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悪役令嬢転生、でも儂ヒロインよりかわいくない?

作者: 関村イムヤ

 一体何が悪かったのやら、振り返ってみると、そもそもの間違いは末の孫娘と一緒に遊ぶために『をとめげぇむ』なるものを年金から貯めた小遣いで購入した事だろうか。


 それともその『をとめげぇむ』のぱっけぇじの裏を何とはなしに読んで内容が気になってしまい、孫娘にやる前に遊んでしまった事だろうか。


 いや、ばぁさんのへそくりでそのげぇむを動かすためのげぇむはぁどまで買ってしもうた事は今でも悪かったと思っているよ、儂は。



 さて、年寄りとは暇なもんで、遊んでみると儂はすっかりその『をとめげぇむ』を気に入ってしまい、結局孫娘には別の『をとめげぇむ』を買い与えてまでそのげぇむの攻略に勤しんだ。


 攻略のいろはを纏めた本まで買ってしまってはばぁさんに怒られ、攻略対象の男共の軟弱さや見え隠れする良い所について熱弁し血圧を上げてはばぁさんに怒られ。

 ……何だか儂、ばぁさんを怒らせてばっかりだなあ。年下の妻だったせいか、昔は時代の事もあって全く怒りを見せないような控えめな娘だったのだが。


 そのばぁさんも風邪でぽっくり逝ってしまい、儂もその数日もせぬうちに追うようにかくっと寝たように冥途へ旅立った。

 いやぁ、立て続けに葬式を上げる事になった息子夫婦には大変申し訳なく思う。遺産はあんまり遺してやれなんだが、墓くらいは綺麗にしといてくれると爺は嬉しい。



 ──と、思ったのだが。



 気が付くと儂は何処とも知れぬ洋館で、若い御嬢さん達に傅かれて何やら恐ろしく重たい服を着せられている真っ最中だった。

 老体になんてものを着させるのか、と言うより先に、自分の目の前に置いてある姿見を見て、儂はただただ驚くしかなかった。

 あの時の驚きようと言ったら、うむ、くたばり掛けた爺の身体であったらそのまま心臓止まって死んでたかもしれんかったな!


「ほぁ!?」


 えっ儂かわいい──じゃなくてだな、歯がある!……でもなくてだな、姿見に写った己の姿は、末の孫娘よりも幼い娘子のものだった。


 それもただの女児ではない。くるくるの金髪に鮮やかな緑色の目をした、まるで西洋人形のようなその素晴らしい美少女には、この耄碌爺の覚束ない頭にも覚えがあったのだ。

 なんと──この娘はどう見ても、あの『をとめげぇむ』の登場きゃらくたぁ、ふらんちぇすか・ど・えめらるだちゃんのりあるしぃじぃもでるにどこからどう見てもそっくりではないか!


 突然儂が叫び声を上げたので、周囲の御嬢さん方を大層驚かせてしまった。

 着せられていたふりるやられぇすやらで恐ろしく嵩張るどれすの裾や飾りを針で縫い止める仕事の最中だったようで、指を刺してしまった子もおったな。その、なんだ、可哀想な事をしてしまったと、反省しているよ。


「ふ、フランチェスカ様!?いかがなされましたか!?」


 慌てた様子で御嬢さんのうちの一人が儂に向かって話し掛けてきたのだが、儂はそれでまた仰天する事になった。何しろふらんちぇすかちゃんそっくりな娘子だと思った次の瞬間に、まさかその名前で呼び掛けられると思わんかったからな。


 儂はさっぱり状況が分からんかった。分からんかったが、多分年寄りの習い性なのだろうな。


「い、いえ、何でもありません。どうぞ、お気になさらず仕事を続けて」


 と咄嗟に取り繕った。

 しかし、そうすると御嬢さん達は更に取り乱したようだった。


「フランチェスカ様、もしかしてお加減が悪かったりは……」


「いえいえ、健康そのものですよ。御心配下さってありがとう」


「ちょっと誰か、急いで奥様をお呼びして。やはりお嬢様にも酷い心労があるみたいだわ」


「いえいえいえ、心労などとそんな。まあ少し落ち着きなさい。淑女はそう慌てて何かをするものではありません」


 儂は必死に御嬢さん方を宥めようとしたけれど、何故か儂が何事か喋る度にどんどん逆効果で御嬢さん方は混乱していくようだった。それに気付いた儂は途方に暮れる思いながらも口を噤み、事態の収束を待つことにした。


