42:ついに新たな舞台へ!
~トール~
装備よし! テントよし! 食料よし! その他もろもろよし!
宿の中で荷物の最終確認を行い、確認できたものから順に道具袋へ突っ込んでいく。
食材は日持ちするものを中心に、一週間程度はなんとかなる量を用意した。とはいえ、ここから次の町へは乗り合い馬車を使うらしいので、特に使う場面は無いと思われる。
手ぶらだと流石に怪しまれるため、ダミーの荷物も用意した。見た目は大きく、重さは軽く。完璧だ。
馬車は朝から出るそうなので、この後すぐに出発となる。順調であれば三日後には次の町に到着できるようだ。
どういう町なのかは敢えて聞いていない。ただ、シーナが言うにはそこそこ大きい町とのことで、ご飯も美味しいらしい。
そこでウィルさん達の情報を集めながら、ギルドのクエストをこなすことになりそうだ。ここでは採集ばかりやっていたが、そろそろ俺も討伐クエストを受けてみたい。シーナと二人で危険なら、仲間を増やしてもいいわけだしな。
仲間、仲間かー。一緒にいて楽しくて、尚且つ俺の素性を隠さなくていい相手じゃないと駄目なんだよな。
出来れば前衛。更に欲を言えば同じくらいの歳の可愛い女の子がいい。もっと欲張らせてもらえば、相手の攻撃を避けるか受け流すかできるくらいの技量を持っていて、心配しないで見ていられる人がいい。
はい。どう見てもエティです。本当にありがとうごさいました。
ウィルさんとエティとシーナと、四人で冒険できていたらどれだけ楽しかっただろう。戦力的にも金銭的にも、何一つ不自由のない旅だったんだろうな。
いや、別にシーナと二人旅がつまらないってわけではないけれども。
正直、ウィルさんのなんでもありっぷりなら、ある日突然空を飛びだしたりしても驚かないだろうな。空を飛ぶキャラが出てくるとパワーのインフレが始まる流れになってしまうが、ウィルさんなら許せそう。
馬車の乗り場は朝から混んでいた。
というか、この世界の人は朝早くから行動する習慣があるみたいだ。日本と違って、夜が暗いというのもあるかもしれない。
朝早く起きて、夜も早い時間に寝るリズムになっているのだろう。まあ、朝早くから夜遅くまでずっと仕事をしている日本人の方が異常なのかもしれないが。
閑話休題。
俺達が乗る予定の馬車は四頭引きで、店員は十名プラス御者と荷物といった、割と大型のものらしい。
俺の知っている馬はたった一頭で巨人だのドラゴンだのを乗せた車を引いていたが、あれは化物だったんだな。
ちなみに同乗するのは四人組の冒険者と、一組の男女。
二人分の席は埋まらないまま出発となるようだ。
馬車の中では、グループに関係なく全員での楽しく談笑。これぞ旅行の醍醐味……なんてなるはずもなく、普通に身内同士で固まって会話している。
そりゃそうだ。バスに乗って他の客に声かける奴がいたら迷惑だよな。
いや、それよりも揺れが酷い。道は踏み固められているとはいえ、舗装なんてされておらず、馬車は車軸に直接車輪が接続されている構造だ。当然サスペンションなんて効いているはずもなく、更には座席にクッションも無いため、振動がもろに来る。
皆よくこんな状態で会話なんかできるな。俺は舌を噛まないようにするので必死だよ。
早く……早く今夜の宿についてくれ……。
「うぅ……気持ちわりい……」
「トール大丈夫? ずっと調子悪そうだけど……」
頭痛い、ふらふらする、吐きそう。
つまり完全に車酔いです。
今俺は、今日の宿として宛がわれた部屋のベッドで横になっている。
俺の顔を覗きこんで心配してくれるシーナの姿が視界の端に納まるが、もう全然大丈夫ではなかった。夕飯で呼ばれる前にはなんとか復活してくれるといいんだが……。
車酔いの対策は、空腹にならないことと睡眠時間をしっかり取ること。何かでそう読んだ気がする。
今日は無理にでも食べて、さっさと寝よう。
しかしその日の夕飯に出てきたラビシュ肉フルコースは、盛大に俺の胃袋を攻撃してくれた。
翌朝。今日も朝早くから出発する。
