11:EEG
2017/4/6 前話のウィルの習得言語をちょっと追加しました。
トールが部屋に戻ったあと、一人居間に残る。
トールは慣れない環境で疲れているだろうから先に休んでもらったけど、僕はとても眠れそうになかった。
だってほら、目の前にアニメがあるんだもの!
折角見られるようになったのに、寝てしまうなんて勿体ない! というか我慢できない!
見始めたやつくらいは最後まで一気見しないとね!
まあ残りたったの12話だし、たいした時間もかからないでしょう。
あぁでも終わったら他のも見てみたいな。トールに他のオススメも聞いておかないと。
さて、アニメを見る前に準備をしないといけない。
なんせ部屋ではトールがもう寝ているのだ。疲れているのに大きい音を出して起こすのは忍びない。
そこで僕の十八番。結界魔法の登場ですよ。
テレビと僕を囲むようにして結界を展開。これで中の音が外に漏れることはなくなった。
さぁ時は満ちた。その身に刻まれし記憶を我が前に表せ!
ポチっとな。
トールが使っているのを見て、リモコンの使い方はばっちり覚えたし、再生と停止くらいは問題ない。
さあ見るぞー! とことん見るぞー!
11話の途中で、事件は起きた。
我を忘れてトールの部屋に駆け込む。
「トール! トール! トールさんっ!!」
まだ寝ていたトールが飛び起きた。
「え、何ですかいきなり!? って、うわあ!」
「ううあああああ! トールさあああん!! アニメが! アニメがあああああ!」
「え? 何? 何がどうしたんですか?」
「うわああああああああああん!!」
泣きながらトールにすがり付くけど、まともに言葉が出てこない。
「落ち着いて。とりあえず落ち着いてください。アニメがどうしたんですか」
「えっぐ……今ね……下でアニメの続き……見てたんだけど……ひぐっ……と、途中でね……真っ暗で……う、動かなくって……うわあああああん!!」
最後まで言えなかったけど、トールはおろおろしながらも僕の話を聞いてくれた。
「つまり、アニメを見ている途中で画面が消えたと。で、操作も効かないと。そういうことですか?」
「う、うん……こ、壊れたのかな……壊れちゃったのかな……」
「見てみないとわかりませんけど、多分壊れてはいないと思いますよ。俺の予想が正しければ、多分原因はわかります」
「本当!? 直るかな? またアニメ見られるかな!?」
流石はトール! 一気に希望が沸いてくる。
アニメをまた見るためなら家にある財宝を全部手放したって僕ぁ構わないよ! あ、でも漫画とラノベだけは残しておいて欲しいな。
「とりあえず下に行きましょう。まずはそこからです」
「うん! ありがとうトール!」
「まだどうにかなるかわかりませんよ。本当に物が壊れてたらアウトなので……」
トールと一緒に居間に戻る。
「あー。確かに消えてますね。電源ランプも消えてるし、故障というより発電機のほうが止ま」
「ん? どうしたの。口をぱくぱくさせて」
言いながらテレビに近付いていったトールの声が途中で途切れた。
あ、結界維持したままだった。
慌てて解除するとまた声が聞こえてくる。
「何ですか今の!? いきなり声が聞こえなくなったんですけど!」
「ただの結界魔法だよー。音を防ぐのが目的のやつを張っておいたんだ。ほら、あんまり騒がしくすると悪いと思って」
「その割には叩き起こされましたが……まあいいとして、発電機の方が止まってそうですね。多分燃料切れですよ」
「燃料? それってどんなものかわかる?」
「ガソリン……ってわかります? 火を近付けると爆発する燃える液体なんですけど」
「なにそれ怖い。日本にはそんな危ないものがそこら中にあるの?ちょっとこっちでは見たことがないなぁ」
ガソリン……やっぱり聞いたことが無い名前だ。
火を近づけるだけで爆発するなんて、身近に置いておくと危ないんじゃないかな。空中から相手の陣地にばらまいて火を着けたら一気に壊滅するんじゃないだろうか。
いや今はそんなことはどうでもいい。問題は、それが無いとアニメが見られないかもしれないっていうことだ。
「まあ無いですよね。ちょっと考えてはいたんですけど、ウィルさんって魔法が使えるんですよね?」
「うん。魔法といっても得意なのは精霊魔法と結界魔法くらいだけど……」
「この発電機って、燃料を燃やしてエンジンを動かして、その回転で発電機を回して電気を作るシステムなんですね。なので、燃料が無いならエンジンは動きませんけど、それなら他の力で発電機を回してやれば電気が作れると思うんですよ」
「う、うん……ごめん……よくわからないや……」
「簡単に言うと、この中にある機械を回転させることができればまたアニメが見られます。周波数の問題もあるんでかなり高速で、且つ一定の速度を保たないといけませんが。魔法を使ってそういうことってできませんか?」
詳しいことは全然わからないけど、何かを高速で回転させればいいのかな?
