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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第一部 異世界召喚編
29/76

27:異世界生活久し振りの外出 ~榊原 透~

会話多目回。

文字数稼げていいですね(´・ω・`)


 時は満ちた。

 悠久の時を越え、かつて夢見た大地へ。

 今、その一歩を……。

 

 

 と、いうことで外に出てきました。

 多分4ヶ月ぶりくらいになる外の世界。深い森ならではの、樹と土の香りが心地いい。

 

 

 話は一時間ほど前に遡る。

 

「もうやだ! 外出たい! お日様浴びたい! 森の匂い嗅ぎたい! 走り回りたいーー!!」

「何言ってんだよ。いつも家の外走り回ってるじゃないか」

「違うの! もっとこう、お日様の下で駆け回りたいの! 確かにここも広くて明るくて走り回ってるけど、それとは別で本能が疼くの!」


 シーナがいきなり暴れだしたのだ。

 ずっと地下に籠っていたことが原因だろうが、こいつは自分の立場を分かっているのだろうか。

 ……いや。わかっていないな。ご飯は平気で三杯以上おかわりするし、お風呂の抜け毛も拾わないしな。

 

「外なぁ。そういえば俺も暫く出てないなぁ。そろそろ魔導書も欲しいし、ちょっと行ってこようかな」

「あたしも! あたしも一緒に行く!」

「駄目に決まってんだろ。お土産屋に外の石でも拾ってきてやるから我慢しなさい」

「お願いー! もうやばいの限界なの! ストレスで毛並みが乱れてきてるのっ!」


 むうそれはけしからん。獣っ娘たるもの、毛並みは常に綺麗にしておかないと。

 でも外出を許可して逃げられたりしたら、誰かにここの情報を洩らすかもしれない。そうしたら、もうこの家には住めなくなってしまう。

 

「ね。トール。逃げたりしないから。誰にもここのこと話したりしないからぁ……」


 心を読んだかのような発言。本人はそう言うけどどこまで信じていいものか……。

 俺が考え込んだことでチャンスと見たか、シーナが動いた。

 ペタンと床に座りこみ、右手を顔の隣へ。招き猫のようなポーズで上目遣いに俺を見上げ。

 

「ねえトール。お願いにゃん♪」

 

 俺も甘く見られたものだ。確かに俺は獣っ娘が好きだし、シーナのことも可愛いと思っている。だが、一時の感情で考えを変えるような人間だと思われているのだろうか。

 全くけしからん。そんな欲望に負ける人間だと思われていたなんて。

 でもまあ、可愛い妹分の頼みでもある。兄貴として多少の我儘は聞いてやるのもいいかもしれない。

 そう、欲望に負けたわけじゃなくてね。兄貴としてね。

 

「ちょっとウィルさんに聞いてくる」

 

 いやー。いいもん見たわ!

 

 

 

「トールが一緒ならいいんじゃない?」

 

 ウィルさんの返事はあっさりしたものだった。


「あれ、そんな簡単で大丈夫ですか? ほら、逃げられたら情報洩れてここに住めなくなったりとか」

「来たばかりの頃ならわからないけど、ここ最近の様子なら大丈夫だと思うよ。トールも一緒に行ってくれるんでしょ?」

「ええまあ、行くとなれば一緒に行きますけど……」

「なら大丈夫だよ。お土産よろしくね」

 

 シーナも随分信用されたものだ。あいつに本気で逃げられたら俺じゃ追い付けませんよ。

 まあ家主がこう言ってるんだし、別にいいか。

 

「わかりました。では行ってきます。何日か留守にしますが、よろしくお願いします」

「はい。行ってらっしゃい。楽しんできてねー」

 

 

 

 

「と、いうことで許可がおりた」

「おー! やるじゃんトール! 偉い!」

「お喜びいただけたようで恐悦至極。でも俺も一緒に行くからな。変なことは考えないように」

「わかってるわかってる! あたしは外に出られたらそれでいいから、あとは大人しく従うよ!」

 

