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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第二部 それぞれの道編
37/76

34:魔法を覚えました!

~トール~


 無職だった主人公が、ひょんなことから凄腕の魔術師となり、家族と世界を守るために戦う。

 何度も挫折を繰り返しながら、周囲の友人や家族に助けられて成長していく主人公。臆病でへたれでスケベな主人公の成長と、家族愛に溢れた物語

 俺の買った魔導書のうち一冊は、そんなストーリー仕立てになっていた。

 所々に魔法の理論が記載されていて、かつ飽きさせないようにひとつの物語として成り立っている。非常に完成度の高い内容だった。

 主に水魔法と土魔法について書かれているため、俺もまずはそこから覚えていきたいと思う。

 ということで練習開始だ。

 本によると、魔法は理論とイメージが大切とのこと。そういえばウィルさんもそんなこと言ってたか?

 魔力を体内で変化させ、物理的な現象として顕現させる。それが魔法だと。

 詠唱というのは、細かい部分のイメージを補ってくれるものらしい。そして俺の特殊能力は無詠唱。つまりイメージするだけで魔法の発動が可能ということ。

 日本にいた頃、あんなことやこんなことをイメージし続けていた俺にとって、それはさほど難しいことではなかった。

 むしろ、そんな俺だからこそこんな能力を身に付けたのかもしれない。

 

 ということで練習あるのみ!

 場所はいつもの森のなか。焚き火の始末をするついでに水魔法の練習をしようという魂胆だ。

 水のイメージ。揺蕩う。滴る。水面。水陰。海。川。池。雨。滝。よくわからなくなってきたな。

 じっくりいこう。水水水……水道?

 捻れば水が出る。あぁ、魔法ってそんな感じなのかも。

 ギリギリまで溜めておいて、入口を開けば放出される水。

 自分の体を貯水タンクのようにイメージする。魔力を水として血管が配管かな。

 掌まで配管を通して水を充填させる。あとは蛇口を捻るだけだ。

 

「ウォーターバレット」

 

 勢いよく水が噴き出してきた。

 おお、魔法使えた!!

 と、喜んだのも束の間。勢いが良すぎてびびる。

 焚き火は簡単に消えたが、水が止まってくれない。

 

「にゃはははは! トールなにそれ! 止まんないの? もしかして止められないの!? にゃはははうぷぁ!?」

 

 隣で笑い転げてる猫娘に手を向けてやると大人しくなってくれた。

 しかしやばい。魔力が水と一緒に漏れていってる自覚がある。

 イメージ。イメージだ。水を止めるイメージ。

 出すときは、言葉をトリガーとした。なら止めるときはどうするか。

 溢れる水を止めるなら、口を閉じればいい。手で抑えてみるか。

 噴き出す水を抑えることで周囲に水が飛び散る。当然ずぶ濡れになるが仕方がない。

 ホースの口を抑える光景を想像しながら、手のひらを合わせると、イメージ通りに水は止まってくれた。

 手を離しても再び出てくる気配はない。

 危なかったー。これ水だったから良かったけど、火の魔法とかで練習してたら大事故になってたな。

 しかも全然バレットって感じじゃなかった。これはイメージ不足が原因だろう。練習あるのみだな。

 しかし魔法が使えた。それも結構簡単に。

 水が貯水タンクをイメージして使えたってことは、他の属性ならどうだろうか。

 雷なら、発電機か。それとも雷雲とかのほうがいいのか?

 火はなんだろう。ガスコンロとかバーナーかな。

 発現さえできてしまえばあとは出力の調整ってことだし、トリガーとなる言葉を選んでいけば色々できるようになりそうだ。楽しみすぎる。

 

「よし、焚き火の始末もできたし、移動しようか。魔法は疲れない程度に練習しながら行こうと思う」

「ふにゃー……ずぶ濡れなんですけどー。もっかい焚き火着けて乾かしたいんですけどー」

「却下です。俺だって濡れてんだ。歩いてりゃ乾くだろ。おら行くぞ」

 

 文句を垂れるシーナを引きずるように、移動を開始する。

 魔物に出くわす前に、何かしら戦闘向きの魔法を使えるようにならないとな。

 やはり最初は水からだろう。暴走してもなんとかなりそうだしね。

 


 

「ウォーターバレット!」

 

 歩きながら再び挑戦。

 やはり水が噴き出す。

 うーん。何が駄目なんだろう。水の弾丸をイメージしてるんだけどな。

 

「これって飲み水として使えんのかな。トールがいれば水で困ることは無さそうだね」

 

 俺の苦悩も知らず、隣でなにやら嬉しそうにしているシーナ。

 

「使いたいのは飲み水生成の魔法じゃないんだよな。水の弾を飛ばして攻撃してみたいんだけど」

「うーん。魔法は専門外だからよくわかんないけど、何か条件を変えてみるとかは? 言葉とかポーズとか」

「ポーズ……なるほど……やってみるか」

 

 一理あるかもしれない。魔法はイメージ。ということは、より弾丸を飛ばすイメージを固めるためには……。

 これだろう。手を握った状態から親指と人差し指だけを立てた形。ジャンケンでは禁じ手とされる、某霊界探偵の必殺技の形。

 おお、なんかできそうな気がする。

 手頃な樹に指先を向ける。

 

「ウォーターバレット!」

 

 ビシュッ! と効果音が付きそうな勢いで、爪くらいのサイズの水が飛び出した。

 的にしていた樹に突き刺さる。

 

「おお。できたできた。ナイスアドバイスだよシーナ君!」

「ふっふー。任せてくれたまえよトール君。まさかこんな簡単にできるとは思わなかったけどさ」

「これくらいの速度と威力なら戦闘でも使えるな。あとは反復練習して、間違いなく出せるようにしておかないと」

 

 今の水弾で射程が20メートルくらいかな?

