第17話 キズアト
大変遅くなりました。
「…ッ!」
目にもとまらぬ速さで行われるエルケードの攻撃を前にフォルスは防戦一方になっていた。フォルスは地形を利用した奇襲を得意とし、彼の持つ『賢人の加護』によってこの森全てがフォルスの姿を隠し続ける。そのため多くの場合は、敵が姿を捉える事が出来ずに片がつくため、姿を見せて戦闘する機会がなく最も苦手としていた。もし姿を捉えられてしまったときには、自身の風の刃による罠や『加護』の力を使い敵の注意を引きつけている間に隠れていた。
しかし今のエルケードから逃れる術はなかった。
大きな要因として先程の影だ。影は周囲の木々をなぎ倒しながら広がっていったため辺りはもはや森の一部ではなく、荒地となっていた。地形を変化させられ、森として認識されなくなってしまったのだ。これが意味することは簡単である。要するに『加護』の能力が機能しなくなってしまうのだ。そうなれば残された手は風の刃だけになるのだが、それすら意味をなさなかった。先程からフォルスはエルケードに向け、風の刃を放ち続けているがエルケードに右腕に触れた瞬間に消滅してしまっているのだ。右腕に触れないよう風の刃を放ってもいたがそれは無意味に終わった。右腕は大きさを自在に変化し、エルケード自身も身体強化の段階を1段上げてきていたのだ。もはやこうなってしまえばなす術はない。2倍以上の大きさにまで巨大化した右手が地面に叩きつけられたと同時に凄まじい衝撃波がフォルスを襲った。
「ぐぁ!」
耐えきれず吹き飛ばされてしまい地面に背中を強く打ち付けた。フォルスは免れることの出来ない敗北と死を直感で悟っていた。もはやフォルスに反撃の意識はなかった。エルケードは座り込み深く顔を俯けるフォルスの前に立ち右腕を後ろに引き、
「…ぇ?」
フォルスの胸の中心を右腕で1寸の狂いなく貫き、
――ドクン、ドクン、
未だ鼓動を止めることない赤黒く染まった血袋をエルケードの右手が持っていた。
「それは…?…」
心臓を抜かれたにも関わらず未だ意識のあるフォルスは自分に何が起こったのかを必死で理解しようとしていた。そしてエルケードは
「ごめんな」
グシャ
生々しい音と共にフォルスの目から光が失われた。エルケードは静かに腕を引き抜いた。腕を覆い尽くしていた影はいつの間にか消え右手には血の一滴すら残っておらず十字架の宝石の一つが光を放ち輝いていた。
エルケードはフォルスのコートを拾い上げると
「借りてくぞ」
そういいながら羽織ると、元の道に戻り走り去っていった。
エルケードの首から掛けられたネックレスのそれぞれ大きさの違う二つの指輪が静かに音をたてながら揺れていた。




