卒業式
季節は3月。いよいよ卒業式当日である。3学期になってからは自由登校で、その期間を芸能活動に使う生徒も多かったが、俺自身は受験勉強のため毎日学校に通っていた。しかし、こうやって制服を着て学校に向かうのは今日が最後だ。
俺は学校に着くと、まず教室に向かう。教室にある黒板には、『卒業おめでとう!』とデカデカと書かれていた。そして平野先生と石川先生が登場し、出欠を取ると、体育館に向かった。俺は「いよいよ卒業式本番だな・・・」と真奈に言う。すると真奈は、「うん、そうだね。でも、この制服を着るのも今日で最後なんだね・・・」と言ってくれた。
体育館に入ると、俺たちは異様な雰囲気に包まれた。まず、テレビ局のカメラが何台もある。そして生徒と教職員の合計、約200人より多くいるであろう報道関係者の数。そして来賓者の豪華さ。芸能事務所の関係者はもちろんのこと、誰もがテレビで見たことがある有名人が何人も来ている。
「生徒および保護者・来賓者の皆様に注意事項があります。本日の御船女子高校の卒業式はテレビ局で全国中継されます。ですので皆様お静かにお願いします」
山口先生の注意説明を経て、卒業式が始まった。卒業式はまず、校長先生の挨拶から始まった。
「卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。本校は女性芸能人の育成のため3年前に開校されました。したがって、あなた方は本校初めての卒業生であり、この学校の将来を背負う重要な立場にあります。時代は平成から令和に移り、本校も令和の時代にふさわしい学校教育を実践していく所存であります。では、卒業生の皆様がより素晴らしい将来があることを期待しています」
続いては校歌の斉唱と在校生代表・卒業生代表・来賓者の挨拶があった。ちなみに卒業生代表として挨拶をしたのは杉浦だ。4月からはもう慶京大学への進学が決まっている。そして、いよいよ卒業証書の授与に入る。
「3年1組 1番 相川真奈」
「はい」
まずは出席番号順に真奈が卒業証書を受け取る。俺は最後だ。そして40人が卒業証書を受け取り、俺の出番がやってきた。
「3年1組 41番 渡辺優斗」
「はい」
「卒業おめでとう」
俺は校長先生から卒業証書を受け取ると、今日最大の拍手が降ってきた。
◇ ◇ ◇
生徒の多くはもう進路が決まっていた。芸能活動に専念する者、芸能活動との両立を目指し大学に進学する者、まだ叶わぬ夢の実現を目指し、大学や専門学校に進学する者と三者三様。しかし俺自身はすべり止めの私立大には合格していたものの、国公立大学を第一志望にしているため、入試の合否待ち。その中でも真奈は卒業後の進路をどうするか、一切考えていなかった。
「赤坂も卒業したら、芸能界も引退するんだろ?」
「うん。もう芸能界に未練ないし」
「しかし、もったいないことするよなぁ。真奈のルックスなら何をやっても良さそうなのに」
「私は優斗のお嫁さんになることしか考えてないもん」
俺と真奈は高校卒業したらすぐ結婚するつもりだった。しかし、母さんから「今、急いで結婚しなきゃいけないわけではないでしょ」と言われたし、真奈の親御さんも学生結婚には難色を示していた。で結局、俺の大学卒業まで結婚は先延ばし・・・という結果になった。
そして俺は気づいた。3月の初めに高校の卒業式があるということは、真奈の卒業コンサートまで、あと1ヶ月を切ったということに・・・。
◇ ◇ ◇
卒業式が終わると、校門前には大勢の人で溢れかえっていた。卒業生や在校生、保護者はもちろんのこと、テレビのカメラを持った報道関係者も多数いた。
「ゆーと、卒業おめでと!せっかくだし、一緒に写真撮ろぉよ」
遥がガバッと両腕で、俺の腕に抱きついてきた。
「あっ、それいいねー。よいしょっと」
寺内も、俺のもう片方の腕をがっちりとホールドする。あっという間に両手に花状態で、身動きが取れなくなってしまった。
「あっ、私も一緒に~~〜」
少し慌てた感じで寄って来た真奈を、2人の手が無情にも払いのける。
「真奈は、ダメぇ」
「ハブよ、ハブ」
「やーん」
あまりに見事に弾き返された真奈の姿に、今日いちばんの笑い声が起こり、すっかり写真係となってちょこまか働いてた1年生の守屋花音ちゃんが、その瞬間をスマホに撮り、フレームに収めた。で、その写真はLINEで送られ、俺のもとに届いた。
2人の進路について少しだけ話しておく。遥は女優と両立しながら明教大学に進学。4月からは連続ドラマに初めて主演として出演する。寺内も赤坂ガールズのメンバーとして芸能活動に専念し、夏にはソロデビューする予定だ。
しかし、撮影が終わっても2人は手を離さなかった。この両手に花状態、そろそろ解消してほしいんだけどなぁ・・・と俺は思った。
コロナなんて知らん。




