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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第三部 すれ違い編
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70:訪問者は突然に

~ウィルナルド~


「マスター! すまねえ見失った!」

 

 セティリアの報告から10日後、夕餉を取っていると、食堂にテュールの声が響き渡った。

 

「ふーる、みうしなっふぁふぉあ、もぉいう……ング……どういうことですか」


 口一杯にお肉を頬張りながら、それでもなんとか途中で飲み込んでセティリアが尋ねる。

 

「セティリア、お行儀が悪いよ。話すときは口を空っぽにしてからにしなさい」

「マスター、フォークを人に向けるのもマナー違反です。はしたないのでお止めください」

 

 怒られちゃった。ビシッとセティリアの方を指していたフォークをぷらりと下ろす。

 

「それで、見失ったっていうのはどういうことかな?」

 

 怒られたことはさておき、テュールの様子はただ事ではなさそうだ。食事中とはいえ、報告はしっかり聞いておかないとね。

 

「連中、転移スクロールなんて物を用意していやがった。それも広範囲に及ぶ代物だ。今どこにいるのか、皆目見当もつかねえ」


 ああ、その可能性は考えてなかったなあ。

 個人で使える転移スクロールですらかなりの高級品なのに、まさかそんな物を持っていただなんて。

 

「なるほど。まあ仕方がないね。それは想定外だよ。ちなみにどこまで確認できたんだい?」

「あぁ、奴らあちこちに分散してたんだろうな。伝令を飛ばしたと思ったら続々と部隊が集まってきやがった。大体3000人くらいまで集まったと思ったら、いきなり全員消えちまった」

「ほう、3000とな……その数に間違いは無いのだな?」

「そこは間違いないぜ大先生。だが、転移してからどれだけ増えるのかまではわからねえ」

 

 テュールはガンドさんのことを大先生と呼ぶ。セティリアを先生と呼んでいるから、その師匠であるガンドさんは大先生なんだとか。

 

「ヴィアインの奴め、儂の想定を上回りよったか。なかなかやるようになったものよ」

 

 そう言いながら、何故か嬉しそうに笑う。

 まあ今更数が増えたところでどうということもないんだけどね。

 やはり、見失ったっていう方が問題だろう。

 一体どこに転移したのかはわからないけど、最悪の場合、すでに街のなかに入り込んでいる可能性もある。

 まあそれだけの人数が突然現れたらパニックになるだろうし、今のところ外からそういった声は聞こえてこない。多分大丈夫じゃないかな。

 

「見失っちゃったのはもう仕方がないね。とにかく今は所在の把握に努めよう。テュール、帰ってきて早々で悪いけど、また出てもらえるかな」

「それは当然! 元々俺の不手際だしな、すぐに見つけてみせるぜ!」


 最初からそのつもりだったのか、意気揚々と出かけていくテュール。働き者だねえ。

 さて、こういうときに働いてもらいたい、もう一人の転移魔法の使い手はというと……。

 

「むぐっ!? ん……んぐ……ふぅ」

 

 変わらずご飯を食べていた。

 僕の視線に気付いたのか、慌てて飲み込んだようだ。

 

「陛下、どうかしましたか。私の顔に何かついてます?」

「いや。今の流れからしてセティリアにも偵察をお願いしたいんだけど、まさかそのまま食事を続けてるとは思わなくてさ」

「なるほどわかりました。では食事が済み次第、すぐに出立いたします」

「あ、うん。ご飯は食べてからなんだね。そうだよね食事は大事だもんね」

 

 まあ食事の途中で出ていけっていうのも悪いし、これは仕方がないのかな……?

 二人がかりで、なんとか見つけてもらえるといいんだけどね。

 

 

 

 その鐘が鳴り響いたのは、それからたったの3日後だった。

 どうやら物見が兄の軍勢を見つけたらしい。

 セティリアもテュールも帰ってこないってことは、見事に違う方向に行っちゃったのかな。それか見つかってやられてしまったのか。

 どちらにせよ、敵と言っていい存在が近くに来ているのは間違いないのだろう。

 とにかくこの目で確認しないと、ってことで前のようにフーセーさんの力を借りて見張り塔へ。

 

「見張りご苦労様。さて敵はどこに……おわっ!?」 

 

 見えるっ! 僕にも敵が見えるよっ!

