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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第一部 異世界召喚編
33/76

31:異世界生活決心しました ~榊原 透~


 家に帰っても誰もいない。両親が共働きで、いわゆる鍵っ子だった俺にとっては、特に珍しくもない光景。

 ただしそれは、ここが日本なら。という前提条件がつく。

 こっちの世界に来て、俺には家族と言っていいほどの友人ができた。あまり外に出ることはなかったが、家に帰れば必ず、おかえりなさいと出迎えてくれる家族だ。

 その声が、今日は聞こえなかった。

 それどころか、帰る家自体が無くなっていた。

 いったい何がおきたというのか。

 ウィルさんたちが散歩に出ているだけというのはありえない。家まで無くなる意味がわからないし、そもそもウィルさんはよっぽどの理由がなければ外には出ないはず。

 ということは、外からやってきた誰かに襲撃されたか。襲撃ということで、シーナが誰かに情報を洩らしたのではと考えるが、すぐに改める。

 シーナも今の生活は気に入っていたはずだし、こんなことをするメリットも思い付かない。まして、今のシーナは震える尻尾を握りしめ、体勢を低くして辺りを警戒している。

 シーナも不安なのだ。こんな子を一瞬でも疑ってしまった自分が情けない。心のなかで謝罪した。

 

「現状を確認しよう。シーナは何がおきたかわかるか?」

「わ、わかんないよ……。誰かにやられたにしても戦闘の跡は無いし、あの二人を相手に勝てる奴なんて想像もつかないよ……」

「だよな。エティの強さは俺もよく知ってるし、やられたとは思えない。そして、ウィルさんが俺たちに黙ってどこかに行くことも考え難い」

「うん……。あたしもそう思う……」

「襲撃でもない。自主的でもない。わからないな……。案外近くにいるかもしれないし、すぐに帰ってくるかもな」

 

 楽観的に考えてみるも、どうにも安心できない。何か大変なことに巻き込まれてなければいいのだが。

 まあ、あの二人なら大抵のことは軽く解決して戻ってきそうな気もするし、暫く待ってみるか。

 

「とりあえず、はぐれたときはその場を動かないのが鉄則だな。ここは拠点なんだし、そのうち戻ってくるだろ」

「そう、そうだよね。すぐに帰ってくるよね?」

 

 怯えながら確認してくる。冒険者なんてやってるし、普段は気の強いシーナだが、まだ幼い少女なのだ。こんなことになれば不安も感じるだろう。俺がしっかりしないとな。

 

「そうと決まれば、とりあえず寝るか! 入口は塞いでおいたし、魔物が入ってくる心配も無いだろ」

 

 道具袋から布団を取り出しながら提案する。

 

「トールのその神経は素直に尊敬するよ……」

「おう、大いに尊敬したまえよ。ほれ、見張りはしておくから、とりあえず先に寝ていいぞ」

「うん……。この状況で寝られるかはわからないけどね」


 そりゃそうか。まあ寝られなくても、横になるだけである程度楽にはなるはずだ。

 

「怖いなら頭撫でてやろうか。なんなら寝付くまで添い寝してやっても……」

「変態っ! おやすみっ!!」

 

 俺の小粋なジョークに、頭まで布団を被る。

 とりあえずはこれでいい。休めるときは休んでおかないとな。

 

 

 

 その日はなんの進展もなく、朝を迎えた。

 これからのことを考えないといけないな。いつ二人が帰ってくるかわからない手前、ここから離れるわけにはいかない。基本的には待機するべきだろう。

 交代で周囲の森を調べることも考えたが、何が起こっているかわからない今、迂闊に別行動を取るべきではない。下手したらシーナとも離れ離れになる危険があるのだ。

 今は二人でいるから落ち着いていられるが、もし自分一人だったらと思うとぞっとする。

 今日はとにかく洞窟内の調査に留めることにしよう。

 

 二日目、朝起きると照明が消えていた。涌き出ていた水音も無くなっている。

 暗闇のなか、シーナが荷物からランタンを取り出して灯りをつけてくれた。

 ここの照明や水は、ウィルさんが精霊魔法で維持していたはずだ。それが消えたということは、ウィルさんに何かあったということなのか。

 シーナに聞いてもわからないと言うし、考えていても埒があかない。精霊のことは精霊に尋ねよう。何日かぶりに、ルナを呼び出すことにした。

 

「ということで、突然精霊の力が途切れたんだけど、何を意味するかわかるか?」

「精霊の力が途切れる理由。術者の死亡、もしくは遠く離れて数日の経過。あとは意図して解除するくらい」

「なるほど……。ウィルさんは俺たちがここに戻ることはわかっているだろうし、意図して解除はないと思う。あの人達がそう簡単にやられるとも思えないから、遠くに行ったと考えるべきかな」