 樹を見ると貫通してるみたいだし、威力も申し分ない。トリガーとなる言葉が必要だから連射性能はそこまで高くないが、それも練習次第だろう。

 必要に応じて新しい魔法を組み上げていってもいい。

 案外簡単に覚えられたし、他の魔法もすぐに覚えられるかもしれない。

 回復魔法とかもあるんだろうし、夢が広がるねこれは。

 

 

 

 

 「ウォーターバレット! ウォーターバレット! ウォーターバレット! ウォーターバレット!」

 

 そんなこんなで練習しながら歩いてたら結構扱いにも慣れてきた。

 だいたい2、3秒で一発撃てるといったところかな。

 弾のサイズは小さいから、これ一発で魔物を倒しきるのは難しいだろうし、そこそこ連射できるようになったのは嬉しい。

 本当だったらいちいち詠唱して、狙いをつけてってしないといけない訳だし、今の5倍くらいは時間がかかるだろう。威力の割に初級魔法なのはそのへんが理由かね。

 ちなみに練習は地面に向かって撃つようにしてる。悪戯に森を傷付けるわけにもいかんので。

 あ、出した水を試しに飲んでみたら普通に飲めました。ミネラルウォーターぽかった。

 

 幸か不幸か、そのあとは魔物に出会うことなく村に到着した。

 平和なのはいいことだけど、魔法を実戦で試せなかったのは残念。


 

 

「さて、これから本格的に冒険者としてスタートするトール君に、先生が色々教えてあげましょう」

「はい、シーナ先生。よろしくお願いします」

「よろしい。あたしの言葉は神の言葉と思って、耳の穴かっぽじって、よく聞くように」

「下品です、シーナ神様。よろしくお願いします」

 

 宿に着くなり、いきなりシーナが講義を始めた。

 とりあえずこの村で準備を整えようと、一週間連続で宿を予約。そのまま部屋に入ってみたらこれだ。

 ちなみに今回も前と同じ宿。また部屋が空いてないとかで同じ部屋になった。流石にベッドは二つにしてもらったが。

 立ったまま腰に手をやって話しはじめたシーナに対して、俺はベッドに腰かけた状態。だって正座疲れるもの。

 

「まず、今後お金は節約しないといけません。なので、基本的に相部屋とします」

「うっひょー。いいんですか神様」

「身の危険を覚えたら別の部屋にするので、変なことは考えないように」


 ちぇ。完全にフラグ立ったと思ったのにそうでもないのか。

 こっちの世界では野宿することも多いし、男女が同じ部屋で寝ることも少なくないのかもしれない。

 

「次に、迂闊で、防衛能力と自覚の足りてないトール君に忠告です」

「神様、それはあんまりだと思います」

「お黙りなさい。前に一度注意したけど、その道具袋の存在は絶対に隠すこと。それから冒険者カードは誰にも見せないこと。あと精霊使いであることがばれないようにすること」

「はい神様。精霊使いであることも隠さないといけないんですか?」


 剣士とか魔法使いみたいな、単なる職業のひとつだし、別に隠すほどでもないと思うのだが。

 

「トール君はやっぱり、自覚が足りていないようですね。いい? 精霊使いって、世界中見渡しても両手の指で足りるかどうかしかいないんだよ? 何柱も契約してるウィルは異常として、トールだってかなり希少な存在なの。わかる?」

「精霊使いってそんなに少ないのか。ひょっとして俺って凄かったりする?」

「凄いなんてもんじゃないの。持ってる道具も道具だし、どっかの国の諜報機関にでも目につけられたら、もう夜道は歩けないと思った方がいいよ」

 

 おお全然自覚がなかった。冒険者カードはまだしも、精霊使いっていうのは、何も気にせず話してしまっていたかもしれない。

 

「俺でそんな凄いって、ウィルさんは本当に何者なんだろうな……」

「さあ? そういえば、トールはウィルに召喚されたんだよね?」

「おう。死にそうなところを助けてもらったんだよ」

「そもそも魔族は召喚魔法を使えないって言われてるんだよね。だからやっぱりウィルは異常っていうか、何か普通とは違うんだと思うよ」

「なるほどなあ。まあ今度会ったときに全部教えてもらおう。聞きそびれちゃったしな」

「そうだね。あたしもそれはちょっと興味あるかな。あ、異世界人っていうのもなるべくばれないようにね?」

 

 何気無い会話から、注意事項が増えてしまった。

 俺の素性ほとんど秘密ってことか。面倒臭いな。ウィルさんが引きこもってた気持ちが理解できた。

 

「注意事項はわかった。で、これからどうしようか」

「とりあえず一週間、ここで準備するよ。急ぎですることは路銀の確保。あと必需品の買い出しかな。装備とか食料とかね。トールが便利な道具袋持ってるし、最低限といわず、色々便利な物も買い揃えちゃおうよ」

 

 なんだかシーナが頼もしく見えてきた。

 三年も一人で旅をしてきたのは伊達じゃないってことか。俺も早くしっかりしないとな。

 しかし路銀稼ぎかあ。

 前にウィルさんから貰った装飾品、適正価格で販売できてたら困ることはなかったんだろうな……今更言っても仕方がないことではあるけども。

 まあいいか。おかげで色々クエスト受けるチャンスだしな! プラスに考えるとしよう。


 明日はギルドに行ってクエスト受けて、魔法の練習しながら金稼ぎだな。

 忙しくなりそうだし、今日は早めに休むとしよう。

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