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残念魔王と異世界勇者  作者: 真田虫
第一部 異世界召喚編
21/76

19:異世界生活で商売してみました ~榊原 透~


 村には活気が満ちていた。

 流行り病にかかっていたということだったが、シャイヤン達の持ち帰った薬草が効いたのだろう。

 昼前の忙しい時間ということもあるのかもしれないが、休んでいた分を取り戻せといわんばかりの勢いで、人々が走り回っている。

 入口に案内板が設置してあったので確認。

 村は全体的にこじんまりとした感じがする。

 中奥に広場があって、囲むように建物が配置されていた。

 森の資源を集めるための中継基地とした役割なのだろうか。民家は少なく見える。

 代わりに宿や商店の類いは結構数があるようだ。

 今回の最大の目的、冒険者ギルドは村の中心。広場沿い建っているらしい。ここからでも見える大きな建物がそうなのかな。

 見渡す限りだと2階建てまでの建物がほとんどの中、冒険者ギルドだけはその倍くらいの高さをしている。

 人が集まる場所だろうし、それなりに大きさも必要なのかね。

 案内板から目を離し、辺りを見回してみると冒険者然とした人が多い。服装は鎧だったり服だったりと様々だが、ほとんどの人が武器を携帯している。

 完全装備をしている一団は、これから森に入るのだろうか。

 午前中に仕事を終えたのか、外から戻ってくる人もちらほらうかがえる。

 そして、そんな冒険者達の中に自然と溶け込んでいる亜人の存在があった。

 ケモミミ! ケモミミがいる! 画面の中かコスプレ会場にしかいなかったケモミミが!

 全てのオタクの夢、ケモミミがいる!!

 うっはー。触りてえ……もふってみてえ……。

 でもこういう場合、勝手に触ったら滅茶苦茶怒られるか、恥ずかしがられるかの二択なんだよな。

 で、そこからフラグが立つんだ。

 触ってみたいけど、知り合いですらない人にいきなりボディタッチとか無理です。亜人とかそういうの関係無しに無理です。

 

 閑話休題。

 さてまずはどこから行こうかな。

 エティにも意見を聞いてみようか。

 

「エティ、今回の目的地は冒険者ギルドなんだけど、先にどこか行っておきたいところってある?」

「そうですね……まずは路銀を確保するべきではと思います。我々は現状無一文ですので」

「はっ! そういえばそうだった。冒険者ギルドに登録するにもお金かかるかもしれないよな。やべえ何も考えてなかった」

 

 あかん詰んだ?行き当たりばったりにも程があった。

 冒険者ギルドでクエストでも受ければお金稼げるだろうけど、登録できないとそれもできない。

 物乞い?私は戦争で片腕を失いましたって書いてその辺座る?

 無理無理。こんなごつい腕付けといて同情誘うとか無理。

 それならアルバイト? まずアルバイト?

 皿洗いから始まる大冒険! 開幕だよ!

 なんてことを考えていたらエティから助け船が。

 

「ふふ。こんなこともあろうかと、マスターから資財を幾つか頂いて参りました。売ってお金にして構わないそうです」

「おおおお……さすがウィル様エティ様……」

 

 思わず崇めてしまう。

 助かった。これで皿洗いの運命は回避できそうだ。

 

「『適当に持って行っていいけど、お土産よろしくね』とのことです」

「買ってく買ってく。ペナントだろうが熊の木彫り人形だろうが何でも買ってくよ!」

 

 あ、ペナントって最近売ってないのか?日本の実家には結構な数置いてあったんだけど。

 そういえば友達が家に来たときも、何あれとか言われてたな。

 

「それじゃ、ウィルさんのご厚意に甘えてお金に変えさせてもらおう。ちなみにどんなの持ってきたの?」

「えーと、武器の類いが数本。あとは装飾品です」

「待って。あの家にある武器ってやばいのしか無かったと思うんだけど。店のおじさんが触ったら死んじゃうようなのしか無かったと思うんだけど」

 

