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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
47/76

44:面接と打ち合わせ

~トール~


『ダンジョン攻略パーティー募集中! 求前衛一名! 当方魔術師、斥候の二名。報酬山分け。必要戦闘力800以上。

 ☆未経験OK☆アットホームなパーティーです☆仕事は先輩が優しく教えてくれます☆』

 

 ギルドに戻った俺達は早速、仲間募集の依頼を出した。

 宿の場所は伝えてあるから戻っても構わないのだが、せっかくなので暫くギルドで待ってみよう。

 同時に大量に応募が来たらどうするのか困ってしまうと思ったが、シーナが言うにはその心配は無いようで。

 どうやら通常のクエストと同じように、掲示板から用紙を剥がして受注するらしい。そこで募集主の名前と居場所を教えてもらえるのだとか。

 剥がされてしまえば、他の冒険者からはもうわからない。そのため、応募が殺到するようなことは無いのだと。

 その代わり、お互い納得がいかず破談となった場合はもう一度ギルドまで依頼しにいかないといけない。良くできているのかどうか、怪しいシステムである。

 ちなみにギルドのお姉さんには、暫くここで待つと言ってある。応募があれば案内して来てくれるはずだ。

 

 用意する道具を相談しながらワクワクソワソワすること約一時間。案外早く応募者は現れた。


「あんたらかい、ダンジョン攻略募集を出したパーティーってのは?」

「ん? ああそうだけど……」


 今回俺達が募集したのは前衛一名。

 目の前に立つのは水色の髪を持つ男と女。

 二人じゃん! 二人来ちゃったじゃん!!

 これはお祈りメールを一人に送らないといけないパターンなのかと思ったが、どうみても片方は前衛らしくない見た目をしている。どういうこっちゃ。

 

「募集が一人なのはわかってる。そこを承知で頼む! オレ達をパーティーに入れてもらえないだろうか!」

 

 残像でも見えそうな勢いで、頭を下げて懇願してきた。

 

 

 

 とりあえず話を聞こうと面接開始。

 俺とシーナが隣同士に座って、テーブルを挟んで応募者二人といった形になる。


「まずは自己紹介かな。俺はトール、魔術師です。よろしく。で、こっちが斥候のシーナ」

「シーナです。見ての通り獣人です。よろしくね」

 

 こちらから先に自己紹介をする。

 

「オレはサイードだ。剣士で、戦闘力は1000ちょい。こいつは妹の……」

「メリアードです。簡単な支援魔法くらいなら使えます」

 

 なるほど兄妹か。それなら二人で来るのも合点がいく。というか、もしかしなくてもさっき見た二人組だよな。二階で揉めてた二人組だよな。

 こんな特徴的な髪色、見間違えようはずもない。やっぱり兄妹だったのか。

 こうして改めて見てみると、二人ともかなり整った顔をしている。

 サイードは短く切った髪を何らかの整髪料で適当にまとめている感じ。あまり気を使っている髪型には見えないが、どこか爽やかさを感じるのは『ただしイケメンに限る』というやつなのだろうか。ムキイ。

 そのイケメン、吊り上がった目尻が猛禽類を連想させた。

 対して妹のメリアードは、兄と同じく水色の髪。長く伸ばしたそれを、左右側頭部の上のあたりで黄色いリボンを使って結んでいた。ツインテールってやつか。頭の上で結んでいるのに、その先端は腰の辺りまで到達している。これ、ほどいたらどれほどの長さになるんだろうか。

 こんなの二次元限定だと思っていたが、まさかリアルでお目にかかることになろうとは。眼福眼福。

 流石兄妹といったところか、顔立ちはよく似ているのだが、妹の方は若干のんびりした感じがする。

 多分だが、サイードは俺より歳上。メリアードはシーナと同じくらいだろう。見た目からの勝手な印象だけどな。

 サイードは見るからに剣士といった格好で、動きやすそうな革鎧を身に付けている。俺とキャラ被るなこれは。イケメンなあたりもな。そう、イケメンなあたりが特にな。死にたい。

 メリアードは神官服。二人とも黄色をメインにした服で統一しているようだ。黄色い服に水色の髪。黄色と水色……どこかで見覚えのあるカラーリングだな……。

 何故か無性に梨が食べたくなってきた、日本が恋しい。

 


「サイードにメリアードね。さて、では当社を希望した理由を教えてください」

「トウシャ? はわからんが希望したのは他に募集が無かったからだな」


 はい、正直に答えてくれてありがとうございます。日本なら即不採用になる回答ですね。

 隣でシーナが震えながら笑いを堪えてるのが腹立だしい。

 

「お兄ちゃん、それじゃ駄目だよ。もっと相手の立場になって答えなきゃ」

「む。例えばどんな風にだ?」

「私達がこのパーティーを希望するのは、素敵なメンバーに憧れを抱いたことと、その目標がとても魅力的に感じられたからです。また、私達の能力を十分に引き出してもらえる環境だと思いました」

「おお、それだ。それでいこう」

 

 そういう相談は裏でやってもらえませんか。

 シーナなんか腹を抱えて本格的に笑いだしてるんだけど。

 首筋にチョップをかましてやったら「みぎゃっ!」と鳴いて机に顔面から突っ伏した。恨みがましそうな目で目で見てくるが気にしない。

 

「よし、真面目な話をしようか。二人は何故ダンジョンに? やっぱり財宝目当て?」

 

 このままでは埒があかないので無理矢理話を戻す。

 俺の素性がばれても問題がないか、しっかり見定めないといけないのだから。

 俺の質問に、二人は顔を見合わせる。なんだ? アイコンタクトか? 目と目で通じあってるのか?

