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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
53/76

50:ダンジョン攻略⑤

~トール~


 15階で休息を取ってから早14日。合計すれば一ヶ月以上ダンジョンに籠っていることになる。

 食料その他消耗品はまだ余裕があるものの、流石にここまで来ると外が恋しくなってくるな。

 一旦切り上げることも視野に入れながら奥へ奥へと進んでいたが、ついに今、地下20階への階段を発見した。

 階段の下からは目に見えそうな程の禍々しい気配が漂ってきている。

 今までは感じられなかった気配だ。恐らくだが、ここが最奥部となるだろう。

 

 

 降りる前に少し休憩をとることにした。

 魔物サーチャーを出して警戒を任せ、座って水を飲むだけの簡単な休憩だ。

 

「下の階から、嫌ぁな気配がビシビシ伝わってくんな」

「そうだねー。これはいよいよ持って終わりが近いかな?」

「やっとここまで来たかあ。ウィルさんいてくれたらいいなあ」

「例のご友人ですね? 魔族の方は初めてなので少し緊張しますが……無事にお会いできたら、ご紹介くださいね」

「ああ。それは勿論。ウィルさんはちょっとドライなところもあるけど基本は優しいから、二人の村のことも頼んでみるといいよ」

「はいっ! 楽しみです!」

 

 とは言うものの、この気配はウィルさんとは違う気がする。家にいるときはこんな不快感を感じたことは無かったはずだ。 

 

 それにしても、ここに来るまで財宝なんてまるで見つからなかったな。二人が探しているような魔道具が見つかっていたらよかったのに。

 階段を見つけたらすぐに降りて、ひたすら奥だけを目指していたからなあ。

 しっかりとマップを埋めながら進んでいたらもっと何かしら見つかっていたのだろうか。今更言っても遅いというものだが。

 

 休憩しながら適当に雑談と装備の手入れを行う。

 これが済んだら、いよいよ地下20階に突撃だ。

 

 

 地下20階は、地下11階とよく似ていた。

 真っ暗な部屋に広い空間。そして漂う魔物の気配。

 あー。これボス部屋だわ。完全にボスいるわ。

 今にして思えば、ミノタウロスは中ボスだったのだろう。まあここも同じく中ボスで、まだ先がある可能性も捨てきれないが。

 ミノタウロスを倒したからといっていい気になるなよ! 奴は所詮我々の中でもいちばんの小物! ってやつかもしれない。

 どこの世界でも、牡牛は噛ませ犬と相場が決まってるしな。蠍とか山羊は強キャラ。

 

 ともあれ、以前と同様、部屋は突如明るくなった。

 以前は壁の松明に火がつくタイプだったが、今回は単純に光源が現れた感じだな。ウィルさんのところにあった照明によく似ていた。

 そして、暗闇に紛れていた魔物が姿を現す。

 その魔物は、トカゲのような形をしていた。

 細い体に長い首と尾。全身は鱗に覆われ、生半可な攻撃は通用しそうにない。

 手足に備わった爪は鋭く、長い。人間程度なら容易く両断してしまうだろう。

 鱗や爪は勿論驚異だが、何より特筆すべきはその前腕。

 四つん這いになっているせいですぐに気付かなかったが、両の前腕には大きなヒレのようなものが付いていた。ヒレじゃないな翼だな。

 どう見ても、竜です。竜の一族です。

 腕がそのまま翼になっているから、ドラゴンというよりワイバーンといった感じなのだろう。

 劣化ドラゴンみたいに描かれる場合が多いが、こうやって生で見てみると威圧感が半端じゃない。

 大きさこそミノタウロス程ではないが、それでも3メートル程度はある。頭から尻尾の先なら10メートルくらいあるんじゃないか。

 まさか飛ぶのだろうか。ダンジョン内とはいえ、それなりの空間はある部屋だ。飛ぼうと思えば飛べるかもしれない。

 

「うっわ、まじかよ……」

「まさかワイバーンとは……流石に分が悪いでしょうか」

「トールどうする? 一旦引く?」


 シーナが俺に判断を仰いでくる。

 そう言われても俺はこいつの情報なんて持っていないぞ。ゲームなんかではワイバーンは雑魚キャラのイメージが強いが、目の前のこいつはどう考えてもボスキャラだ。

 登る階段は側にある。逃げるのが得策なのかもしれない。

 しかし俺は見てしまった。

 ワイバーンの向こう側。俺達と丁度対角の壁に、大きな扉があるのを。

 見回したところ、この部屋に下りの階段は無い。

 であれば、ここが最深階であり、あの扉の先がゴールという可能性が高いわけだ。

 ゴールを前にして、退くことができようか。いや、できまい。

 とりあえず様子見といくか。ミノタウロスみたいに見かけ倒しかもしれないしな。

 

「やれるだけやってみよう。基本は階段側を維持。危なくなったら即撤退で」

「はいよリーダー。さあ覚悟決めっか ね」

「わかりました。皆さんお気をつけて」

「了解トール。引き際だけは見誤らないでね」

 

 俺の宣言にそれぞれが思い思いの返事を返してくれる。


キュイイイイィィィィィ!

