65:築城
~ウィルナルド~
お城を造りましょうのコーナー!!
まずは土地を用意しましょう。なるべく広く、平坦な方がいいですね。地盤の調査も大切です。後になって後悔しないよう、基礎の工事はしっかりしておきましょう。
次は、どのようなお城にするのか、イメージを固めます。工事業者と綿密な打ち合わせを行い、相互理解を深めましょう。
最後に、資材を用意しなくてはなりません。何もないところからお城は産まれませんからね。今回のケースでは工事業者に土の精霊を選定しているため、石材や木材などは必要ありません。魔力だけを大量に確保しておけばよいでしょう。
さて、それではいよいよ建築に移ります。
工事が始まってしまえば、あとは業者に任せておけば安心でしょう。
しかし、ここでも注意しなくてはいけないことがあります。今回のように土の精霊に工事を依頼する場合、工期や工程はクライアント側で調整する必要が出てきます。
全て任せた場合、1日で施工完了となるかもしれませんが、その後法外な魔力を請求され、支払いきれずに命を落とした、というケースが存在するためです。
自身の魔力と相談しながら、無理のない工程を組むようにしましょう。
用法、用量を守って、楽しく建てましょう!
と、いうことで。
「どうでえウィル坊! とりあえず今日のところはこんなもんか!」
「は、はい……お疲れ様でした……」
きつい。ドセイさんの魔力の持って行き方が激しくてきつい。
前に精霊としての格が上がったおかげで、より強い力を扱えるようになったらしいけど、その分報酬もべらぼうに値上がりしていた。
今日造ったのはお城の最上階部分。玉座の間とか、僕たちの部屋があるところ。
まだ部屋数も少なく、とりあえず様子見で建てたのに僕はもうへろへろだった。
全部で10階くらいの予定だったけど、考え直した方がいいのかもしれない……。
とにかく中身を見させてもらおうかな。
うわーい、広いー。そして豪華。
「これは壮観だな……前魔王城の倍ほどの広さはあるのではないか」
「デスヨネー。まあ僕が一番気になっているのは、ずらっと並ぶ鎧なんですけどね」
この部屋だけで前の家が2つくらいすっぽり収まってしまいそうな広さがある。部屋の奥には石段があり、その上に玉座を置けるほどのスペースが確保されていた。
壁にはいつものようにドセイさん謹製の装飾が施されていて、そこに沿うように剣や槍を持った金属鎧が立ち並んでいる。
上を見上げてみれば2階部分から見下ろすことができるようになっており、そこにもやはり金属鎧がびっしり配置されていた。こっちのは弓を装備しているみたい。
以前までのドセイさん作品は石像だったのに、今回は全て金属で構成されていた。これも、格が上がった影響なのかな。
試しに少し魔力を注いでみたら、やっぱり動いた。
これだけの数で細かい操作なんてできないし、簡単な命令を与えるくらいになるのかなあ。
全部同時に動かしてみたけど魔力はそれほど消費する感じがない。燃費がいいのは素晴らしいな。
折角だから、と全部踊らせてみたら、金属鎧がガチャガチャ鳴り響いて大変なことになったのですぐにやめた。
「悪いが内装は自分でなんとかしてくんな。冷てえ椅子は嫌だろ?」
「いやあこれだけやってもらえれば十分です。また明日お願いします」
「おうよ。これだけの大仕事だ、腕が鳴るってもんよ!」
とりあえず今日の築城はここまでとして、皆それぞれの部屋を確認しに向かった。玉座の間を出て、控え室と廊下を過ぎればそこが居住スペースだ。
僕の部屋が一番奥で、隣に小部屋が一つ。そこから皆の部屋が並んでいる。一番広いのは僕の部屋で、他は大体似たり寄ったりといった感じ。
実は隣のこの小部屋、面している二部屋からは直接出入りできるようになっている。
小部屋に面しているもう一つの部屋は今のところ家主無しの空き部屋だ。
特に誰がどの部屋と決めたわけではないけど、エティリィ、ガンドさんの順で僕に近い部屋を確保して、セティリアとテュール用の部屋を残してアグリルがその先に収まった。
エティリィは今まで無かった自分の部屋を手に入れて、嬉しそうにしている。寝る必要が無いのだから、ほとんど部屋にはいないと思うけどもね。
「それじゃあ、とりあえず皆の私物を運び込んじゃおうか。と言っても荷物があるのは僕とガンドさんくらいかな?」
「私も特に荷物はありませんし、セティリアとテュールの分は部屋に投げ入れておけば十分でしょう」
「ボクもまだ荷物は無いなー。装備品だけ部屋に置いたら終わりって感じかな」
うちの女性陣は私物がまるで無いらしい。それはそれでどうなのって思うけど、今までの生活を考えると仕方がないとも言える。
僕の器量が疑われてしまいそうだし、多少の我儘は構わないんだけどなあ。
