前日譚の前日譚
唐突に書きたくなったので書きました。
私の主である妹尾 エリナはある種の病気を患っている。
それは人が死ぬ様に興奮を覚える不治の病だ。
自分で殺すのではなく、圧倒的な恐怖の上に情けなくみっともなく這いつくばり命乞いをして、嫌だ嫌だと泣き喚いた様を見、私に殺させる。
その事を除けばただの女子高生。
ただの女子高生でいてほしいのだが。
「この部屋の汚さだけはどうにかならないのですか……」
「んー」
クッキーを咥えながら、気のない返事をする。
「ああ、もう! お布団の上でお菓子を食べないでください!」
「口裂け女-。そこのマ○ジンとってー」
「はいはい。わかりました」
毎週仕事の後に電話をして買わされるマ○ジンを渡す。
じー、とこちらを見つめてくるエリナ。
気になる視線だ。
「あの、どうしたんですか?」
「いやなんか、口裂け女ってお母さんみたいだなぁって」
「――――――――」
彼女には、両親がおらず、父方の祖父母に育てられた。
祖父が亡くなり、悲しみに暮れた、でもなぜか興奮した。
そのギャップが気持ち悪くて、気持ち悪くて、なぜこんなことになるのか確かめたくて、私が現れた。
そして私を使い、祖母を殺してみた。
血相を変えて泣き喚き、命乞いをする祖母をみて、私の主は、エリナは、彼女は、絶頂したという。
(悲しい話じゃないんですが……)
裏の顔さんの声が頭に響く。
(……え? 悲しい話でしょう?)
(こいつらヤバイ)
「あ、今夜、人殺しにいこうね」
「はい、そうしましょう」
笑顔。
たとえそれが狂っていたとしても、私はこの笑顔を守りたいのだ。
――――――――――――――――
自分、稲氷神が、麻薬製造所の用心棒になった理由はこれと言ってない。
小さい組の後継者がある日、神通力に目覚め、どんどんと闇のほうへ抜けることの出来ない、底なし沼にはまっていっただけだ。
別にそのことを後悔しないし、懺悔するつもりもない。
ただ、この仕事の給料が良いのは確かだ。
重篤の弟とか恋人とかはもう一切いない。
そういうのは切り捨ててきた。
文字通り斬り捨ててきた。
「なぁ、アリグラちゃん、暇だからなんか話そうぜ」
同じくここの用心棒をしている佐治布津神が話しかけてくる。
お互い本名を知らず、神通力の名前で呼び合っている。
佐治布津神、一見チャラチャラしているがその実力は本物だ。
ただアリグラちゃんは正直やめてほしい。
特にちゃん付け。
「仕事中だぞ」
そう、短く返す。
「えー、お堅いなぁ。そんなんだから冷たいって言われるんダゾ?」
軽く舌打ち。
「おぉ、怖い怖い」
と、そこへ割り込んでくる回線。
「そんな雑談してる間はないぞ! 地下一階のB区に侵入者だ!」
「あいあい、じゃおじさんちょっとがんばっちゃいましょうかねぇ」
「油断するなよ、佐治布津神」
「君もね、女の子なんだから気をつけなきゃ」
このフロアに響くぐらいの大きな舌打ちをする。
このイライラは、侵入者で発散しよう。
女だからといわれるのが一番嫌いだ。
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