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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
41/76

38:旅立ちの準備をします①

~トール~


 今日は一日お買い物。ある程度二人で旅に必要なものを揃えてから、あとは自由行動の予定だ。

 個人的に欲しい品物は自由行動中に買うことに決めた。

 空間魔法のかけられた道具袋は一つしかないため、シーナの私物は一度別の大きい袋に纏めてから放り込むようにする。

 そして俺はその袋は絶対に開けない。それがルール。破ったら本気で見捨てられるかもしれないので、ちゃんと守るようにしよう。

 

 

 

「お金もある。何を買っても持っていける。これって素晴らしいことだね!」

 

 隣を歩くシーナは朝からすこぶる機嫌が良かった。

 荷物の心配なく買い物できることが相当嬉しいらしい。

 まあ普通は必要最低限しか持っていけない上に、何か事故が起これば荷物を全て捨てる場合すらあるわけで。折角気に入った品物があっても購入を躊躇うんだろうな。

 そう考えればシーナのこのご機嫌も理解できる。素晴らしい物をくれたウィルさんに感謝。

 

 ということで、まずは雑貨屋から見学することに。

 

「ようこそいらっしゃいませー! どうぞ、ごゆっくりお選びくださいませー!」

 

 店に入ると明るい声の店員さんが迎えてくれた。

 そこそこ広い店内は一階と二階とでフロア分けされており、それぞれで用途別の品物を展示してあるらしい。

 一階は調理器具や掃除道具などの屋内商品。二階はテントや寝袋、ランタンなどの屋外商品といった具合のようだ。

 日本でよく見たホームセンターを小さくしたような感じかね。あの頃は欲しいものがあっても眺めるだけで終わっていたけど、今は違う。何せ、予算は銀貨百五十枚。日本円なら約百五十万円もの大金を持っているのだ。

 余程無駄遣いをしなければ、欲しいものなら大抵買える程度の額になるはず。

 この後の自由時間を考えると全部使うわけにはいかないが、ここで色々揃えておくことになる。

 まずは一階の調理器具から。エティがいた頃は料理は全て任せていたが、今は二人で協力しながら作るため、道具選びには当然俺も参加する。

 

「やっぱり包丁は何本か欲しいよな。肉用、野菜用でわけたいから。あ、砥石も必要だな」

「あたしはそこそこ大きいお鍋が欲しいなー。体も暖まるし、作るのも簡単だしさ」

「あー。鍋はいいなあ。適当に突っ込んだらどうにかなるもんな。煮込むための水は困ることないしな」


 そんな話をしながら選んでいく。基本的に意見が食い違うこともなく、スムーズに買い物は進んだ。

 若い男女が調理器具を大量に買い込む姿って、店員さんの目にはどう映ってるんだろうか。それとなくシーナに言ってみたいが、怒られるかもしれないからやめておこう。

 そのまま一階で買い物を続け、金串やら食器やら香辛料の類も購入。やはりファンタジーの定番なのか、塩はやたらと高かった。節約しなきゃと思う反面、商売の臭いがプンプンする。いつか港町なんかで安く見つけたときは大人買いしてやろう。

 ちなみに会計はシーナに任せる。うちの財布は彼女が握っているので。

 シーナは最初、全ての報酬を折半にしようとしていたが俺の方から辞退しさせてもらった。

 俺が大金を持っていたって、誰かにスられたり盗まれるのが落ちだ。それなら警戒心の強いシーナに持っていてもらった方がいい。『幸運』なんていう能力だってあるし、落とす心配も無いだろう。

 俺はいざというときのために、数日生活できる分の小遣いがあればいいと思っている。

 ということで、支払いはいつもシーナの担当。甲斐性なしとか言わないでください。

 そりゃ俺だって女の子の前だし、「支払いは任せろー。バリバリ」とかやってみたいけど、そういうのは軽食を食べ歩くときくらいでいいや。マジックテープの財布も持っていないしな。

 財布の紐は、しっかり管理できる人が握っていた方がいいんです。

 

 

 一階での買い物を終え、二階へ移動する。

 購入品は物陰でこっそり俺の道具袋に収納した。なんだか万引きしているみたいな罪悪感にかられる。なにも悪いことはしていないなずなのに。

 