 いきなりお尋ね者コースまっしぐらになるところだった。

 ウィルさん、考えているようで実はあんまり考えてないな。全くもう、俺を見習ってほしいもんだ。

 

「では装飾品の方を売りに行きましょう。こういう場合はどちらに行けばよいのでしょうか」

「んー。セオリーからすればアクセサリー屋か、冒険者ギルドってところなんだろうけど……。この世界の常識がわからないから何ともだな。ちょっと歩き回って見てみようか」

「はいっ! では行きましょう!」

 

 そう言って元気に歩き出す。

 うーん、これはデートになるのか?

 そんな広くない村ではあるけど、暫くウィンドウショッピングを楽しもう。

 

 中央広場では、明らかに商人ではない連中が露店を開いていた。

 地面に簡単な敷物をして、そこに装備品や薬なんかを並べて販売している。

 なるほど、店で売らずに直接販売する方法があるのか。

 一通り見て回って相場を確認する。

 どれがどのくらいの価値があるのか、さっぱりわからん。

 とりあえず、金貨、銀貨、銅貨で取引されていることはわかった。

 で、簡単な剣が銀貨一枚とかで売られている。なんの飾り気もない剣だけど、自作品だったりするのかな? それとも使い古し?

 武器なんて日本で見ることがないから、違いがわからない。

 てつのけん、銀貨一枚。

 てつのよろい、銀貨一枚、銅貨五十枚。

 やくそう、銅貨十枚。

 きんのねっくれす、銀貨三十枚。

 あやしいくすり、金貨一枚。

 そんな感じだった。

 どうやら、銅貨百枚で銀貨一枚。銀貨百枚で金貨一枚っていう計算らしい。

 値札に金貨を書いているのは怪しげな薬を置いてある店だけだった。

 あの薬がなんなのかは知らないけど、剣の百倍の値段か……。

 薬が高いのか、剣が安いのか。考えてもわからないものはわからないな。

 装飾品を取り扱っている店は少なく、どこまで参考にしていいものか。

 装飾品で一番高かったのが銀貨三十枚のネックレス。

 ウィルさんの家には高級品しかなさそうだったし、あれより価値が低いということはないだろう。


「エティ、相場とかわからないから損をするかもしれないけど、とりあえず俺たちも店を出してみようか」

「はい。ここなら人も沢山いますし、お値段の設定さえ間違えなければすぐに売れると思います」


 賛同を得られたところで出店の準備をする。

 空いてる区画を見つけて腰を下ろす。敷物は昨晩使った布団でいいや。

 エティが道具袋から装飾品を五つ取り出して、並べてくれる。

 どう見てもさっきのネックレスよりは高そうだな。

 しかしあれは売れ残りだ。値段設定が適正かどうかはわからない。

 こっちのは売れ残ってしまうとまた野宿する羽目になる。そう考えると、強気の値段は裏目に出てしまう。

 迷った結果、同じ値段をつけることにした。

 困ったときは先人に倣う。うん俺日本人。

 

「よし、じゃあ銀貨三十枚でいってみよう。値札なんて用意してないし、声を出していかないとな」

「それでしたら私が。トール様はどっしり構えていてください」

「そう?それじゃお願いしようか」

 

 胡散臭い男が客引きするよりは、美少女が声をかけた方がいいだろう。ここは任せよう。

 まぁメイド服の美少女が胡散臭くないかっていったら微妙なところではあるが。

 さて無事に売れてくれるといいんだけど。

 エティは少し前に出て、声を張り上げる。

 

「いらっしゃいませー! 魔王の城から発見されたアクセサリーですよー! 魔王城から入手したアクセサリーが今ならたったの銀貨三十枚! いかがですかー。お安いですよー! あっ、そこのお兄さん! 彼女さんへのプレゼントにいかがですか!? 喜ばれること請け合いですよ!」

 

 盛大に胡散臭い売り文句だった!!