 尻尾を見るとピンと立っていた。

 たしか猫の喜んでいるときの尻尾がこんなだったっけ。犬と違って尻尾を振ったりはしなかったはず。

 前にエティと出掛けたときは不安半分、期待半分といった感じだったが、今回はあまり不安はない。

 シーナも大人しくすると言っているし、嘘をつけそうな性格でもない。純粋に外に出たいだけで、俺たちを騙す気はないと思う。

 魔物に出会ったとしても、こちらは二人だしルナもいるから問題はないだろう。むしろ、俺もそろそろ魔物退治を経験するいい機会だ。エティがいると全部倒しちゃうしな。

 

 

 村までの道はなんとなく覚えている。

 自然の森に罠などがあるはずもないため、自然と警戒も弛み、雑談が増えてしまう。

 

「シーナはさ、うちに来る前は何してたんだ?」

「ん? 故郷の村を出てからはずっと冒険者だよ。ギルドでクエスト受けたり、誰かと組んでダンジョン潜ってみたり」

「ダンジョン! やっぱりあるのかダンジョンって。シーナのスキルはダンジョン攻略に向いてそうだよな」

「あたしは戦闘は苦手だからねー。手先が器用な自信はあるから、そっち方面ばっかり練習したのよ。トールはダンジョン行ったことないの?」

「俺はまだこっちに来てから日が浅いからな。ほとんどウィルさんの家で過ごしてるんだよ」

 

 言ってから、しまったと思った。

 そういえばシーナは俺が異世界人だとは知らなかったはずだ。別に隠していたつもりはないが、迂闊に話していいものかどうかもわからない。

 

「トールとウィルってさ、たまに聞いたことない言葉で話してるよね。こっち来て日が浅いとか言うし、もしかして異世界人だったりするの?」


 シーナは馬鹿ではない。むしろ賢い方だろう。

 普段の俺とウィルさんの会話に加えて、俺の常識の無さを見ればそのくらいは気付くくらいに。

 今更ごまかすのも面倒だし、何よりこの子に嘘をつきたくない。

 別にばれても構わないか。

 

「もしかして異世界人だったりするの。ウィルさんに召喚されてまだ一年もたってないんだよ」

「うっそ本当に!? あたしのご先祖様もそうらしいけど、生で見たのは初めてだよー」

 

 そう言って物珍しそうにジロジロと見てくる。

 ぴょんぴょん跳び跳ねながらこちらを見る姿はちょっと微笑ましい。

 

「別に隠していたわけでもないんだけどな。異世界人ってそんなに珍しいのか?」

「少なくとも故郷を出てからの三年間、自分が異世界人だって言うやつは見たことがないよ。まあ言わないだけで会ってる可能性はあるけどね」

「やっぱり隠した方がいいのか。ウィルさんに聞いた話だと、異世界人は英雄になることが多いってことだからもっと大々的に喧伝してるものだと思ってた」

「むしろそれが原因なんじゃない? あたしも詳しく知ってるわけじゃないけど、どこかの国が自分の勢力に取り込もうとしたりとかさ。色々と面倒なことになりそうじゃん」

 

 なるほど、戦力として求められるだけならまだしも、政治的な駆け引きに利用されるのは面白くない。ましてや、敵対国からは命を狙われる恐れもあるのか。

 国に所属するのも面倒だな。召喚されたのがウィルさんでよかった。

 

「そういえば異世界人って特殊な能力を持ってるって本当? トールも何かあるの?」

「一応アビリティは二つ持ってるよ。一つはこないだルナを呼ぶときに見ただろ? 『無詠唱』ってやつ。もう一つはよくわからん」

「あー。あれも能力のうちなんだ。ちょっとトールの冒険者カード見せてよ。あたしのも見てるんだから、それがフェアってもんでしょ」

「ん? 見たいなら構わないけど。ほれどうぞ。」

「まぁそうだよね。そんな簡単に他人に見せられるもんじゃ……。ってあれ? いいの!?」

 

 何の躊躇いもなくカードを見せる俺に驚くシーナ。

 見せたって減るもんじゃないし、別に構わないと思うんだが……。

 

「見せてって言っておいてなんだけど、トールはもっと警戒したほうがいいと思うよ。普通、自分のステータスなんて家族くらいにしか見せないもんなんだからね?」

「なんだよ。見たくないなら別にいいよ。それに、家族に見せるような物なら、シーナだってもう家族みたいなもんだし、構わないだろ」

「待って待って! 見る! 見せてください! でも、家族……。家族かー……。えへへ……」

 

