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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
50/76

47:ダンジョン攻略③

~トール~


 地下10階までは、特に苦労という苦労も無かった。

 魔物はいたし、罠もあったが死にかけるような目にはついぞ逢わなかったのだ。先頭を行くシーナが予想以上に優秀だったこともあるのだろうが。

 そういやウィルさんも以前に、シーナのことをそれなりの実力者とか言ってたな。結構長く冒険者やってる割に戦闘力は低めだが、戦闘以外では本当に何でもできる娘だった。

 ここに来る途中に見つけた罠は全て地図に記載しておいたし、帰りは相当楽になるはずだ。まあ、下らない内容の罠ばかりではあったが。

 踏むとどこからかケタケタ笑い声が聞こえてくる床、寄りかかると少しへこんでバランスを崩しそうになる壁。一番やばかったのでも、天井から生ゴミが降ってくる罠だな。

 全部シーナが先に見つけてくれて、安全を確保した上で発動させてきたが、生ゴミのシャワーはちょっと引いた。怪我こそしないものの、テンションは最低まで落ちることだろう。

 ちなみに財宝の類は一切見つかっていない。

 まあ探索済みのフロアだし、当然か。

 そして今、目の前には11階へと続く階段がある。

 問題はここからだな。ここまでに費やした時間は約7日間。内部の地図を持っていて、且つ最短ルートを選択してもこれだけの時間を要している。

 この先は事前情報一切無し。地図を描きながら進めばその分探索速度も落ちる。途中で魔物に襲われて逃げたりすれば、中で迷うことも十分に考えられるだろう。

 食料にはまだまだ余裕があるとはいえ、どこまで続くかわからないダンジョンだ。地下99階とかだったらもうお手上げだな。そういうのは兵站を確保してから軍隊とかで挑んでください。多分奥の方にはドラゴンとかいるんだぜ。

 

 ともあれ、マップを売っていた冒険者もこの先は進んでいないらしい。几帳面な性格のようで、全て埋めてから次の階に進むようにしてたのだと。RPGで無駄にレベル上がってしまうパターンだな。

 探索途中で物資が尽きたらしく、10階のマップは未完成のままだ。俺達としては階段がわかればいいので、特に問題はない。

 ここからは未曾有の領域。

 恐ろしい魔物がいるかもしれないが、その分財宝も期待できる。

 あとはウィルさん本人、もしくは何らかの情報が得られたら最高だな。

 

「ここからは何が起きても不思議じゃない。シーナには負担を掛けるだろうが、今まで以上に慎重に進もう」

 

 俺の言葉に頷き返す一同。

 

「よし、じゃあ行こう。隊列は今まで同様で。マッパーはサイード、頼む」

 

 

 

 

 果たして地下11階は、巨大なホールだった。

 いや、むしろドームと言ったほうがわかりやすいかもしれない。

 暗くて端まで灯りが届かないため、広さを測ることはできない。ただ、灯りが届かないほど広いということだけはわかった。ついでに天井も見えない。

 

「なんだこりゃ。いきなりマッピングの辛い部屋だぁな」

 

 目の前の光景にサイードがぼやく。

 確かに、これを正確にマップに起こすとなれば広さを把握する必要がある。ということは実際に歩いて確認していかないとならないのだ。この、壁が見えない部屋を歩いて。

 軽く死ねるわ。せめて両壁が同時に確認できる位置があればいいのだが、そこまで強い灯りは持参していなかった。

 

「まあ仕方がない。とりあえず、どこかの壁を目指して歩いていこう。シーナ、よろしく」

「はいよー。変な魔物がいなければいいんだけどね」

「おいやめろ。そんなフラグを立てるようなことを言うんじゃない」

「フラグ? フラグってなにさ。本当にトールは時たま意味のわからない……」

 

