第13話 契約の朝
大変遅くなってすいません。
「そこにいたんですね」
後ろから声をかけられたエルケードは顔だけ後ろに向けた。そこには朝日に照らされたベルフが立っていた。そしてその手には古めかしい本が抱えられていた。
「どうです?十字架は馴染みましたか?」
手袋によって隠された右手を見て、ベルフは口元を緩めた。
「いやまだ違和感が拭えない。」
右手からは未だ何かの存在をハッキリと感じていた。
「それで」
エルケードはゆっくりと立ち上がりながら
「何の用ですか?」
と目を細めながらそう言った。
ベルフはクスッと笑うと、
「いえいえ、その十字架について詳しい話をしようとしただけですよ。」
右手を指差しベルフはそう言った。
「十字架に13個の宝石が付いていますよね。」
エルケードはベルフが言ったことを確認するように右手の手袋を外した。
埋め込まれた十字架には13個の宝石が付いており、無色透明だったその色は黒く濁っていた。
「今その右手を使っても本来の力を出すことはできません。」
ベルフは続ける。
「その宝石の濁りをすべて払ってください。そうすれば本来の力を取り戻すでしょう。」
エルケードは右手から視線を外し、
「どうすればいいんだ?」
と尋ねた。しかしベルフは笑みをこぼしながら、
「それは私には分かりません。」
そう言った。エルケードは怪訝そうな顔をして、
「ふざけているのか?」
と怒気を含んだ声で言った。
それでもベルフは笑いながら、
「そうは言われましても私は知りません。知りたいならそれに聞いたらどうですか?きっと教えてくれますよ。」
そういいながらベルフはエルケードの右手を指した。エルケードは呆れてものも言えないように溜め息をつくと、
「分かった、俺はもうこの村を出るからな。」
と言った。ベルフは表情一つ変えることなく、
「それは寂しくなりますね。」
とそう言った。エルケードがその場から離れようとベルフの横を通り過ぎ、
「そう言えばいい忘れたことがありました。」
と不意に後ろから声をかけられた。顔だけ振り向きベルフを見る。相も変わらず笑みを絶やさないベルフは、
「契を果たせ」
「は?」
「『契を果たせ』と唱えればその右手は力を貸してくれますよ。」
と言った。エルケードは何も言わずに正面を向き直し、その場から離れた。
ベルフはただただ笑いながらその様子を眺めているだけだった。




