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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
55/76

52:防衛機能強化

~ウィルナルド~


 先日のヒュエットによる襲撃の際に感じたことだけど、この街はまだ防衛機能が足りていない。

 戦力としてはガンドさんがいるし、エティリィもかなり強くなってきている。こっちから攻める分には強力だけど、守ることを考えるとどうしても人数不足が否めないのだ。

 前回は一方向だけからの攻撃だったからどうにかできたけど、もし別動隊がいたら一般兵じゃ対応しきれなかったはずだ。

 片方に気をとられているうちに街に入り込まれたりしたら、それこそ父の二の舞になってしまう。

 

「そういうわけで、戦力をすぐに整えるのは難しいから、街自体を強化しようと思うんですがどうしたらいいでしょうか」

「ふむ……すでに城壁はあり、そこらの街とは比較にならん防衛機能ではあるが……」

 

 こういうことはガンドさんへ相談するに限る。

 いつものように、僕の家でエティリィの淹れてくれるお茶を嗜みながらの打ち合わせだ。

 

「今のままじゃまだ足りていないと思うんです。何の不安もなくだらだら過ごすためには、他の手段が必要なんです」

「む……そうだな……では、水堀などはどうだ? 若の精霊魔法であれば可能かと思うが」


 僕の本気を感じ取り、対応してくれる。

 明日楽するために今日頑張る。いい言葉だよね。

 

「なるほど水堀ですか。精霊さんの力を借りれば作ることはできそうですね」

「襲撃を防ぐ手段は古今変わらず二つのみよ。攻める価値を無くすか、攻める気を無くさせるか、だ。若の存在がある以上、価値を無くすのは無理であろう。ならばどこまでも鍛え、攻める気を無くさせる他にあるまいて」

 

 よし、深くて広い水堀を作ってやろう。ドセイさんとスイセーさんがいれば問題なく作れるはずだ。

 

「わかりました。善は急げということで、早速試してみましょう」

 

 

 

「ということで、まずは掘をお願いします!」

「おう! まさかまた呼ばれるたあ思ってなかったがよ! まあ穴掘る程度なら大したことねえわな。サクッとやっちまわあ」

「なるべく深くて広くお願いします! スイセーさんは、その穴に水張りをお願いします」

「はぁい。噴水作ったり井戸作ったり、最近地味ぃ~な仕事しかしてませんでしたからねぇ。ここは頑張りますよぉ~」

 

 城の外まで足を運び、二柱の精霊さんを呼び出す。あとはいつものようにお願いして魔力を提供するだけだ。

 

 まずはドセイさんの仕事。

 「ふんぬっ!」と力を込めたと思うと、街の周りの地面が陥没していく。それが終れば次はスイセーさん。

 空中を泳ぐように一回転すると、どこからともなく水が沸きだし、堀の中身を満たしていった。

 着工から僅か数分で、立派な水堀の完成だ。

 ただ、僕の思っていた規模とは違ったけども。

 門に続く道を絞ることで、迂闊に近寄れないようにしたかっただけなんだよね。外から何かを投げても街の中まで届かないくらいの幅があればいいと思ってたんだ。

 精霊さんはいつも頑張ってくれるよね!

 もうこれ、堀じゃないもの。湖だもの!

 湖の中に街が浮かんでいるもの!

 外側から見たら綺麗な光景なんだろうなぁ。

 橋の欄干に施された装飾すごいなぁ。

 なんか水の中に大きい魚みたいな魔物が見えるんだけど何故かなぁ。

 

「どうでい。これならそう易々と突破されねえだろうよ。橋は大きめの馬車がすれ違える程度にしといたが問題ねえやな?」

「ウィル君のお城ってことだし~、毒沼もいいかな~って思ったけど、普通のお水にしておきました~。お魚さんはサービスです~」

 

 それぞれが自慢気に説明してくれる。

 精霊魔法は規模が大きすぎるきらいがあるけど、問題になるほどじゃないかな。

 

 湖に浮かぶ街。通行を許す橋は巨大なゴーレムによって守護されている。

 湖を船で渡るのは論外だ。湖の中には強大な水生の魔物が蔓延っているのだから。

 よしよし。これなら門だけ護ればどうにかなる。

 時間が経てば兵士達の習熟度も上がっていくだろうし、より安全だね。今後も何かいいアイデアがあればどんどん強化していこう。

 

 精霊さんの仕事に深く感心していると、ちょっとした事件が起きた。

 欄干の上に乗って装飾について解説してくれていたドセイさんの体が、突然輝き出したのだ。

 

