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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
40/76

37:仕事をこなしましょう

~トール~


「おやびん。今日の稼ぎはどないでっしゃろ」

「ふふふ。聞いて驚きなよ。なんと銀貨百二十枚さ!!」

「ひゃっほー! 最高っすおやびん! よっ! 草刈りマスター!」

「いやいやトールの力があってこそだよ! 今夜は豪勢にいっちゃおうか!」

「いえーい! 夜のザギンでサタデーナイトフィーバーだぜー! 朝までパーリーピーポー!」

「いえーい! 飲むぞー!!」

「いえーい! 俺あれ飲みたい! あの甘いやつ!!」

「トール君はおこちゃまですねー! まあいいや飲むぞー!」

「いえーい! 飲むぞー!」

 

 

 

 時は数時間前に遡る!!

 舞台は宿屋一階の食堂。時刻は明け方。

 一組の男女が、やや早めの朝食を取っていた。

 一人は黒髪の好青年。高学歴高収入。頭脳明晰、勇壮活発、品行方正、容姿端麗。

 長所を挙げればきりがない。道を歩けば全ての人間がつい目を奪われてしまう。誰もが羨み、誰もが憧れる存在であった。

 そんな、神にも等しい青年と共に食卓に座るのは、いかにもみすぼらしい姿の少女だ。

 髪は雑に乱れ、その双眸は半ば閉じられている。

 身なりから察するに、青年の小間使いか召し使いの類いであろう。本来であれば同じ食卓を囲むなど到底許されることではないが、この事実が青年の度量の広さを表していると言ってもいいだろう。

 少女の肯定面をなんとか挙げるとするのであれば、その頭部と臀部であろうか。

 頭部にはさながら獣のような聴覚器が見てとれる。また臀部からも同様の尾が姿を見せていた。

 余りにも釣り合わない両者であるが、青年のほうにそれを気にした様子はない。この器の大きさ、すでに神をすら凌駕していると言っても過言ではないだろう。

 青年はナイフとフォークを上品に使い、優雅な朝食を楽しんでいた。

 

「ねえトール」

 

 対する少女は食事に道具を用いない。

 己の肉体こそ食器であるとでも言うかのように、手掴みで直接口に運んでいる。

 

「ねえ、トールってば」

 

 眼前の少女のあまりにも無礼かつ野蛮な態度にも、青年の心は穏やかだ。

 さては全ての神を産んだと言われる超御神が気紛れで現世に遊びに来た仮の姿が、この青年なのかもしれない。いや、そうに違いない。

 

「ねえトール、返事してよ。ねえってば」


 神。いわゆるゴッドである青年に対して、少女はあくまでも不遜な態度を崩さない。

 まったく、育ちが伺えるというものだ。

 青年は寛容な心によって許されているという自覚が、この少女には無いのだろう。

 やれやれ。と青年は慈悲の微笑みを浮かべながら朝食の続きを……痛い!!

 

「ちょっとトール! ちゃんと返事してよね!」

「いってえ! まじいってえ! なにそれ完全に凶器じゃんか!」

「返事しないほうが悪いんですー。それになんか失礼なこと考えてたでしょ」

 

 頬を膨らませながら指先をタオルで拭うシーナ。

 拭いたあとのタオルには、赤黒い染みがついていた。

 あれ多分、血だけじゃなくて俺の肉もついてる……。

 シーナの貫き手によって俺の額からぼたぼたと血が垂れ、食べている途中だったベーコンエッグを赤く染めていく。

 

「うう痛え……今ので俺の体力はほぼ空になった……エリクサーをください……」

「はいはい。なんならもっとやってあげようか?」

「もうやめて! 俺のライフはとっくにゼロよ!!」

 

 慌てて額の傷口を抑える。

 サンドイッチを頬張りながら手をワキワキするのは止めてもらいたい。ほんと怖いから。

 

「目は覚めた? 今日の予定は覚えてる?」

「はい。今日の予定は、ギルドにおいてクエストの確認及び受注。その後は森へと移動し、薬草類の採集となっております」

「うん、よろしい。いつもみたいにポクギリ草の納品だけでもいいんだけど、別の採集クエストもあるかもだから、しっかり確認しようね」

「イエスマム」

 

 予定を確認したものの、やることはいつもと変わらない。森に入って薬草を探して、あとは俺の道具袋に軒並み詰め込む。帰ってきたら適当な袋に移して納品するだけの、簡単なお仕事です。

 

 

 

 ギルドは、やはり大勢の冒険者で賑わっていた。

 見知った顔も増えたが、初めて見る顔の方が多い。冒険者という職は、各地を転々とするものだろうし、ずっとこの辺にいる俺達の方が異端なのだろう。

 まあ俺ももう少ししたら冒険の旅に出るけどな!

