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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
46/76

43:ダンジョン発見

~トール~


「おい聞いたか。カイナルのパーティーも攻略に失敗したらしいぜ」

「またかよ。今回は人足も雇ってかなり本気だったんじゃなかったか?」

「それが傑作なんだよ。一ヶ月分くらいの食料を持ち込んだらしいんだが、雇った連中が途中で罠に嵌まって食料を駄目にしたんだとさ。結局、往復一週間くらいで出戻ってきてやがんの」

「罠に嵌まったって、犠牲者が出たのか? あそこはやたら長いだけで、今のところそこまでやばい罠があるとは聞いてないんだが」

「そこ! そこなんだよ! 嵌まった罠っつーのがさ、ただの浅い落とし穴だっていうんだよ! その中に、汚物が大量に入ってたんだと!」

「ぎゃっはっは! そりゃあもう食えねえわな!」

「だよな!? そんなくだらねえ罠に掛かるとか、どんだけ素人だっつうんだよ!」

「やべえ! あのスカしたカイナルの野郎が落ち込む様子が目に浮かぶわ!」

「違えねえ! 帰りの道とかすげえ臭かったんだろうな!」

 

 冒険者ギルドに顔を出した俺達の耳に飛び込んできたのは、最近できたダンジョンの噂だった。

 どうやら探索に出たパーティーが失敗したらしい。

 ギルド内で聞こえてくる会話はほとんどがダンジョンの話題のうだ。

 ダンジョンってあれだろ。入る度に形が変わるやつだろ。地面に落ちてるパンとかおにぎりを食べながら攻略するやつだろ。あんなの食ったら普通に腹壊すって。

 それとも、『いしのなかにいる』のほうか。だとしたらちょっと怖い。昔はオートマッピングすらなかったらしいしな。

 ともあれ、これだけ噂になっているとやはり気になるものだ。

 

「なあシーナ。ダンジョンだってよ」

「ダンジョンだってね。何? 興味あるの?」

「そりゃまあ、冒険っつったらダンジョンは付き物だしな。あれって具体的にどういうものなんだ?」

「一口にダンジョンって言っても色々あるよ。ただの洞窟っていうのもあるしさ。ウィルの家だって広義的にはダンジョンに含まれるはずだよ」


 驚愕の事実。俺はダンジョンに住んでいたのか!

 ということはウィルさんがダンジョンマスターになるわけだ。そういえば階段途中に動く石像が沢山あったし、最奥に待ち受けるのはやたら強い女の子と、二人の精霊使い。ひょっとして実はかなり難易度の高いダンジョンだったんじゃないだろうか。攻略すればお宝の山だったけど。

 

「話を聞くに最近できたダンジョンらしいし、まだ財宝とかも残ってるんじゃないか? 行こうぜ行ってみようぜ」

「うーん……まあ罠の類は大体見破れる自信あるけど……実際に行くんであればしっかりと情報収集と準備しておかないと危ないよ?」

 

 ダンジョンと聞いて沸き立つ俺と、至極冷静なシーナ。

 準備が必要なら準備をすればいいじゃない。

 

「よーし、まずは情報収集だな。こういうときはどこに行けばいいんだ? やっぱり酒場か?」

「酒場なんて行ってどうすんの? 酔っ払いの武勇伝ほど信用できないものは無いでしょ」


 俺の常識はこちらでは通用しないらしい。

 ちょっとショックを受けている俺に、シーナは続ける。

 

「こういう情報が欲しいならギルドで聞くのが早いよ。噂話も集まるし、冒険者の動きも監視してるからね」

「なるほど。話を聞きに行くならやっぱり二階か?」

「ご名答。わかるようになってきたじゃない」

 

 笑いながら背中をバシバシ叩いてくる。

 誉めてくれてるんだろうが、痛いです。俺のステータスは魔力以外スッカスカなんだぜ?