  

「へ、陛下!? なぜこのような所に!?」

「いや、そんなことはいいんだけど、敵さん近いね」

 

 油断してた。前のアウザー君はえらい遠くまで見えていたようだったから油断してた。

 目と鼻の先、とまでは言わないけど、明日には到着しそうなくらいの距離だ。いや、動きが早いからそんなに時間もなさそうかな。

 

「君はこのまま監視を続けて。伝令役を寄越すから、敵に動きがあったらすぐに知らせるように」

「ははっ! かしこまりましたっ!」

 

 まずはガンドさんを探さなきゃ。

 相手が一塊で来るならいいけど、分散してくるようなら対応しないといけない。

 ついでに街の中で混乱が起きないようにしっかり防衛してもらわないと。

 

 

「おお若、これは何事か。ついにヴィアインめがやってきたか?」


 街中をうろうろしながらガンドさんを探していると、向こうから見つけてくれた。

 

「どうやらそのようです。ガンドさんは街の警備をお願いします。以前お伝えした通り、試したいことがあるので僕が最初にでます」

「相分かった。兵共に伝えよう。若の力は知っておるが、無茶はせんようにな」

「それは勿論。試すだけ試したらすぐに下がりますよ。そのあとはお任せします」

 

 簡単な連絡だけ済ませる。これで街のことを心配する必要はなくなった。

 さて、相手が到着するまでまだ時間はあるけど、大人しく待っている道理はないよね。

 何か策を打たれても面白くないし、ここはこっちから出向かせてもらおう。

 

 

 と、思って門に向かったら、すでにエティリィとアグリルが戦闘準備を済ませて待っていた。

 

「マスター、お待ちしておりました。出陣されるのであれば是非お供をさせてくださいませ」

「ウィルさん水くさいよー。ボクも手伝うって決めたんだからさ、こういうときは頼ってよ」

 

 口々に声を投げてくる。

 

「二人ともありがとう。とりあえず様子見のつもりではあるけど、一緒に行こうか」

 

 先ほどガンドさんに言った通り、無茶をするつもりはない。

 一般兵にやられる気はしないけど、もしもってこともあるしね。二人が一緒に来てくれるのは心強い。

 門番をしている兵士を労いながら開門してもらい、外に出る。

 門から外に出るのっていつ以来だろう。アグリルが来たときくらいかな?

 おおっと、感慨に耽っている場合じゃなかった。

 

「それじゃあお待ちかね。秘密兵器の出番といこうか!」

 

 そう宣言して、門の左右に鎮座する巨大な石像に手を伸ばす。

 手のひらを当て、ゆっくりと魔力を流し込む。

 今まで使うことは無かったけど、この像を作ったドセイさんに言わせれば、これもゴーレムなんだとか。

 魔力を込めれば動かせるって言ってたし、今こそ使うべき時だろう。

 大軍と戦うときはやっぱりこういう演出がないとね。大きいは正義だよ。

 

「よし……っと、こんなところかな?」

 

 あまり疲れない程度に魔力を注いでみた。


「さあ悠久の時を越え、遥かなる大地へ! 今こそ甦れ! ゴーレム!!」

 

 雰囲気作りも忘れない。僕はできる魔王なので。

 僕の言葉に併せるように、ゴーレムが小刻みに震え出す。

 ゴゴゴゴゴなんていう音と共に小石が降ってくるのはお約束だろう。

 やがて最初の一歩を踏み出したゴーレムは、恭しく片膝をつくと、僕の前に手のひらを差し出してきた。まるでそこに乗れと言わんばかりに。

 

「お、おおおおお。すごいねウィルさん! これどうなってるのさ!?」

 

 隣のアグリルは、興奮しきった様子で僕とゴーレムの間の視線をさ迷わせている。

 

「ふふふふ。これが僕のとっておき。精霊使い且つ莫大な魔力を持つ、僕だけのゴーレムさ!」

「ひゃー、格好いいね! 乗っていいの? ねえねえ乗っていいの!?」

「勿論構わないよ! さあこいつに乗って、派手な登場といこうじゃないか!」

 

 なんてやり取りをしながらゴーレムの手に乗る僕ら。

 全員が乗ると、ゴーレムはその手をゆっくりと動かし、自らの肩に僕らを誘導した。

 エティリィとアグリルは左肩。僕は右肩にそれぞれ降りる。

 

「二人とも、落ちないようにどこかに掴まっておいてね」

 

 頭を挟んだ反対側から飛んでくる返事を聞いてから、ゴーレムを慎重に立ち上がらせる。

 完全に立ち上がると、視線の高さが大体10倍くらい。見張り塔よりは流石に低いけど、それでもかなり視界は広くなった。

 

「おはー! 高い高い!」

 

 ゴーレムが動く度にアグリルのテンションが上がってる気がする。

 彼女も巨大ロボの魅力がわかる人だったのかな。今度日本語を教えて一緒にアニメを見てみようか。

 そのためにも、今は遠くに見える軍勢をどうにかしないとね。

 

「いよおーし! ロボ出発! 目標、敵軍勢!」

 

 さあいよいよ兄との決別だ。

 攻めてくるのなら容赦はしませんよ兄さん。

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