 

 戦闘の準備を始めた俺達のことを敵と認識したか、ワイバーンは後ろ足だけで立ち上がり、甲高い喚声を響かせた。

 そのまま翼を羽ばたかせ始める。遠く離れた俺達まで届く重い風圧はやがてワイバーンの体を空中へと押し上げていく。ワイバーンの巨体によって天井の灯りが隠され、地上に大きな影を落とした。

 ああ、やっぱり飛ぶのな……。

 気流の存在しないダンジョン内。単純に自らの力だけで浮いているのだろう。

 ワイバーンは、羽ばたきを強め、天井近くでホバリングを続ける。彼我の距離は目測で200メートルといったところだろうか。俺の魔法では到底届く距離ではない。

 階段からは離れたくないし、何とかしてこっちまで来てほしいところだが……。

 という甘い考えは、脆くも崩れ去った。

 

キュアァァァァァァァ!

 

 ワイバーンは一声鳴くと、何かを溜めるように首を仰け反らせる。その首が再びこちらに向き直ったとき、その口内には燃え盛る火球が存在していた。

 

「やべえ! 避けろ!!」

 

 サイードの叫びが聞こえてくる。

 火球はみるみる大きさを増していき、いよいよワイバーンの口内に収まらなくなると思われた瞬間、ついにこちらに向かって放たれてしまった。

 速度はそれほどでもない。決して遅いわけではないが、距離があれば目で追うことのできる速度だ。

 まさか途中で方向を変えたり分裂したりはしないだろうし、これだけ距離が離れていれば避けるのは容易かった。

 全員が問題なく回避。

 誰も負傷していない。そこまでは問題なかった。

 だが、着弾点がまずい。登り階段の途中に命中した火球はいったいどれ程の熱量を孕んでいるのか、触れた部分をガラス状に変えてしまったのだ。

 しっかりと準備すれば登れないことはない。しかし、戦闘中にそんな準備をする余裕など、あるはずがなかった。

 ワイバーンがそれを狙っていたのかはわからないが、俺達はこの時点で退路を絶たれてしまったことになる。

 こうなった以上、覚悟を決める他ない。

 奴を倒して、全員で扉の先へ。

 そのためには、まずは距離を詰めなくては話にならない。火球を避けながら近付く必要がある。果たしてあの火球はどの程度のスパンで撃てるのか……。

 そんなことを考えている間に、次が飛んできた。

 慌てて避けると、更に次が飛んできている。

 まさかの連射可能かよ!

 転がりながらなんとか避ける。

 こんなもの一発当たれば即死してしまう。今のところ皆も回避できているが、すでに陣形は崩されてしまっていた。

 

「全員広がれ! オレとトールを先頭にしてなんとか近付くぞ!」

 

 サイードの指示が響く。こと戦闘においてはサイードの言うことに間違いはない。一も二もなく従うようにする。

 ワイバーンはまだ空中にいるが、真下まで行けば俺の魔法も届くはずだ。翼に傷さえつけてやれば地上に降りてくるだろう。

 しかし、そんな目論見すら甘かったのだと、すぐに思い知ることになる。

 今までは全員に向かって放たれていた火球が、明らかに俺に集中して飛んでくるようになってきたのだ。

 動きの鈍さを悟ったか、なんらかの方法で魔術師であることを察したか。いずれにせよ、奴は俺だけを狙っていた。

 飛び交う火球を必死に避ける。近くで爆ぜた火球が、熱風を巻き起こしながら地面をガラスに変えていく。

 

「ちょっ! 冗談だろおお!!」

 

 叫べども攻撃は止まらない。俺のいる場所目掛けて次々と火の玉が飛来する。

 このままではジリ貧だ。とにかく前に出なくては。

 震える膝に喝を入れ、前に踏み出そうとして……。

 滑った。

 溶けてガラス状になった地面は、踏ん張るには適していなかったらしい。

 踏み出そうとした足が滑ってしまい、そのまま前のめりに倒れる。

 目に映るのは迫り来る火の玉。俺の命を奪うために放たれた必殺の業火。

 視界の端に、サイードに押さえ付けられたシーナの姿が見えた。

 最早叫ぶ余裕もない。人生の終わりを確信しながら反射的に両腕で頭を覆う。

 

「トールーーーー!!」

 

 シーナの呼ぶ声が遠くから聞こえる。ひょっとしたら泣いているのかもしれない。

 脳内麻薬の影響か、ひどく長く感じる時間のなかで、動けなくなってしまった俺は、ただ最期の時が訪れるのを待った。

 

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