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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
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48:ダンジョン攻略④

~トール~


「と、まあ俺の事情はそんなところかな」


 異世界から召喚されたこと。ウィルさんのこと。左腕のこと。精霊のこと。

 所々シーナに補足してもらいながら、俺の置かれた事情の全てをかいつまんで説明した。

 

「なんかおかしいたぁ思ってたが……異世界人ときたか……」

「それも、ご友人が魔族とは……」

 

 二人の反応はやはり驚愕。

 だが、ただ驚いているというだけで、そこに嫌悪や嫉妬は感じられなかった。

 やはりこの二人は信用して大丈夫そうだな。

 ついでにルナのことも紹介した。

 二人とも精霊語はわからないようで会話こそできなかったが、初めて精霊を見たと大喜びだ。

 



「さて、んじゃ次ぁオレ達の番だな。つっても、トールほどの衝撃ぁねえからな」

 

 俺の話が終わり、今度はサイードが事情を話してくれる。焼肉を頬張りながら、だが。


「まず最初に、オレ達は人間じゃねえ。ドリュアス族だ」

「ドリュアス族!?」

 

 サイードの爆弾発言にシーナが目を丸くする。

 なんと二人はドリュアス族だったのか! ドリュアス族ってなんだ? 爆弾発言かどうかも雰囲気で判断しただけで、全くわからない。

 

「やっぱ驚くよな。トールの方は冷静みてえだが」

「おう。俺くらい人生経験を積んでるとな。多少の事には動じなくなるもんさ」

「嘘つきなよ。トール知らないだけでしょ」

 

 ばれたか。

 シーナ先生教えてください。

 

「全く仕方ないねトールは。とりあえずあたしの知ってる情報だけど……」

 

 シーナ先生の講義によると、ドリュアス族というのは、エルフや獣人のような、亜人の一種らしい。

 人間よりはどちらかというと精霊寄りで、森の奥で集落を作りひっそりと暮らしていたのだとか。

 比較的穏やかな種族だが他種族との接触を嫌い、人里に降りてくることはほとんど無い。

 その心臓を食べると不老不死になれるだとか、生き血を飲むと病が治るだとか眉唾な伝説があるせいで、かつては人間に襲われた歴史を持つ。

 その里がどこにあるのか知っている者はおらず、既に絶滅した種族とすら言われているらしい。

 

「その辺の伝説ぁ全部ガセネタだな。心臓を食って死ななくなるなら、オレら全員不老不死になってらあ」

「ですが、そういう歴史があったのは事実のようです。完全に自給自足の生活なので、外に出ることは余程のことが無ければ許可されません」

  

 それがなんでまた冒険者に? というところだが、そこは彼等のダンジョン攻略の目的である、土の精霊が目当てだそう。

 どうやら、彼等の住んでいる土地が何かの病にかかってしまったらしい。そのため、土の精霊の力を借りてどうにかできないのかと考えたそうだ。


「最初はオレ一人で旅に出る予定だったんだがな……」

 

 頬を掻きながらメリアードの方に目をやる。

 

「お兄ちゃん一人では心配なので、無理矢理ついてきちゃいました」

 

 話を継いだメリアードが、ペロッと舌を出しながら笑う。

 

「その無理矢理のせいでどんだけ苦労したと……」

「過ぎた話でいいじゃない。小さいこと気にしてるとモテないよ。ですよねトールさん?」

「うん、それよりも無理矢理の辺りを詳しく」


 メリアードは他人には大人しくて礼儀正しい娘ではあるが、兄であるサイードに対しては割と無茶を言うことが多い。

 仲の良い証拠なのだろうが、そのメリアードが無理矢理付いていった経緯はなぜか無性に気になった。

 

「そんな面白い話でもねえよ。オレの荷物に勝手に紛れ込まれたんだよ」

「正確には、兄の荷物を空っぽにして鞄に潜り込んだんです。いつバレるかとどきどきしていましたが、まさか丸一日気付かないとは思いませんでした……」

 

 遠くを見る目になるメリアード。

 しかし、妹を背負ったまま一日って……。

 

「サイードってさ、ひょっとしてアレなの? トールと変わらないくらい抜けてるの?」


 俺の言いたいことをシーナが先に言ってくれた。が、余計な一言までつけてくれやがりました。

 

