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第二話

 洞窟の中は陽の光の入らない真っ暗な空間だった。

 魔法を使い、自分の周りに光源用の光球を二つ程滞空させ視界を得る。

 これでも俺は魔法剣士の為、剣だけではなく魔法もそれなりには扱えるのだ。


 ――俺は世の中でも使えないと言われる部類の属種、『魔法剣士』をメインとサブに据えている。


 この世界では、誰もが十歳の誕生日を迎えると共に『属種』と呼ばれる力を選ぶ。それも一つではない、『メイン』と『サブ』の二つだ。


 例を挙げよう。剣を使い、肉弾戦で戦いたい男が居たとする。

 その場合選ばれる候補は、恐らく『剣士』や『騎士』だ。多少捻って他の武器の扱いにも長ける『戦士』や、守りに特化した『重騎士』を選ぶ者も居るかもしれない。

 逆に遠距離戦で戦いたい場合には、『魔法士』や『弓士』といった属種が選ばれるだろう。或いは此方も捻って、『呪術士』や『召喚士』何てものを選ぶ者も居る。

 そうして選んだ属種によって、個々人の成長傾向や、育ち易い技能の種類が変わるのだ。


 そんな中で俺は、世にも珍しい属種の組み合わせを選んでいた。

 『魔法剣士』といえば、剣士としても魔法士としても中途半端、と揶揄される属種だ。

 選ぶのは回復系などの非・戦闘系の属種を持つ者が、護身用にサブに持っておく、といった程度の場合である。それも選ばれる事はあまりない。

 当然だろう、ただでさえメインよりも効果の落ちるサブに『魔法剣士』を据えた所で、器用貧乏になるだけなのだから。

 だったら、戦士なり剣士なりを選んだ方が身を守るにはよっぽど良い。魔法士を選択して皆のサポートに回るのも良いだろう。


 とにかく、そんな風に不遇な属種なのだ、『魔法剣士』は。しかもそんなものを、俺は二つしかない枠の両方に嵌め込んでいる。

 一応属種は後から変える事も出来るが、手間や金が掛かる上に一からやり直しになる為、一般的には推奨されていない。というか俺自身、今の属種を変えるつもりはさらさらない。

 魔法剣士の最大の特徴であり唯一と言っても過言では無い武器である『魔法剣』。それが好きで、極めたいからこそ、俺はこの組み合わせを選んでいるのだ。

 所謂、譲れない拘りというやつだった。そしてそんな馬鹿だからこそ、此処まで強く成れたと言える。


「馬鹿の一念岩をも通す、か。誰の言葉か知らんが良く言ったものだ」


 慎重に奥を窺いながら、俺は洞窟の探索を続けた。

 以前にも入った事があるが、あまり深いものではなかったはず。そうせずに最奥まで到達出来る事だろう。

 と、壁に着いていた手に、ぬるりと嫌な感触が伝わってくる。


「これは……血か。やはり、既に犠牲者は出ていたのか?」


 と、そこで気付いた。この血、まだ乾ききっていない?


