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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
38/76

35:諜報部設立

~ウィルナルド~


 魔王城跡に帰ってきてから数日。

 こんな場所に突然家が建ったせいか、様子を見にきた魔族が何人か集まってきた。

 元魔王軍だった者。農民だった者。商店を営んでいたもの。様々だ。

 中には、勇者が攻めてきたとき、魔王に直接守ってもらったという者もいた。

 基本的に皆、魔王に対して忠誠を誓った者たちだ。必然、僕に対してもそれなりに従ってくれる。

 戦闘能力に長けた者は少ないけど、これも立派な戦力の一員。大切にしないといけない。

 彼らにはそれぞれに家を与えて、生活基盤を整えてもらう。

 ちなみに家はドセイさんにお願いした。土造りの簡単な物だけど、さほど不便することはないだろう。

 今後は外にも出てもらって、ここの話を広めてもらうつもりだ。

 人数が増えればまたここに街ができるかもしれない。今度こそ、人間の手から守らなければ。

 

 さてここで問題が発生した。

 情報が不足しているのだ。圧倒的に。

 外から人は集まってきたけど、彼らの持っている情報なんてたかが知れている。

 近いうちに勇者に会うとして、その居場所もわからないのでは話にならない。

 そこで僕は考えました。

 前にトールの片腕を作った人形の残り部分。これ使えるんじゃないかな。

 セティリアから空間魔法を習わせれば、諜報員として優秀な人材になるような気がする。

 その分かなりの魔力を注ぎ込まないといけないから、また気絶を覚悟しないとだけど。

 エティリィの時の失敗を活かして、今度は事前に準備をしっかりとしておく。といっても、見た目をどうするか決めとくくらいだけどね。

 まず、人間の町に入りこむ必要があるのだから、見た目は人間でないといけない。

 それでもって、なるべく目立たないように。且つ怪しまれない程度に冒険者らしくしないとね。

 なんかトールの顔が浮かんできた。元気にしてるかなあ。シーナちゃんと仲良くやれてるかなあ。

 でも流石にトールと同じ容姿にするわけにはいかないよね。今生の別れってわけでもないし、エティリィのときとは事情が違う。

 そういえば人間で目立たない髪って何色なんだろう。

 そのままセティリアに聞いてみた。このメンバーで外の世界に詳しいのは彼女だろうから。

 

「髪ですか? そうですね……黒、茶、金あたりが多かったように思います」

「なるほどね。ありがとう」


 黒だと僕やトールと被っちゃうな。

 せっかく自由にできるんだし、周りにいない色にしてみよう。

 よし、金髪決定。

 あとはもう適当でいいや。身長はトールくらいにしておこう。

 

「エティリィー。エティリィやーい」

「はいはいー。お呼びでしょうかマスター」


 どこかで家事をしていたはずのエティリィを呼び出すと、すぐに来てくれた。本当、トール仕込みなだけあって完璧なメイドさんだね。

 

「倉庫にマジカルパペットの残りがあるはずなんだけど、持ってきてくれないかな」

「了解しました! ついに私の妹か弟ができるんですねっ!」

「うん、まあそんな感じ。よろしくねー」

 

 これであとは実践あるのみかな。

 準備にかかる僕達を、セティリアが所在無気に見つめていた。

 

「あのー……先程の会話から察するに、エティリィ……殿、はパペットなのでしょうか」

「あれ? そういえば話してなかったっけ。僕が魔王城を、追放されてすぐに生み出したパペットだよ」


 言われてみれば、エティリィを紹介してなかった気がする。

 まあいきなり転移させられてごたごたしてたし、仕方がないよね。僕のせいではないと思う。

 

「やはりそうでしたか……以前から気にはなっていたのですが、その……なんといいますか……」

 

 なにやら言い難そうにしている様子。まあ言いたいことはわかるんだけど、どう言い訳したものか……。

 いいや。正直に言ってしまおう。

 

「エティリィの容姿のことかな。気になっているのは?」

「は、はい。そうです……マジカルパペットがこんな姿をしていることも不思議ですが、どうにも私と似ているような気がしまして……」

「いやー。実はね、僕もそんなところいじれると思ってなくてさ」

 

 かくかくしかじか。勢いでセティリアをモデルにしてしまったことを説明した。

 

「殿下……そこまで私の事を……」

 

 盛大に勘違いされてしまった!