睡眠はしっかり取ったし、軽い朝食も食べた。二日目だから多少慣れもあるだろう。今日こそは酔わないはず! 危なくなったら窓の外でも眺めるようにしよう。
そう思っていた時期が、俺にもありました。
無理無理。こんなのそう簡単に慣れるわけがないって。
今日も朝からばっちり酔わせて頂きましたともさ。シーナには悪いけど、また暫くだんまりになりそうだ。
「あ、トール見て見て! ほら、森を抜けたよ!」
シーナがそう声をかけてきたのは、昼をやや回った頃。
釣られて外に目をやって、驚愕した。
どこまでも続く緑の平原。雲一つない真っ青な空が頭上に広がり、やがて緑と青が重なったところで地平線がはっきりと確認できる。
日本にいたら一生見ることはできなかったであろう雄大な自然を前に、知らず心が踊っていた。
「うおー! すげー! でけー!」
思わず声に出してしまう。
なんか遠くの方で四足の塊が動いているのが見える。えらく大きいように思うが比較できる物がないため、正確にはわからない。あれか、フィールドボスってやつか。
年甲斐もなくはしゃいでしまった。周りの視線が気になるけど、まあいいか。
「よかった。やっと元気でた?」
シーナに言われて気付く。そういえば頭痛も吐き気もおさまっていることに。
気が紛れたっていうのもあるけど、ひょっとしたら初めての馬車で緊張していたのかもしれない。
「悪い。心配かけた。多分もう大丈夫だと思う」
「そっかそっか。それならよかったよ」
現金なもので、酔いが覚めてくると途端に楽しくなってくる。外の景色を堪能しながらシーナと雑談していたら、すぐに今日の宿についてしまった。
昨日はグロッキーであまり覚えていないが、乗り合い馬車で移動する場合は一定の距離毎にこういった宿が用意されているらしい。
各グループで部屋も与えられ、ベッドと食事までついている。さすがに風呂は付いていないものの、水場で体を拭くことくらいはできるので我慢。
アメリカにあるモーテルみたいな感じかね。勿論行ったことなんてないからイメージだけども。
宿には専属の管理人兼警備員が住み込んでいて、防犯対策もばっちり。
馬車を防壁代わりに並べて、その中で焚き火を囲んで野宿する、とかはしなくていいんだな。
思っていた以上に快適な旅が整えられているようだ。馬車が揺れる以外はな!
ちなみに目的地には明日の昼頃に到着予定らしい。何も問題が起きなければ、という前提ではあるが。
夕飯は今日も元気に肉料理。お肉最高。
「着いたーーーーー!!」
「はい、お疲れ様ー」
馬車を降りて大きく伸びをする。
いやー、腰が痛い! 尻も痛い! あとやっぱり少し気持ち悪い!
旅のテンションで抑えられてる感じがする。まあ放っておけばよくなるだろう。
「さて、シーナさん。ここの説明をお願いします!」
馬車の降り場から出る前に、シーナに訊ねる。
「えっとね。ここはクレドールっていう街で、広さはこないだまでの村の大体三つ分くらいかな? ウィルのところの庭よりは狭いと思うよ。来る途中に気付いてると思うけど、街の周りはほぼ平原が広がってるからクエストはあんまり期待しない方がいいね。どちらかというと交易都市とか、中継点っていう感じの街かな」
なるほどなるほど。人は集まるけどここ自体に何かがあるわけではないのか。
交易都市ってことはそれなりに情報が集まる場所でもあるわけだ。うまくすればウィルさん達のことが何かわかるかもしれない。
「なるほどな。じゃあとりあえず宿を確保して、情報収集といくか」
「うん。ついでに冒険者ギルドにも顔を出しておこうよ
。手持ちの薬草を納品できるかもしんないしさ」
「そうだな。なにか面白そうなクエストでもあればいいんだがなあ」
「この街でそういうのは期待しない方がいいんじゃないかな。あっても商隊の護衛とかくらいだろうね」
「まあ行くだけ行ってみるか。覗くだけなら無料だしな」
特に期待していなかったギルド。
しかし俺達は、そこでとんでもない情報を手に入れた。
なんと、街の近くで最近新しいダンジョンが発見されたというのだ。