32:状況把握
ゆっくり休ませてもらいました。
改めてよろしくお願いしますm(__)m
「すみませんすみませんすみませんすみません!!」
ひたすら平伏して謝罪を繰り返すセティリア。
そんなもので許されるとでも思っているのかな。
父が人間に討伐されたと聞いて、戦争を回避するために敢えて魔王になる決意を固めたけど、まさかその直後に転移魔法を発動させるなんて……。
家ごと転移できるのは凄いと思うけど、考えが足りなさすぎる。
そもそも、僕の考えている方針ではトールの存在が不可欠だ。トール無しだと、そもそも人間と連絡をとる手段が無い。
早速詰んじゃったかねこれは。
というか、エティリィの怒り方が半端じゃなかった。
セティリアを睨み付け、今にも斬りかかりそうなくらい怒っている。
怒っているのは僕の意向に反したからか、それともトールと引き離されたからか。両方かな?
元いた場所までどの程度の距離があるのかわからないし、どれだけ時間が許されているかもわからない。
そもそも、今までどこにいたのか知らないからね。
まあ、やってしまったことは仕方がない。取り返しのつかないミスではあるけど、今責めたところで事態が好転するわけでもないし、先の事を考えないと。
「セティリア。もういいよ」
「は、はいっ!」
放っておいたらいつまでも謝ってそうだし、もういいや。
トールなら一人でもどうにか生きていくだろう。シーナちゃんもいれば更に安心。変なことして愛想尽かされてなければいいけどね。
「それで、現状は? 外に魔王城は見当たらないんだけど。ここはどこなのさ?」
窓の外は荒野が広がり、魔王城どころか人の気配も無い。
なんでまた、こんな辺鄙な場所に移動したのか。
「ここが魔王城です。正確には、魔王城跡地、ということになりますが……」
「え……? 魔王城跡って、ここが? 周りの城下町とか、そこに住んでいた人たちは?」
「まずはここで何が起きたのか、順を追って説明させていただいてもよろしいでしょうか」
「あ、ああ……うん、よろしく頼むよ」
そこからのセティリアの話は、想像を絶するものだった。
まず、僕が追放された後、すぐに城下町で異変が起きたらしい。
魔王軍の主力部隊が出払っている間に、人間の冒険者が大勢侵入していたらしく、街のあちこちから同時に火の手が上がった。人間たちは街を破壊するだけでなく、そこの住人に対しても襲いかかったのだ。
当然、街も城内も大混乱に陥いる。父はその中でも冷静に対応して、各所に適切な兵を配備させたらしい。
数の上では兵士の方が有利だったようだけど、街を守ろうとする兵士はどうしても大掛かりな攻撃ができなかった。それに対して、周りを気にしない冒険者達は容赦なく大規模魔法を行使する。
最終的に、街に入り込んだ冒険者は全員始末することができたけど、その時には街にいた兵士は疲弊しきっていたそうだ。
父も自ら街に出て負傷者の救助にあたっていたそうだが、そのタイミングで新たな冒険者が出てきたらしい。
最初から人間の狙いは父だったのでは、とセティリアは語る。街を襲ったのは父を城から引き出すためだったと。
当然、街中でまともに戦えるはずがない。
街を護りながら、なんとか戦場を移そうとしたらしいが上手くいかなかったらしい。
父が攻撃の射程外まで離れると、冒険者達は再び街を襲うようになったのだ。
万策尽きた父は街を捨てる決意をし、転移魔法の詠唱を始める。父が行使する転移魔法はセティリアの比ではなく、街全体を射程におさめるものだ。そして、その転移対象は魔族のみ。
家資材や城などは転移できないが、代わりに人間の冒険者も付いてはこられない。
苦渋の決断をした父に、人間達は容赦しなかった。詠唱で無防備になっている父に対して、集中砲火を浴びせる。
父は、止むことのない攻撃に耐えながらなんとか転移を成功させたものの、転移先で遂に力尽きたらしい。
そして、最後まで父を攻撃していた冒険者のリーダーは、魔王討伐の勇者として讃えられることになった。
勇者アグリル。それが、父の仇となる名前。
話を聞く限り、同じ条件での戦闘であれば父が敗れることはなかったように思う。さぞ無念だったに違いない。
父は息絶える寸前に、僕が生きている事と、吹き飛ばした方向をセティリアに伝えたのだそうだ。
そこにどんな意図があったのか。今となってはわからない。僕を追放した真意も。
「数日の後、転移魔法でこちらに戻ってきたときには、すでにこの有り様でした。おそらく、人間によって蹂躙されたあと、焼き払われたのだと思われます」
「……」
言葉が出なかった。
正直、人間たちがそこまで非道な作戦を取るとは思っていなかったのだ。