 なんか話の途中から顔が赤くなってたし、今なんて感極まったかのように目に涙まで浮かべている。

 セティリアは涙を拭うと姿勢を正して、右手を心臓に当てるポーズを取ると。

 

「不肖なるこの身ですが、最期のその時を迎えるまで、殿下に忠誠を誓います」

 

 そんなことを言い出してしまった。

 誤解があるようだけど、別にいいか。黙ってた方がお互い幸せってもんだよね。

 

「マスター。取ってきましたー」

 

 そんなこんなしていと、エティリィがパペットを持って戻ってきた。

 

「はーい。それじゃあ始めようか。なるべく耐えるつもりだけど、倒れたときはお願いね」

「了解です! お任せください!」

「セティリアは見学ね。無事成功したらあとは任せるから」

「はっ! お任せを!」

 

 さーて、一丁やりますか。

 

 パペットを床に置き、魔力を注いでいく。

 二度目ということもあって慣れたもの。あ、腕だけのをカウントしたら三度目になるのかな。

 ともあれ作業は順調。

 魔力量を可能な限り増大させてやる。命を搾り取られるような勢いで魔力が吸われていくけど我慢。

 戦闘能力はそこそこでいいかな。荒事はセティリアに任せればいい。あくまでも地味に、目立たなくが最優先だ。

 身長はトールくらい。歳もそのくらいでいいかな。予定通りの金髪にして、やや痩せ形。

 あー、でも冒険者としては、それなりに筋肉はつけておかないと違和感でちゃうか。ちょっと修正。

 忘れちゃいけないのが言語能力だね。エティリィと同じように、僕の知っている限りを覚えさせよう。

 大体できたかな。

 事前準備のおかげか、そこまで魔力を使いきった感じはしなかった。これなら気絶せずに済みそう。

 それじゃ仕上げに入ろう。

 

「我が名はウィルナルド・フォン・グレースウッド。我が名、そして我が力によって汝が魂に刻む。汝、その名はテュール。その魂は我に絶対なる服従を誓うべし」

 

 ふっふ。名前も先に決めておいたのさ。同じ轍は踏むまいよ!

 名前はテュール。たしか地球の神様の名前だったはず。詳しいことは忘れたけど、確かトールも神様と同じ名前だったんじゃなかったかな。ということで、似たような名前にしてみたのさ。

 

 うん。なんとか意識を保ったまま完成できた。

 全身を虚脱感に包まれてはいるけど、前回よりは上出来だと思う。

 エティリィが失敗だっていうわけじゃないけど、どうもバランスの悪い出来になっちゃったからね。申し訳ない。

 

 目の前で人形がだんだん大きくなり、人の形を作っていく。

 エティリィのときは気絶してて見られなかっただけに、ちょっと面白い。

 エティリィは弟の誕生にわくわくした様子。セティリアは言われた通り、本当に見てるだけだね。

 確か前はこのまま放っておけば勝手に生まれたはず。

 懐かしいなあ。倒れてる僕を、素っ裸のエティリィがずっと見つめてたあの日からもう一年も経つのかあ。

 ここ数十年で一番楽しい一年間だったように思う。

 トールと友達になったり、アニメを見られるようになったり、アニメを見て過ごしたり、家でごろごろしながらアニメを見たり……ああ、あとアニメも見たっけなあ。

 忘れられない日々、はやく取り戻さなきゃ。

 

 ややあって、僕達の見守るなか、テュールは無事に誕生した。

 肩口まで伸びた金髪に切れ長の碧眼。細身ながらもしっかり身に付けられた筋肉。角、羽、尻尾その他のオプション無し。ついでに左腕無し。更に服も無し!

