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chapter 9 〈想いの行方〉

 アヤとユキは二人で下校していた。噴水広場へ向かっている途中、街が騒がしくなった。

 噴水広場の近くで、中級と上級のアクマが四人で街の人を襲っていた。狙われているのは、学生服を着た人ばかりで、近くの大人達が下校中の生徒を避難させつつ、数人がかりでアクマに対抗していた。

 それを見て、アクマ達は自分を探しているとすぐに判った。関係のない人達を巻きこまないためにも、一人その場を離れた方が良い。アヤがいないと判れば、アクマも街を襲うのをやめるだろう。それに、街の人達に狙いがアヤ自身であることを知られたくない、という思いもあった。


「ユキ」


 アヤが隣にいるユキに声をかける。


「ユキはこのまま安全な道で帰って」

「アヤは、どうするの?」


 ユキが心配そうに尋ねてくる。


「あのアクマ達が探してるのは私だから、人気のないところに行くよ。街に出たアクマは、大人達でどうにかできそうだし」


 噴水広場の方を見ると、街の大人達の対応で、アクマが押され気味であるのが見えた。四人のアクマが、街へ応援を呼ぶ前にアヤが別の場所で姿を現せば、街への被害は小さいままで済む。

 ユキも、アクマの狙いがアヤであること、自分も一緒にいては足手まといにしかならないことは理解していた。しかし、このまま親友を危険な目に遭わせるのも嫌だった。何か、自分にできることはないか、そう思う。


「ユキが考えてること、判るよ。でも、私じゃユキを守れないから」

「……何か、何か手伝えることはない?」


 それでもこのまま家に帰ることに躊躇いがあった。どんな些細なことでもいい、アヤの助けになりたかったユキは、必死な様子で尋ねた。少しでも、親友であるアヤの力になりたかった。


「じゃあ、はるるんを呼んできて」


 そんなユキの思いをくみ取って、危険ではないことをお願いする。


「いつもの丘にいるって言えば通じるから」

「判った」


 ユキは真剣な表情で頷くと、アヤに声をかけた。


「アヤ、気をつけてね?」

「うん、ありがとう。辛い思いさせて、ごめんね」

「確かに辛いけど、私は足手まといにしかならないから。だから、私にできることをさせてくれるだけでいいの。すぐに、ハルル先生呼んでくるから」

「うん。頼んだよ」


 アヤがそう言うと、ユキは来た道を引き返した。

 そんなユキの後姿を見つめながら、小さく「ごめんね」と呟く。心配させてしまっていること、辛い思いをさせてしまっていること、友達なのに遠ざけることしかできないのが申し訳なかった。

 いつまでも今の場所に長居していてはいけないため、アヤも一人お気に入りの小さな丘のある場所へと向かった。そこへ行けば、アクマと、もしかしたらタクトと会えるだろうと思っていた。




 アヤと別れたユキは、走って学校へ戻った。急がないと、アヤが無茶をしていまいかねない。

 校内へ足を踏み入れると、ほとんどの生徒が帰宅したあとだった。クラブ活動がないわけではないが、アクマの活動が多くなっている今、遅くまで活動していることはなく、みんなすぐに下校してしまう。そのため、校内で見かけるのは教師ばかりだった。

