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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
プロローグ
7/76

5:召喚魔術


 エティリィは凄かった。

 目一杯魔力を注いだからある程度凄いのはわかっていたけど、予想以上に凄かった。

 まずは食事に関して。

 記念すべき初作品はろくな物ではなかった。

 まあそれはそうでしょう。生まれたばかりの子にいきなり料理をさせて上手くいくはずかない。これは指示を出した僕にも非があった。

 しかし僕は料理ができない。というか家事全般ができない。

 そこで、料理の本を片っ端から読ませてみた。3分で作れる本から料理漫画まで、片っ端だ。

 その結果、切った野菜がそのままお皿に飛んでいくほどになった。

 あと卵焼きは他の料理と同じフライパンを使わないらしい。

 そのうち、もやしで鳳凰とか作り始めるかもしれない。

 ちなみに材料はエティリィが自ら採りに行っている。

 近くの川から魚を捕まえ、森のなかから野草や木の実を採り、森をうろつく魔物を狩ってくる。

 先日僕が歩いていたときは全く見かけなかったのに、この辺は結構魔物が多いらしい。

 僕の三倍くらい大きい猪を狩ってきたときはちょっと驚いた。武器なんか持ってないはずなのにどうやって仕留めたんだろう。しかも返り血の一滴も浴びずに。

 掃除や洗濯といったところはちょっとまだ苦手そうだけども、時間が解決してくれそう。

 

 エティリィが勉強している間、僕だって遊んでいたわけではない。

 まず水のスイセーさんにお願いして、上水道を確保した。ついでに家の外に生け簀も作ってもらった。今のところは何もいないけど、そのうち魚とか放せたらいいな。

 それからコーセーさんに新しく熱源を出してもらった。地下じゃ洗濯物が乾きにくいし、外に干すわけにもいかないからね。

 風のフーセーさんも呼び出して、地下の空気の循環をお願いした。地下だからといって空気が澱むこともなくなって快適に。湿気もこもらなくなった。

 精霊さんって本当に素敵。困ったときの精霊さん頼り。

 自分でもちゃんと働いたよ。

 精霊魔法と並んで得意な結界魔法を使いました。

 結界魔法には色々種類があるけど、基本的に何かを防ぐ目的で使う。父に殴られたときは単純に攻撃を防ぐ結界で、今回使ったのは魔力を防ぐ結界。

 洞窟の入口にそれを張って、僕の魔力が外に漏れないようにした。

 というか、今までは駄々漏れだったらしい。

 外に出たエティリィから言われたけど、結構離れたところからでも漏れ出た魔力を感知できたそうな。

 折角入口をドセイさんに隠してもらっても、このままじゃそのうち誰かに見つかってたな。危ない危ない。

 あと屋敷全体にも防御結界を張っておいた。ドセイさんの仕事を疑う訳じゃないけど、もし何かしらの事故がおきて天井が崩落なんてしたら目も当てられないし、仮に誰かが侵入してきても屋敷をそのまま砦として使うこともできるようになる。

 まあそもそも誰かにここがばれた時点で逃げることを考えないといけないんだけどね。関係者を全滅させるとかしない限りいつかは潰されてしまう。

 あー。今度ドセイさんにお願いして脱出路も作って貰わないとな。

 転移の魔方陣とか設置できたらいいんだけど生憎空間魔法は専門外だし。

 

 生活基盤は整った。家のことは全てエティリィがやってくれるし、食事の問題も解決した。

 もうこれ、死ぬまで外に出なくていいんじゃないだろうか。

 夢の引きこもり人生を歩むことができるんじゃないだろうか。

 

