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旧復讐のパラドクス・ロザリオ  作者: 殻守
雷の獣
22/26

第22話 非道なる外道

エルケードにとって武器を使わない相手と戦うのは初めてのことだった。

少女から放たれる強烈な一撃は岩の壁に大きな亀裂を入れた。すんでのところで躱したエルケードはその様を見て驚愕した。

齢10歳弱の少女の蹴りにしてはあまりに強すぎる。かと言ってエルケードのように強化魔術を使っているようには見えない。

そう考えているうちに2回目の攻撃がこちらに向かって飛んでくる。鉄のブーツに包まれた脚が力を込めてこちらに放たれる。目にも止まらぬ速度で向かってくる蹴りにエルケードは何とか反応することが出来た。ギリギリで躱し追撃に備えて後ろに飛んだ。だがミニは躱された左脚で体を回転させこちらに右手を広げていた。

何をするつもりだ…?

エルケードがそう思った瞬間、

ミニの掌が突然光った。

と、同時に

「ぐぁああ!?」

エルケードの胸元に肌が焼けるような痛みが襲った。思わず膝をつき顔を上げミニを見た。

未だその表情は昨日見たような明るいものではなく、全くの無表情で跪くこちらを冷たい眼で見下ろしていた。そして先程こちらに向けた右手を見る。すると微かに、バチバチと音をたてながら蒼い光が彼女の手の中で動き回っていた。その様子はまるで『雷』の様だった。

それを見たエルケードは痛みに耐えながら一つの結論に至った。

まず第1に雷を発生させることの出来る魔法は存在しない。どういうわけか炎や水、氷や風などの現象は再現出来るのだが、今の今まで雷だけは再現することが出来なかったという。理由は未だ解明されてはいないがあるものは、雷そのものが神の遺した『軌跡』だからだという。とすれば彼女がその『雷の軌跡』を所持しているのか。だがそれに関してはある可能性を除けば絶対にない。なぜならこれが『軌跡』だとするならばこの世界に一つしか存在していないことになる。そしてそうするならば既に雷の力を使う者がいる。

『四獣』と呼ばれる四体の魔物の一角。『閃光』の異名を持つ虎、『ライジュウ』。

だがライジュウは二年前に忽然と姿を消し以来、存在が確認されてはいない。

そこで最後の可能性。それは彼女自身がライジュウである可能性。

その可能性に行きついたエルケードは思わず息を飲んだ。

エルケードは知っていた。自分が騎士として国に仕える前にある事をしようとしていた男がいたことを。そしてその男が提案したそれは人道に反するとして却下されたにも関わらず強引に実行しようとしたことを。その後男は国から追放されたことを。

そしてその男が実行しようとしたことの詳細を。

パチパチ

と手を叩く音が洞窟の奥から聞こえた。エルケードは振り向き眼を凝らす。未だ暗くよく見えないがそこには確かに人がこちらに向かって歩いてきていた。

「いやはや素晴らしいネ。」

男の声だった。物腰が低く謙虚な青年を思い浮かべる声だった。その声は徐々にこちらに近づいてくる。と同時にミニが暗闇に向かって歩きはじめた。

「ここまでの性能だとは、私自身驚きだヨ。全く私のこの天才的な頭脳で無ければこれほどまでに素晴らしいものは造れなかっただろうネ。」

その声はとても嬉しそうで必死に笑うのを堪えているのが分かる。そしてミニが立ち止まると同時にその男の姿を見ることが出来た。

黒髪に白い肌。顔はやつれ、黒い瞳には感情がなかった。170cm程の身長で長袖の白衣の中に騎士服に似たものを着ていた。袖から見える腕は痩せこけていた。そして隣に立つミニの頭を撫でると、

「お前は私の最高傑作だヨ。あのエルケードに片膝を付かせるとはなかなかやるじゃないカ。」

するとミニは感情のない瞳のままその男のは方を向き、

「ありがとうパパ、でも私まだ準備運動の途中だったの。」

とそういった。

パパと呼ばれた男は突然笑いだし、

「アハハハハ!そうか、そうかまだ準備運動だったんだネ。それで準備運動はもういいのかイ?」

ミニは小さく頷くとエルケードを見据え姿勢を低くした。まるで獲物を狙う獣のように。

エルケードは男の方を見た。

やつれてはいるがエルケードはその男を知っていた。

「シンカイ・アラタ!」

突然名前を呼ばれた男―シンカイは顔をしかめた。エルケードは構わず続けた。

「貴様は人間と魔物を掛け合わせ混合獣人を造ることを王国に持ちかけ、それを却下されたにも関わらず強行した。」

そしてミニの方を向き、

「その娘は、ライジュウと人間のハーフか?」

シンカイは右手で顔を覆いまたも高々に笑った。

「よく気がついたじゃないカ!その通りサ!コイツは私が造った混合獣人の完成形!ライジュウと人間のハーフ!名前は神の雷から取っテ!」

シンカイは口元を大きく釣り上がらせ、

「ミョルニールと名付けタ!」

ミニはいつの間に全身に雷を纏い戦闘態勢に入っていた。

エルケードは大きく息を吐き、立ち上がった。そして自分自身の中で疼く何か耳を傾けた。

―あの魂を喰わせろ!

エルケードは迷いなく右手の手袋を外し、それを掲げた。シンカイとミニ両者共に驚き一瞬の隙ができた。そしてエルケードは、

「契りを果たせ」

再び彼の身体を影が覆った。

右手の十字架の宝石は一つだけ白い光を放っていた。

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