 ユキはハルルがいそうな場所を探すが、職員室にも、教室にもその姿はなかった。早く見つけないとアヤが危ない。逸る気持ちを抑えながら、ユキはハルルを探して歩く。

 実験室や資料室などが多い特別棟に入ろうとした時だった。ちょうど渡り廊下の後ろからよく知る先生の声が聞こえた。よく知るその声で、名前まで呼ばれた気がした。


「ユキちゃん?」


 その声は、ずっと校内で探していたハルル先生のものだった。


「ハルル先生!」


 ユキは振り返ると、小走りでハルルに近寄った。


「どうしたの?」

「アヤが、アヤが危ないんです! 助けてください!」


 そう必死に叫ぶユキの声は震えていた。今にでも泣きそうなユキをハルルは抱きしめる。


「アヤちゃんはどこ?」


 言葉に詰まって離せずにいるユキに、ハルルは優しく声をかける。


「丘に、いつもの丘にいるって言えば通じるって言ってました」

「そっか」


 ユキはアヤに言われたことをそのまま伝えた。


「私じゃ、何の役にも立てないし、足手まといにしかならないから、だから、ハルル先生、アヤをお願いします」


 そう言って頭を下げる。


「うん、後は任せて」


 ハルルは優しく頷く。そして、ユキの頭を撫でながら言葉を紡いだ。


「それと、ユキちゃんは何もできなくなんかないよ。こうして、私にアヤちゃんのことしらせに来てくれたもの。ありがとうね」


 お礼の言葉を聞いたユキは、堪えていたものを溢れさせた。雫となって落ちていく涙は、止めようと思っても止められなかった。


「辛かったね。もう、大丈夫だから。ユキちゃんはここで少し休んでから、安全な道で帰るんだよ?」


 ハルルはユキを抱きしめてそう言う。


「アヤちゃんのことは私が手伝うから」

「はい」


 ユキは震える声で返事をした。

 頷いたユキの頭を撫でると、ハルルはアヤのいる小さな丘へ向かった。





 一方、小さな丘に着いたアヤは、先客がいることに気が付いた。

 その人影は、短期間で不思議な関係を築いたアクマの一人だった。そして、そのアクマはアヤが予想していた通りの人物、タクトだった。

 丘にいるタクトからは、今までとは違う雰囲気が感じられた。完全に操られてしまったのだろう。今まで隠してくれていたアクマの気配が、全く隠されていなかった。

 結局、間に合わなかった。哀しい気持ちになっていると、アヤに気付いたタクトが口を開いた。


「クリスの言った通りだな。ここにいれば、アヤ・フォオルアナ・ウィルソン、お前が来るというのは」


 タクトの口調もすっかり変わってしまっていた。


「そう言った張本人はここにいないんだね」

「万が一お前がここに来なかった時のことを考えて、街に探しに行ってるんだ。ここは俺一人でも十分だからな」


 一人称まで変わってしまっている。もう、以前のような面影などない。


「先に言っておくが、学生で、女だからって手加減はしないからな。お前が上級アクマより強いのは、有名だからな。主様にお前を連れてくるよう言われてるから、尚更な」


 その言葉に、アヤは気を引き締める。

 判っていたつもりだが、戦いを避けることはできないようだ。今まで優しくしてくれた相手を攻撃しなければいけないのは辛い。それに、傷つけることになるのは、どうしても嫌だった。しかし、操られているタクト相手では、そんなことも言っていられない。どうにかして、タクトにかけられている術を解くしかない。

 そんなことを思いながらも、アヤはすぐにタクトと戦う覚悟を決めた。

 アヤがまっすぐタクトを見つめると、光の球が飛んできた。

 難なくそれを弾くと、タクトは次から次へと攻撃を仕掛けてきた。飛んでくる光の球や炎の塊などを防いだり弾いたりしていると、一時的に攻撃が止んだ。どうしたのだろうと思っていると、タクトが声をかけてきた。


「噂通り強いんだな」


 学生の魔術は未熟であることが多い中、アヤは難なくタクトの攻撃を躱していた。大人でも防ぐのが難しいとされている攻撃があったのにもかかわらず、取り乱すことなくそれを受け流していたのだ。


「だが、いつまで防いでるつもりだ?」


 タクトの言う通り、今のままの状態が続けば、先に魔力の尽きた方が負けとなる。そして、先に魔力がなくなるのは、おそらくアヤだった。それは、アヤ自身も判っていた。

 タクトを助けると決めた以上、そうなるのは避けなければいけない。今のように邪魔者がいない状態で二人きりになれるのが、次はいつになるか判らないのだ。それなら、今のうちにすべてを終わらせてしまいたかった。

 そう思ったアヤは、防戦一方だった戦い方をやめた。

 会話が終わり、再びタクトから攻撃の球が飛んでくる。その攻撃を弾くや否や、アヤは光の球を放った。


「やっと戦う気になったか」


 アヤの反撃を弾いたタクトは、嬉しそうに呟いた。

 そんなタクトを見て、アヤは表情を歪めた。

 完全に操られてしまっている。今までの、アクマでありながらも優しかったタクトの面影は全くなくなっていた。それが哀しかった。

 アヤはタクトへ攻撃しながら、ゆっくりと距離を詰めていった。

 ようやく手で触れられるところまで近づくと、アヤはタクトの身体の一部に触れて、身動きを封じる術をかけた。

 動きを封じられたタクトは、悔しそうにアヤを見る。

 心の中で『今、助けるから』と呟くと、古代魔術の詠唱を始めた。

 すると、タクトを中心に魔方陣が出現する。

 アヤの呪文詠唱に合わせて、魔方陣が複雑な形に描かれていく。

 もう少しで魔方陣が完成する、という時だった。中級アクマがアヤの視界に入ってきた。

 なんてタイミングの悪い、と心の中で呟く。

 中級アクマは、アヤの姿を見るなりすぐに攻撃をしてきた。

 今、呪文詠唱をやめてアクマの攻撃を防げば、自分の身は守れる。しかし、タクトへの解術は、また一からやり直すことになってしまう。

 アヤは、迷わずこのまま呪文詠唱を続けることを選んだ。いつ、今のような機会に恵まれるか判らないのだ。自分が我慢をすればいい。かなり痛いだろうなと思いながら呪文を唱え続ける。

