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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第一部 異世界召喚編
31/76

29:異世界生活 楽しくお買い物しました ~榊原 透~


 今日は朝から冒険者ギルドへ。

 来る途中に採集した薬草やらを換金するためだ。

 相変わらずこの村は朝から活気づいていた。群がる他の冒険者と共に、クエストの貼られた掲示板を確認する。

 俺は右から、シーナは左から。

 二人で分担して、手持ちの品がクエストに出ていないか確認していく。見つけたなら、その必要数を記憶する。ここで大量にクエストを受注するといった愚を犯す必要はないからだ。

 やがて、二人の視線が中央で重なる。

 

「どうだった? こっちはいくつか見つけたけど」

「あたしの方もそれなり。ていうかウェルフ肉高騰しすぎでしょ。絶滅危惧種かっての」

 

 すいません多分この森のは絶滅してます。うちのエティリィさんがやってくれました。しかもその原因作ったの俺なんですごめんなさい。

 ばれたら各方面から恨みを買ってしまいそうだし、ここでは口にしないほうがいいだろう。

 ともあれ、クエスト自体はいくつかあったため、事前の打合せ通りに一旦ギルドを後にする。

 

 

 ギルドから少し離れた路地裏。

 大通りに面しておらず、人がほとんど通らないような道だ。心なしか、日の光も届いていないように感じる。

 わざわざこんなところまで来たのには、ある商品を取引するため。

 周囲に人の気配が無いことを確認した俺は、自分の道具袋から『クサ』を取りだし、取引相手に手渡す。相手は数を確認し、自分の荷物袋へ詰めていく。

 

「毎度毎度。へっへっへ。ほんま、ポクギリ草は最高の合法ハーブやでえ……」

「何言ってんのトール。早く済ませようよ」

 

 と、まあクエストに必要なだけの野草、薬草を薬草をシーナの荷物に詰め直していた。

 わざわざ路地裏まで来たのは、俺の道具袋に空間魔法がかけられていることを他人に見られないため。

 先に移しておかなかったのは、シーナの荷物袋では入りきらない量があったからだ。

 この道具袋、ころしてでもうばいとる程の価値があるらしい。そんな物騒な品を人目のあるところで堂々と使うわけにはいかないだろう。前に来たとき、広場で布団出したりしたけどばれてないだろうか……。

 とまれ、ギルドに貼られていた採集クエストを全て剥がせるだけの量を移しかえることはできた。

 あとはギルドに戻って精算するだけだ。残りはまたそのうち処分しよう。

 

 

 精算はシーナに一任した。

 なんでも、シーナはこの村でよく採集クエストをこなしていたんだとか。戦闘は苦手と言っていたし、普段から似たようなことをしていたのだろう。

 採集系のクエストは討伐系と比べると報酬が割安ではあるが、それでも数が数なためそれなりの金額になってくれた。

 しめて銀貨十枚。報酬はシーナと山分けした。

 二日間働いて五万円か。命の危険があるとはいえ、ぼろい商売に感じた。儲かるんだな冒険者って。

 その分知識と準備が必要になるのだけれども。この効率の良さは、採集に特化したシーナだからこそなのかもしれない。

 ちなみにそのシーナは受付のお姉さんに罰則金を払っていた。調査クエストを失敗したせいだ。

 捕まった上に、暫く軟禁されていたのだから連絡できなくても仕方がないと思うけど、依頼者からすればそんな事情は関係ないんだろうな。世知辛い。

 

 

 

 

「で、トールは何を買いに来たんだっけ?」

「そりゃお前、魔導書だよ。初心者用の」

「なんで今更初心者用なの? 精霊使いなのに」

「精霊魔法は燃費が悪いんだよ。普段は簡単な魔法に抑えとかないと、すぐ倒れちゃうだろ」

「えっとさ。確認なんだけど、トールは精霊使いなんだよね。どこかに仕える気とかは無いわけ?」

 

 やたらと精霊使いを強調してくるな。ルナを呼んだときもそうだったけど、俺が精霊使いだと何かまずいんだろうか。

 

「特に予定は無いな。俺はウィルさんにでかい借りがあるから、恩返しとしてそのうち世界中のマンガを集めて回る予定なんだよ」

「はー。そっかー。欲が無いんだねえ」

 

 何のことかわからないが、感心されてしまった。悪い気はしないけど、欲って何だろう。

 

「てことで、魔導書が欲しいんだけど、どこで売ってるかわかるか?」

「そーだねえ。簡単なやつだったら本屋に行けばあるんじゃないかな。広場の露店にもあるだろうし、両方見たらいいんじゃない?」

「なるほどな。よし、本屋の方から見てみるか」


 シーナのアドバイスを受けながら本を探していく。

 本屋、露店と見てまわり、最終的に三冊の本を購入した。

 『ゼロから始める初心者魔法』、『無職魔導師~土魔法覚えたら本気だす~』、『この素晴らしい魔導師に祝福魔法を』の三冊だ。

 ジャケ買いじゃないよ。ちゃんと中身確認してから買ったんだからね?

