはなかった。
俺の忠告に、ソーマはあははと苦笑する。
「心配いらないですよ。きちんと情報は伝えています。売却という形ですが」
「商人魂熱い事で」
「そこで『けち』とか『がめつい』とか言わないマサキさんが好きですよ。それでですね、どうにも相当に大きな事態になりそうなので。頼れるデッドオーバーの皆さんには、情報を流す事にしたんです」
「……タダなんだろうな?」
これで法外な情報料でもふっかけられたら堪らない。
最も、ソーマは非常に優良な商人である。そういった信頼を失う行為は極力避けるはずだが、念の為だ。
「大丈夫ですよ。僕としてもこの国が危機に陥る事は好ましくないので。僕が扱うのは主に魔物関係の素材や希少鉱石、戦争になんてなれば調達する暇が無くなってしまいますから」
安定が一番なんですよ、と付け足すソーマ。
それは理解したが、ちょっと待て。今こいつ、聞き捨てならない事を言わなかったか?
「どういうことだ。この国の危機? それに戦争だと? それ程なのか、あの兵器は」
「やだなぁ、マサキさん。マサキさんだってその可能性には気付いていたでしょう?」
言われ、言葉に詰まる。
考えなかった訳では無い。あの兵器が何処かの国の実験兵器で、その成果を以ってこの国に攻め込もうとしているのではないか、と。
だが実際他者に言われると衝撃が違う。ましてそれが確定事項のように言われれば尚更だ。
「まだ確定の情報ではありませんが。あの兵器を開発したのは、遥か高き技術を持った未知の国家である可能性が高いようです」
「未知の国家だと。そんなもの、有り得るのか?」
この世界は既に、端から端まで地図に記されている。
一応未踏の場所もあるだろうが、それも『国』が存在できる程のものでは無い。ましてあんなものを開発出来る技術を持った国家なら尚の事だ。
(まさか、宇宙から来たなんて言わないだろうな)
まだ誰も行った事の無い場所、宇宙。
そこからというのなら、有り得なくも……いや、やっぱり無いな。無い無い、信じられない。
それならまだ、孤高の天才発明家が国家転覆を企てた、とかの方が信憑性がある。あるいは近隣国家の陰謀論とか。
いぶかしむ俺に、ソーマは小さく苦笑する。
「マサキさんの考えている事、何となく分かりますよ。僕だって最初は信じられませんでした。ですが、情報を集めれば集めるほど、その可能性が高くなっていくんです」
「……一体何処に存在するってんだ、その国家は」
「上、ですよ」
ぴん、と人差し指を立てるソーマに、上? と聞き返す。
まさか本当に宇宙からの侵略者だ、何て言うんじゃないだろうな。笑い話にもならんぞ、そんなもん。
露骨に不信感を示す俺に、ソーマは一瞬で真剣な顔になって。
「上層世界。そこからの侵略者です」
「――冗談だろ?」
上層世界。その言葉を、俺は知っていた。
といっても詳しいという訳じゃない。以前読んだ書物にそんな世迷言が書いてあった、それだけの話だ。
曰く、この世界は単体で成り立っているものでは無い。幾つもの世界が重なったお皿のように連なり、出来上がっているのだと。
それぞれの世界は行き来こそ出来ないが、互いに支えあう事でその存在を維持しているのだと。そんな妄言だ。
上層世界とはその中で、『自分達の世界よりも上に位置する世界』を指す言葉である。
はっきり言うが、到底信じられるものではなかった。まず世界が幾つもある、これが信じられない。そしてまだ宇宙の事さえ録に分かっていないというのに、その更に外について言及された所で、誰も信じられる訳が無い。
実際、件の本も本屋の奥でずっと埃を被っていたような代物だ。上層世界について知っているものなど、王都中を探しても十人と居ないだろう。
そんな、数少ない人間の一人であるソーマは、俺の反応を見て俄かに顔色を明るくする。
「良かった、知っていたんですね。これで説明する手間は省けそうです」
「俺もうろ覚えだから、出来れば説明して欲しい所だが。まあ良い、とにかくだ。その上層世界の国から侵略者が来ていて、その兵器があのゴーレム共だと? ――おいおい、俺は子供の妄言に付き合っている暇はないんだぞ」
つい言葉がきつくなってしまったが仕方が無い。
こんな信じようの無い嘘を言われれば、大半の人間はこうなる。むしろ怒らなかっただけ感謝して欲しい位だ。
だが呆れる此方に対し、ソーマはあくまでも真剣だった。
「嘘ではありません。まだ、真実だと断言出来る段階でもありませんけれど。少なくとも僕の得た情報では、その可能性が一番高い、というのが現状です」
「本気で言っているのか?」
思わず正気を疑えば、ソーマは迷い無く頷き返す。
