68:魔法剣士リリカル☆トール②
~トール~
「自分はマンドラゴラっす。由緒正しい、誇り高き種族っす」
目の前の人参擬きは自分の事をそう紹介した。
マンドラゴラねえ……抜くときに叫ぶとか、人の形とかでそうじゃないかなとは思っていたが、まさかそのまんまとは。
「その由緒正しいマンドラゴラさんが、何で野菜の種に混ざってたんだ?」
聞くべき事は山ほどあるが、とりあえずは思い立ったところから聞いていこう。
「自分らマンドラゴラは、実はそこら中に種を蒔いているっすよ、人間たちが気付かないだけっす。それでまざったんじゃないっすかね」
「いやその理屈はおかしい。それだったら辺り一面マンドラゴラだらけになっていてもおかしくないだろ」
「それが実は、自分らはあんまり強くないんすよ。ちょっとした環境の変化でやられるし、他の野菜に栄養を持っていかれると育てないんすよね。ついでに日光と水が多くても疲れちゃって大きくなれないっすよ」
「つまりあれか。実はその辺に種が埋まってても、結局発芽できずに終わるからわからないってことなのか」
「イグザクトリィ! その通りっすよご主人!」
短い腕を胸にあて、頭を下げながら肯定してくる。
何だか俗っぽいやつだな。
「そんなわけで、大体の仲間は専用の苗床じゃないと育つ前に死んじゃうっすけど、自分は運が良かったっすね。これだけ良い環境で育ててもらったのは初めてっすよ」
「初めても何も、昨日今日で産まれたばかりなのに、よくそんな色々と物を知ってるな」
「あ、自分らは前世……というか親というか、種になる前の記憶をそのまま引き継いで産まれるっすよ。だからもうかれこれ千年くらいは生きてることになるっすね」
凄いなマンドラゴラ!
実は長寿な生き物だったのか。見た目は気持ち悪いが、実は高度な文明を持った種族なのかもしれない。
そしてシーナはいつまで震えているのか。
ちらっと目をやると、未だに目と耳を閉じたまま座り込んでいた。
「シーナ、もう大丈夫だよ。こっち来なよ」
返事がない。ただのしかばねのようだ。
あんだけでかい耳なのに、塞いだら何も聞こえなくなるのか?
やれやれと、仕方がないので直接肩を揺すって正気に戻す。
「おーいシーナさんや。もう大丈夫だから帰っておいで」
「ふにゃうっ!?」
大袈裟すぎるくらいの反応で飛び退いてくれた。
「あ、ああなんだトールか……ごめんごめん」
「なんだ、じゃないぞ全く。確かに声はうるさかったけど、そんなになるほどか?」
「いや、だってあれマンドラゴラでしょ? 声を聞くと発狂したり死んじゃったりするって噂のマンドラゴラでしょ?」
え、そんな怖いやつだったの?
普通に会話しちゃってるんだが。今のところ平気なのに後からきたりするの?
「嘘っす。それ嘘っすよ姐さん。自分らにそんな能力は無いっすよ。一口食べれば魔力増大、二口食べれば万病治癒、三口食べれば臨死体験、四口目は効能不明。それが自分らマンドラゴラっす」
「凄いと思ったけどやっぱり危ないんじゃねえか! 何だよ臨死体験って! 効果不明ってどうなるんだよ!」
「自分の記憶だと四口目まで食べて生きてた人間っていないんすよね」
「毒じゃん! 完全に毒じゃん! しかも致死性とかやばいやつじゃん!」
「あ、でも魔法素材としては秀逸っすよ。こう見えてもそれなりに魔力はあるっすから、昔からよく薬とかに使われてたっすよ。ま、毒薬っすけどね!」
そう言って大きく笑う。『あっはっは』というよりも、『AHAHA!』といった感じで豪快に。持ちネタの一つなのだろうかこれ。
「ま、まあいいや……それで、なんでマンドラゴラが植木鉢から生えてきたの?」
「あ、それなら俺がさっき聞いた」
先程の話をそのままシーナに伝える。
途中で口を挟まず聞いていたシーナは、最後には頭を抱えてしまっていた。
「つまり、普通なら育たないはずの植物もこの植木鉢なら簡単に作れてちゃうってこと……?」
「そういうことだなあ。危ない毒草とかじゃなくてよかったな」
「いやいやいや。これ十分に危ない毒草だからねトール。致死毒って自分でも言ってるくらい危ないからね!?」
「会話が通じるって素晴らしいことだよな。危うくカレーにして食べるとこだったぜ」
「それは絶対にやめてね? それで、これどうするの?」
ようやく話に追いついたシーナからの最もな疑問。
どうするの? って、どうしよう?