 三冊合わせても銀貨二枚弱と、なかなかリーズナブル。まあ魔物ですら魔法を使う世界なのだし、魔法の敷居自体がかなり低いのだろう。

 ついでに露店でお土産も購入した。

 ウィルさんにはよくわからないお菓子、エティには黒い花のついた髪留めを。

 髪留めを買う際、シーナが物欲しそうな目で見てきたが、君は自分で買いなさい。というか、目の前で女の子にプレゼントを買えるほど、俺のリア充スキルは高くありません。そのうち別行動したら買っておいてあげよう。

 

 

 買い物を無事に終え、ほくほくしながら昼食を取るべく店を探していると、事件が起きた。

 

「緊急事態! 緊急事態です! 森の奥地で膨大な魔力反応が確認されました! 冒険者の方は森に入る際は注意を! 冒険者でない方は暫く村を出ないようにしてください! 繰り返します!」

 

 もう一度、同じアナウンスが村中に響く。

 突然のことに驚いたが、これも魔法の一種なのだろうか。

 アナウンスを聞いて、周囲が俄に騒がしくなってきた。

 

「あー。またこれかあ」


 周囲がざわつく中、隣を歩くシーナは余裕がありそうだ。

 

「また、ってことは前にも何度かあったってことか? なんか物騒なこと言ってたけど」

「あたしが知ってる限りでは三回目かな。だいたい一年前と、半年くらい前」

「そこまで頻繁ってわけじゃないのか。でも膨大な魔力反応って何なんだ。家に帰れなくなると困るんだが」


 我が家は森の中にある。危険な魔物が出たりしたのなら、家に帰ることすら困難になりそうだ。

 しかし、半年前か。懐かしいな。

 思い出されるのはあの日の夜。シャイヤン達と知り合った日の晩にウェルフの群れに襲われた時のこと。

 あれは本当に怖かったな。今でこそルナがいるから魔物も怖くないが、あの時エティとウィルさんが来てくれなかったら、今こうして生きていられなかっただろう。

 そういえば一年前っていうのも、俺がこっちに来た頃か。

 ……んん?

 

「あ、気付いた? 多分ウィルが原因だろうね」

「まあ、ウィルさんが外に出たタイミングとは合ってそうだけど……。でも今回、外に出るような用事なんてあったか?」

「さあ? それは本人じゃないとわかんないよ」

 

 ウィルさんが原因。それは納得できる。シャイヤン達なんて近くに寄っただけで気絶してたし。

 半年前は俺のために外に出てきてくれた。しかしウィルさんは元来、自ら外に出ようとはしない人だ。

 今回は外に出るような理由が考えられなかった。ということは、俺が考え付かないような事態に陥っている可能性もある。

 例えば、洞窟が崩れて家を追い出されたとか。

 なんとなく、嫌な予感がした。

 特に理由はない。虫の知らせのような予感。

 一度考えてしまうと止まらなくなる。予感は俺の中でどんどん大きくなっていった。

 気のせいであればそれでいい。誰も何も困ることはないのだから。

 しかし、今この瞬間にウィルさんに何かが起きている可能性もある。もし、ウィルさんが困っているようなら力になりたい。

 

「シーナ、来て早々で悪いけど、家に帰ろうと思う。シーナはどうする?」

「え? そりゃ一緒に帰るよ?」

 

 何を当たり前のことを? とでも言いたそうな顔をしている。

 「行く」ではなく、「帰る」と表現してくれたことがちょっと嬉しかった。

 

「それじゃ早速出発するか、忘れ物とか無いよな」

「あたしはいつでもオッケー。荷物は全部持ち歩いてるからね」

「今から出れば、夜中には着けるか? 順調に行けば、だけど」

「そだね。魔物次第って感じかな。なるべく急ぐんであれば、夜通し動いた方がいいだろうね」

 

 善は急げ。すぐに出発しよう。

 この予感が杞憂であることを願いながら。

 

 

 

 帰りの道もまた、魔物に会うことはなく順調に進んだ。

 

 その日の夜中、家にたどり着いた俺たちが目にしたものは、開け放たれた洞窟の入口と、階段の下にある、だだっ広い空間だけだった。

 その他は何もない。外に置いてあった発電機も洗濯物も。皆が寝泊まりしていた家すらも。

 明るくおかえりと言ってくれる人たちもいない。

 唖然として立ち竦む俺たちに言葉はなく、ただ水の湧き出る音だけが洞窟内に響いていた。

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