 ややあって、兄のサイードが口を開いた。

 

「まあ財宝狙いだぁな。ちょっと欲しい物があんのよ」

「正確には、土の精霊の力が宿った魔道具を探しているんです。土地の環境を良くするような道具ですね。ダンジョンを作ったと言われる土の精霊使い様に、直接お会いできればそれが一番なのですが」

 

 魔道具狙いか。確かにダンジョン内には精霊の力が宿った魔道具があると言われている。

 しかし、土地の環境を整えるか。畑を耕すのにでも使うのかね。

 

「お願いします。そのような魔道具が見つかった際は譲っていただけないでしょうか。その他の報酬は全て不要ですので……」

 

 何卒お願いいたします。と頭を下げてくる。

 あれ? いつの間に分配の話になってるんだ?

 まだ採用って言ってないよな俺。既に断れそうにない空気になってしまっているんだが……。

 まあいいか! 元々前衛だけ募集していたところに支援魔法まで付いてきて、更に分け前はいらないと来てるんだ。悪い奴等では無さそうだし、何かあればシーナの幸運頼りでなんとかしよう。

 

「うん。俺は特に構わないと思う。シーナはどうだ?」

「あたしも問題ないよ。でも、目的の物が見つからなかったときはどうする?」

「そんときは当初の予定通り山分けで頼みてぇな。あ、オレらは二人合わせて一人分で構ぁねえからさ」

 

 なるほど美味しい条件である。

 どちらに転んでも俺達に損は無さそうだ。問題は俺の方だよなあ。

 

「分配についてはわかった。その条件でいこう。で、だ。ここからが重要な話になるんだけど、ダンジョンの攻略方法についてな」

 

 一旦前置きしてから説明を始める。適当に聞き流されても困るからな。

 

「まず、俺達の攻略方法は一般的なものとは違ってくると思う。徒歩で進むのは変わらないけど、物資の心配がさほど必要ないんだ」

「なんだそりゃ。まさか空間魔法の使い手でもいんのか?」

 

 サイードがケラケラ笑う。メリアードの方は少し考え込んでいるようだ。

 

「空間魔法を使えるのであれば徒歩で攻略する必要がありません。ということは、それに準ずる何らかの魔道具をお持ちということでしょうか」

「ご名答。ちょっと色々あってね、空間魔法が掛けられた道具袋を持っているんだ。だから荷物の心配はいらない。食料なんかもいくらでも持っていけるから、攻略に時間がかかったところで問題はない」

 

 兄と比べて、妹のメリアードは頭の回転が早そうだな。

 

「おいおいマジか? そんな魔道具持ってんなら売れば一生遊んで暮らせんじゃねえのか?」

「勿論、この事は内密に頼みたい。とまあ、そういうことで最奥部まで何日かかるかはわからないけど、余程不測の事態が発生しなければ到達は可能だと思ってる」

 

 大真面目に話す俺に、サイードは未だ疑いの表情。疑り深いのは結構だが、事実は事実として認めないと先に進まないぜ。

 実際に見せてやれば話は早いが、ここでは人の目が多過ぎてまずいな。

 

「こっちも事情があって、このダンジョンを作った精霊使いを探しているんだ。他の連中に先を越される前に、何としても攻略したい」

「さすがに今すぐ出発はきついだろうから明日の朝イチで出ようと思うけど、そっちはどう? 準備は間に合いそう?」

 

 俺の言葉にシーナが補足してくれる。


「わたし達は問題ありません。むしろ荷物に関しては、そちらにお世話になる形で良いのでしょうか」

「ああ。ある程度纏めて貰えれば一括して預かるよ。管理については……まあ信用してもらうしかないけどさ」

「かしこまりました。可能であれば準備段階から調整していきたいのですが、この後ご一緒してはいただけませんか?」

 

 ふむ。至極ごもっともな意見。そもそも一緒に買い物行かないと荷物預かれないしな。

 

「そうだね。じゃあ親睦も兼ねて買い物でも行こうか。それが済んだら攻略の成功を祈願して前祝いといこうじゃないか」

「お、いいな。明日早えならそこまで騒げねえだろうが、親睦は大事だぁな!」

「おやおやー。サイードはいけるクチ? いやー。トールは全然飲んでくれないから物足りないんだよね」

「お? お嬢ちゃん、あーっと……シーナちゃんだったか。ひょっとしてかなり飲めるのか?」

「にゅふふ。まっねー。これは楽しみになって来ましたなあ!」


 すっかり意気投合する二人。

 飲みニケーションは異世界でも通じるものがあるのか。俺は未成年だからわからないが。

 

「お兄ちゃん、あんまり飲みすぎたら駄目だよ? 明日はお兄ちゃんが、皆を護る立ち位置なんだからね」

「なあに、多少飲んだところで支障はねえやな。任せとけって」

 

 剣士と斥候の二人が二日酔いだったらとても攻略どころじゃ無くなりそうだな。

 しかし先程から見ているとこの兄妹はかなり仲が良さそうだ。とても羨ましい。俺も妹が欲しい。

 シーナも妹みたいなものだが、初めて会ったとき以来、お兄ちゃんなんて呼んでくれないしな。

 目の前で実際の兄妹を見てしまうと余計に憧れてしまう。

 

「なあシーナ」

「なあにトール」

「ちょっと、お兄ちゃんって呼んでくれよ」

「お兄ちゃん、超キモい」

 

 俺は泣いた。

 


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