 ヴオオォォォォ……。

 不毛な争いを始めかけた俺達の耳に、遠くから響く声が聞こえてきた。

 声と同時に、壁と天井に灯りが灯る。どのような仕組みになっているかはわからないが、おかげで部屋の全貌が見てとれた。

 ついでに、声の主も。

 遠目に見えるのは、半裸の巨人。

 しかし、その頭部と下半身は人間のそれではなく、牛のような形をしていた。曲がりくねった角が禍々しさを際立たせている。

 手に持つのは長大なバトルアックス。筋骨隆々とした体躯から放たれる一撃はどれほどの威力があるというのか。

 一目でわかる。あれ有名な魔物だ。ミノタウロスだ。

 灯りがついたことで、こちらの位置を把握したのだろう。ゆっくりとした足取りで向かってくる。

 

「ほらあ! シーナがフラグ立てるから! 変なの出てきた!」

「あたし!? あたしのせいなのこれ!? いやいや元からいたんじゃん!」

「下らねえこと言ってねえで準備しろ! 来んぞ!」

 

 慌てる俺達に、サイードからの叱責が飛ぶ。

 とにかく倒すしかない。幸い、周囲には他に魔物は見つからない。この一匹だけに集中すればいいだけだ。

 武器を構えて待ち受ける。

 サイードとシーナが前衛。俺とメリアードは少し下がる形になる。

 

「奴の攻撃ぁオレが受ける! 巻き込まれねえようにしろよ!」


 サイードから指示が来る。あの斧の攻撃を受けられる自信があるのか。俺ならそのまま真っ二つになってしまいそうなのだが。

 ゆっくりと確実に近づいてくるミノタウロス。

 その距離が縮まるにつれ、奴の巨大さがはっきりとかわるようになってきた。

 目算で4メートルほどか。当然手にした武器も同程度の大きさがある。あんなのどこで手に入れたんだ。

 メリアードが急いで全員に補助魔法を掛ける。ウィルさんの結界ほどの安心感は無いが、有ると無いとでは全く違うはずだ。

 ミノタウロスはこちらを警戒する様子がない。たかが人間と、嘗めてかかっているのか。それとも武器を構えた俺達を見て、遠距離攻撃は無いと判断したのか。

 ところがぎっちょん。こっちには魔術師がいるんだぜ!

 ゆっくり歩くミノタウロスは、既に俺の射程内だ。

 先制して少しでも傷を付けられれば儲けもの。攻撃しない手はない。

 

「ウォーターバレット!」

 

 狙いは足。足を負傷すれば踏ん張れなくなるだろうし、斧の威力も落ちるはず。

 

「ウォーターバレット! ウォーターバレット!」

 

 連射する。攻撃を集中し、とにかく少しでも今後の展開を楽にしたいところだ。

 間違いなく命中はしている。あとはどれだけのダメージを与えられているかだが……。

 

「ウォーターバレット! ウォーターバレット!」

 

 ヴモオォオォォォ!!

 

 何発目かの水弾を放ったとき、ミノタウロスの雄叫びが響いた。

 地の底から響き渡るような声に、思わず身がすくむ。

 一息に飛び掛かってくると思いきや、ミノタウロスは雄叫びをあげながら、そのまま前のめりに倒れ込んでしまった。

 あ、あれ……?

 思った以上に魔法効いた?

 ボスキャラだと思って、牽制のために攻撃をしたら倒れてました。何を言ってるかわからないと思うが俺にもわからねえ。

 俺だけじゃなく、仲間全員が同じ表情で固まっていた。

 広い空間に、ミノタウロスの苦悶の唸り声だけが反響する。

 まだ演技かもしれない。そうだ、近付いたところでバクっとされるかもしれない。止めはしっかり刺さないと。

 倒れたミノタウロスの頭に指を向ける。

 

「ウォーターバレット!」

 

 たったそれだけで、4メートルほどあったミノタウロスは動かなくなってしまった。

 なんという見かけ倒し。ミノタウロスってもっとこう、ボスじゃないの? 主人公のトラウマの相手だったりするような敵キャラじゃないの?