 暫くしてその部屋に、二人の若い男女──とはいえ儂の初孫くらいの年だったが──がやって来た。

 御婦人の方が儂に二、三事些細な質問をして、儂はそれに正直に答えたが、そうすると御婦人はすっかり激高してしまって、何と男の方に何事か怒鳴り散らし始めてしまった。


 その事に驚いていたせいで幾らかその内容を聞き逃してしまったが、どうやら話を聞く限りではこの二人の男女はご夫婦で、それから、男の方のお妾さんと隠し子(!)が発覚したところだという事が何となく分かった。

 そして更に、話と状況から察するにますます儂を混乱させるような事実が発覚した。


 御婦人は何度か儂の方を指示して「(わたくし)の娘フランチェスカ」というような発言し、そして鏡の中に写る儂はどこからどう見ても可憐な美少女で、どうもその御婦人と良く似た顔立ちをしているし、髪と目の色も良く似ているのだ。


 つまり、御婦人の娘はふらんちぇすかちゃん、そして何故か今の儂はふらんちぇすかちゃん。

 ──すると儂はあの御婦人の娘という事になるのではないか!?


 尚一層悪い事に、とうとうその御婦人の口から、嫌な予感がしつつも出来れば聞きたくないと考えていたある名前が飛び出してきた。


「だいたい、その妾の娘の、リエラですって!?その娘をこのエメラルダ家に引き取るとは、一体何をお考えですの!?」


 ……いや、何となく察しはついていたんだよ。今の儂をとりまく状況が、あの『をとめげぇむ』のふらんちぇすかちゃんの幼少期に酷似している事は。

 それがまさかそれそのものであるとは考えもしなかったのだけれども。


 儂は何よりもまず、心の中でばぁさんに謝った。

 すまんなぁばぁさん。

 三途の川に行くまで、まだ少しばかり時間が掛かりそうなようだ。



□■□■□



 さてさて、儂がフランチェスカちゃんになってしまってから、月日は矢のように過ぎていった。

 年をとってからは毎日が大変長く感じたものだったが、身体が若いものになるとそちらに意識が引きずられてしまうのかもしれん。


 儂が死ぬ間際に見ている走馬燈だか、とうとう完全に呆けてしまった末に見ている幻覚や妄想かは判断がつかんが、とにかく儂はあの『をとめげぇむ』のキャラクター、フランチェスカちゃんに成りきってしまっているようだった。


 年寄りになると諦めが早くなるものでな。

 あまり納得はいかんが、こうなってしまったものは仕方がないと早々に諦め、儂はフランチェスカちゃんとして余生を過ごす事にしたのだ。


 実はなかなかこれが楽しいもので、何しろ身体が軽く自由に動き回れるし、様々な人に毎日いろいろと知らぬ事を教えて頂ける。

 人生日々此勉強。

 儂は老いたが、老いるという事は偉くなる訳でもなし、賢くなるわけでもない。

 こんな歳になってまで誰かが教鞭を取って下さるという事は思ってもみなかったが、いやはや、人生とは何が起こるかわからんものだ。


 そして何より、儂は今のフランチェスカちゃんとしての自分の事をすっかり気に入ってしまっていた。


 孫娘達が幼い頃は皆お人形遊びをしていた事や、それを見ていた孫息子達がそれを羨ましがって同じように少女を模した人形を欲しがった頃の事を思い出す。

 二男の所の長女なんかは、確かいつまでたっても人形遊びをやめないまま、玩具製作会社に入って人形用の服を作る仕事をしていたなあ。


 昔は何が楽しいのかよく分かっていなかったが、今となってはその孫の気持ちが良く解る。


 要するに、美少女を好きなだけ着飾らせるという事は、大変楽しい事なのだ。……儂は人形ではなく、何故か自分の身体で似たような事をしているが。


 そうして儂ことフランチェスカ・ド・エメラルダちゃんは十六歳を迎え、自分磨きが趣味の、大変な美少女として成長した。


 十六歳──あの『をとめげぇむ』の物語で語られている年齢である。

 儂がフランチェスカちゃんとなったあの日、父が母に激しく非難されていた理由であるリエラちゃんいう少女は、その『をとめげぇむ』で操作する主人公で……とと、『をとめげぇむ』ではヒロイン、と呼ぶのだったかな。ともかく、儂があのゲームで遊んでいた時に儂の分身として攻略対象の小僧共を散々悩ませたり恋に溺れさせたりしたヒロインがリエラちゃんなのだ。