「本気です。……相手の名は『ニホンシンコク』。もしかしたらもう、かなり近くまで入り込んでいるかも……」
脅すように言うソーマに、俺は小さく息を呑んだ。
唇を締め、唸る。こいつが此処まで言うということは、どうにも嘘と決めてかかるのはまずそうだ。
(可能性の一つとしては、考えておくか)
最も、考えた所で何が出来る訳でも無い。
そんな前代未聞の場所から来る相手に、一体何をすれば良いというのか。
「ああ、そんなに悩まないで下さい。僕がこの情報を伝えたのはあくまで、貴方や他のデッドオーバーの皆さんに覚悟を抱いておいて欲しかった、というだけですから。それ程の相手かもしれない、という覚悟を」
「それだけの為に貴重な情報を渡すのか?」
「渡すんです。……マサキさんは自分を過小評価しすぎです。もし想定通りの相手なら、もしそんな国と戦争になったのなら。その時戦力の中核を成し、趨勢を決定付けるのは、恐らく貴方達デッドオーバー。その貴方達が事前に備え、覚悟を持っているかどうかは、勝敗を大きく左右するほどの意味があるんですよ」
真面目に語るソーマに、少々面食らう。
というかだ。
「お前もデッドオーバーだろうが。何自分だけ外そうとしてやがる」
「あはは、それじゃあ商談があるので、僕はこの辺で。また何か分かったらお伝えしますね」
胡散臭い笑みを浮かべたソーマが、早足で女性達の輪に戻っていく。
引き止める暇も無かった。そのまま「また会いましょう~」と笑顔で手を振るあいつに、これ以上は無駄か、と判断。
(はぁ。どうにも話が大きくなりすぎて、俺の頭じゃ破裂しそうだ)
とにかく今は、日銭を稼ぐ事を優先しよう。
ソーマに背を向け、俺は一路冒険者組合へと向かったのだった。
~~~~~~
背を向け、立ち去っていくマサキを見送り、ソーマ・クベインはニヤリと笑った。
その表情は、先程までの朗らかで純粋な少年のものでは無い。もっとあくどい、悪徳商人が浮かべるようなものだ。
つり上がる口元を隠すように手をあて、呟く。
「ふんっ、脳筋の魔法剣士が。天才である僕の安寧の為、精々頑張って戦ってくれ」
ソーマという少年は、清廉潔白でも何でも無い。むしろその心の内は、黒く黒く染まっているのである。
「くくく、後は最近デッドオーバーになったという肉ダルマにも話を通して……それから、王都から逃げる準備もしておかなくちゃなぁ……「さっきから何言ってるんですかー、ソーマ」っ!?」
突然顔を覗き込まれ、ソーマは仰け反った。
目の前には不思議そうな顔をした女性が一人。慌てて周囲を見渡せば、他の三人も同じ様な顔で己を見ている。
即座に顔を純情な少年のものに戻し、場を取り繕う。
「いえ、何でもありませんよ皆さん。さあ、張り切って商談に行きましょう!」
ふんふん、と下手な鼻歌を歌いながら歩き出すソーマ。
そんな彼に女性陣は顔を見合わせると、呟いた。
「あれでばれてないと思ってるんだから、可愛いよねー」
「本当本当。ソーマの本性なんて、皆知ってるのにねー」
ソーマ・クベイン、十一歳。考えている事を口に出してしまう癖が、致命的な弱点である。
用語解説のコーナー
『ソーマ・クベイン』
少年。十一歳。
王都を中心に活動する、若き商人。歴代最年少でデッドオーバーの称号を獲得した鬼才の持ち主でもある。
さらりと流れるような薄青色の頭髪と、美しく輝く金色の瞳を持ち、低めの身長・細い体格と相まって非常に母性を刺激する中性的な容姿である。また商人としての成功のおかげで財もあり、周りには常に女性の取り巻きを連れている。
十五が成人のこの世界では彼はまだ子供のはずなのだが、デッドオーバーという称号のおかげで対等以上の商売が出来ており、毎日うはうは。主に扱っているのは希少鉱石だが、その他の物資に関してもある程度は扱っている様子。
表面状は穏やかで優しい『良い子ちゃん』なのだが、本性は割りと腹黒い。自身を天才と称し、他人を見下すなど、特に自尊心が高い傾向にある。
なお、本人は隠しているつもりだが、周りには結構バレている。でも本人はバレてないつもり。そんな彼を皆、温かく見守ってやってくれ!
『上層世界』
所謂異世界。並行世界とはまた違う、根本から異なる世界の一種。
作中で説明されたように、マサキ達の居る世界群は、多数の世界がお皿が重なるように連なった構造になっており、その中でも自身の世界よりも上に位置する世界をこう呼ぶ。
ただし、この論は一般には知られておらず、受け入れられていない。そもそも他の世界の存在自体が眉唾ものとされているのが現状である。
捕捉しておくと、あくまでも世界の一が上か下かというだけで、上位・下位という話では無い。その為、下層の世界の方が技術的・文明的・戦力的に優れている、という場合も有り得る。