結界魔法のほうではどうにもできる気がしないから、可能性があるなら精霊魔法のほうだけど……。
「うーん……具体的にどうしたらいいかわからないけど、そういうことができるとしたら風の精霊さんになるのかな……?」
「おぉ。精霊さん! いいですね! ファンタジーっぽくていいですね!」
「じゃあちょっとお願いしてみようか。ちょっと待っててね」
一言断りを入れてからフーセーさんを呼び出す。
「はいはいよー! ウィルっち呼んだー?」
相変わらず精霊さんたちは暇をしているのか、呼んだらすぐに出てきてくれた。
風の精霊、フーセーさんは人間の女の子みたいな姿をしている。大きさは他の精霊さんと同じ手のひらサイズで、やっぱり尖った耳を持つ。その背中には虫みたいな羽が2対生えていて、ちょこまか飛び回ることができる。よく笑う明るい性格で、笑う度に見える八重歯がちょっとキュート。
「お、見かけない人間がいるねー? やっほー人間! ここの空気は美味しいかい? ボクが作ってるんだぜー?」
「うおー! すげえ! 妖精さんだ! 超かわいい! ウィルさん、この子育てようよ! 捕まえてうちで育てようよ!!」
フーセーさんに話しかけられたトールは一瞬呆気にとられたように固まったと思ったら、いきなり興奮しだした。
フーセーさんを捕まえようとするけど、スルスルと逃げられてなかなかうまくいかない。
「お、おいこらやめろ! バチをあてるぞ人間! 何を言っているかわからないけどやめろ! ウィルっち、見てないで助けて!」
トールから逃げるフーセーさんの声は必死だ。
面白いから暫く見ていたいところではあるけど、今はそれどころじゃない。なんせアニメが見られるかの瀬戸際なのだから。
「トールもフーセーさんも落ち着いて。今は発電機をどうにかしないと」
「あ、ああそうでした……ふぅ。ついリアルファンタジーを目の当たりにして理性が飛んでしまいました。すいません精霊さん」
トールの謝罪を精霊語に訳してフーセーさんに伝える。
「お、おう。わかればいいってもんさ! んで? 今度はボクに何をさせようってんだい?」
「えっと、そこの発電機をくるくる回して欲しいんだけど……僕じゃ詳細がわからないな……ねぇトール、具体的にはどのくらいで回せばいいの?」
途中で精霊語から日本語に切り替えてトールに訊ねる。機械のことは僕はさっぱりだし、下手に答えるよりも、素直にトールに聞いた方がいい。
「このサイズなら毎分3000回転ですね。1を数える間に50回転になります。あ、発電機の部分だけ回ればいいんで、エンジンのほうは切り離してしまっていいですよ。余計な負荷になりますから」
トールの言うことをそのままフーセーさんに伝える。
「むむむ。1数える間に50回転か。かなりの速度になるね。うーん……中を真空にし続けて空気を吸い込む力を使えば……いやそれよりも小さい竜巻をいくつも発生させたほうが安定感あるかな……どうせなら一部だけ真空にしてしまえば更に効率が……」
依頼を受けてすぐに仕事場モードに入るフーセーさん。さすが、プロだね。
しばらくブツブツ呟きながら何かを考えていた様子だったが、ふと顔を上げると、よし、と一言呟いてから。
「うまくできるかわからないけど、試してみようか。こっちの半分はいらないって事で、切り離していいんだよね?」
頷く。
すると、発電機の内部でキィンという音が聞こえた。
恐らく、空気の刃を内部に発生させて切り離したのだろう。
トールの方に目を向けると、興奮隠しきれないといった表情でフーセーさんを見ている。
ふふふ。トールもまだまだ子供だね。そういうのは隠して見せないのが立派な紳士ってもんだよ。僕を見習って欲しいもんだね。
「んじゃ始めるよー。失敗したらごめんってことで」
「頼むよフーセーさん。僕の未来が掛かってるからね! 魔力はいくらでも持っていって構わないから!」
「おっと、ウィルっちにそこまで言われちゃ気合も入るってもんだね! まぁボクに任せときなよ!」
胸をドンと叩くと、フーセーさんは風を操作し始めた。
最初はゆっくりと動き出した発電機が、徐々に速くなっていく。
「お、お、すっげ。本当に回ってる!」
トールは相変わらず目をキラキラさせている。
さっき普通に回したときはすぐに高速になったけど、こんなゆっくりで問題ないのかな?