 

 希望的観測ではあるが、そう考えるべきだろう。

 そうとわかれば話は簡単だ。追いかけよう。

 理由も方法とわからないが、どこか遠くで生きているならば探せるはずだ。見つけ出して、話を聞こう。黙っていなくなるなんて水臭いじゃないかと、一発殴ってやろう。

 そして、もし俺にできることがあれば、力になりたい。

 異世界の知識もあるし、ルナだっている。足手纏いにはならないはずだ。

 このままここで燻っていても仕方がないし、行動あるのみだ。

 

「ありがとうルナ。ちょっと気が楽になったよ」

「ん。何かあったらまた呼んで。いつでもいいから」

 

 そう言って消えていく。

 

「トール……、落ち着いた?」


 ルナがいなくなった後、シーナが心配そうに見上げてくる。

 

「ん? 俺は元々冷静なつもりだったけど?」

「トール、さっきまで自分がどういう顔してたかわかってないよね。今にも発狂しそうな顔だったんだよ? 本当に冷静な人間は、なにもしないでずーーっと同じところに座ったりしないからね?」

 

 言われて初めて自覚する。冷静なつもりでいたが、俺も混乱していたのか……。

 シーナを怖がらせまいとしていたのに、逆に心配されていたらしい。

 

「ごめん。もう大丈夫だ。とにかくウィルさん達を探しに行こうと思う」

「それなら、ひたすら歩くしかないんじゃないかな。あれだけの魔力だもん。どこかにいればすぐ見つかるって!」

「そうだな。聞き込みでもしながら探せば、案外すぐに見つかるかもな」

 

 なんせ、近寄っただけで失神してしまうほどの魔力だ。どこにいたって噂として残るはず。

 

「そうと決まればすぐにでも出ようよ! まずはどこから回る?」

 

 やたら明るく振る舞うシーナ。多分俺に気を使ってくれているんだろう。

 兄貴分として情けない限りではあるが、今はその気持ちが純粋にありがたい。

 

「どこと言っても、近くの村以外は行ったことがないんだよな。他にいったい何があるのか……」

「あ、じゃあさじゃあさ。あたしの故郷を目指してみるのはどう? そんなに遠くもないし、暫定的な目的地としてさ。」

「それもいいなあ。シーナの故郷って、もしかして皆獣人だったりするのか?」


 これは非常に大切なことだ。確認しないわけにはいかない。

 

「冒険者とかも来るから全員ではないけど……。住んでる人はほとんどが獣人かな?」

「よし行こう、すぐ行こう、今から行こう!」

 

 素晴らしい目的ができた。

 ウィルさんを探すことが第一目標ではあるが、せっかくの異世界だ。あちこち回ってみるのもいいだろう。

 途中でマンガやアニメを見つけたら回収していってもいいな。

 冒険の旅か。少しワクワクしてきた。

 なぜかシーナの目線が痛いが、気のせいだろう。

 

「あ、出発前にちょっといいか?」

「ん。 どうしたの?」

「書き置きをね。しておこうと思って」

 

 道具袋から日記と鉛筆を取り出す。

 ランタンの明かりは薄く、視界は万全とは言えないが文字を書くくらいであれば問題ないだろう。

 俺達はウィルさんを探すために世界を巡る。途中でマンガを見つけたら回収していくから楽しみにしておいてほしい。無事に合流できたら、急にいなくなった訳を話してもらいたい。手伝えることがあれば言ってほしい。

 そんな感じのことを書いた。

 誰かに先に見つかると恥ずかしいため、日本語で。

 書いたページを切り取って地面に置いておく。

 ついでに、エティのお土産に買った髪留めを添えて。

 ウィルさんが帰ってきたとしたら、このメモを見てくれるだろう。そうすれば向こうからも何かアクションを起こしてくれるかもしれない。

 淡い期待ではあるが、何もしないよりはマシだ。

 

「おっし! じゃあ出発するか!」

「おーっ!」

 

 のんびりと過ごした異世界での生活はここまで。

 ここからは危険に満ちた冒険の旅だ。

 不安は勿論ある。でも俺は一人じゃない。シーナが一緒にいてくれるし、ルナもいる。

 きっと、楽しい冒険になるはずだ。辛いこともあるだろうけど、できる限り笑って過ごすようにしよう。

 さあまずはシーナの故郷へ。まってろ猫耳村!

 

 

 

 第一部 異世界召喚編 ~了~

これにて、第一部終了になります。


作者は社畜ですが、運のいいことにGWがあるようなので少しお休みさせていただきます。

話はまだまだ続きますので、今後ともよろしくお願いいたしますm(__)m

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