「やってみりゃあわかるが、荷物の重さが変わってなけりゃ気付かねえからな? なあトール、わかんねえよな?」

「うん、わかった。サイードはちょっとアレなんだな」


 下らないやり取りをして、皆でひとしきり笑う。

 ちなみにだが、髪の色は少し脱色しているらしい。本来は綺麗な深い緑色をしているそうだ。

 変な伝説があるため、人前に出るときは用心しているのだと。

 

「とまあそういうことでな、オレらの素性については口外しねえでもらえるとありがたい」

「あぁ、それについては俺も一緒だな。お互い事情のある者同士仲良くやろうじゃない」

 

 これで隠し事は無しだ。

 ようやく、本当のパーティーになれたような気がした。

 

 

 

  地下12階。

 11階が広いホールだったのに対し、ここは狭い通路が続いている。

 人が縦列で進んでなんとか、といった感じ。すれ違えないことはないが、その際はどうしても動きが止まってしまう。

 背後から魔物が来た場合は、俺一人でなんとかしなくてはならないだろうな。

 ルナのことは話してあるため、いざとなれば呼び出すことに躊躇はない。その後休憩する必要があるが、大概の魔物であれば対処できるはずだ。

 常に背後に気を配っていれば、特に問題はないだろう。

 むしろ問題は、野営に適した部屋が見つからないことだ。ある程度探索したら11階に戻って休む必要があるかもしれない。

 

「お、罠みっけ」

 

 先頭のシーナがまた罠を見つけたようだ。

 

「ちょっと下がって。発動させてみるから」

 

 全員を下がらせ、前方の床に向かって石を投げる。

 石の当たった部分は一瞬へこんだかと思うと、突然光りだし、人が一人収まる程の魔方陣が出現した。

 魔方陣からはその形に沿って円柱状の輝きが天井向かってに伸びていく。

 数瞬の後、魔方陣の輝きが消えた跡に、投げ入れた石の姿は認められなかった。

 

「やべえじゃん! これガチのやつじゃん!!」

 

 誰かの叫び声が聞こえる。あ、俺だ。

 

「はー。転移トラップたあ珍しいもんを見たな」

「やっと本格的な罠が出てきたね。注意していかなきゃ」

 

 シーナは特に慌てた様子もなく、新しい石を取り出し『①』という数字と、魔方陣のマークをペンで書き入れた。

 その石を罠のあった場所に投げ入れると、やはり魔方陣が発動し石はどこかに飛ばされる。

 そして、同じ行動をあと二回繰り返す。

 ついにボケちゃったのだろうか。まだ若いのに。

 

「シーナシーナ。何をしてんの?」

「ん? あぁ、転移トラップの対策だよ。こうしておけば、どこかで石を見つけたときにトラップの転移先がわかるでしょ。ランダム転移の可能性もあるから三回繰り返すんだよ」

 

 なるほど、そうやって対応するのか。確かに、ゲームなんかと違って試しに踏んでみるというわけにもいかないしな。

 説明してくれながら、サイードの持つ地図に『①』と記載させる。

 しかし転移トラップとは、いよいよダンジョンらしくなってきたな。これに乗らないと進めない階なんかも出てくるのだろうか。

 

「ちなみに、体の一部が魔方陣から出てた場合ってどうなるんだ?」

 

 転移の魔方陣は様々な作品に出てくるが、事故が起きる話はあまり聞かない気がする。これは俺がずっと気になっていた事柄だ。

 

「出てた場合? そりゃその分だけ置いていかれるに決まってるでしょ」

 

 怖っ! 転移魔法怖っ!!

 ほとんど即死級の罠じゃねーか!

 戦闘中に間違って踏んだら終わりだな。注意しないと。

 その後シーナは罠の発動する場所に何かの塗料を塗り付け、近くに『転移トラップ。注意されたし』と書き置きを残した。

 これが、転移トラップを見つけた場合のマナーなのだそう。

 

 11階にはミノタウロス。12階には転移トラップ。

 前半の子供騙しなダンジョンとはうってかわって難易度が上がってきている。

 依然として終わりは見えてこないが、慎重に攻略を進めるとしよう。

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