第8話 鉛色の空
先程まで晴れていた空は、今や鉛色の雲に覆われ見る影もない。ミレーネの葬儀は円滑に進められ、ついさっき終わったばかりだ。1日で葬儀が終わってしまったことには理由がある。まず、遺体がないからだ。この世界では遺体は棺の中に入れられ一緒に私物や贈り物などが入る。だが迎え巫女に選ばれていた場合はそのようなことは一切行われること無く、私物だけを入れた棺だけが墓の中に入る。そしてこの世界では迎え巫女に選ばれ死を迎えることは何よりの名誉とされており、むしろお祝いごとのように祝福される。エルケードはそんな歪な空気が嫌ですぐに葬儀を終わらせた。たった1人の妹の葬儀だ。本当はしっかりと送ってやりたかった。しかしそれを空っぽな棺に向けても意味は無い。形だけの墓標に思いを伝えてもミレーネには届かない。エルケードは妹の墓標の前に立ち、そんなことを考える。迎え巫女による魂の救済には残されたものに大きな傷を残す。例えそれが名誉だとしても、愛するものを失った苦しみは本人にしか分からない。
「…っ!」
エルケードは下唇を血が滲むほど噛んだ。それは単純な悔しさからのものであるがそれだけではない。鉛色の空から水滴が涙の様に降り注ぐ。
『貴方、とても惨めですね。』
消える瞬間に迎え巫女の言ったその言葉をエルケードは忘れる筈がなかった。
失うのを怖がって何が悪い?
強く握った拳からは血が滲んてきていた。
失うのが怖くて足掻いて何が悪い。
「そもそも!お前が!俺の大事なものを奪ってきたせいだろうが!!」
鉛色の空に向けて吠える。
彼の中にあった絶望感や虚無感。そのすべてがその一言でエルケードの中で復讐心に変わった。復讐の炎があの姿を思い出すだけで燃え上がる。
だがこの激情は今のままでは届かない。
しかしどうすればあの死神に届かせることが出来るのか全くわからない。
「私にもお話聞かせて貰えないでしょうか?」
後ろから不意に声を掛けられたがそれが誰なのかは既に分かっていた。
「ベルフ神父」
傘をさしたベルフ神父が背後に立っていた。
「立ち話は何ですし続きは教会でどうですか?」
エルケードはあまり乗り気がしなかった。相手は神父だ。更にはよりによって教会で迎え巫女に対する恨み事を伝えなくてはならないのだろうか。一向について来ようとしないエルケードに神父は耳元に近ずきこう言った。
「…私ならあなたの願いを叶えることが出来ます。」
「本当か…?」
疑いの目を向け、尋ねる。
「ええ、もちろん。」
そう言うと神父はエルケードに向け小さく笑って見せた。
疑心暗鬼ながらもエルケードは彼に乗せられる事にした。