「幾ら日の当たらず、湿気の多い洞窟でもこれは……もしかしたら、まだ生きているのか?」


 人のものとは限らない。或いは例の魔物が狩って来た、動物の血液が付いただけかもしれない。

 だが、可能性は僅かながらにあった。少しだけ進む脚を速める。


「生きているのなら助けたいが……音が無い。おそらくは望み薄か」


 もし生きて魔物と対峙している者が居るのなら、洞窟内に戦闘音が反響しているはずだ。

 どんな属種にしろ全くの無音はありえない。そして、この広くも無い洞窟で、俺の優れた聴覚がその音を逃す事はありえなかった。


「そろそろ、最深部のはずだが……」


 光球の光を僅かに強める。元より隠れる場所の少ない洞窟だ、相手に発見される事を恐れても仕方が無い。

 そして――視界が何かを捉えるより先に、己の直感が捉えたものに従って、俺は咄嗟に横へと跳んだ。


「何だ……!? 矢、いや投擲!?」


 直後横切って行った幾つもの小さな『粒』に驚嘆の声を漏らす。

 速く、数も多かった。小石を高速・かつ連続で投擲すればこうなるだろうか。

 着弾した先の岩が削られていくさまを横目に見ながら、俺は光球の数を増やし明度を上げる。

 同時、一層強い魔力を注がれた光球は、洞窟の果てまでを明瞭に照らし出す。


「何だ、あれは。魔物……いや、ゴーレム?」


 そこに居た生物らしからぬ『何か』に、俺は思わず呟いていた。

 まるで巨大な鎧か金属の塊だ。胴はずんぐりと太く、その割りに手足は細い。そして何より、頭部らしき部分が見当たらない。

 まるで卵に手足をつけたような異形だった。だが一番の異常はその姿ではなく、まるで生命の気配が感じられないところにある。

 この感覚を俺は以前にも感じた事がある。知り合いから、傀儡人形――ゴーレムを見せてもらった時だ。


(やはり、こいつはゴーレムなのか? だがこんなもの、見た事も聞いた事もないぞ)


 警戒を高めながら二メートルを越すゴーレム? と相対し、静かに剣を抜く。

 目を凝らせば異形の陰に、血まみれで倒れる巨大な獣の姿が窺えた。


(あれは……特徴的な角からして、恐らく目的の魔物か。何てこった、まさか先にやられているとはな)


 獲物を横取りされた事に眉を歪めるも、同時にあのゴーレムの事がますます分からなくなる。

 誰かに使役されているのならまだ交渉の余地はあるだろう。が、暴走しているのならば厄介だ。


「……おい。このゴーレムの操者、居るなら止めてくれ。俺はそこの魔物を討伐しに来ただけで、別に争う気は――」


 返答はゴーレムの手の武器からの弾丸だった。

 反射的に横っ飛び、射線上から逃れ出る。


「おいおい、まさか……銃か!? んな馬鹿な、俺の知っている物はもっと、小さくて威力も無い――」


 知り合いの錬金術師が偉そうに自慢してきた『大発明』を思い浮かべ驚愕するも、呆けている暇は無い。

 次々と放たれる銃弾の雨。その全てが、俺の知るものとは威力も速度も桁違いだ。


(そもそもこの世界有数の発明家であるあいつでさえ、まだ実験段階の代物だぞ、銃は。それがなんでこんなに洗練された形で、こんな場所に存在している!?)