 さすがにコウモリの糞にあっただけで死ぬほどではないけどな。


 ギルドの作りは大体どこの街でも同じらしい。

 ともあれ、ダンジョンの情報を求めて二階へ。

 これまたどこの街でも同じなのか、やはり二階にはあまり人がいなかった。

 クエスト依頼の受付に、冒険者風の男女が一組いるくらいだ。なんか揉めているみたいだな。

 

「だーかーらー! そこをなんとか頼んでるんだって!」

「いえ、ですから何度も申し上げているとおり、そういうことはギルドでは承諾しかねるんですよ」

 

 大声をあげているのは男の方。もう一人は男の傍らで顔を俯かせ、大人しくしている。

 いったい何を揉めているのかわからないが、話は平行線を辿っているよう。長くなりそうな雰囲気だな。

 受付は一つしかないし、ダンジョンの話を聞こうにも今は埋まっている。

 

「トールどうする? 一旦帰る?」

「うーん。なんか長くなりそうだよなあ。また後で来るか」

 

 引き返す方向でシーナと相談していると、男の方が俺達に気付いたらしい。

 

「む。とりあえず今日は帰るよ。また来るからな!」

「何度来られても、ギルドではそういったことは受け付けられません!」

「ぐぬぅっ……!」

 

 打ちのめされたように受付から離れる二人。

 二人とも同じような水色の髪をしている。よく見れば顔もどことなく似ているようだし、兄妹なのかもしれない。

 俺達とすれ違い様、男の方が声をかけてきた。

 

「兄ちゃん、悪いな待たせちまって。仕事の依頼か? うまくいくといいな」

 

 特に会話がしたかったわけではないのだろう。声だけかけて、そのまま立ち去っていった。

 依頼に来たわけではないのだが……わざわざ訂正するものでもないからまあいいか。

 こちらを気にしてくれる態度を見るに、そんな悪い人物ではないのかも。

 おっと、そんなことはどうでもよかった。せっかく受付が空いたならダンジョンについて訊ねないと。

 

「ええっと、最近できたっていうダンジョンについて聞きたいんですが」

「はい。例のダンジョンですね。あのダンジョンができたのは半月ほど前のことになります。なんでも、土の精霊使いを自称する人物が突然現れて作ったのだとか」

「「土の精霊!?」」

 

 俺とシーナの声が被る。

 

「はい。その人物はある日この街の広場に現れて、こう宣言したそうです。『僕は土の精霊使い。明日この街の近くにダンジョンを作る! 中には財宝も用意しておくから攻略を楽しんでほしい! 当然危険もあるけど、諸君らの挑戦を楽しみにしている!!』その時は誰も相手にしなかったようですが、実際にダンジョンができてしまっては、疑うわけにはいかないでしょうね」

 

 半月前、土の精霊。

 偶然にしては出来すぎている気がする。

 しかし、ウィルさんが俺達に黙ってダンジョン作りなんてする理由が思い付かない。

 

「シーナ、どう思う?」

「微妙かなあ。今のところはウィルっぽくもあるけどさ」

「なんにせよ、確かめないわけにはいかなくなったな」

「そうだね。はぁ、ダンジョンかあ……」

 

 なぜか溜息をつく。俺はこんなにテンションが上がっているというのに。ダンジョンに嫌な思い出でもあるのだろうか。

 

「ダンジョンができてから、皆さんよく挑戦されているようです。内部には罠や魔物も存在するようですが、今のところ死亡者は確認されていません。ただ、非常に深いとのことですね。物資が足らずに途中で引き返す方が多いようです」

 

 なるほど、ダンジョン内ではそりゃ食料の確保なんてできないからな。パンなんか落ちているわけがない。

 荷物を持てる量には限界があるし、荷物持ちの人数を増やせば分け前が減る。その辺りを天秤にかけながら準備をしないといけないのだろう。

 

「未だ最奥部まで到達した方はいないようですが、途中で財宝なども確認されているようです。精霊の力が込められた魔道具が発見されています」


 精霊の力を込めた魔道具といえば、かなり高価な部類に入る。性能はピンキリではあるが、通常の魔道具とは比較にならない価値があるはずだ。

 ウィルさんだったらそのくらいは作れそうな気がするな。

 