 二階はアウトドア商品ということで、心引かれるものが大量に置いてあった。

 野外用の寝具は種類が豊富だし、火の魔法が込められていて簡単に焚き火を起こせるような魔道具も置いてある。

 更には各種場面で役に立ちそうなフック付きロープや、非常食なんかも揃っていた。

 ある程度の必需品はシーナも持っているようだけど、嵩張るものは用意してないそうなのでここで揃えよう。


「まずは寝具だな。熟睡するのはまずい気もするけど、疲れが取れない睡眠に意味は無いからな」

「うんうん。見張りは交代ですればいいし、寝るときは良い環境で寝られた方がいいよね。あ、見てこれ。なんか凄いテントがあるよ!」

「どれどれ……『認識阻害の結界魔法が刻み込まれたテントです! 魔物が蔓延るダンジョンや森の奥でも安心! 寝苦しい夜のお供にいかがですか!』とな。ほほうこれはこれは……うわ、高!」


 値札を見て驚いた。銀貨五十枚。

 他のテントは高くても銀貨五枚といったところなのに、こいつだけ突拍子のない値段が付けられていた。

 ということはそれだけの性能も期待できるのだろうが、問題はやはり値段。

 予算には余裕があるし、買えないわけでもないのだが……。

 

「どうしよっか。効果がどれくらいかわかんないし、ちょっと高すぎるよね」

「そうだなあ。全く襲われなくなるとかならいいけど、認識阻害ってことは、気付かないだけで触ればそこにあるんだもんな。二人とも寝てて、気付かず踏まれてぺちゃんことかもあるんだよな」

「うわ……それはちょっと嫌かも……普通のにしとく?」

「とりあえず保留して他の見てみようぜ。お金に余裕があれば買ってもいいんだしさ」

「そっか。そだね。そうしよっか」

 

 テントは保留して次を探す。

 寝袋はしっかり触って寝心地を調べ、ついでに枕も買ってしまった。ランタンなんかはシーナが持っていたから不要。焚き火用に火付けの魔道具はあったほうがいいな。

 店内をぐるっと回りながら色々と購入していく。

 そんな途中、とある魔道具が目に飛び込んできた。

 『これがあれば野宿も安心! 魔物の接近を音でお知らせします! 反応する魔物の強さと範囲は簡単に設定変更が可能な優れもの! 冒険のお供に是非!』と書いてある商品。

 見た目は鳥籠に入った九官鳥みたいな大きさの鳥。鳥籠含めて魔道具らしいから、中の鳥も生き物ではないのだろう。

 なんかもう、見た瞬間にビビっときた。

 さっきのテントにこれを併せれば無敵なんじゃないかと。両方ともそれなりの大きさがあるため普通に持ち歩けば相当嵩張るが、俺達なら問題にならない。

 

「シーナシーナ。これ見てみこれ」

「ん? あー。便利だよねこれ。でかいけど」

「でかさはこの際置いといて、さっきのテントとセットで使えば安心できるんじゃないか?」

「むむ……あ、なるほどー。やるじゃんトール!」

「だろだろ? 惚れていいんだぜ?」

「うん、それはない。でもこれも高いねー」

 

 そうなんだよな。シーナの言うとおり、魔道具っていうのは値段が張る。これだけでも銀貨三十枚もするのだ。さっきのテントとセットで買えば銀貨八十枚。気軽に買える値段ではない。


「買えないことはないんだけどな。他の買い揃えてから相談するか」

「そうだねー。是非欲しいところではあるんだけど……」

 

 困ったら保留の精神で後回しにする。絶対に必要ってものでもないしな。 

 

 


「毎度ありがとうございましたー。後程、宿泊先にお届けさせていただきますので、宿の方にご連絡くださいませ」

 

 買っちゃった! あーあ買っちゃった!

 人間、欲が出ると正直なもので、我慢しきれなかった。

 いや、一応一度は我慢したよ。でもね、その後の買い物に影響しすぎた。

 何を買うにしてもワンランク下げたものを探したり、どうしても必要と思わなければ買わなかったりと。

 テント鳥籠セットを買うために、自然と節約が始まってしまったのだ。おかげで予算は余裕で確保。そのままの勢いでセット購入と相成りました。

 しかしこのテント、畳んでもやたらでかかった。

 そもそもが四人用の広さの上に、結界魔法を展開するために別置きでポリタンクくらいの大きさの装置が付属しているのだ。

 装置は当然畳めないし、テントもくるくる丸めてビーチパラソルくらいの大きさ。そのまま槍として使えそうなサイズだ。

 こんなの持ち歩いてたら普通に両手が塞がる。しかも重い。

 どの層を狙って開発された商品なんだこれ。馬車とか持って旅をしている人達用? 八人いるのに何故か四人でしか戦わない人達用?