トールが特に何も言ってないってことは大丈夫なんだよねきっと。
「よしっ……と。ほい、どうだい? お望みの速度になったはずだよ」
「トールどうかな。速度は出たみたいだけど」
「ランプは点いてますね。これならいけるかもしれません。あ、もうちょっとだけ速度あげてもらっていいですか?」
「え、まだ速くすんの? 仕方ないなー」
指示をフーセーさんに伝えるとすぐに対応してくれた。
どんな理由があるのかさっぱりだけど、もう気にしないことにしよう。
「はい、ではこの状態で維持を。ウィルさんはテレビとレコーダーの電源を入れてきてもらえますか?」
「もうアニメが見られるってこと!? すぐ行ってくるね!」
居間につくまでの数秒がもどかしい。空間魔法が使えたら一瞬だったのに! やっぱり今度勉強することにしよう。いつまたこんなことが起こるかわからないからね。
そして居間に到着。ドキドキする。見た感じテレビに赤いランプは点いている。さっきまでは消えていたランプだ。
どうかな。無事に映るかな。大丈夫かな。壊れてないかな。
震えながら手をリモコンへ伸ばす。
ポチっとな。
「うわああああああああああ!」
叫びながらトールとフーセーさんの元に駆け戻る。
「トール! 映ったよ! テレビ映ったよ!! アニメが見られるよ!!」
「あー、はい。良かったですね。いきなり悲鳴が聞こえるから何事かと思いましたよ。そしたらこの状態で維持をお願いします」
「うんわかった! フーセーさん、これで維持してください!」
「あいよっ! その様子だと上手くいったのかな? ま、ボクに任せとけば朝飯前って感じかな!」
「フーセーさんありがとう! 魔力は好きなだけ持っていっていいからね! あ、でもアニメを見られる体力だけは残しておいてほしいなぁ」
「お、おう。気持ちは嬉しいけど、ウィルっちの魔力をそこまで食べたら精霊の格が上がっちゃうよ。ボクはまだのんびりしたいから、ほどほどにしとくさ!」
フーセーさんはそう言い残し消えていった。
精霊さんの力は偉大だ。僕にできないことを簡単にやってのける。そこに痺れる憧れる。
「トールもありがとうね! これでまたアニメが見られるんだね!」
「ええ、しかも燃料いらずなので暫くは心配なく見られると思いますよ。精霊さんって凄いですね。俺もいつか呼んだりできますかね」
「いやいや凄いのはトールだよ! 動かなくなったときはこの世の終わりかと思ったもん。精霊魔法は適性が必要だからトールに使えるかはわからないけど、精霊語はそのうち覚えてみようか」
「そうですね。人間語を覚えたらお願いします。しかし適性ですか。俺もはやく自分の能力を確認したいですね」
「そうだねー。こればっかりは僕にはどうしようもないから……人間の街に行って、冒険者ギルドに登録したらわかると思うよ」
「そんなのあるんですか!? もしかして登録すると冒険者カードが貰えて、モンスターを倒すとレベルがあがったりだとか……」
「残念ながらレベルなんてシステムは存在しないかな。まあでも冒険者カードはあるはずだよ。それを見たら自分の能力もわかるんじゃないかな」
ブブーっとバツを作ってトールの想像を否定する。
レベルは無いけど、冒険者カードが存在するのは事実だ。そこに能力が記載されることも。
なんで知ってるかってほら。うちの実家、冒険者のお客様が結構いらしてたので……。
「そうとなればさっさと街に行ってみたくなりますね。また楽しみが増えたってもんです。あ、それはそれとして、続き見ますか。目も冴えたし一緒に見てもいいですか?」
「うんっ! 勿論だよ! 見よう見よう!」
本当は11話まで見てたけど、トールと一緒ということでまた2話から見直すことにした。
トールは一度見てるからいいって言ったけど、こういうのは何度見てもいいものだからね!