「ふわっ! ド、ドセイさんどうしちゃったんですか!?」

 

 驚き訊ねる僕に、ドセイさんは落ち着いた様子で。

 

「あぁ、ついに来ちまったか。まあ仕方ねえ、最近働きすぎたからな!」

「えぇ!? ちょっ! どういう事ですか! ドセイさん、いなくなるのは嫌ですよ! ねえドセイさん!?」

「なあに心配するこたあねえよ。来るべき時が来たってだけだあな」

 

 ドセイさんは冷静に答えてくれるけど、僕の動揺はおさまらない。ドセイさんにはまだまだ頼りたいんだ。こんなところでお別れするわけにはいかない。

 働きすぎた、とドセイさんは言っていた。ということは魔力不足が原因? でも毎回魔力は吸われているし、足りてないってことは無いと思うんだけど……。

 

 心配する僕を余所に、ドセイさんはその身の輝きを増していく。

 光はドセイさんの体を覆っていき、ついにはその全てを飲み込んでしまう。最早人の形は取っておらず、まるで光の繭のようにも見えた。

 

「あらぁ~。これが噂に聞く昇格というやつですかぁ~。初めて見ましたですよ~」

 

 耳元から聞こえてくる、スイセーさんののんびりとした声。

 

「昇格?」

 

 慣れない単語に、思わず聞き返してしまう。

 

「そのままの意味ですよ~。良質な魔力を大量に得た精霊は、その格と位が上がるのですよ~」

 

 今一つ要領を得ない説明ではあるけど、とにかくドセイさんが消えてしまうわけでは無さそうだ。その事だけでまずは安心できる。

 しかし、昇格か。そういえば前にフーセーさんもそんな事言ってたかも?

 格が上がるとどうなるんだろう。全然想像がつかないや。別人みたいにならなければ嬉しいな。

 

 そして、その時は訪れた。

 ドセイさんを包んでいた光の繭に亀裂が入る。

 そこから更に爛然たる光が溢れだし、辺りを白に染めていく。

 目が焼けるほどの光量にから守るように、両手で目を塞ぐ。

 ようやく光の奔流が収まり、目を開けられるようになったのはどれほど経ってからだったのだろう。

 視界の開けた先には、格が上がり、より力を増したであろうドセイさんが決めポーズを取りながら屹立していた。

 

「どうよウィル坊。ついに俺も出世しちまったぜ」

 

 伸ばした白い顎髭。同じく白の髪は前に下ろされ、その双眸を覆い隠す。

 頭の上には茶色の三角帽子。身に纏うのは帽子と同じ色のローブだ。

 への字に結ばれた口元からは頑固な性格が滲み出ている。

 

 とどのつまり……何も変わってなかった!

 どうしよう。何て言えばいいんだろう……。

 ドセイさんは格好つけながら僕の反応を期待するように見てくる。いや、目は前髪で見えないんだけど雰囲気でね、なんとなく。

 

「か、格好いいですドセイさん! 神々しいオーラが溢れ出しちゃってて直視できないです!」

 

 もういいや適当に合わせよう。

 

「へっへ。そうだろそうだろ。まあこれで力も上がったからよ、他の精霊が来たとこで俺の担当分にゃあ干渉できなくならあな」


 なんと。そんな特典が。

 精霊使いの天敵は精霊使いと言われるくらい、お互いに手の打ちようが無いところなのに、ドセイさんにはその不安が無くなるのか。素晴らしい。

 

「凄いですドセイさん! 今後とも宜しくオナシャッス!」

「おうおう! 任せとけってんだ! ウィル坊の城は俺が建てっからな! その時はまた呼べや!」

「アザッス! 楽しみにしてます!」

 

 いい笑顔を浮かべながら消えていくドセイさん。

 見た目全く変わってなかったけど、あの光の繭って意味あったのかな。

 精霊さんには僕の知らない不思議がまだまだ多そうだ。

 

「それじゃウィル君、私も帰るわね~。またね~」

 

 残されたスイセーさんも言葉を残していなくなる。

 

 一時はどうなることかと思ったけど、結局は何も心配することなんてなかったみたいだ。

 ドセイさんには今後も沢山お世話になるだろうな。何せ地形を自由にできる力は万能すぎるもの。

 一番お世話になっているドセイさんが強くなってくれたのは嬉しいな。

 人間達が攻める気を無くすまで、とことん街を強化してやろう。

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