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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第一部 異世界召喚編
22/76

20:異世界生活憧れの冒険者! ~榊原 透~


 

「ご新規の登録ですね。登録料として銀貨一枚がかかりますが、よろしいでしょうか」

「はい。一人お願いします」


 ポケットから銀貨を取り出して支払う。

 


 昼食を終えた後、俺達は冒険者ギルドに顔を出していた。

 冒険者ギルドの一階は大きなホールになっている。

 壁には各種クエストの貼り付けられた掲示板、仲間を募集する伝言板が取り付けられており、職員らしき人が頻繁に貼り替えを行っていた。

 また、掲示板の近くにはテーブルが多数設置されていて打ち合わせや待ち合わせができるようになっている。

 ホールの奥には受付があり、そこでクエストの受注や報告ができるようだ。討伐した魔物の角や牙など、何かしら活用できそうな部位の買い取りカウンターなんてものもあった。

 その辺で忙しそうにしている職員を捕まえて、新規登録について尋ねると、二階の受付に行くよう案内された。クエストの依頼や冒険者としての新規登録、相談などは二階になるらしい。

 と、いうことで現在、冒険者として登録している最中になる。

 ちなみに登録するのは俺だけ。エティは今回、見送りにしている。「私は魔物ですので。おかしな結果が出てしまうと面倒なことになりますから」とは本人談。

 

「確かに受領いたしました。では、こちらの石板に手を乗せてください」

 

 言われるまま、何かの魔方陣が描かれた石板に手を乗せる。

 石板が薄く光ったかと思うと、なにやら手のひらにくすぐったい感触が。思わず手を離しそうになるが我慢した。

 やがて石板は光を帯びたまま、その姿を変えていった。

 徐々に小さく。そして薄くなっていく。

 どこまで小さくなるのかと心配したが、途中で受付のお姉さんから声を掛けられた。

 

「はい。お疲れ様です。もう手を離しても大丈夫ですよ」

 

 手をどかすと、そこには一枚のカードがあった。

 片面には俺の名前。ちゃんとこちらの世界の言語で書かれている。

 裏面は何も書かれていなかった。右下の方になにか円が描かれているのみで、あとは完全に白紙。

 すわ、失敗か!? もしくは俺ノースキルか!?

 と、思ったがどうやら違うらしい。

 

「では使い方をご説明します。まず、表の名前に間違いが無いことを確認してください」

 

 名前に間違いはないので頷く。

 

「はい。そうしましたら裏面をご覧ください。現在は何も書かれていなかった何も書かれていないと思います」

 

 何も書かれていないので、やはり頷く。

 

「下の方に円がありますか? そちらに指を置いてみてください。どの指でも構いません」

 

 指示通り、指を置いてみる。右手で持ってるしそのまま親指かな。

 すると、カードに文字が浮かび上がってきた。

 うわすっげ。炙り出しみたい。

 試しに指を放すと、文字は消えてしまった。

 

「ご覧になられましたか? そちらが貴方の現在のステータスになります。ステータスはご本人にとって最大の秘密事項となりますので、私共も確認はいたしません。ご本人以外には開けないようになっていますが、くれぐれも、取り扱いにはご注意ください」

「わかりました。ちなみにこれって、スキルやステータスの更新はどうしたらいいんですか?」

「更新は、開く度にご本人の魔力を感知して自動で行われます。開いたままの状態では更新されません」

 

 なるほど、と頷く。

 カードにはステータスやスキル、更には総合戦闘力まで記載されている。

 ということは、もし誰かに見られた場合、自分と相手、どちらが強いのか戦う前にわかってしまうわけだ。

 実際は個人の経験も絡んでくるだろうから、数値通りにはいかないまでも、参考値としては十分すぎる情報となる。

 

「なお、クエストを受注、報告する際にはカードをご提示ください。ステータスは表示させなくて結構です。こちらで内容の確認と処理を行わせていただきます」

「なるほど大体わかりました。受けられるクエストに制限とかはあるんですか?」

「基本的にはありません。クエストには大体の目安となる総合戦闘力が記載されていますので、ご自身のステータスと相談して受注するようにしてください。どなたかと協力して達成していただくことも勿論構いませんが、それによって報酬額が増えるということはありません。その他、何かご質問はありますか?」

「大丈夫です。あとはクエストをこなしながら確認していきます。ありがとうございました」

「はい。では、貴方にとって良き冒険のあらんことを」

 

