第15話 風切り
その日の森からは時が止まった様な静けさは失われていた。
風は空間を切り裂く鋭い音を奏で、刃は火花を散らし耳を劈く鈍い音を響かせ、木々はまるで怒っているかのように激しく揺れていた。
「ッ!!」
エルケードは思わず舌打ちした。現在エルケードはフォルスの攻撃に何とか対応出来ている状態だ。
人間として生まれたエルケードはシルフ族や獣人族のように得意な分野があるわけではなかった。代わりに人間は魔力が多いことで知られている。そのため質より量というように一つの魔法を極めず、多数の種類の魔法を浅く学ぶ者がほとんどになる。しかしエルケードは魔法の扱いが下手だった。初歩なら何とかなるが、応用したものとなると話は別だ。そこでエルケードは魔力を使用した身体強化に目を付けた。通常、魔法を使用する際に一番大切とされているのは自身の魔力を内側から外に出す感覚を掴むこととされている。しかしこれ自体エルケードには苦手なことだった。一方、魔力を使用した身体強化の場合は血が全身を巡るように魔力が身体全体に行き渡るイメージができるようになることが大切となる。エルケードはこのイメージをすることが得意だった。そのためエルケードはこれを極めた。結果、エルケードの身体強化は通常の状態を1とした6段階の強化を可能にした。そして現在、エルケードは4段階まで上げている。身体強化の段階は上げるごとに負担も大きくなるため使用出来る時間も短くなっていく。4段階ならば1日はこのまま戦い続けられる。また4段階はエルケードが普段の戦闘で使用していた状態だ。しかしそれでもフォルスによって追い詰められている現状だ。
風の刃は目に見える範囲ならばどこにでも発生させることが出来る。その威力は岩すら砕くものになる。だが目に見える範囲に出来るため対処は簡単、なのだが今のフォルスにおいては話は別だ。フォルスの持つ軌跡『賢人の加護』は、森の全てを味方につける。森はフォルスを隠し、逆にエルケードの位置は常にフォルスに知られている。更にフォルスの身にまとっているローブはこの薄暗い森の中によく馴染む。いくら彼が近くにいようと気づくことは難しい。
姿の見えないフォルスの攻撃をうまく避けつつ地面を蹴り、森を駆け回っていたエルケードは吹っ飛ばされた。何事かと思ってみると、先程まで自分がいた位置に小さな竜巻が出来ていた。どうやらアレを踏んでしまったらしい。エルケードは咄嗟に受け身をとり衝撃を減らした。
「ぐっ!」
それでも背中を打ち、息が詰まるような感覚を覚える。
「残念ですがここまでです。」
どこからかフォルスの声がし辺りを見回す。
「!?」
そしてエルケードは現在の自分の状況を把握した。なんとまるでエルケードを囲むように風の刃が彼の周りに現れていた。例えエルケードが段階を4以上にしたとしても捌ききるのは不可能と言える。万事休す、そういったように明らかに手詰まりの状況だった。
しかしエルケードは焦ってはいなかった。
「さようならです。エルケード、憧れの騎士。」
その言葉が合図となり風の刃が全て同時にエルケードへと放たれた。エルケードは落ち着いた表情と声でこう言った。
「契を果たせ」
その瞬間、エルケードを右手から溢れだしてきた影が彼を覆い隠した。