 

 ごった返す冒険者に混ざってクエスト掲示板を確認する。

 今日も様々なクエストが貼り出されているようだ。どれどれ。

 

『森の異変調査。クレーター付近までの護衛。報酬額:銀貨二枚/日 戦闘力1000以上三名』

 

『ポクギリ草の採集。根の切れていない物十本。報酬額:銀貨一枚 参考戦闘力200』

 

『ウェルフの肉を探しています。床に伏せている母に食べさせてあげたいです。 報酬額:銀貨十枚 』

 

 ウェルフ肉の高騰に吹いた。ごめんよ。俺のせいでごめんよ。

 とりあえずポクギリ草の依頼があったことにほっとした。今日の宿代は問題なく稼げそうだ。

 しかしこの草、いつも依頼が出てるけど何に使うのだろう。シーナは薬の材料になるとか言ってたが、値段が高すぎる気もする。

 野生の植物で一本千円とか、畑で栽培できないものなんだろうか。金儲けの臭いがするぞ!

 

 閑話休題。他にも採集依頼がないから探していると、初めて見るものを発見した。

 

『ポックリ草の採集。数不問。報酬額:銀貨一枚/本 参考戦闘力1200程度』

 

 怪しい。名前も怪しければ報酬も怪しい。そして何より必要な戦闘力が高すぎる。もう何から何まで怪しい依頼だった。

 後でシーナに聞いてみよう。

 

 

 

「トール、こっちは微妙だったよ。そっちはどう? いいのあった?」

「ポクギリ草はあまりなかったけど、ポックリ草とかいう怪しいのがあったぞ。やたら実入り良さそうだけど、どんなか知ってるか?」


 お互いの担当分を確認し終え、報告しあう。

 

「あー、あれかあ……まあトールなら……? いやでも……」

 

 何やら一人でぶつぶつ考え始めたシーナ。やっぱりやばい草なのか。毒薬の原料になるとか。

 気になる。怖いけど超気になる。

 

「うん。トールなら大丈夫かな! 試しにやってみようか。今のうちに稼げるだけ稼いでおきたいしね」

「お、おう。一応聞いておきたいんだが、どういう植物なんだこれ。毒とかあるのか?」

「毒っていうか、魔力の低い人が触ったら即ポックリっていうか?」

「毒どころじゃねえ。そんな危ない植物、何に使うんだよ」

「さあ? 少なくともまともな用途ではないだろうけど、ギルドが受理してるんだし問題ないんじゃない? トールくらいの魔力があれば余裕だとは思うよ。探してみる?」

「持ってくればいいだけのクエストだし、探すだけは探してみるか。触るかどうかはその時考えよう」

 

 俺が直接依頼人と会うわけでもないし、誰が何の目的だとしても関係ないな。

 報酬は魅力だし、戦闘力も余裕でクリアしている。見つかるかどうかはわからないが、一応気にしておいて損はないだろう。

 

 

 

 今日も森の中は平和そのもの。魔物の姿なんて全く見えてこなかった。

 おかげでポクギリ草の採集が捗ること捗ること。

 残念ながら今のところポックリ草は見つかっていない。シーナ曰く、湿った暗がりに生えているということで、明るいところに生えるポクギリ草を探していては見つからないのだと。

 

「なあ、ポクギリ草も大分集まったし、そろそろ本命の毒草でも探しに行かないか?」

「そうだねー。一攫千金狙ってみよっか」

「湿った暗がりだよな。この辺にあるかね」

「うーん……前にどこかで見たような気はするんだよね。あたしだと、触ったら死ぬから取らなかったんだけどさ」

 