 なにその曰く付き装備みたいな設定。適当に言うにしても、もうちょっとあるだろうに!

 声を掛けられた剣士風のお兄さんは不審がりながらも、店を見に来てくれた。ええ人や。

 そして売り物を見た瞬間態度が変わる。

 財布を取り出し中身を確認。そのあと全身をまさぐり出した。何をしたかったのかわからないけど、結局財布から悔しそうに銀貨三十枚を出して一つだけ買ってくれた。

 

「毎度ありがとうございました! またのお越しをお待ちしております!」

 

 エティが元気にお礼を告げる。


「いきなり売れるとか幸先いいね。他のもすぐ売れてくれたら助かるな」

「ですね。まぁ物が良いのは保証できますし、見る方が見てくれたらすぐに売れるのではないでしょうか」

 

 エティの言うとおり、残りもすぐに売れていった。

 三個目が売れた時点で調子に乗って銀貨五十枚に値上げしたのに、それでも即完売とは驚きだ。

 もしかして値段設定間違えたかな。

 ともあれこれで軍資金が手に入った。銀貨で百九十枚。金貨換算で二枚弱。

 一体どの程度の額なのか未だに不明ではあるが、少ないということは無いはず。

 

「軍資金も手に入ったし、どこかで食事でもしてみようか」

「賛成です! 人間の食料事情がどの程度のものか、確かめてみようではありませんか!」


 

 周りの景色を楽しみながら、最初に見つけた店に入ってみる。

 昼時ということで店内は混んでいたが、運良く、空いている席に座ることができた。

 すぐに店員さんが飛んできてメニューを渡してくれる。

 ラビシュの唐揚げ、銅貨五枚。

 デイクの香草蒸し、銅貨十枚。

 野菜サラダ、銅貨五枚。

 森でとれる魔物を使ったジビエ料理がメインなのだろうか。どれもこれも安い。

 メニューの端から端まで注文しても銀貨五枚あれば足りる額だ。

 ちなみにウェルフの料理は全て斜線を引かれていた。

 あいつの肉、それなりに美味しかったのに残念。


「ケイモンの塩焼きと、野菜サラダ、あとラビシュの唐揚げとゾーアのステーキください」

 

 知らない素材だらけではあるけど、塩焼きとステーキだし、食べられないものではないだろう。

 周りの席を見ると量も結構ありそうだし、エティとシェアすればいい。

 

「承りました。お会計、銅貨三十五枚になります」

 

 あ、先払い制なんだ。

 消費税とか考えなくていいのは楽でいいな。

 銀貨を一枚渡してお釣りを貰う。

 

「すぐにお持ちしますので、少々お待ちくださいませ!」

 

 店員さんは明るく言って去っていった。

 料理が来るまでに、この後のことを考えておかないとな。

 

「さてエティ、食事終わったらどうしようか。俺としてはとりあえず冒険者ギルドに行ってみたいと思うんだけど」

「私も、それがいいと思います。登録にいくらかかるのかわかりませんし、先に行っておけば安心ですし」

「はぁ。ついに俺の能力がわかるのかぁ。楽しみなような、怖いような……」

「大丈夫ですトール様! マスター程の術者が召喚されたトール様に、凡夫のような能力が宿るはずがありませんっ! きっと、ドラゴンすら裸足で逃げ出すような素晴らしい物に違いありません!」

「なんか今、すげーハードル上がったんだけど。まあ今さらじたばたしても仕方がないな。鶏鳴狗盗って言葉もあることだしね」

「けいめい……なんですかそれ?」

「どんな物でも役に立つことはあるっている諺だよ。ダメそうな能力でもそれをどう使うかが大切ってこと」

「なるほどー。素敵な言葉ですね!」

 

 ギルドの後は装備を買いたいとか、クエストも受けてみたいなんて事を話していると、食事がやってきた。

 家で食べるエティの料理とは比べるべくもなかったけど、それなりに美味しかった。

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