 と、思ったのも束の間。

 大問題に気付いてしまった。

 引きこもることは問題ない。衣食住も整ったと言っていいだろう。

 ここには実家から持ち出してきた千冊程の書物もある。読了しているものが殆どだが、まだ暫くは時間を潰せると思う。

 しかし、しかしだ。ここにある本は今以上に増えることはもう無いのだ。

 これはいけない。可及的速やかにどうにかしないといけない。

 そこで考えました。

 この間見つけたアレ。召喚の魔道書。

 やってみましょう。異世界召喚。

 日本から物資を召喚することもできるだろうけど、折角だから人間を召喚してみようと思う。城から持ち出した本以外の道具の使い方を知っているかもだし。

 仮にだけど、冒険に興味を持ってくれたら各地の本を持ち帰ってくれるかもしれない。

 何より何より。やはり異世界召喚といえば英雄でしょう。

 幼い頃に読んだ英雄譚。憧れた英雄たちの活躍。新たに描かれる物語の一節に僕の名前を刻むことができるのだ。そこにロマンを抱かないなんて男じゃない。

 往々にして魔族は英雄に滅ぼされる立場だけど、魔族が英雄を召喚したらどうなるんだろう。

 そもそも何故魔族は召喚術が使えないと言われているんだろうか。召喚術は人間の技術という先入観があるせいで、召喚術を研究している魔族がいないように思う。

 使えない使えないと言われるのみで、その理由は明らかにされていないのだ。

 魔族と人間では魔力の質が違うせいだとか、人間のような器用さが無いせいだとか、仮定を挙げることはできるが、全ては推測の域を出ない。

 ひょっとしたら、魔族に英雄を召喚されないように人間の広めた流言の可能性もある。

 となれば、試してみることになんの抵抗があろうか。

 あぁでも失敗したら糞尿垂れ流しとか書いてあったなあ……。ならいっそトイレで召喚する?

 いやいや、それはちょっとどうなの。

 失敗の対策としてはいいけど、成功したときは痛すぎる。

 『異世界へのトンネルを抜けるとそこは、トイレでした』そんなくだりで始まる英雄譚なんて見たくない。

 よし、決めた。家の外でやろう。

 外と言っても地下からは出ませんよ。結界の外で召喚魔術なんて行使しようものならすぐに魔力の流れを掴まれてここに調査隊とか派遣されてしまうからね。

 無闇に広い庭で試してみましょう。

 庭でなら最悪漏らしてもエティリィが文句言わずに片付けてくれるだろうし。

 まあ家の中で漏らしても何も言わないだろうけど、そこは気分の問題ということで。

 

 よぅし、やーるぞー。

 召喚士に、僕はなる!

 まだ残っている魔方陣のページを開き、地面に置く。

 あとはエティリィに見守ってもらいながら魔方陣に触れて封印解除の呪文を唱えるだけ、と。失敗したときは頼みますよエティリィさん。


「遥かなる流れに在りし魂よ、秩序と混沌をもたらす魂よ、越えよ、越えよ、越えよ、汝、その器果てるとき、数多なる時を越え、その姿を示せ、その力を示せ、その魂を示せ、我が力を示せ!」

 

 詠唱が終わると同時に、魔方陣が青白く光り、魔力が吸われていく。

 おぉ……これはなかなか……。

 吸われる魔力に比例して、魔方陣が輝きを増していく。

 魔力を吸われながらわかったことがある。

 この魔道書は十中八九、召喚の魔道書で間違いない。

 魔力を吸われる量自体はエティリィを造った時と大差ないが、エティリィの時は魔力を注ぎながら性能を調整できたのに対し、こちらは被召喚者をある程度選別できるらしい。

 魔方陣のほうから、僕の魔力を通して術の発現方法を伝えてくれる感じだ。

 おかげで、初召喚にも関わらず術の完成までの道程が手に取るようにわかる。

 となれば、喚ぶのは地球人、それも日本人に決まっている。

 今の僕にそれ以外の選択肢が存在するはずかない。

 そのあとはまたイメージの連続になる。

 勇者、英雄……武芸に長けて、頭も切れる。自分の実力に自信を持っていて、万人に同じ姿勢で接することのできる人物。そして何よりも、未知なることに対して探求心を持つ者。

 よしイメージは固まった。

 あとはイメージを崩さないように魔力を維持するのみ。

 

 そのときは唐突に訪れた。

 魔方陣が一際強く輝いたと思った瞬間、バリバリと電気が走るような衝撃と共に、辺りが光に包まれた。

 思わず目を閉じ、恐る恐る開いたそこには、一人の少年が倒れていた。

 黒い髪、やや黄色ばった肌の色。目は閉じられているが、日本人の特徴は満たしている。

 成功した。異世界からの召喚に成功した!

 魔族にも召喚術は使える。これは大きな発見となるだろう。

 今後の勢力図を一変させる可能性すらある。

 何よりも、憧れの異世界人と直接交流できるようになるのだ。こんな嬉しいことはない。

 興奮を隠しきれず、倒れている人物に近付く。

 目を覚まさない男の肩を揺すると、うっすらとその目が開いた。

 

「やあ、僕はウィルナルド。悪い魔族じゃないよ」

 

 用意してたそんなセリフを投げる。

 憧れの日本人と仲良くなるためのセリフ。

 ようやくはっきりと目を開けた男は、いきなり白眼を剥いて口から血の泡を吐き出した。

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