 チュートリアルを終え、テンプレなのか、お姉さんの決め台詞を聞いてからエティと一緒に部屋の隅っこへ。

 見たい。ステータス物凄く見てみたい。

 いったいどんな特殊能力なのか。期待と不安でドキがムネムネしている。

  

「さて、エティさん準備はいいですか」

「はいトール様! 私はいつでもいけます! 楽しみですねえ!」

 

 周りを見渡して、誰も近くにいないことを確認する。

 他人に見せちゃいけない感じだったけど、信頼できる相手なら構わないよな。エティには一緒に見てもらいたい。

 先程と同じように親指を円の上に置くと、文字が表示される。

 出てきたのは運動能力や魔力といった基礎的なステータスと、スキル、総合戦闘力。そして、アビリティ。

 スキル欄は当然のように空欄。

 気になるのはそこじゃない。アビリティ欄だ。

 果たして、アビリティ欄には項目が二つ記載されていた。

 

 ・無詠唱

 

 ・使役者

 

 うおおおおお! すげえ!

 思わず顔を上げてエティの方を見ると、彼女も興奮した様子でこちらを見ていた。

 

「凄いですトール様! これは本当に凄いやつです!!」

「だよな! これ当たりだよな! 大当たりだよな!?」

 

 周囲の視線が集まるが気にしない。興奮を隠せそうになかった。

 だって無詠唱だよ無詠唱!

 魔法使いの最大の弱点である詠唱時間が不要になるんだよ!

 ステータスを確認すると魔力も結構高そうだし、俺魔法使いなれるんじゃねえ?

 あれ、でも魔法ってどうやって覚えるんだろう。まあいいや。

 もう一つの使役者っていうやつがよくわからないけど、悪いものではないと思いたい。

 

 

 興奮冷めやらぬまま、冒険者ギルドを後にする。

 折角だから何かクエストを受けようかとも思ったが、まずは装備を揃えないとな。

 やはり魔法使い風のローブを揃えるべきか。でもそれだとウィルさんと被るな。

 あとは杖?魔法を使うなら杖は必要だよね。

 予算は多分余裕あるはずだし、良い物が見つかるといいんだが。

 

 まずは防具から。冒険者ギルドで場所は聞いておいたから、すぐに見つかった。

 村で評判のいい店をいくつか紹介してもらったのだ。

 こっちの世界でも癒着が進んでたりするんだな。袖の下とか払ってるのだろうか。金色のお菓子でございます。

 俺としては助かるから構わないけど。

 大体の相場も教えてもらったから、使いすぎて宿代が足りないっていう心配も無い。

 

「いらっしゃいませー」

 

 店に入ると、まず大量の鎧が目に入った。

 あちこちに全身鎧が立っており、威圧感が半端無い。

 壁の方には棚が置いてあって、革でできた軽装備や、金属の部分鎧なんかが陳列している。

 いくつか手に取ってみるも、違いが全然わからない。

 エティも物珍しそうに色々見ているものの、よくわかっていなさそうだ。

 やっぱりその道のプロに選んでもらおう。

 

「すいませーん。防具一式揃えたいと思うんですが、お勧めってありますか?」

 

 先程出迎えてくれた店員さんを捕まえて尋ねる。

 よく見たらこの子亜人じゃないか。耳が長い。


「あ、はーい。えっと、どういったものをお探しでしょうか」

「この子に似合いそうな装備をトータルコーディネートしてください。」

「へあっ!? とととと、トール様、私ですか!?」

 

 いきなり話を振られたエティが慌てる。

 ふっふっふ。サプライズ大成功。

 元々この店ではエティの防具を揃えるのが目的だった。いつまでもメイド服っていうのも何だしね。

 ついでに俺のも買えたらいいけど、それは物を見てから。

 

「こちらの方に、となると、軽装備のほうがいいですかね。ご予算はどのくらいですか?」

「そうですね。動きやすいほうがいいと思います。予算は金貨一枚くらいで足ります?」

 

 俺の言葉に驚くエティと店員さん。

 エティはサプライズだからいいけど、何で店員さんまで驚くかね。足りなかったことは無いと思うんだけど。

 

「と、トール様! そんなに使われてしまってはトール様の分が足りなくなってしまいます!」

「いいからいいから。えっと。予算足りませんか?」

 

