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05 ~その間~

 今回はかなり遅くなりました。

 ごめんなさい。

 菅原高校の面積は途轍もなく広い。

 人口島に造られた森と併合して校舎6つ、部活棟2つ、運動場2つを有している。

 

 小林 龍也、戌亥 ショコラ及び鼓 之乃が戦闘終了する前。

 そしてピュシスという者が窓から逃げる直前。


 東側にある門から見て正面右、葉の方が多くなってきた桜並木の一番端の木に一人の女性が寄りかかっている。

 正直に言って高校生には見えない。

 彼女の持ち物らしきキャリーバックが傍にある。


 桜並木に一番近い窓、部活棟の一角の窓から男がいやカラスが飛び出る。

 男がカラスになったのだ。

 そしてかーとカラスが鳴きながら桜並木の女性の近くの枝に止まる。

 他に鳥は一匹もいないし、巣を造ってさえいない。

 

阿曇あくも、カラスの真似が想像を絶するぐらい下手よ」


 カラスが男になる。

 女がキャリーバックから男性用の服一式を取り出す。

 パンツはボクサーパンツらしい。

 それを男に渡す。


「やだなぁ、本名はやめてくれ。僕の事はピュシスと呼んでくれよ。戌亥いぬいちゃん。あとカラスの真似に上手い下手なんてあるの?」


 戌亥と呼ばれた女から渡された服を着ながら話をする。

 烏頭うず 鶏と呼ばれていたピュシスと名乗る人物。

 彼の本名は阿曇というらしい。 

 口調が変わっている。

 こちらが本来の喋り方なのだろう。


「それでは私の事は聖戦愚戦(アテナ・アレス)と呼んでくれませんと、私たちの首領ピュシス様」 


 彼女、聖戦愚戦(アテナ・アレス)が姿勢を正し口調を改め言う。


「ああ、君のことはそう呼ぶ約束だったね、聖戦愚戦(アテナ・アレス)。我が自然派の計画遂行のため今日も今日とて真面目に働こう」


 ちょうど喋り終わったときに着替え終わった。

 自然派、彼らの目的は神通力が世界に蔓延する以前の思想、環境に戻し、自らの理想郷を創ろうというものだ。

 その思想自体は特に縛られないが、やり方がまずかった。

 その際たるものとして資金集めがある。

 麻薬を取り扱っていたり、銃器及び様々な武具を製造、販売しているのだった。

 自然派の首領、ピュシスは計画を成し遂げるためならなんだって、神通力だって使う。


「そうだ聖戦愚戦(アテナ・アレス)ちゃん、君の妹をさっき見かけたよ。世の中狭いもんだね。会いにいったりしないのかい? まだあの場所にいると思うよ?」


 そういって窓を指し示す。

 そこではちょうど戌亥 ショコラの戦闘が終わり、龍也と冥界の主神ハデスの詠唱が終わる頃だった。


「―――――彼女とは縁を切りました。今はもう他人です。真っ赤な他人です」


 そういった直後、部活棟の脇から一人の女が現れる。

 頭の右上から左目、左耳を覆う包帯に紫、青が混じる肩甲骨までのびた髪の毛、アホ毛が素晴らしい。

 幼児体型であるが菅原高校の制服に風紀と書かれた腕章を巻いている。

 そこから彼女はここの高校の風紀委員だと言うことがわかる。

 彼女は先ほどからピュシスらの話を聞いていたらしい。


(自然派、あの有名なテログループがなぜここに? しかしこの高校で何かあくどい事をされれば、この学校の風紀が乱れてしまう。私がなんとかしなければ)


 彼女の正義感が彼女自身を滅ぼす。


「風紀副委員長、一昏川いっこんがわ はかり。あなたたちの風紀正して差し上げましょう。我が天秤テミスの名の下に」


 聖戦愚戦(アテナ・アレス)がいち早くその場から離脱する。


審判開始シキニスタディアティティス!!」


 周囲に光の壁が、結界らしきものが展開される。

 法廷アゴラが出来上がる。

 溢れ出る光と共に天秤が現れる。

 天秤の皿は人が乗れそうなほど大きい。

 幻などではない。

 ピュシスと一昏川がそれぞれ左右の天秤の皿に乗っている。


「この法廷は全てにおいて平等です。外部内部どちらの攻撃も全て無効となります。この秤はあなたと私の罪の重さで傾きます。罪の重かったほうが下へ、軽かったほうが上へと傾きます。下へ行ったものは二人分の罪の大きさの罰を受けます。わかりましたか?」


「わかったよ。あと律儀に説明してくれるのってやっぱり神通力の発動の条件だったりするわけ?」


「ええ、その通りです。そしてあなた自身の認可が下りました。審判が始まります。それと赤髪のあなた、ここには第三者は入って来れません。攻撃を直ちに中止してください」


「だってさ、聖戦愚戦(アテナ・アレス)、君は帰ってくれてもいいから。あと秤ちゃん、僕は君の力が欲しい。君の力、僕のところで有効活用してみないかい?」


 怪訝な顔になる一昏川。


「私がそんな誘いに乗るとでも?」


「だよね。じゃあ殺す」

 

 聖戦愚戦(アテナ・アレス)はもうこの場にはいない。

 ゆっくりと天秤が傾く。

 なぜか一昏川・・・側に天秤が傾く。


「なぜ!? なぜあなたのほうに傾かないのですか?!」


 散々非合法なことをやってきたテロ組織の首領であるピュシスのほうに傾くことなく一昏川に傾いていく。

 天秤テミスの神通力を持っている彼女でさえ皆目見当もつかない。

 君はわかってないなとピュシスが言う。

 彼の笑みは途轍もなくいやらしい。


(自然)自然()だ。形質の神ピュシスだ。人間の法など関係ない。人間の掟など知る理由が無い。人間の罪など考えるだけ無駄だ。つまり僕の罪は無いに等しい」


 だから人間である君の方が下がるんだよとピュシスが言う、自然として上から物を言う。

 

