01 ~ゼロの零~
やっと・・・・
やっと1話目ができました・・・・・
人は心の中に神を宿している。
それがこの時代、この世界を変えた一因になった、ある科学者の最期の言葉だ。
彼は今でも解析不能な装置を残し、失踪したとされる。
そして、その装置が作動した直後、まず子供たちに異変が起きた。
周囲から影響されやすく、また心も不安定な時期である子供達は、尋常では考えられない力をもった。
太陽のような輝きをもつ者、火を自由自在に操り我が物とする者、水中で何時間も潜り続けられる者。
多種多様な能力をもつ子供たちが現れるようになった。
なかでも、特殊とされたのが、神を名乗る人物が力として現れたことだ。
今では当たり前のその力は、人の心を読み取り、神の力を引き出し超常現象を容易く引き起こしてしまう。
これらを鑑みて、それらの総称を、神通力と呼ぶことになった。
本州と四国を挟む間の大橋に、その島は造られた。
人工島:高天原。
その島は、本州と四国、その両方の港からはっきり見えるほどである。
俺が移り住んだこの島は、正しい神通力の使い方教えるために造られた教育機関みたいなものだ。
付近の県に住む子を持つ親は、大抵子供に神通力が発現した際に、この島に移るらしいが、俺の場合は神通力が現れるのが、中学の半端な時期になってからだった。
そのため島に行くのは俺一人。高校生になってからだった。
中学生の時からこの島のきな臭い噂は耳にしていたが、実際にこの島に着いて思ったことがある。
この島にはなにかある。
そう、感じさせる何かが。
「な~に辛気臭い顔してんだよ」
ある事件があって、共に神通力が発現した俺の友人、智明。
実を言うと俺はこいつの事が好きだ。
俺がこいつと絡み始めてから変わらない茶色の髪の毛、まっすぐな心を表したかのような瞳。
俺はあいつがあいつである限り、きっとずっと好きなままだろう。
「なんでもねぇよ」
そう短く返答する。
彼の目は、イラついているようなめんどくさそうな、俺を責めるような目つきだが、これはいつもの事だ。
彼は目つきが昔っから悪い。
「んで? これからなにすんだよ。 別に会いたいから俺をこんな真夜中に呼んだってことはねぇだろ?」
それも一つの目的なんだが、もう一つ別にきちんとしたものがある。
「タカマガハラの噂の一つにあるだろ? 神通力使って作ったくそうまい料理出す飯屋みたいなやつ」
「ああ、あれか。でもほんとにあんのか?」
「ある、らしいぞ。まぁ姉ちゃんの友達の友達から聞いたんだけどな」
と、首肯しながら聞いた話を思い出す。
ただあいつは少々訝しげだ。
「大丈夫だって。結構詳しいことまでわかってるから」
「んん、まぁ面白そうだしいってみるか」
夜だというのに、今進んでいる道は車の騒音に支配され、静寂とはほど遠い。
街灯のオレンジの光に包まれているが、この通りを踏み外せば暗闇が襲うだろう。
「ここを右、突き当たりを左へ曲がると着くぞ」
右を見てみると、案の定、人通りも少なく街灯がちらほらある程度だ。
少し歩くと、圧倒的に暗闇が多くなる。
街灯の数が少なくなってきているためだ。
ぞわりと、悪寒が走る。なにか悪い予感がする。
街頭の下に人が、一人立っている。
背が低く、日本人の体つきだがでている所はでている。
女性だということは、一目見てわかる。
どういう意味なのかわからず買ったであろう英語が書かれたパーカーを着ている。
フードは被っていて、顔を見ることは出来ず、フードからはみ出ている金髪はそよ風で小さく揺らいでいる。
智明の、なぜあんなにも画面が割れやすいのかが不思議な携帯電話の着信音がなる。
街灯の下に立つ不気味な女が喋る。
「でなよ、電話、鳴ってるよ?」
「智明……」
自然と声が漏れる。その声の調子からその名前の者への信頼と心配が聞き取れる。
「だ、いじょうぶだ」
数秒間でるかでないか迷った挙句、でないようだ。
その時、女が嗤った。
いや、そう感じさせるなにかが、あの女から感じ取れる。
「オマエの神通力、電話にでる事で発動する、そういう能力だな」
智明が言う。電話に関連する神様なんているのか?