「ダンジョンの概要は以上です。何かお聞きしたいことはありますか?」


 お姉さんの説明が終わった。聞きたいこと、何かあるかな。

 

「魔物が出るみたいだけど、どのくらいの強さかってわかります?」

 

 悩んでいたらシーナから質問が飛び出した。確かにそれは大事な情報だな。

 

「現在確認されているところでは大した魔物はいないようです。スライムやスケルトンといった下級の魔物ですね。戦闘力500程度あれば討伐は可能かと思われます。但し、ダンジョン奥地は未開拓状態のため、何が出てくるかは定かではありません」

「ス、スライム……」

 

 スライムと聞いて、シーナが露骨に嫌そうな顔をする。スライムなんて雑魚の代名詞くらいに思っていたが、苦手だったりするのかね。

 しかし戦闘力500か。数値的には全く問題ないが、やはり二人だけでは不安が残る。シーナは戦闘向きではないし、俺は魔力特化すぎるため、バランスが取れていないのだ。俺達以外に前衛がいてくれたら安心なんだけどな。

 

「今、ダンジョン攻略を募集しているパーティーとかってありますか?」

 

 物のついでに聞いてみた。

 

「今は特に出ていなかったと思いますよ。難易度が低そうということで、皆さん少人数で挑戦されていますので」

 

 これは残念。

 とりあえず聞きたいことは聞いた。お姉さんにお礼を言って受付を後にする。細かいことはこれからシーナと相談だな。

 

 

 ちょっと遅めの昼食をとりながら作戦会議。

 ちなみにこの街ではコロッケが有名らしい。

 地元で採れる芋とゾーアの挽き肉を同じ量だけ混ぜて、衣を付けたあとに高温の油で揚げられている。

 サクッとした衣を破ると、中から肉の油をしっかりと吸い込んだ芋が顔を出した。粗めに潰された芋は程よい食感を残していて、空腹間を満たしてくれる。

 味付けは控えめながらも、素材がいいのか芋と肉の味をしっかりと堪能することができた。

 要するに、ンッマアアアアアイ。

 肩からソフトボール大の垢が取れるほどのレベルではないが、これは非常に美味い。なんだろう、芋がやっぱり違うんだろうか。

 クレドールコロッケ。この街にいる間は毎日食べることにしよう。どうにか冷凍して持ち歩いたりできないもんかなこれ。

 いや待て。油とオイルポットを買えば旅先で揚げ物作れるんじゃないか。レパートリーが一気に広がる発見をしてしまった。

 まあそれは置いておこう。

 

「さて、とりあえずダンジョンのことはわかったけど、何を準備すればいいものかね」

「もう行くのは決定なんだ。となれば、灯りと食料は多目に持っていきたいところだね。あとは人数ももう少し欲しいところだけど……」

 

 チラっとこちらの顔を伺ってくる。

 

「やっぱり懸念は俺か? でも一緒に行動してたら絶対ばれるし、普通に荷物なんて持ってたら他の連中と同じ所までしか進めないよな」

「そうなんだよねー。あたしらの場合は荷物量にほぼ上限が無いから食料問題は解決なんだけど、それを知られて平気な人がいるかどうかだよね」

 

 シーナの心配は俺の素性が割れること。

 噂が広がってしまうと誘拐の危険すらあると言われているし、俺もあまり広めたくはない。

 だが、このダンジョンをウィルさんが作った可能性がゼロでなければ素通りはしたくなかった。今は少しでもウィルさんに関する情報が欲しいところなのだから。

 

「とりあえず募集だけかけてみて、あとは話してから考えるか? 」

「そうだね。人が来てくれるかはわからないけど、まずはやってみようか」

 

 シーナは心配しているが、実のところ俺はそこまで不安を感じていなかった。

 だって、うちのパーティーには『幸運』がいるんだぜ。こんな主人公スキルを持ったシーナがいれば、大抵のことはどうにかなるはずだ。本人に自覚はないようだけども。

 食事が終わったらもう一度ギルドに顔を出してみよう。それで仲間を募ることにする。

 募集は前衛。さーてどんなのが来ることやら。

暫くトール編が続くと思います。

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