 ではフランチェスカちゃんは何なのかと言えば、ふむ、これは『ラスボス』といったところかな。


 リエラちゃんはフランチェスカちゃんの腹違いの妹で、病に倒れた母と共に父に引き取られたはいいものの、別荘で一人育てられた寂しさを抱えつつも純粋な性格の女の子という設定だった。


 二人が十六歳となった春、二人揃って花嫁修業に王宮へ女官見習いとして出されるようになり、というのがそのゲームのシナリオで、ゲームの攻略的には授業という名のミニゲームを行ったり女官としてのお仕事を行ったりしながらリエラちゃんの美容・センス・教養・知性・自信といった能力を上げつつ、キャラの攻略を進めていく事になる。


 フランチェスカちゃんはライバル的なキャラクターで、二度ある花嫁修業の試験の際にリエラちゃんが総合的な能力でフランチェスカちゃんを上回るか否かで攻略キャラのエンディングルートがどんどん分岐していく、という仕組みとなっている。

 対決をするわけではないが、事実上のラスボスだろう?


「フランチェスカ、いいですこと?貴女のお父様は何を血迷ったのか、あの娘をこのエメラルダ家の正式な令嬢として貴女と共に王宮に仕官させるおつもりのようです。これでもしあの娘が貴女よりも良い婚姻相手を見つけたりすれば、或いは王宮での花嫁修業の成績が素晴らしいものであれば、一体どうなるか、もうお分かりね?」


 あの女に正妻の座が奪われるやも、と、ここ数年で随分窶れてしまった母。


 昔浮気が男の甲斐性なんて事が言われていた時代にはこんな事もあったあった、等と思いつつ、儂はまあまあと母を宥めて慰める。

 リエラちゃんの母親である女性は病気で臥せってはいるが、確かにまだ亡くなってはいないので、母がそのように不安がる事も良く解る。


 昔儂の隣家はその辺一体の大地主さんの家だったのだが、丁度同じようにそこの旦那様が情人を持っていて、その息子の出来がよいからと無理矢理奥方との間の息子と競わせようとしたお家騒動が起こった時期があってな。

 結局その騒動は奥方が旦那様に三行半を置いて、自分の息子を連れて生家である商家へと帰ってしまってそのまま戻らず離縁、それで決着したという話だが、このエメラルダ家で起こっているのもそれと同じ事だな。


 難しいのは、そもそもの法律で離縁が認められていない事。つまり母は仮令(たとえ)情人に家の中の立場を追われても生家にも戻れないという重圧で苦しんでいるのだろう。


「この年まで好きなだけ勉学を積み、己を磨かせて頂いたのですから、王宮でもその成果をきちんと発揮致します」


「そうして頂きたいわ」


 ぴしゃりとした物言いで返され、そのまま部屋から出されてしまう。

 ううむ、精神的なゆとりがあまりにも持てずに苦しそうで、やるせない。


 たまには父を誘って観劇でも見に行くというのはどうかな。屋敷の女主人として気丈に振る舞うのは奥方として大変良く務めているとは思うが、妻としては、少しは可愛げを出すのが夫婦仲を円満に保つ一つのコツだ。




 そのような遣り取りの翌日、儂は馬車に揺られて王宮へと登った。


「良くいらっしゃいました、フランチェスカ様。馬車は大変乗り心地が悪かったでしょう。さあ、こちらへ。王妃様にご挨拶する前に少し休息を取りましょう。疲れたお顔のままにご挨拶するのは失礼だわ」