俺にはよくわからない。
「うん、でもさ、でもさ、それがバレてアタシが逃げたりとかしない時点でアブナいって事、ガキでもわかると思うよ?」
女の声は喜色をあらわにしている。
「え……」
どういうことだと問いつめる前に、智明が自身の神通力を発動させる。
「付喪神!!」
付喪神(フェイクライフ)とは
長年大切に使われてきた物や武器などが、己の意思を持った物の怪である。また人間のような身体を持つことがある一種の神。
また、妖怪ともみなされ、その代表に唐傘お化けなどがいる。
学校の独りでに鳴り出すピアノも付喪神のようなものかもしれない。
神通力としての能力は、その力を持った者が触れた間だけ、道具を意のままに操れる能力だ。
欠点として、人や動物など動く”意志”をもったものは操れず、完璧に操れるようになるには才能と努力が必要だということだ。
鎖の擦れる音がする。智明はいつも身体中に鎖を仕込んでいるらしい。
中二感満載だ。
頭上からキィンと鎖と金属がぶつかった音がする。
鎖を操り、智明が気合の入れた声と共に女のほうへなにか赤い大きなものを投げつける。
「人?なのか?」
でもあれはなにか違う。
ゆるりとあれは立ち上がる。
女性で、手にはハサミを持ち、長い黒髪、そしてマスクをし、紅い色のコートは血に染まっているようだ。
「ウヒヒ、この姿超わかりやすいよねー」
女はおどけてそう言った。
この姿はまさしく都市伝説の……
「そ、こいつは口裂け女。ま、だいたい神様みたいなもんだよね」
顔はよく見えないがそれでもわかる、フードを被っていてもよくわかる。
女は恍惚そうな表情で笑っていると。
口裂け女(レディジャック)とは
地域によって様々な口裂け女の伝説がある。
なかには時速何百キロもの速さで走るというとんでもないものもある。
ここでは最もポピュラーなものを紹介しよう。
口裂け女は夕方、小学生が下校する時間帯に現れる。
大きなマスクをした女が、通りすがりの人に、
「ねぇ、私、キレイ?」
そう言ってマスクをはずすとそこには耳まで裂けた大きな口があった、というものが一番の定説だろうか。
キレイといっても殺されたり、普通といえば逃げることができたり、ポマードといえば口裂け女のほうが逃げたりと様々なものがある。
口を裂かれたことから人を裂くようになったといわれている。
口裂け女がこちらに攻撃しようと向かってくる。
思ったよりもかなり速い。
咄嗟に身構えるが間に合うかどうか。
俺の神通力は戦闘では役に立たない、人より多少運がいいだけの神通力だ。
それでも真正面から来ているのなら何とかできるはず。
口裂け女のハサミは智明の鎖をどんどんと短くしていく。
智明の鎖を避ける口裂け女。
まるで踊っているようだ。
――――来る。凶器が、狂気が、誰もが感じたことのある恐怖が。
これは油断だった。というより怠慢だ。怠惰ではない。
智明がいれば何とかなるだろう。どうせ大事にならない。
そんな風に、この前とおんなじようになるだろうと、そんな楽観的な、お馬鹿な考えをしている。
俺は本物の死に慄いた。
腕を断ち切れそうな大きなハサミが見える。死が見える。死が窺っている。
鎖がまた金属音を発し断ち切られる。
「あぶねぇ!」
智明の声、咄嗟に、反応ができない。
動け、動けよ身体。でも、でも怖い。
「あっ、、、、!」
死ぬ、そう思ってしまった。
狂気のハサミがこの身に深く突き刺さる、その直前、智明に吹っ飛ばされ、こける。
そして聞こえる、今まで聞いたことのないような音。
いや昔母親が包丁で何かの肉を勢いよく切った音によく似ている。
まさか・・・・そんなことあるはずがない。あってはならない。
「智明!」
返事がない。
「アハハ!なにその安っぽいドラマみたいな展開!!マジウケるぅ」
女は息荒く身悶えている。気持ち悪い。
振り返ると智明の喉元にハサミが刺さっている。
ヌルリとハサミが引き抜かれると、そこから少し遅れて血が溢れ出てくる。
血と同時に喘息のようにヒューヒューと傷口から息が漏れ出る。
気管がやられもう一生、喋ることは叶わないだろう。
そして倒れる。
あろう事か口裂け女は口の間にハサミを入れる。
この後この都市伝説が何をするか判りきっている。
ゆっくり、ゆっくりと。
ああ、ハサミで鳥のササミを小さめに切った時の音を思い出す。
「あーあ、あっけな~い。もうちょっと粘ってくれるかとおもったのに~。ま、いっか。次もやっちゃってー」
立ち上がれない。身体が震えて動かない。人の死はこうもあっけないものなのか。
闇が俺らを見ているように感じる。監視されているように、まるで俺を責め立てるように。
逃げられないかと考えた瞬間、智明のことが浮かんだ。
そうだ、これは自分の所為だ。なんとしても助けなければ。
俺はともかく智明が死んでいいはずが無い。だってあいつは俺の英雄なんだから。
でも目の前には圧倒的なまでの恐怖。
今俺はどんな顔をしているんだ?一体どんな情けない顔をあの異常な女に晒しているんだ?
「むー、つまんなーい。もっと必死に情けなーく命乞いしてよー」
知るかボケ。
でもきっと縋っても、みっともなく命乞いしても無駄だ。
あの女の言い草ではそんなことをしても、殺されるだろう。
誰か助けてくれ。智明を助けてくれ。自分はどうなったって構わない。
ああ、でも死ぬのは嫌だなぁ。
口裂け女のハサミがこの身を裂く。
その刹那、キィンと音が、自分に神通力の狂気は、凶器であるハサミは届かなかった。
一人の男が、鉄パイプをプレスしそのまま両刃剣にしたような細身の剣を持つ男が、口裂け女と刃と刃を重ねている。
その男はこういった。
あの女にこういった。
「勧善懲悪、お前は許されないことをした。覚悟しろ」と。
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