「マンドラゴラは希少な植物だから、かなり高く売れるって聞いたことがあるよ。勿論あたしも見るのは初めてだから、買ってくれる相手を探すのは大変かもしれないけどさ」
「うーん。話ができる相手を売るのは抵抗あるなあ」
「それなら育ててみる? 種が取れるならそれだけでも売れるかもしれないし、この植木鉢があれば栽培し放題でしょ」
「お、お金の匂いがするぞ!?」
実際いくらで売れるのかはわからないが、量産と流通の体制が整えばかなり儲かりそうな予感がする。
元々売るつもりで育てれば手放すときもさほど抵抗なくいけるだろうしな。
金のなる木、もとい人参が転がり込んできたか。
「もうなんか、こいつが金貨に見えてきたわ」
「トール、前にも言ったけど、トールがその気になれば一生お金に困らない生活くらいはできるんだからね? マンドラゴラとか関係なしにさ」
シーナはやたら俺を持ち上げてくれるが、そんなことを言われても、金を稼ぐ方法がわからなければどうにもならない。
まあ前にやったみたいに、植物採集クエストを受けまくってもいいんだろうけども、やっぱり安定した収入に憧れるよな。
「それで、肝心の種ができるまではどのくらいかかるんだ?」
向き直って質問はマンドラゴラの方へ。
「大体3年くらい見てもらえば確実っすかね。そのくらいになれば、あとは毎年産めると思うっすよ」
「長いな! それまでちゃんと育てないといけないってことかー。ところで……ええっと……」
「あ、名前っすか? 好きに呼んでもらって構わないっすよ。ドラちゃんでも、ドラッツェでも、まんだらけでも……」
「よーしストップだ。その辺にしておけ。それじゃあ、ドラゴでいいか? なんか強そうだ」
「ういうい。ありがとうっすよご主人」
隣から、「うわー安直」なんて声が聞こえてくるが当然スルー。なんだよ。ゲレゲレとかボロンゴのほうが良かったかよ。
「んで、ドラゴは何かできることはあるのか? 得意なこととか」
「前のご主人の所では、割りと戦闘面でこき使われてたっすよ。引っこ抜かれて、物を運んだり戦ったり食べられたりしてたっす。自分なんか食べた日には、大抵の魔物はイチコロっすよ」
「お前そういう知識どこから仕入れてくんの? 過去に日本人と関わってんの?」
「長い間生きていると、色々とあるんすよ。簡単な魔法くらいなら使えるっすし、少しはお役に立てると思うっす」
「お、魔法使えるのか。流石魔法生物。どんな魔法なんだ?」
「相手を麻痺させたり、毒状態にさせたりっすね。あとは昏睡とか混乱もいけるっす」
えらい偏った魔法だな。まあ使いやすそうではあるが。
しかし、うーん……これは使い魔になるんだろうか。
マスコットキャラがマンドラゴラっていうのはどうかと思うが、よろしくしても魔法少女にはされないだろうし、まあいいか。
「うっし、そんじゃこれから宜しくなドラゴ。頼らせてもらうぞ」
「宜しくっすよご主人。お給金はいらないっすけど、たまにでいいのでご主人の水が貰いたいっす。魔力たっぷりなやつ」
こうして新たな仲間が加わることになった。
肩に乗せるのに丁度いいサイズでもあることだし、見た目に慣れれば良き相棒になってくれそうだ。
隣のシーナの視線なんて気にしない気にしない。