 メダパってるエティを手で制する。

 実のところ、俺の分はどうでもよかったりする。

 魔法使い系とわかった時点で、固い鎧なんて必要ないし。急所だけ守れるものがあればいいと思っている。


「……はっ! す、すいません! 当店で最高の物を用意させていただきますっ!」


 よろしくお願いします。と伝え、エティを預ける。

 何か言いたいのに言葉が見つからないのか、エティは口をパクパクさせながら店の奥に連れていかれた。

 さて、自分のを探すか。

 ギルドで聞いた話だと、宿代が一泊で銀貨一枚程度らしいし、予算にはまだまだ余裕がある。

 なんとなくの感覚だけも感覚だけど、銅貨一枚で100円くらいのイメージかも。

 銀貨一枚だと10,000円。金貨なら百万円かな。

 今俺は約二百万もの現金を持ち歩いていることになる。ちょっとした小金持ち気分。

 暴漢に襲われたらエティに助けてもらおう。

 店内に金貨が必要になるような装備は見当たらない。高そうな全身鎧でも、せいぜいが銀貨五十枚といったところだ。

 外の露店で売ってた銀貨三十枚のネックレスって、相当ぼったくりだったんじゃないだろうか……。

 

 あちこち見てみた結果、自分用には革製の胸当てを購入。銅貨八十枚。銀貨でお支払です。ちゃりーん。

 汎用品なのか、サイズもある程度調整できるようで便利。

 そもそも俺にとって最強の防具はこの左腕。これがある限り他の装備なんて蛇足でしかない。

 

 支払いが終わったあたりでエティと店員さんが、店の奥から戻ってきた。

 店員さんはやり遂げた表情で、エティは恥ずかしそうに俯いている。

 エティの装備は、いかにも剣士然としたものだった。戦士ではなくて、剣士。

 動きやすさを重視して、相手の攻撃は避けるか受け流す。真正面からの打ち合いには向かないだろうけど、動きの早いエティ向きといえた。

 金属でできているのは胸部のブレストプレートのみ。

 あとは布か革製の、鎧というよりも服といった印象。

 インナーの上に陣羽織のようなものをはおり、腰のところを帯で結ぶことで体にフィットさせている。

 店員さんの説明によると、ほぼ全ての装備に保護の魔法が掛けられているため、見た目よりもかなり防御力は高いんだとか。

 全体的に緑や黄緑色でまとまっていて、エティの赤い髪と眼がよく映えていた。

 うん。可愛い。思わず見とれるくらいに。


「あ、あの……、どうでしょうか……。私なんかがこんな……」


 俺が黙りこんでしまったことで更に不安になったのか、遠慮がちに質問してくる。

 

「あ、ああごめん。に、似合ってると思うよ。うん、凄く似合ってる」

 

 可愛いよと言えない自分が憎い! リア充スキルはどこで上げられるんだ!?

 そんな不器用な言葉でも安心したのか、エティの顔に笑みがこぼれる。

 

「ありがとうございますトール様。大切に使わせていただきます!」

 

 ようやくいつものように笑ってくれた。

 やっぱり笑顔のほうがいいよな。

 

「まあ、元々がウィルさんの物を売ったお金なんだし、俺よりもウィルさんにお礼言わないとだな」

「はい、それは勿論です! ですが、やっぱりトール様もありがとうございます!」

「あのー。それでお会計のほうなんですが……」

 

 二人で照れあっていると、店員さんが現実に戻してくれた。

 

「なんとかご予算使いきりまして、銀貨九十五枚と、銅貨で六十枚になります」

「あ、じゃあこれで。釣りはいらないぜ!」

 

 ポケットからじゃじゃらと銀貨と銅貨を取り出す。

 これでポケットも大分軽くなった。

 店員さんは貨幣の枚数を数えると。

 

「はい、銀貨九十五、銅貨六十。ちょうどいただきました。またのお越しをお待ちしております!」

 

 長耳の店員さんに見送られ、店を出た。

 あれってエルフなのかなあ。

 

 その後は広場の露店をぐるぐる回って、俺の杖を購入。先っぽに小さい宝石が付いた短めのロッドにした。

 銀貨二十枚お支払の、ちょっとした高級品でした。

 

 それから宿で夕食をとってから就寝。

 ちゃんと二部屋とりました。俺は紳士ですから。

 明日はついに初クエストを受けてみよう。

 どんな冒険が待っているのか、オラわくわくしてきたぞ。

 ところで何か忘れている気がするけど、なんだっけな。

 

おかげさまでブックマークやPVがかなり増えてくれました。

皆さんに読んでもらえているということがモチベーションに繋がっています。


本当にありがとうございます。


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