 辺りをキョロキョロしながら移動を始めたシーナについていく。当然、魔物が出てくるおそれもあるので警戒は怠らない。何か出てくれば俺のビッグマグナムをお見舞いしてやれるというのに。

 

「そういえばさ、トールって魔法用の杖持ってなかったっけ。使わないの?」

「え……? あれ……?」

 

 持ってた。そういえば俺そんなの持ってた。どこにやったっけな。

 道具袋のなかを探してみるが見つからない。

 袋に無いとなると、あと考えられるのは……。

 ポックポックポック……チーン。

 あ、思い出した。頭の上に電球でも見えそうだ。

 

「前にウィルさんちで風呂に入るとき脱衣場に置いて、そのままだな。今頃どこにあるんだろうな、あっはっはっは」

「バカなの? ねえトールってバカなの? たまにトールのこと凄いって尊敬してたのに、実は凄いバカだったの?」

「失敬な。魔法の杖などただの飾りですよ。偉い人にはそれがわからんのです」

「あたしは時々トールのことがよくわかんなくなるよ……杖無しで魔法を使うのなんて他に見たことないもん」

「まじでか。イメージ固まってるせいで、今更杖なんて使える気がしないぞ」


 詠唱すれば杖有りでもいけるんだろうが、せっかくの無詠唱を無駄にはしたくないな。

 うん、気にしないことにしよう。

 威力とか変わるのかもしれないが、今のままでも十分戦えるだろうし、練習すればもっといけそうな気もする。

 杖無しの魔法使いとして生きていこう。誰かに怪しまれたら、左手の義手に仕込んでることにすればいいや。

 オーケー。何ら問題なし。

 

「まあ、気にするなよ。俺の武器代節約できる分、シーナのは何かいいもの買おうぜ」

「気持ちは嬉しいけど……あたしがいい武器持ったところで戦力外だからなぁ。薬とか、役に立つアイテムに回そっか」

 

 

 

 その後は何を買うかの相談になった。

 野宿が多くなるだろうから、布団は必須。ついでに物干しとかも持ち歩けたら最強だな。

 飲み水は俺がいる限り自由に出せるから、そこまで重要性はない。俺になにかあったときのために最低限あればいい。

 あとは食事。調味料と調理器具の類いは一通り揃えて持ち歩くようにする。干し肉だけの生活なんてしたくないからな。

 俺が便利袋を持っているということで、シーナは大分夢が広がっている様子。

 あれも欲しいこれも欲しいと、次々に希望してくる。

 よしよし。お兄さんに全部任せとき。何でも欲しいもの買うてやるさかいに。


 

 

「あ、見っけ」

 

 二人の将来設計は、シーナがポックリ草を見つけたことによって終わりを迎えた。

 シーナが指差したのは、美しい花を咲かせた、リビングのテーブルに飾りたくなるような植物……などではなく、見るからに毒々しい色をした、花束にしてプレゼントしようものなら一生口を聞いてもらえなくなるような植物だった。まあ、実際に渡したら殺人事件に発展しそうだけどな。

 しかしこの植物、どこかで見覚えがあるような……。

 

「あ、これエティが食べてたやつだ。『うえぇ……』とか言いながら吐き出してたと思う」

「はあ!? 触っただけで死ぬ人がいるくらいの毒草だよ? それを食べちゃうとか、どうかしてんじゃないの!?」

「いや、俺に言われてもな……エティはやたら強かったし、平気だったんじゃないか?」

「ウィルといい、トールといい、エティリィさんといい……あの家にまともな人はいなかったの?」

「おいおい待ちたまえよ。俺のどこがまともじゃないと?」

「異世界人で能力二個も持ってて精霊使いで杖無しで魔法使えて変な道具持ってるところ!」

「ぐうの音も出ねえ」

 

 まくし立てるように言われてしまった。全部事実だが、貶されているわけではないので悪い気はしない。

 

「まあそれはさておき……どうする? トール抜いてみる?」

「うーむ……一応ステータス的には問題ないんだよな?」

「うん。それだけ強ければ余裕のはずだよ」

「なら行ってみよう。俺が死んだら代わりに主人公やってくれな」

「安心して。トールは別に主人公じゃないから」

 

 さて、抜いてみると言ったものの、やはりちょっと怖い。

 シーナは問題ないと言ってくれるが、その情報に誤りがある可能性もあるし、この草が特別やばいってこともある。

 でもトールは男の子。男の子はね、覚悟を決めないといけない時があるんだよ!