 出迎えて下さった指導役となって頂いた先輩女官の方の言葉に、儂は若かりしころのばぁさんのように曖昧に微笑んで頷く。

 実は儂はなかなかにこの日を楽しみにしていたので、サスペンションの無い馬車でも全く気にならないほど浮かれる間に王宮へと着いてしまっていたのだ。

 楽しみにしていた理由は勿論リエラちゃんである。ゲームでは慣れ親しんだヒロインだが、別荘に住まわされていたため実際に顔を合わせるのは今日が初めてとなる。


 ゲームでは極力ヒロインの容姿は隠される演出がされていたが、時折出てくるスチル絵ではリエラちゃんもフランチェスカちゃんと同じくらいに可愛らしい御嬢さんであった。

 それにゲーム後半ではリエラちゃんのほうがフランチェスカちゃんよりも器量良しだと言われる台詞もあった。


 フランチェスカちゃんとして余生を過ごすようになってからというもの、どうにも自分を含め可愛らしい御嬢さんを眺めるのが楽しみの一つとなってしまった儂は、今日のリエラちゃんとの邂逅を楽しみにしていたという訳だ。

 操作にもよるが、このフランチェスカちゃんを超える美少女とされたヒロインであるリエラちゃん。

 これほど早く見たい、と思うのは、嫁に散々可愛さ自慢をされた末の孫娘と会うのを心待ちにしていた頃ぶりの事だ。


 気を紛らわせようと周囲を観察して、先輩女官の方と他愛無いお喋りをする。すまんなあ、こんな年寄りのつまらん話に付き合わせてしまって……。


 王宮の雰囲気はどうにもばぁさんと新婚旅行した欧羅巴を思い出す。

 ばぁさんは女学院の学生さんだったから、儂よりよっぽど語学に堪能で、いやはや、大変頼りでのあるしっかりした女性だと再認識させられた旅行だったなあ。

 どうしても仏蘭西のあれそれが見たいとばぁさんが強硬だったもので、時勢から結婚式より数年遅れた新婚旅行となってしまったのは今でも心残りではあるが……。


「あら、そろそろ時間ね」


 お茶を一杯飲み干し終えた頃、先輩女官の方がそう言って立ち上がった。

 女官見習いとしてお仕えする事になる王妃様にご挨拶しに行く時間という事らしい。

 おや、そういえば、別の馬車ではあるが殆ど同時に出発してきた筈のリエラちゃんはどうしただろう。途中で馬車の車輪でも外れてしまったのかまだ姿が見えない。

 先輩女官の方とのお喋りに夢中になってしまい、すっかり忘れていてしまったな。


「貴女の妹さんはまだいらっしゃらないの?」


「そのようですね。お待たせしてしまい、申し訳御座いません」


「仕方ないわね……これ以上遅れると、王妃様の予定に狂いが出てしまわれるわ。本日は貴女だけで挨拶を行い、リエラさんについては明日以降に致しましょう」


 そう言って王妃の私室の部屋の扉を開いた先輩女官の方の言葉に、そこへ来てああそういえばと思い出した。

 そうそう、オープニングはこの時の話だったなあ。馬車が道を外れてしまったとかで王宮に着くのが遅れたリエラちゃんが、慌てて駆け込んで来るのだ。


「すみません、遅れてしまって!あの、私、リエラです!これからよろしくおねがいします!」


 ……うん、確かにこんな感じで入って来て、その行動や言葉遣いに部屋中が静まり返るんだったな。


 和やかに始まろうとしていた王妃様への御挨拶へと慌てるあまりに乱入した形になったリエラちゃんは、シンと静まり返った女官達に脅えたような顔をした。


 儂は庇えなくてすまないね、と思いながら、ゲーム越しではないリエラちゃんをその時初めて見る事になった。


 そして、思うのだ。


 ──あれ。ヒロインであるリエラちゃんより、儂の方が明らかにかわいくない?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 婆さんか孫娘が王子で、頭抱えるパターン…ワンチャンあるな(確信) 実際問題、悪役令嬢のがスペック高いよね…ヒロインが不細カワな野良犬なら血統書付きのネコチャン的な(・ω・`)
[一言] え? 爺さんTS? ウェイウェイ?(混乱中) ・・・・・・うん。 思考放棄しよう。 面白いし良いか。
[一言] こんなにいいところで終わるとは・・・! 婆さんが攻略キャラに転生しててもおかしくない。 儂かわいい
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