 ろくに避けもしなかったし、まさかこの世界では大したことない相手なのだろうか。

 

「トール……お前ぇさん、一体何者よ……」

「瞬殺……ミノタウロスが一瞬で……しかもこんな大物が……」

 

 サイードとメリアードが、信じられない物を見る目でこちらを振り返る。

 いやそんな目で見られても困るよ。

 

「どうも見かけ倒しだったみたいだな。少し動きを鈍らせられればラッキーくらいに思ってたんだが」

「いやいやいや。トールやっぱり自覚ないと思うけど、ミノタウロスってまともに戦えば戦闘力2500くらいは必要な相手だからね?」


 シーナはやれやれといった感じに頭を押さえながら左右に振る。

 

「本当だぜ……。しかも前から気にはなってたがお前ぇさん、魔法の詠唱してねえよな?」

「あー、それは……えーと……」

 

 シーナ先生助けてください。

 視線で助けを求めるが、諦めたような顔をされてしまった。

 

「ここまで来たらもう隠し事ぁやめようぜ。オレらの事情も全部話すからよ。いいやなメリアード?」

「お兄ちゃんがいいなら、わたしは構わないよ。それよりトールさん達の話が聞きたいですね」

「俺は構わないんだけど……シーナ、いい?」

「トールが迂闊なのは今更だしねー。諦めて全部話しちゃいなよ」

 

 短い付き合いだが、この二人は信用に値すると思う。俺の事を知ったところで、態度を変えないと信じよう。

 

「わかった。それじゃ全部話すよ。その前に、今日はここで休むことにしようか。いい感じに魔物もいないし、食事でもしながら話そう」

 

 俺の意見に反対する者はいなかった。

 ミノタウロスの亡骸から有用そうなものを先に回収する。具体的には角と斧。斧は俺とサイードの二人掛かりでなんとか袋に投げ込むことができた。

 回収後はそのまま放置して、誰かが片付けてくれるのを期待しよう。

 

 

 テントを張り、焚き火をつける。

 もうすっかり慣れたため、皆の動きも早いものだ。

 俺がテントでサイードが焚き火。シーナとメリアードが食事の準備をしてくれる。

 今日のメニューは何かと期待していると、サイードがどこからともなく肉の塊を取り出してきた。

 

「今日はこれ使って焼肉にしようぜ」

「何の肉だよこれ。嫌な予感しかしないんだが」

 

 見た感じはただのブロック肉。しかし、表面にはなにかブツブツしたものが付いている。

 正直気持ち悪い。

 

「何って、牛タンだよ牛タン。そこに新鮮なのがあらぁな」

「うえ……。あれ食うのかよ。見た目半分人間じゃんか」

「だぁらタンだけ取って来たんだろうが。ここなら完全に牛だわな」

 

 見た目グロい肉の表面を器用に削ぎ落としながら言ってくる。

 何故かシーナとメリアードも目を輝かせてそれを見守っていた。

 え、ホントに食べんの? 気持ち悪くないの?

  

「ほれ、こんだけ綺麗にすれば食えんだろ。後は頼むぜ」

「はいよー。じゃあこれはあたしが切っておくね。味付けは適当にやっちゃうよ」 

 

 受け取った肉の塊をスライスしていくシーナ。

 まあ表面さえ綺麗にしてくれればただの肉ではあるが……。

 元の形なんか見なければよかった。屠殺場の映像を見ると肉嫌いになる人がいるというが、こういう気分なのだろうか。

 

 

 肉が焼ける音は食欲を誘う。例えそれが元々気持ち悪い肉であっても、スライスして焼いてしまえばただの焼肉である。

 焼肉に罪はない。女性陣も旨そうに食べている。

 ここで食べなければ負けな気がしてきた。

 ならば食べよう。元々、俺が屠った相手だ。弱肉強食のこの世界。文字通り、肉を食わせていただきます。

 

 こりこりした食感に力強い風味。噛む度に体力が付きそうに錯覚する。

 シーナの作った柑橘系のタレが、またいい感じに肉の味を引き立てていた。

 結論。ミノタウロスは旨い!

 

 

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