同じ人間が相手であればまず使わないような手段でも、魔族相手なら関係ないということか。
黒い感情が沸き上がってくるが、ぐっと堪える。人間の全てが悪いわけではないのだ。
浮かんでくるのはトールの顔。うん、大丈夫。冷静にならないと。
深呼吸して気持ちを調える。
魔族にだって好戦的な者や嫌戦的な者がいるんだ。人間だってそうだろう。
勇者アグリルにだって、何か事情があったのかもしれないし、セティリアの話だけで敵と決めつけるのは早計というものだ。
まずは話し合いたい。それで駄目なら、そのときはそのときだ。敵対するのであれば真っ向から戦わせてもらおう。
よし……。
「経緯はわかったよ。それで、脱出した魔族と、生き残った魔王軍は今どこで何を?」
「半数ほどやられましたが、なんとか生き残った魔族はそれぞれが別の街へと避難しています。魔王軍は両兄殿下が率いて、戦力を整えているはずです」
「なるほど。兄上達の居場所はわかる?」
「申し訳ありません……私がウィルナルド殿下の捜索に出てから半年以上経っていますので、現状までは……」
うーん。情報が古いなあ。
まあそれもそうか。
遠距離で連絡を取れる魔道具もあるけど、非常に高価な上、小さめの家くらいの大きさがあるため持ち運びはできない。
魔王城にはあったはずだけど、人間達に持っていかれちゃっただろうな。
あれ? 城と街を放棄したってことは……。
「ちょっと確認したいんだけど。魔王城の宝物庫は人間に持っていかれたんだよね。てことは、軍資金ってどうなってるの?」
「そ、それは……その……」
僕の質問に答え辛そうな様子を見せる。
その反応からなんとなく予想はつくけど、ここはしっかりしておかないといけない。
「軍資金は……ほぼ皆無といっても差し支えがない程度でしか……」
予想通り、金欠でした。
宝物庫から大量に持ち出したのは、今となっては大正解だったようだ。
しかしそうなると新たな疑問も出てくる。
「兄上達はどうやって軍を維持してるのかね」
「申し上げにくいことですが……行く先々で略奪を繰り返しているものかと……」
あぁなるほど……結局のところ、魔族も人間も変わらないのか……。
吐き気がする。やったらやり返されるのは当然ではないか。
この流れは断ち切らなくてはならない。そのための手段として、僕が魔王にならないとな。
力を持たない者の言葉には誰も従ってくれないのだから。
まずは魔王となる。そして魔族をこの手で掌握する。
人間との共存共栄を目指すのはその後だ。その頃にはトールと合流できているかもしれないしね。
多くの犠牲を出すだろうけど、その後の平和を目指して頑張るしかない。
仮初めの平和でも構わない。戦争の心配をしなくて済む世界になってくれるだけでいい。
そうすれば、また引きこもってマンガ三昧だ。
理想の生活を手に入れるため、さっさと魔王にならないとね。
「まずは勇者に会いに行こうか。できれば戦闘は避けたいところだけど、相手次第ではそれも有り得る。こっちの戦力はどのくらい揃っているの?」
「はい。戦力としては、私がお供します」
「まあ、そりゃセティリアは来るでしょうよ。他には?」
「私……だけですが……」
「戦力不足もいいとこだね。まあ僕の人望の無さが原因なんだろうけどさ」
「マスター! 私も! 私もいますからねっ!」
エティリィが主張してくれるけど、それでも三人。
勇者の実力は未知数だし、軍とまでは言わないけどもう少し戦力は揃えておきたいところ。
なめられて返り討ちにあったりしたら笑えないからな。
「殿下に非はありませんっ! 魔王様の側近や、殿下の教育係であった者など、殿下の生存を知れば集まってくる戦力もありましょう!」
……ん? なんかおかしくないかな。
「もしかしてだけど、僕の生存はあまり知られていないのかな?」
「はい。現状でそのことを知っているのは、魔王様から直接知らされた私くらいのものでしょう」
「……」
セティリアには驚かされる。
まさか、ここまで考え無しで動いていたなんて。
まあ昔から戦闘以外のことは苦手そうにしていたけど……なんで僕の御世話係なんかやってたんだろう。
「まあいいや。まずは戦力を集めよう。ここは魔王城のあった場所だし、ここで構えていれば誰か戻って来るんじゃないかな」
「さすがは殿下。深いお考えがあってのことなのですね」
それっぽい反応をすれば誤魔化せるとでも思っているのかな。よくわかってませんって、顔に出ているよ。
「まあ、待ってれば誰かしら来るでしょ。魔族も、人間も」
理由は色々あるけど、説明するのも面倒だからいいや。
なるべく早めに戦力を集めて勇者との会合を果たさないと。
取り返しのつかないことになる前に。