 騒ぎながら、俺からカードを引ったくる。

 ついでに何かはにかんだように笑う。家族っていう単語に思い入れでもあるのだろうか。

 ふと頭を撫でたい衝動に駆られたが、それで耳を触ってしまうとまた怒られそうなので我慢。

 

「なんだよ返せよ。お前が持ってても見られないだろ」

「へ? あぁごめんつい。はい。返すから見せて見せて」


 我に返ったようにカードを返してきた。

 そのまま起動して、見えるように差し出してやる。

 

「おー。本当にアビリティ二つ書いてある。この『使役者』ってなんなの?」

「だからそれわからないんだよ。ウィルさんに聞いても知らないって言うしさ」

「ふーん……。うわっ! なにこれ魔力高っ! しかもスキル一つなのに戦闘力1500って……。これは異世界人が狙われるのも納得だね」


 俺はシーナのカードしか見たことがないから、基準がわからない。

 ウィルさんからも魔力は高いと言ってもらえたが、他の数値と比較してだと思っていた。


「よくわからないけど、そんなに高い数値なのか?」

「高いなんてもんじゃないよ。異常だねこの魔力は。それこそ英雄とかのレベルなんじゃない?」

「あー。そういえばウィルさんも言ってたな。魔王城に攻め込めるレベルだとか」

「前から思ってたんだけど、あの人って何者なの? 見た目で魔族っていうのはわかるけどさ……」

「それは俺も謎だなあ。変な物一杯持ってるし、かなり金持ちなのは間違いないと思うけども」


 あとは重度のオタクってことくらいか。

 そういえば、ウィルさんの個人的な話はしたことがないような気がする。

 

「あの人も大概怪しいよね。悪い魔族ではないと思うけどね。あ、カードありがとう。これ他の人には見せない方がいいよ」

「おう。もう誰にも見せないようにするよ。忠告ありがとうな」

 

 せっかくの忠告だ。ありがたく受けとることにしよう。

 

「さて、そろそろ日が落ちてきたね。野営の準備でもしようか。トールは火の準備しておいてよ。あたしは何か食べるもの探してくるから」


 今日はここで野宿か。

 シーナが戻ってくる前に火を着けて、寝床の準備をしておくか。

 

 

 

 

「ただいまー。キノコやら野草やら採ってきたよー。って、なにこれ!?」

「あ、おかえり。準備はできてるから飯にしようぜ」

 

 なにやら驚かれてしまった。

 普通にライターで火を着けて、道具袋から出した調理器具や材料を出しておいただけなのだが。

 あ、あと布団も二人分敷いておいた。ちゃんと少し離してある。条令は怖いからな。

 

「どっから出したのこれ……。どこにも持ってなかったよね?」

「え、普通に道具袋からだけど。もしかしてこれって一般的じゃなかったりするのか?」

「道具袋……ってもしかして、空間魔法がかかってるやつ!? 噂では聞いたことあるけど、それ国宝級の魔道具じゃん! 一般人が持てるような代物じゃないよ!!」

「まじかよ。ウィルさんが簡単に貸してくれたから、皆持ってるものだと思ってた」

「ありえない! それを持ってるだけで命を狙われてもおかしくないアイテムだよ!? そんなものまで持ってるなんて、あの人本当になんなの……?」

「まあいいじゃん。帰ったら聞いてみようぜ。今は飯だ飯」

「案外どこかのエリート魔族かもね。貴族とか王族かもよ?」

「王族ってガラかねあの人が。いいから早く飯作ろうぜ」

 

 今日のメニューは鍋にしよう。

 シーナが採ってきてくれた野草とキノコを煮込んでから、家から持ってきた干し肉を切って入れる。あとは適当に調味料をぶっこんで完成!

 男気溢れる適当鍋。それでも素材をそのまま食べるよりは全然旨い。

 シーナも、旅の途中の食事は期待していなかっただけに、とても旨そうに食べてくれた。

 

 

 こっちに来てからもうすぐ一年。

 それだけの時間をウィルさんと過ごしているのに、彼の事をほとんど知らなかった。

 ウィルさんのことだから、質問すれば答えてくれると思う。

 ウィルさんの生い立ち、家族のこと、昔のこと、なぜあんなに宝を持っているのか。帰ったら色々聞いてみよう。どんな回答が返ってくるか楽しみだ。

 

 

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