 しかし、いつまで経っても中級アクマが放った攻撃の衝撃が来なかった。不思議に思っていると、横から聞きなれた声がした。


「アヤちゃんの邪魔はさせないよ」


 それは、ハルルの声だった。

 ハルルは中級アクマの攻撃を弾いて、風の魔術で反撃をする。アヤは、中級アクマのことをハルルにまかせることにし、タクトの解術に集中した。


「浄化の水よ 悪しきものを洗い流せ」


 少しして、魔術による光と魔方陣が消える。

 立っていたはずのタクトが、草原に横たわっていた。

 操りの術が解かれたことによるものだろうと思ったが、心配になり駆け寄る。

 タクトが静かに息をしていることを確認し、ほっと胸をなでおろした。無事、古代魔術は成功したようだ。少しすれば、タクトも目を覚ますだろう。

 そう思っていたのも束の間、ハルルの叫び声が耳に届いた。


「アヤちゃん!」


 声のした方を見ると、新たに二人のアクマが小さな丘に向かってきていた。しかも、厄介なことにその二人は上級アクマだった。

 流石にハルルも中級アクマ二人の他に上級アクマも相手することはできない。アヤが上級アクマ二人を引き受ければ済む話だが、そうすることができない理由があった。

 先程の古代魔術の使用でかなりの魔力を消耗してしまっている。今は身体が怠く、正直中級アクマの相手さえ厳しいような状態だ。

 ハルルが中級アクマ二人を追い払っても、今の三人で上級アクマ二人を相手にすることはできそうにない。まず、そこまで上級アクマが待ってくれるとも思えない。

 このままでは、三人がアクマに捕まってしまう。それに、タクトがアクマに連れ戻されてしまえば、せっかく解いた術もまたかけられてしまうだろう。それだけは避けたい。自分の意思も本音も失ってしまうなんて哀しいこと、もう繰り返したくない。

 丘に現れた上級アクマが、アヤとタクトの方へ光の球を放つ。

 アヤは、重い身体を動かして、防御壁を張った。アヤの前でアクマの放った光の球が受け止められる。残った魔力で必死に受け止め続けるが、ゆっくりと防御壁に皹が入り始める。


「――っ!」


 このまま攻撃を受け止め続ける力も、横へ弾く力も残っていない。

 アヤは、心の中で『仕方ない』と呟いた。そして、自分のことを心配してくれている人たちに謝罪をした。無理はしても無茶はしないで、と言われていたが、それを守れる状況ではなかった。

 受け止めていた光の球を弾き、防御壁を消すと息が乱れた。

 ゆっくりとした動きで上級アクマ二人の方へ足を進める。中級アクマと戦っているハルルを置き去りにして丘を去ることなんてできない。ならば、今のアヤにできるのはやってきた上級アクマ二人の相手をすることだった。