 言うと調子に乗るから言わないが、俺は知人の発明家としての腕を認めている。

 そんなあいつの試作品よりも、遥かに上の完成品。俄かに信じがたいのも当然だ。


「事情は分からないが……とにかく、敵らしいなっ」


 一向に銃撃を止める気配の無い異形に、俺は戦う覚悟を決めた。

 元より然して頭の良い人間では無い。こういう時、取れる手段は一つだけだ。


「倒してから、考える!」


 狭い洞窟内を跳び回りながら、素早く剣に手を走らせる。

 そうして発動させるは、俺の魂とも言える『魔法剣』、その一つ。


「我今、招来す。万象凍てつく、氷海の女王!」


 冷気が満ちる。洞窟の壁がうっすらと白く染まっていく。

 放たれ続ける鉛の壁の間に身を捻じ込みながら、俺は一気に異形との距離を詰めた。

 刃が、蒼を帯びる。


「魔法剣――クノティラス!」


 一閃。幸い異形は見た目通り鈍重であったようで、剣は吸い込まれるように胴体を切り裂いた。

 ただ、硬さのせいか傷は浅い。魔法剣を使って尚、刃の半分程しか入っていない。

 切り抜けた俺を撃ち抜こうと、異形がけたたましい足音を立て振り返る。

 だが、


「残念だが、もう終わっている」


 その動きは徐々に鈍くなり、遂にはゆっくりと停止する。

 白金の身体を持つ異形は、全身を氷付けにされていた。


「ふー。これで流石にもう動かない、よな?」


 恐る恐る窺いながら、俺は剣を鞘に納め、これからどうしようかと頭を悩ませた。

 魔法の効果によって凍っている以上、普通の氷よりは融け難いが、それでも放置しておけば何時かは融ける。

 傷も浅い為、そうなればきっとこいつはまた動き出すだろう。かといって俺一人で運ぶには幾らなんでも大き過ぎる。


「仕方ない。此処で一度、破壊するか?」


 真っ二つにする位なら、まだ調査は出来るだろう。

 そう判断し俺は再び鞘から剣を抜いて、


「あら、壊しちゃうの? 勿体無い」

「……レノアか。何やってるんだ、こんな所で?」


 洞窟の入り口側から掛けられた声に、呆れたように肩を竦めた。

 周囲に深い紅色の炎を浮かばせた、妙齢の女性が立っていた。ゆったりとした黒の布服に、頭には黒いとんがり帽子。

 所々に入った赤の線がチャームポイントの格好は、御伽噺の世界から出て来た魔女そのものだ。

 帽子の隙間から暗い紫色の長髪を垂らし、豊かな胸元を大きく開いた彼女の姿は、きっと多くの男性がごくりと唾を飲み込む事だろう。

 が、俺からしたら慣れたもの。彼女とはもう、六年近い付き合いだった。


「ふふふ、別に。術に使う材料を集めに来たら、よ~く覚えのある魔力を感じたものだから。ちょっと様子を見に来ただけよ」


 くすくすと唇に手を当て、魔女が笑う。


 彼女――レノア・ロックハートのメイン属種は『呪術士』だ。


 それも他者を呪い異常を起こす事よりも、儀式を通して強大な術を行使する方が得意な、火力特化の。

 なら魔法使いにすれば? とも思ったのだが、彼女にも彼女なりの拘りがあるらしい。実際、使用する術や触媒によっては、呪術は魔法を超える火力を得る事も可能だしな。

 そして何より、彼女は俺と同じ『デッドオーバー』。その火力たるや、この世界でも一・二を争う程である。


「そうかい。それじゃあ丁度良い、物は相談なんだが。これ、どうしたら良いと思う?」


 こんこん、と隣の氷像を軽く叩く。

 彼女の術ならば、これを街まで運ぶ事も可能なはずだ。


「う~ん。街に持っていっても良いけど、止めた方が無難かしらね」

「どうしてだ? こんな未知のゴーレム、大勢の人間で研究した方が……」

「そうかもしれないけど。これをそのまま運んだら目立ちすぎちゃうわ。今はまだ、それは避けたほうが良いと思うのよね」

「……何か知っているのか? これについて」


 そう訊けば彼女は笑う。


「噂よ。最近、この国の近くで未知の武器や兵器が幾つか見つかったっていうね」

「未知の兵器……? これもそうだって言うのか?」

「実際見た事も聞いた事も無いでしょ? こんなの。それに、私の得た情報だともう一つ」


 すっ、と滑るように近づいて来たレノアは、氷像へと黒手袋を付けたその手を這わせ、


「その全てには、国の識者でさえ見た事のない文字が刻まれていたらしいわ」


 こんな風にね――。