 形質の神ピュシスとは

 ギリシャ神話から、だが神格化しておらず、その名だけが後世に伝わっている。

 ある文献のではスフィンクスの問いで『同時に二本足、三本足、四本足でもあり、陸海空の生物の中で唯一性質ピュシスを変えるものは何か』というものがある。

 その問いの解はオイディプスだが、神通力としてのピュシスとは其処から派生したものである。

 ノモス|(掟・慣習・法)と呼ばれるものとは相対的なもの、つまり自然である。

 神通力としての能力は完全にその物の形質になること。

 つまり前話での彼は彼自身(阿曇)に変わるまで烏頭 鶏という者自身だったわけで、カラスのときはカラスそのものだったということだ。

 模倣ではなく完全にそのものになる。

 ただそのものになるためには、そのものを取り込まなくてはならない。

 殺さなくてはならない。

 ただし人工物は取り込めない。

 この能力を得たものは彼一人しかいないのだが、神通力が発現すれば必ず神になる。

 

 天秤の傾きが止まる。

 審判が始まる。

 一昏川から短い悲鳴が上がり、右側の額からもみあげのある部分までの包帯に赤い染みが出来る。

 一昏川 秤だけの過去の罪が、またその身に刻まれる。

 法廷アゴラが解除される。

 

「君の力案外たいしたこと無いね。残念だ」


 ピュシスが言った。

 彼女に魔の手が伸びる。

 魔というより自然の手だが。

 自然の恐怖が迫りくる。

 

 しかしその前に、音楽が、楽才が一昏川を助けに来た。


 音楽の父カリオペの"プレリュード"が。

 神童メルポメネの"ホルン協奏曲 第1番"が。

 歌曲王エラトの"魔王"が。

 一発屋クリオの"乙女の祈り"が。

 ピアノの魔術師タレイアの"ラ・カンパネラ"が。

 ピアノの詩人エウテルペの"木枯らしのエチュード"が。

 楽聖ポリュヒュムニアの"皇帝"が。

 楽劇王テルプシコラの"ワルキューレの騎行"が。

 意地悪アメジストウラニアの"虹"が。


 各々ピュシスを襲う。一昏川を守る。

 

「間に合ったね、一昏川君。だいたいの事はわかっているよ」


 風紀委員長である久遠くおん 主音とにか

 彼の神通力は芸術の九女神ムーサイ

 9柱で一つの神通力なのだ。

 委員長、助かりましたと一昏川が言う。

 付け加えて『でもなんでこうなっていることがわかったのですか』と疑問を口にした。

 それを芸術の九女神ムーサイの1柱であるピアノの詩人エウテルペが答えた。


「尾行……してたから……」


 ばっ、と久遠のほうを振り向く一昏川。

 久遠が落ち着いてと手振りを交えながら言っている。

 楽聖ポリュヒュムニアが付け加える。


「俺がそうするべき"運命"だと思ったからな」


 まぁ仕方ないか、と思うしかない一昏川であった。

 この人たちにはいつも振り回されている。

 まぁ頼りになる人たちなのは確かなのだが。

 ただ最近は迷惑を掛けられすぎて趣味のいたずらもままならない。


「いいね、面白くなってきた」


 嘲るような最早滑稽といっていいほどの笑みがピュシスから溢れる。

 人数の上では圧倒的不利な状況で彼は余裕を見せる。


「いえ、こちらは退散しようかな。ね、一昏川君」


 委員長がそう言うならば、と一昏川。

 

「じゃあ、僕の後輩がお世話になりました。さようなら。神童メルポメネ"交響曲 第25番"を。ピアノの詩人エウテルペ"別れのエチュード"を発動」


 2柱から溢れる音。

 別々の効果をもつ音楽が組み合わさり逃走のための技となる。

 疾風が吹き荒れ久遠と芸術の九女神ムーサイ及び一昏川が逃走に成功する。


 取り残されたピュシスは呆れながら帰っていった。

 逃げられたからといって別段どうというわけではない、ここでの仕事はもうほぼ完了している。

 副産物として彼女を得ようとしただけ、取り込もうとしただけであってもう帰ろうとしていた。

 ただ欲しいものを見つけた。

 黒髪の三つ編み眼鏡の女の子だ。

 身体の一部を取り込み彼女の情報を得た。

 彼女の力は面白そうだ。

 またここに来ることがあるだろうと確信する。


 ところ変わって久遠、芸術の九女神ムーサイ及び一昏川サイド。

 逃走に成功した彼らはヴァーチャルハンティング部の部室に向かっていた。

 そこには数人の生徒が集まっていたが、彼らは風紀委員長である久遠と副委員長の一昏川を見ると蜘蛛の子を散らすように去っていった。

 彼らが部室内をみてみるとそこには倒れた三人の男と悠然と立つ二人の女性、それに一人の男、その傍らに一人の幼女が立っていた。

 見てくださってありがとうございます。

 もし気になることがあったら、是非是非感想をよろしくお願いします。

 次回か次々回は増えゆく神通力の能力を発表していきたいと思います。

 参考文献は 吉田敦彦 『一冊でまるごとわかるギリシア神話』 2013年 だいわ文庫です。

 本当にありがとうございます。

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