 アヤが上級アクマ二人を相手にするため立ち上がろうとした時だった。

 洋服の裾を引っ張られ、立ち上がるのを止められる。力のかかっている方を見ると、目を覚ましたタクトが洋服を掴んでいた。


「無茶は、しないでよ」

「タクト……」

「アヤはここで休んでて」


 タクトは立ち上がると、アヤを座らせる。


「後は、僕が戦うから」


 そう言って、タクトは上級アクマ二人の方へ向かった。

 タクトがアクマの前に来ると、一人のアクマが口を開いた。


「よく戻ってきたな。しかし、何故あいつを連れて来なかった? すぐ近くにいただろう?」

「あいつ?」

「アヤ・フォルアナ・ウィルソンだ」


 タクトがアヤの方を見る。


「お前も知ってるだろう? 主様が連れてくるように言ってた奴だ」

「ああ」


 タクトの術が解かれているのを知らないのか、上級アクマは仲間として話をしていた。


「まぁいい。今からでも捕まえるぞ。あそこまで弱ってることなんて滅多にないからな。お前もついてこい」

「それは断る」

「どういうことだ」


 タクトの答えに、話しかけていたアクマが冷たい声を出す。


「俺はもうアクマを抜けた。それだけだ」

「抜けた、だと?」

「そうだ」


 タクトは静かに頷いた。


「ふざけたことを言うな。お前は俺達アクマを裏切るのか?」

「裏切る?」


 あざ笑うような口調で同じ言葉を繰り返す。


「もとからお前達を仲間だと思ったことなんてない」


 それは、タクトの口から出た本音だった。意思を無視され、操られることとなったのだから、そう思うのも無理はない。


「そうか。それで? 俺達を追い払いに来たのか? お前一人で?」


 上級アクマがタクトを嘲笑う。タクトはその言葉を否定しなかった。それを肯定と受け取ったアクマは、更に嘲笑を浮かべて言葉を続ける。


「本気で言ってるのか? 二対一で勝てるとでも?」

「それはやってみなきゃ判らないだろ?」

「自信があるってか?」


 上級アクマが挑発してきたが、タクトは無視をした。そのことが気に食わなかったのか、タクトと話をしていたアクマが攻撃をしてくる。隣に立っていた上級アクマも、後に続いて攻撃をする。

 タクトは、難なく二人の攻撃を弾いた。


「意外と強いんだな」

「忘れてるようだから言っておくが、俺だって上級アクマの一人だったんだ」


 上級アクマの言葉に、タクトは静かに返す。

 タクトも上級アクマの一人として活動していた。言わずもがなのことだが、アクマの中でも強い部類に入る。


「そうだったな。だが、相手は俺だけじゃないこと忘れてるのはそっちじゃないのか?」


 その言葉のあとすぐ、タクトはもう一人の上級アクマからの攻撃を受けそうになる。直前でなんとか防ぐことができ、怪我を負うことはなかったが危ないところだった。

 タクトは二人をまっすぐ見つめ、あることを決める。そして、会話に入ってこなかったアクマへ向かって暗紫色の球を放った。

 狙われたアクマは防御壁を張ったが、タクトの魔術の方が上だったのだろう。あっさりと中空にできた壁が破られて攻撃を受ける。

 それを見ていた、タクトと話をしていたアクマが声をかける。


「お前、どこにそんな力があるんだ」


 同じ上級アクマのはずが、自分達より実力が違うと判り焦り始めた。


「今までずっともってたさ。ただ、使ってなかっただけでな」


 タクトはそう答えると、今度は二人へそれぞれ攻撃を放った。

 上級アクマ二人は、なんとかその攻撃を防ぐ。


「ここは諦めて帰るんだな」


 まだ余裕であることが分かるような口調で告げると、声をかけてきたアクマがばつの悪そうな表情を浮かべた。


「くそっ。ただの操り人形だったくせに」

「それ以上言うなら黙ってないぞ」

「チッ。今日は見逃してやる」


 タクトとずっと話を続けてきたアクマはそういうと、もう一人の上級アクマと共に姿を消した。

 ハルルと戦いながらそれを見ていた中級アクマ二人も、戦うのをやめる。上級アクマがいなくなった今、自分たち二人では勝ち目なんてない。中級アクマの一人が「運が良かったな」とハルルに告げる。そして、中級アクマ二人も丘から姿をくらませた。

 相手がいなくなったタクトとハルルは、丘の草の上でぐったりとしているアヤに近寄る。


「アヤちゃん、大丈夫?」

「うん、なんとかね。はるるんもタクトもありがとう」


 アヤは弱い声で二人にお礼を言う。


「お礼を言うのは僕の方だよ。アヤ、術を解いてくれてありがとう」


 操られてしまう前の口調に戻ったタクトに、アヤはほっと胸をなでおろす。


「タクトが元に戻ってくれてよかった」

「そうだね。それで、この後どうするの?」

「城に戻るよ。はるるんとタクトも一緒に来てくれる?」

「えっ、でも……」


 突然のことに、タクトは戸惑った。

 今までアクマだった自分が、いきなり足を踏み入れて良い場所ではない。


「お願い。タクトのこれからの生活を考えないといけないから」


 アクマの生活を捨てたタクトには、このあと行く場所がない。今後のことを話すためにも、仮の両親であり国王でもある親と一度話し合いをする必要があると思っていた。


「判った」


 そうして三人は、城へ戻ることにした。




 城に戻ると、アヤは仮の両親に今までのこととタクトのことを話した。

 二人ともすごく驚いていたが、ハルルのフォローもあり、アクマだったタクトを拒絶することはなかった。そして、未成年を独り暮らしさせるわけにはいかないとなり、タクトはアヤと同じように城に居候することになった。それに、アクマを裏切ったとされているタクトが、街で一人暮らしを始めて他のアクマに襲われないとも言い切れない。安全を考えた上での結論だった。

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