 もしくは貴族の道楽用だろうか。ていうかこんなでかいのダンジョンに持ち込めないと思う。

 流石に店員さんの目の前で袋にしまうのも不味いし、持ち歩くのも嫌だしどうしようか悩んでいたが、どうやら宅配サービスがあるもよう。

 これ幸いと、宿に届けてもらうことにした。届いたらすぐに袋に入れてやろう。物干し竿とか、寝袋とかも纏めてお願いできたのは僥倖。

 

 

 さーて、次はお楽しみの自由時間。そういえばこの村で一人になるのは初めてかもしれない。

 宿への連絡はシーナがしてくれるそうだし、俺はどこに行こうかな。

 現時刻はお昼前。夕飯は一緒にとる約束をしているので、それまでの約六時間くらいが自由時間となる。

 着替えはそれなりに買っておくように厳命されているから、先に済ませておくか。

 

 

 雑貨屋からさほど離れていない、手頃な服屋に入る。

 一枚ガラスなんかはやはり高価なのか、日本のように外から中の商品が見えたりしないのが辛いところ。当然、店の外に商品を陳列してもいない。改めて思うけど日本って平和だよな。

 何を扱っている店なのかは、看板を見ればすぐにわかるのがまだ救いか。

 シーナから貰った小遣いは銀貨十枚。普通に考えれば使いきれるものではないが、できれば安い店であってほしいものだ。


「らしゃっせー。何をお探しっすかー」

 

 チャラいてんいん が あらわれた。

 

「あ、適当に見るんでほっといてください」

 

 トールは にげだした。


「お兄さんはじめての人っしょー? おすすめあるんスよー」

 

 しかし チャラいてんいんに まわりこまれてしまった。

 

「この服なんスけどー。今日入荷したばっかでー、もうこれでラストなんスよねー。マジ、今買わないと無くなっちゃうっスよー」

「いや、そういうの別にいらないんで」

 

 チャラいてんいんは。じゅもんを となえた。

 ミス! トールは みをかわした。

 

「すみません、やっぱり帰ります」

 

 トールは にげだした。

 

「チッ。冷やかしかよ。二度と来んじゃねーぞ」

 

 なんと チャラいてんいんは しょうたいをあらわした!

 

 

 

 こえー! 異世界まじこえー!!

 え? これ普通なの? 俺が悪いの?

 なんで服屋の店員ってやたら絡んでくるの? 好きに見せてくれてもいいじゃない。聞いたときだけ反応してよ。

 どうしよう。まさか服を買うのがこんなに難易度高いなんて……。

 しま◯らさんとか、ユ◯クロさんみたいに放っといてくれる店を探そう……。

 

 大きめの服屋を探して練り歩く。さっきのはきっと個人経営なんだ。だから接客大変なんだ。そうに違いない。

 大きめの店なら店員も余裕があるだろうし、安い服だって置いてあるはず。

 と思って探しているのに、これがなかなか見つからない。シーナから店の場所を聞いておくんだった。

 まあ今更言ったって仕方がない。後の祭り。アフターフェスティバルだ。

 昼時ということもあって、道を歩く人の姿が多い。人間、獣人、エルフっぽい種族にドワーフっぽい種族とその種類も豊富。この人達、一体どこで服を買ってるのだろう。

 あちこちの店から美味しそうな匂いも漂ってくる。先に昼食にしてしまおうか。

 どこにしよう。お洒落なカフェテリアなんかは論外。

 そもそも、日本にいるときからして一人での外食なんて牛丼屋かラーメン屋が限界だったのだ。喫茶店、定食屋ですら少し気後れしてしまう。

 どこか、どこかいい店はないか。

 人の流れを注視する。一人で入る客が多い店が、絶対にあるはずだ。そういう所なら俺が一人で入っても浮くことはないだろう。

 道の真ん中で辺りをキョロキョロ見渡す姿は、ひょっとしたら不審者のそれだったかもしれない。背後から声を掛けられてしまった。

 

「あれ? トールじゃんか。何してんだこんなとこで?」


 懐かしい声に振り返る。

 

「おお! 心の友よ! ちょうどいいところに! 助けてくれ!!」

 

 これぞ天の助け。日頃いい子にしていた俺へのご褒美。

 こちらの世界での数少ない友人。シャイヤンとスニーオがそこにいた。

 

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