 人間の美醜はよくわからないから、容姿についてはなるべく平均を取ってみた。

 うーん。どこからどうみても普通の人間。完璧。

 

「問おう。あんたが俺のマスターかい?」


 産まれたばかりのテュール。僕を見つめて、最初の言葉がそれだった。

 テュール惜しいね。そのセリフは物置小屋とかで言わないと。

 

「おはようテュール。僕はウィルナルド。君のマスターになるのかな。よろしくね」

「よろしく頼む。そちらの御嬢さん方は?」

「そこで嬉しそうにしているのはエティリィ。君と同じマジカルパペットだから、君のお姉さんにあたるかな。座り込んで顔を隠しているのはセティリア。君にとっては先生になるから、色々教えてもらってね」


 テュールを前にして、うちの女性陣の反応は真逆のものとなった。

 エティリィは弟が無事に産まれて嬉しそう。裸とか関係無しに、目を輝かせて何か話したそうにしている。

 セティリアはなんだろうこれ。ぺたんと座り込んで、恥ずかしそうに両手で顔を覆っている。今後テュールに空間魔法と人間世界の一般常識を教えてもらわないといけないのに、大丈夫なのかな。

 

「なるほど。よろしくなエティリィ姉さん」

「はい。よろしくですよテュール。初めに言っておきますが、私の方が序列は上ですからね。指示には従うように。あとはマスターのお役に立てるよう、精進することです」

「はいよ。逆らう気は無いよ姉さん」

 

 言いながらエティリィとテュールは握手を交わす。

 

「セティリア先生もよろしく頼む」

 

 次いでセティリアの方にも歩み寄る。

 屈みこんで手を差し出すが、セティリアに動きはない。何かを堪えるかのように、顔を隠したままじっとしている。

 

「おや、セティリア先生は照れ屋さんなのかね。まあいい。よろしくな」

 

 やれやれと、肩を竦めるテュール。セティリアの態度に気分を害したような様子は無かった。

 

「なあマスター。とりあえず何か着るものを貰えないか? 別に見られて困るものでもないが、人間は服を着るものなんだろ?」


 セティリアとの交流は諦め、こちらを振り返り要求してくる。

 まあずっと裸なのも格好悪いし、そろそろ何か着てもらわないとね。セティリアもこのままじゃ埒があかない。早めに立ち直ってもらって、テュールに魔法を習わせないと。

 

「エティリィ、テュールに適当な服を見繕ってあげて。腕を隠すのに、厚めのローブかマントのほうがいいかな」

「かしこまりましたっ! ほら、行きますよテュール」

「おう。イカしたやつを頼むぜ?」

「新入りが調子に乗るんじゃありません。私が最初に着ていた、ぬののふくでも着させてあげましょうか?」

「悪かった。悪かったよ姉さん。地味でもいいから普通の服をくれよ」

 

 そんなことを言い合いながら倉庫へ向かう二人。早速仲が良さそうで何よりだね。裸の男とメイド服の女性っていう画はかなりシュールではあったけども。

 さて、あっちはいいとして、問題はこっちだね。

 

「セティリア。テュールは行ったよ。もういい加減落ち着きなよ」

 

 いまだに顔を隠して動かないセティリア。テュールがいなくなっても変わらなかった。

 

「ちが……違うんです殿下……」


 ようやく声を出してくれたけど、どこか元気がない。

 

「違うって、何がさ?」

「殿方の裸というのも……まあ恥ずかしくはあるのですが……それよりも、その……エティリィ殿も……最初はやはり……裸……だったのでしょうか……」

「ん? まあそうだね。最初なんて僕が気絶してる横で、裸のままずっと立っていたみたいだよ」

「うああああぁぁぁ……! あの顔で! あの体で! あの姿で! 殿下に肢体を晒していたわけですかっ!」

 

 俯いたまま、耳まで真っ赤にして吼える。今にも火を吹くんじゃないかっていう勢いで。


 あー。そっちだったかあ。

 確かにあのときは僕も気まずさを感じたけどさ……。

 セティリアにとっては、自分の裸を見られたような気分になるのかな。自分の知らないところで見られたわけだし、ひょっとしたら直接見られるよりもきついかもしれない。

 いやでも、事故みたいなものだしね? 服を着たまま産まれてくることなんて有り得ないしね?