 意を決してポックリ草を握りしめる。

 …………。

 よし! 生きてる!

 握りしめたポックリ草を、そのまま抜いて地面にポイ。


「おー。流石だねトール。全然問題無さそうじゃない」

「お、おおおおう。よよよよよよゆうってもんさ」

「汗やばいよ。大丈夫? どこか痛かったりする?」

 

 初めは感心していたシーナも、俺の様子を見て少し焦りだした。心配そうに顔を覗きこんでくる。身長差があるせいで自然に上目遣いになるのが可愛い。

 実際、体に異変はなかった。ただ俺の緊張が半端なかっただけです。

 

「大丈夫。問題ない。ところで向こうに、何か同じようなのがたくさん見えるんだけども」

「え? うわっ……きもちわる……」

 

 一本のポックリ草を見つけたその先。樹が生い茂っているせいで日の光が届かない空間に、大量のポックリ草が生えていた。

 シーナが言うとおり、見た目はちょっとしたスプラッタ映像のようだ。気の弱い人はこの光景だけで気絶してしまうかもしれない。

 だが日本育ちの俺はグロ画像には耐性がある。今時、ネットでいくらでも見る機会があるからな。

 ただし、蓮コラは除く。あれは無い。(良い子は検索しちゃ駄目だよ。夢に出るからね♪ 悪い子は自己責任で)

 

「気持ち悪いのは確かだけど、これだけあったら一財産稼げるんじゃないか? 確かクエストは数不問だったよな」

「たしかにチャンスではあるけど……トールは大丈夫? 気分悪くなったらすぐに止めてね?」

「おう、そんじゃまあ、行ってきます」

 

 道具袋から、別の大きい袋を取り出す。そのまま入れると中身が大惨事になりそうなので。

 そこらは一面ポックリ草が生えているため、片っ端から引っこ抜いて袋に詰めていく。握ったときの感触がにゅるっとして、ぶにっとして、それなのに変な固さもあって……要するにすごく気持ち悪い。

 しかしこれも仕事だ。食べていくためには、辛いことだってやらないといけないんだ。頑張れ俺。負けるな俺。

 

 全てを抜き終わったときには、既に日が傾きかけていた。

 思ったより時間がかかってしまったが、急いで帰れば夕飯の時間には間に合うだろう。

 

「お疲れ様ー」

「お待たせ。さっさと帰って精算しようか」

「そうだねー。これだけあったら一体いくらになるんだろ。楽しみだねえー」

 

 

 

 

「じゃ、あたしが精算行ってくるよ。トールは座って待ってて」

「お、んじゃ悪いけどお願いしようかな。正直少し疲れた」

 

 気を使ってくれるシーナに任せて、ホールの隅に設置されている椅子に座らせてもらう。

 シーナは報告用の受付にちょこんと並んで順番を待つ。

 やがてシーナの順番となり、成果物をわたすと受付がにわかに騒然となった。受付のお姉さんが何事か話してから受付の奥に姿を消す。

 その様子を笑顔で見送ったシーナが帰って来た。まだ報酬は受け取っていないようだが……。

 

「ただいまー」

「おかえり。どうだった?」

「なんかね。物が物だし、量も多いから依頼主を呼んで直接確認してもらうんだって。報酬は確認が終わるまで待っててくれってさ」

「なるほど。まあ宿も決まってるし、店もまだ混む時間じゃないから急ぐ必要もないか。のんびり待たせてもらおう」

 

 そういう事情なら仕方がない。

 受付の人が迂闊に触って事故が起きても困るしな。シーナは袋にしか触ってないから問題なかったけど、中身を確認するならそうもいかないだろう。

 シーナに言ったとおり、ここはのんびり待つことにしよう。

 さていったいいくら貰えるのか。報酬が楽しみだね。


明日は続きではなく、第0話を投稿したいと思います。

導入部を少しでもまともに……。

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