 彼女の指差す先には、確かに白銀の胴体に刻まれた、未知の言語が見て取れた。


「『神武油』? ……駄目だな。まるで読み方が分からん」


 目を凝らしてよく見てみるが、俺の知るどの文字とも合致しない。解読など夢のまた夢だ。


「それ等の兵器に関しては、余計な混乱を避けるため国がひっそりと回収して調査しているって話よ。だから、これを堂々と街に持ち込むのは控えた方が良いでしょうね」

「じゃあ今から急いで戻って国の人間を呼ぶか? それまでこいつが大人しくしている保障は無いぞ」

「そうね。だから、私の方で回収するわ」

「お前が?」


 聞き返せば、彼女は懐から出した小瓶をゆらりと揺らす。


「そう。これ、生き物じゃないんでしょ? だったら私の『お部屋』に入れとくわ」

「……部屋じゃなくて牢獄だろう、それは」

「やーね。生き物が入らないものを牢獄とは呼ばないのよ?」


 茶目っ気たっぷりにウィンクしてみせるレノア。

 俺は溜息と共に近くにあった魔物の死体から角を剥ぎ取ると、即座に歩き出し、彼女の横をするりと抜ける。


「あら、何処行くの?」

「帰る。そこのゴーレムはお前に任せるよ」


 何だか疲れた。早く家に帰ってごろごろしたい。

 妖しく笑うレノアを置いて、俺は早足に帰路についたのであった。

用語解説のコーナ~


『属種』

神より与えられし力。新たなる才覚。

この世界の人間全てが十歳を迎えると共に獲得する事が可能となる、『選べる才能』である。教会に赴き神よりの祝福を受ける事によって取得出来る。

メインとサブの二つを選ぶ事が出来、メインの方が効果が高い。どんな属種を選ぶかは本人の意思次第だが、中には特定の人物にしか選べない特殊な属種もあるそうな。

尚、どれだけの才能が与えられるかは本人の資質による。なので、同じ属種を選んだからといって全く同じ成長をする訳では無い。

一年に一度のみ、教会に行く事で属種の変更が可能。ただし今までの成長した才能を破棄し、新たにゼロから才能を育てなおす事になるので、余程の事がなければ推奨されない行為である。

ぶっちゃけ、RPG等における『ジョブ』のような概念。ファンタジックな不思議能力の一つである。


『魔法剣 クノティラス』

マサキが生み出した魔法剣の一つ。氷の魔法剣。

専用の氷結魔法を剣に纏わせる事によって、斬撃に凍結効果を乗せる事が可能になる。

最大出力で振るえば十メートルを超える物体すら一瞬で凍らせる事が出来、冬の氷像作成大会では重宝された。

名前のクノティラスとは、この世界における氷を司る大精霊の名前である。何時も偉そうな超ドSの女王様。


『レノア・ロックハート』

女性。二十六歳。

組合に所属するSランク冒険者の一人であり、『デッドオーバー』。メイン属種は呪術士。

女性的で豊満な肉体と、誰もが見蕩れるような妖艶な美貌を持ち、何時も怪しげな雰囲気を醸し出している。ゆったりとした黒の布服に、黒いとんがり帽子を身に付けており、その様は正に魔女。

当然多くの男達から誘いを掛けられるが、その全てを断っている。それもそのはず、彼女はロリコンなのである。

ロリコンなのである。大事な事なので二回言った。家には『愛人』である幼女を三人ほど囲っており、冒険者になったのも彼女達を養う為である。

マサキの事は良い友人と思っている様子。妖しい態度を取る事もあるが、恋心の類は存在しない。冗談抜きで。彼女は真性なのだ。


神武油しんぶゆう

日本神国の開発した国産戦闘用ロボット第一号。

全高二m二十cm、重量五,二t。製造元・牧野重工。

ずんぐりむっくりな卵体型で、手足は割と細い。主機関としてマンバールエンジンを積んでおり、高い出力を誇る。

武装は両手に持ったヘビィマシンガンのみ。技術不足のせいで動きが遅く、鈍重。しかし装甲に使われている特殊合金、日々金(ひひかね)のおかげで防御性能は高い。

基本はAIによる自動操縦だが、人による遠隔操縦も可能。ただし操作性は悪い。

技術発展の為に造られた機体で、その性能の低さから量産される事はなく、試作機が幾つか製造されるに留まった。だが後の日本神国製の様々なロボット兵器の基礎となった機体であり、そういう意味では偉大な機体である。

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