「そうしましたら、アグリル様と私で買い出しにでも出掛けましょうか。市場の品物も充実してきていますし、何よりドアを取り付けないといけませんよね。ついでに依頼をしてきます」
エティリィの言うとおり、この城にはまだ扉が無い。
流石のドセイさんといえど、木製のドアを設置することはできなかったみたいだ。現在は全ての部屋が吹き抜け状態になってしまっていて、プライバシーも何もあったものじゃなかった。
「それじゃ、お願いしようかな。お金は多目に持っていっていいから、部屋に起きたい小物とかも好きなのを買ってきたらいいよ」
「わ、ありがとうございます! 楽しみですねえ!」
「そ、それってボクもいいの? 部屋を貰えただけじゃなくて、好きにしちゃっていいの?」
「そりゃもちろん。自分の部屋は自分の好みに合わせるべきだと思うよ。ま、僕は自分の部屋にテレビを置くけどね! これでゴロゴロしながらアニメ生活が送れるぞう!」
「若、気を抜くのもいいが、城はまだまだ完成していないことは忘れぬようにな」
皆ではしゃいでいたら、ガンドさんからしっかりと釘を刺されてしまったよ。
きっと、いつか平和な世界になったとしてもガンドさんからお小言を言われながら、なんだかんだで仕事をすることになるんだ。その光景が想像できてしまった自分が憎い。あーいやだゴロゴロしたい。
「それでは行って参ります。良さそうな調度品などあれば、皆さんの分も買ってきますね」
「ありがとうねウィルさん。お土産買ってくるよ」
僕の苦悩を余所に、出掛けていく二人。
残された僕らはとりあえず荷物整理を始めることにした。
まずは自分の部屋にテレビをセット。ソファも前の家で使っていたものを持ち込んでいる。あっちの居間がそのまま僕の部屋になった感じかな。寝台もあるから寝転がってアニメを観ることもできるようになった。
漫画やライトノベルなんかは隣の小部屋に仕舞う。ドセイさんが気を利かせて本棚を用意してくれたのがありがたい。
そしてその奥の部屋。今は誰もいない部屋に、鞄を一つそっと置いた。
この世界の物ではない鞄。部屋の主となるべき人物の持ち物だ。大したものは入っていないとか言っていたけど、いつかちゃんと返さないとね。
「ただいま戻りましたー!」
荷物の整理を終え、寝台で横になりながらマンガを読んでいると、エティリィとアグリルが買い物から帰って来た。
「いやー。色々買ってしまいましたねえ。アグリル様も良い趣味をお持ちのようで」
「そういうエティさんだって似たようなの買ってたじゃんさ。あ、ウィルさんこれお土産ね」
おやおや、なんか二人とも凄く楽しそう。一緒に買い物に行ったら仲良くなったのかな。
二人とも両手に大荷物を持っているあたり、充実した買い物だったのだろう。数日前に命のやり取りをしたばかりとは思えないくらい距離が縮まっていた。
「おかえり。お土産ありがとうね。早速部屋の模様替えかい?」
「うんっ! こんなに買っちゃったからさ! はやく出してあげなきゃっ!」
「私も少し整理をしておきますね。ところでマスター、食事の支度のために、台所ができるまでは以前の家も出しておいていただけないでしょうか」
「あ、そうか失念してた。ご飯は大事だよね。とりあえず玉座の間にでも出しておこうか。鎧片付けなきゃだ」
よろしくお願いします。と一度頭を下げてから、エティリィは自分の部屋へ。それを見て、アグリルも軽く挨拶をしてから戻っていった。
小一時間後、玉座の間の鎧を一ヶ所にまとめて、前の家を設置してから戻ってくるとアグリルが出迎えてくれた。
「ウィルさん見て見て! 部屋がこんなになったよっ!」
やたらテンションの高いアグリルに腕を引かれてついていく。
いまだドアの取り付けられていない入口をくぐると、そこはまさに別世界だった。
部屋の形は変わっていない。変わっていないのに、さっきまでと同じ部屋とは思えなかった。
まず、部屋の中央に置かれたテーブルが人形やらぬいぐるみやらで埋め尽くされている。ついでに寝台も埋まっていた。ウェルフやラビシュといったまだ可愛いと言えるぬいぐるみから、ゴブリンやオークみたいな変わり種まで様々だ。多種多様なぬいぐるみが詰め込まれていた。
「お、おお……アグリルにこんな趣味があったんだね……」
むしろ、よくこんなに売ってたなと感心する。街が豊かになってきた証拠かな。
「ふふふ。すごいでしょ。可愛くてつい夢中になっちゃったよ」
どうだ、と得意気に胸を張るアグリル。寝台なんて寝るスペースが無さそうに見えるんだけど、本人が幸せそうだからそれでいいか。
ガンドさんも言っていたとおり、城作りはまだはじまったばかり。
宝物庫とかボス部屋等々、今後も色々作らないといけない。ドセイさんと打ち合わせしつつ、頑丈かつ豪奢なお城にしなくっちゃね!