 よし論破。僕は悪くないぞっと。

 

「まあほら。気にしなくていいよ。僕はそういうあまり興味ないしさ」

「うぅ……それはそれで複雑な……」

 

 その後、セティリアを慰めるのに苦労した。

 はやくテュール戻ってきてくれないかな……。

 

 

 

「マスター。お待たせいたしましたー!」

 

 ジャーン! とか口で言いながら、エティリィとテュールが戻ってきた。

 

「どうですかこれ! 我ながらいいものを選べたと思うんですけど!」

「いや、姉さん。確かに格好良くはあるけど、これは流石に派手すぎねえか?」

「多少派手なくらいがいいんですよ! きっとマスターも気に入ってくれますって!」

 

 テュールの服装は、本人の言うとおり確かに派手だった。

 紫を基調とした服は所々に金の刺繍で紋様が刻まれ、服の上には同じく金色の部分鎧をつけている。

 更にその上から左半身だけを覆うような真っ白なマント。

 腰には赤い魔剣を差していた。

 その姿はもうなんというか……。

 

「マスター、なんか言ってくれよこの人に。俺の任務の性質とか、全然考えてくれてないんだよ」

「いや、いいと思うよテュール。最高にイカしてるよ」


 最高に素敵だった。

 金色を除けばどこかのナメクジ星人みたいな色合い。金色の鎧も、髪の色と似ているせいかそこまで嫌味を感じない、


「ほら見なさい! マスターはやはりわかってくれましたよ!」

「マスター正気か? こんな姿で人里に降りたら即座に噂になるぞ。この剣だって普通じゃないんだからな」

 

 腰に差していた剣を、鞘から抜いてみせる。

 一見するとただの太刃の剣のようだけど、よく見ればその刀身には亀裂のような、いくつかの線が見てとれた。

 

「あ、その剣ってもしかして……」

「そのもしかしてだよ。まったく、こんなもん実戦でまともに使えるかっての」

 

 文句を言いながら剣を一振りすると、風切音と共に、小気味良い金属の音が聞こえてきた。

 剣はカシャカシャとその長さを変えていき、最終的に元の五倍程にまで伸びていった。

 スネークソードと呼ばれるその剣は邪剣の一種として数えられることが多い。

 見た目は普通の剣であるものの、その刀身は鋭い刃が鱗のように重なって形成されている。刃と刃は柔軟性を持った細い金属の糸で繋がれており、一定の感覚以上に離れることはない。

 持ち主の意思によって刃同士は分離させることができ、さながら鞭のように振り回すことができる。

 相手の意識外から奇襲するためだけに作られたような剣で、相当熟練した使い手でないとまともに戦うことすら能わないだろう。

 いわゆる、ロマン武器ってやつだね。トールはこういうの好きだと思う。

 そして勿論僕も大好物です。

 

「エティリィ。ナイスだよ。ディ・モールトよくやった」

「はっ! お褒めに預り、恐悦至極にございます!」


 親指を立ててエティリィを称賛する。

 これは大変素晴らしいものだ。スネークソード振り回したらマントが邪魔とか、片手しかないのに隙の大きい武器ってどうなのとか、金ぴか鎧ってどこの英雄王だよとか、突っ込みどころは多いけど、これは大変素晴らしい。大切なことだから二回言いました。

 でも、冷静に考えると論外ですね。

 

「これはこれでいいんだけど、とりあえず目立たない服に着替えようか。うちにある武器は駄目だね。見る人が見たら、魔剣だなんてすぐばれちゃうよ」

「そうだよな。一通りの装備は人間の街で買うことにするから、ある程度の資金と服だけ用意してくれよ」

「ええー。せっかく格好よくきめたのに……残念です」

 

 エティリィはしょんぼりしながら、再び倉庫に戻って行った。その後ろに、ほっとしたような表情のテュールが続く。

 

 

 数分後、戻ってきたテュールは黒い無地の服の上に白マントという、地味なのか派手なのかわからない服装をしていた。

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